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【太古から生息し続ける哺乳類】オーストラリアがハリモグラの個体数減少の予防と生態系保護のために行う取り組み

約5,000万年前から、変わらぬ姿を維持し続けていると言われるハリモグラ。

四足歩行で身体にハリが生えているといった特徴から、オーストラリア人でもハリモグラ=ハリネズミの仲間だと勘違いすることが多々あります。

そんな謎に包まれているハリモグラですが、実はオーストラリアの生態系保護に一役買っている重要な存在です。

今回は、ハリモグラの特徴、生態、自然保護への影響、ハリモグラを守るためにオーストラリアが行っているエコ活動について解説していきます。

ハリモグラってどんな生き物?

ハリモグラは、エキドナ(Echidna)と呼ばれる単孔類の動物です。

全身が毛皮とトゲで覆われており、長い舌を使って地中のアリやシロアリを捕食する肉食動物です。

体長は最大で40cm、体重は平均2~5kgほどで、オーストラリア全土に生息しています。

尚、ハリモグラはオーストラリア以外にパプアニューギニアにも生息していますが、オーストラリア固有種のハリモグラは鼻が短いことから「short beaked echidna」と呼ばれています。

この記事では、オーストラリアの「short beaked echidna」について見ていきましょう。

ハリネズミとの違い

身体にハリが付いている姿を見て、ハリネズミの仲間だと思う方も多くなっています。

一見よく似ているハリモグラとハリネズミですが、身体の内部のつくりは全く異なります。

どちらも哺乳類ではあるものの、哺乳類は「有胎盤類」「有袋類」「単孔類」の3つに分類されており、「有胎盤類」とは胎盤を持つ哺乳類のことです。

人間、犬、猫、ウサギ、サル、ライオン、キリン、ゾウといった幅広い種類の動物が含まれ、ハリネズミも「有胎盤類」の一種です。

「有袋類」はお腹に袋があるカンガルーやコアラのことを指し、オーストラリア全域で見られるほか、北アメリカや南アメリカの一部地域でも生息しています。

一方で「単孔類」は、哺乳類でありながら卵を産むという特殊な生態を持ちます。

「単孔類」は現代では世界で2種類の生き物しか存在しておらず、どちらもオーストラリアに生息するハリモグラとカモノハシです。

混合されがちなハリモグラとハリネズミですが、卵生のハリモグラと胎盤のあるハリネズミは大きく異なる身体のつくりになっているのが特徴です。

太古から変わらない姿を維持する数少ない生物

「単孔類」は、地球上で最も古くから存在する生物のひとつと言われています。

多くの生物が進化を遂げていく中で「単孔類」だけは昔からの姿を維持し続けており、さまざまな種類の生物が混ざったような不思議な生態を持ちます。

まず、哺乳類として分類されていることからもわかるように、ハリモグラは母乳で子どもを育てます。

「単孔類」には乳首がないため、子どもが乳腺を刺激することで母乳が染み出る仕組みです。

しかし、哺乳類であるにもかかわらず、卵生であるという特徴が見られます。

卵=硬いというイメージを抱きがちですが、カモノハシの卵は爬虫類のように柔らかくプニプニとしているのがポイントです。

また、「単孔類」には鳥類のようにくちばしと羽毛があります。

あらゆる動物を組み合わせたような特殊な生き物ですが、5,000万年ほど前には既に地球に存在していたとされる歴史の古い生物となっています。

ハリモグラの自然界での役割とは?

オーストラリアの至る地域で生息しているハリモグラですが、実はオーストラリアの生態系を維持する上で大切な役割を担っている生物です。

肉食動物であるハリモグラの口に付いているのが、餌となるアリやシロアリを地中から探すための長いくちばしです。

土の中にくちばしを差し込んで探すという使い方をしており、餌を探す際に周辺の土壌をひっくり返すという習性があります。

ひっくり返すことによって土壌の圧縮が減るため、土壌の中の水の浸透性が高まると同時に、落ち葉やそのほかの有機物が土壌に取り込まれやすくなります。

有機物が混ざった豊かな土壌は、昆虫種の個体数維持のほか、草や昆虫を食べる生き物の生態系保護にも欠かせない要素です。

特にオーストラリアのハリモグラは、日本の約20倍と言われる国土のほぼ全域に生息しています。

オーストラリアは地域によって亜熱帯、沿岸地帯、乾燥地帯といった気候の差があり、中には人間がほとんど暮らしていない場所も存在します。

そんな中でもハリモグラは各地の土壌環境を整えているため、国内の生態系保護という観点において非常に重要な位置づけとなっているのです。

ハリモグラの個体数

2024年時点において、IUCNレッドリストではオーストラリアのハリモグラ(Short-beaked Echidna)を「低懸念」に分類しています。

「低懸念」とはステータスの中でも最も絶滅のリスクが少なく、個体数も非常に安定している状態のことです。

ただし、国内全体を基準に考えると「低懸念」のハリモグラですが、オーストラリア政府が評価するエリア別の評価では一部の地域で「絶滅危惧」に分類されています。

野良猫や大型の鳥類が捕食しているとこが原因とされており、個体数が100%安定しているとは言えない状況です。

また、パプアニューギニアに生息するWestern Long-beaked Echidna、Sir David’s Long-beaked Echidna、Eastern Long-beaked Echidnaなどのハリモグラは、現在「絶滅危急」や「準絶滅危惧」に分類されています。

他国のハリモグラの個体数が大きく減少しているという状況を受けて、オーストラリアでは自国のハリモグラの個体数を減らさないための予防が必要だと考えています。

生態系保護のために行っている取り組み

現在レッドリストで絶滅を危惧されている動物種のほとんどは、元々は個体数が安定していた動物たちです。

しかし、人間の活動、天敵、自然災害といったさまざまな要因が個体数減少のきっかけとなっており、一度個体数が減ってしまうと安定させるまでに長い時間と労力がかかります。

個体数を増やせないまま絶滅させるケースも多く、オーストラリアも1936年にタスマニアタイガーを絶滅させたという苦い経験を持ちます。

そこで、オーストラリアでは「事態が発生してからの行動でなく予防によって事態を回避する」というポリシーの下、国土全域の生態系維持に必要不可欠なハリモグラの個体数の安定を目的とした以下のような対策を行っているのです。

EchidnaCSIによるリサーチ

ハリモグラは、野生下での監視が難しい動物です。

国土全域に生息しているにもかかわらず生態系が謎に包まれていることから、アデレード大学はEchidna CSI(Echidna Conservation Science Initiative)と呼ばれるプロジェクトを立ち上げました。

プロジェクトは南オーストラリア州のカンガルー島で行われており、実施期間は2024年時点で既に30年にも達しています。

カンガルー島は、ハリモグラのステータスが「絶滅危惧」に分類されている地域のひとつです。

プロジェクトはハリモグラの保護を兼ねたリサーチとモニタリングが主となっており、オーストラリア全土の関連施設から集めたハリモグラの国内目撃情報、糞の採取によるDNA研究、国内の動物園から収集した飼育下のハリモグラの食事や健康状態の評価などをデータベース化しています。

野生下と飼育下のハリモグラのデータを分析し、カンガルー島で生息するハリモグラの個体数安定に役立てています。

自然災害と野生のハリモグラのモニタリングとケア

森林火災が頻発に発生しているオーストラリアでは、ハリモグラが火災に巻き込まれるケースも後を絶ちません。

そこで、オーストラリア政府関係者及び研究者は森林火災の発生後に現地へ赴き、ハリモグラの生存・健康状態のモニタリングを行っています。

必要に応じて野生動物病院などに搬送するほか、ケアラー宅でのリハビリなども経て、ハリモグラが自然界に戻れるように手助けをしています。

まとめ

広大な国土全域のエコシステム崩壊を防ぐために、オーストラリアではハリモグラの個体数を減らさない予防に力を入れています。

オーストラリアの動物園はもちろん、山道や自然公園などの野生下で目撃されることも多いハリモグラ。

もしオーストラリアを訪れる機会があったら、コアラやカンガルーだけでなくハリモグラに出会える場所も訪れてみてはいかがでしょう?