「勉強は本人の努力しだい」
とは世間でよく言われる言葉です。お金がなくて塾に行けなくても、学校の教科書や中古の参考書を利用するなど、本人の努力と工夫でどうにでもなると考える人は少なくありません。
一方で文部科学省が発表した「平成30年度子供の学習費調査」よると、小学校の時点で、世帯の年収別の学習費総額に大きな差がうまれていることが分かります。
このようなデータから、小学校の時点で本人にはどうすることもできない教育格差が生まれているのも事実です。
近年先進国、発展途上国にかかわらず、教育格差が問題視されています。今回は、
- 教育格差とは
- SDGsと教育格差がどのように関係しているのか
- 教育格差を解消するためにどのようなことを行えばよいのか
を説明していきます。
教育格差とは?
教育格差とは、生まれ育った環境により受けられる教育に差が生まれることで、「生まれ」「貧困」「地域格差」が原因とされています。
教育格差というと、よく「高卒か大学か」といった就職先や収入の格差が生まれる際に使用される「学歴格差」と混同されますが、これとは明確な違いがあります。
教育格差(教育機会の格差)の3つの原因
教育格差の原因について詳しくみていきましょう。
原因①どの家庭で生まれたか
まず1つ目に、どの家庭で生まれたかによって教育格差が生まれます。
子どもは産まれる家庭を選べない
子どもは生まれる家庭を選べません。それにもかかわらず、親の学歴、生まれた家庭、出身地域という本人にはどうしようもない条件によって教育機会に大きな差が生じます。
こういった教育機会の差は、子どもの最終学歴につながり、
- 収入
- 職業
- 健康
など様々な格差を生み出す要因になると考えられているのです。
この図は親の学歴と子どもの大学進学率を表したものです。
父母とも大卒の場合、経済状況に関わらず父母が中卒・高卒の場合に比べて進学率にかなり差があることがわかります。
このように親の学歴は子どもの学歴に再生産されているという現状があります。
原因②貧困
ではなぜ家庭によって教育機会の差が生まれるのでしょうか。これについて考えるには、「貧困」に目を向ける必要があります。
ここでいう貧困とは「絶対的貧困」と「相対的貧困」の2種類が該当します。
絶対的貧困による教育格差
絶対的貧困とは、国や地域を問わずに、人間として必要最低限の生活をおくれない状態のことです。食料や水を買うお金がなく、医療や教育も受けられないような人々を指します。
主に発展途上国で見られる貧困の形であり、一般的に「貧困」という言葉から連想されるのは絶対的貧困の状態です。
絶対的貧困の場合、そもそも学校に行くことができません。その理由として、
- 学校に通わせるお金がない
- 教育を受けることへの理解が不足している
- 子どもが労働力としてカウントされており、学校に行かずに働かされる
- 紛争により学校に通えない
などが挙げられます。
このように、絶対的貧困に苦しむ地域では生きることに精一杯で、教育は後回しにされてしまうのです。
続いて、相対的貧困による教育格差を見ていきましょう。
相対的貧困による教育格差
相対的貧困とは、国や地域の生活水準と比較して、困窮した状態のことです。生活費や学校の費用を稼ぐために子どもがアルバイトをしていたり、金銭的な理由で進学や習い事を諦めなければならない家庭を指します。
相対的貧困に陥っている家庭の家庭の子どもは、他の家庭と同じように問題なく学校に通っていたり、スマホを持っている場合もあるので、あまり気づかれないのが特徴です。
厚生労働省が発表した「令和元年 賃金構造基本統計調査」によると、令和元年における国全体の年間所得の中央値は3,564,000円でした。定義にのっとると、相対的貧困層の年間所得は1,782,000円未満ということになり、ひと月あたり148,500円未満で生活していることになります。
この所得では、社会において当たり前と思われる生活をするのが困難になります。例えば子どもの生活で見てみると、
- 学校に通う
- 休日に家族で出かける
- 放課後に友達と遊ぶ
などの生活ができない状態に陥ってしまいます。
また日本における教育格差は、親の収入にも影響されています。子どもの教育に力を入れるには、
- 塾に通わせる
- 複数の習い事に通わせる
- 参考書などの購入
など、ある程度お金が必要であるため、親の収入によって差が生まれます。
お茶の水女子大の「保護者に対する調査の結果と学力等との関係の専門的な分析に関する調査研究(平成30年)」によると、子どもの学力は親の収入に比例して高くなる傾向にあります。
ここからわかることは、親の収入が低いことで、
教育を満足に受けられず大学に通えない→収入も低くなる→その子どもの子どもにも教育費をかけられない→子どもの子どもも大学に通えない→収入が低くなる
と、負の連鎖が続いてしまうということです。
貧困はいじめにつながることもある
OECDが2015年に発表した「How’s Life?」によると、貧しい暮らしを強いられている家庭の子どもほど、親切な友人に恵まれる機会は少なく、いじめにあう確率が高くなるとしています。(OECD加盟国34か国にロシアとブラジルを加えた36か国を対象に調査)
原因③地域格差
また、地域による格差も要因として挙げられます。ここでは日本を例に詳しく見ていきましょう。
日本における地域格差
都市圏と地方では、進路を考えるときの選択肢の数が異なります。
文部科学省の「令和2年度学校基本調査」をもとに発表されたナレッジステーションの学校データによると、都道府県別の学校数は東京が1位の428校という結果になりました。この結果は第2位の北海道276校と比較して、2倍弱の高校数があることから東京における選択肢の幅がうかがえます。
また大きな都市が存在している、大阪、愛知はともに200校以上の高校を抱えており、都市圏のベッドタウンとしても機能している神奈川、埼玉、千葉、兵庫も同じく200校近くの高校を有しています。割合にすると、都市部とベッドタウンのみで全国の3.5割の高校数を有していることになります。
一方、地方に注目すると、沖縄、滋賀、石川などは60校前後と都市部の3分の1以下にまで落ち込んでいます。徳島、島根、鳥取に至っては40校を下回り、東京と比較すると10倍以上の差があります。
このように、地域によって選択肢の幅に差があることも教育格差が生まれる要因となるのです。
世界の教育格差の現状|先進国アメリカの場合
教育格差は先進国、発展途上国のどちらにも存在します。ここでは、先進国の例としてアメリカを取り上げ、詳しく見ていきましょう。
アメリカで見られる教育格差について、「経済的格差」「地域格差」「人種間格差」の観点から説明していきます。
アメリカの経済的格差
世界の統計やデータをもとにした事実を発信しているPew Research Centerによると、アメリカはひとり親家庭に住む子どもたちの割合が世界で最も高いようです。※1
これによりどのような影響が生まれるのでしょうか。
学力の低い子どもが集まるチャータースクールで「日本文化」の授業を行っていた林壮一さんは自身の著書「アメリカ下層教育現場」で、片親家庭や貧困家庭での教育環境について以下のように述べています。
シングルマザー・シングルファーザーは仕事の多忙さに拍車がかかり、子供の教育に力をいれることができません。その結果、なまけ癖がついてしまった子どもは学校教育から脱落してしまい、10代という若い年齢でドラッグやアルコールに溺れてしまうというケースもあります。一部の治安の悪い地域では、ドラッグの売人が普通に歩いているので、簡単にクスリを購入できる環境も影響しているでしょう。
またアメリカ中流以下の家庭では、教育意識が低いのも特徴です。たとえ勉強をせずに高等教育を受けなかったとしても、ファストフードの仕事やブルーカラーの仕事には困らないため、子どもが遊ぶ程度のお金は簡単に稼ぐことができるからです。
しかし、学歴も専門的な知識も持ち合わせていない子どもたちが、高収入の仕事に就くことはありません。
参考:アメリカ下層教育現場,第2章,第4節
アメリカの地域格差
林壮一さんは同著にて、アメリカにおける地域格差についても記してします。
お金を持っている家庭では、売春婦やドラッグの売人が歩いているような地区で子供を育てません。引っ越してでも越境してでも、治安が良くレベルの高い学校に入れるよう努めます。そして富裕層の家庭に生まれた子は恵まれた環境を手にして、高学歴の高給取りに成長していきます。
治安の悪い地域に住んでいる子どもたちは、常識外れの大人たちと接することで価値観を形成していくため、自分たちの無知を知らないまま社会に放り出されてしまうのです。そこで初めて自分たちの教養のなさ、知識不足を理解します。しかし、日銭を稼ぐために時間と労力を取られてしまい、学びなおす機会を得ることができず、貧困から抜け出せなくなります。
参考:アメリカ下層教育現場,第3章,第5節
書籍の内容から分かる通り、アメリカも日本同様、経済格差や地域格差が子どもの学力や将来の職業に大きな影響を与えていることが分かります。またドラッグや銃など、日本では考えられないような危険が潜んでいるため、格差が与える負の影響は深刻だと言えるでしょう。
アメリカの人種間格差
アメリカの教育格差は生まれてくる人種も影響します。
アメリカ全土の学校やコミュニティの教育機会について調べた、スタンフォード大学の教育機会モニタリングプロジェクトによると、白人と有色人種のテスト成績の差は約二年分の教育に相当しています。(※2)
このような格差はなぜ生まれるのでしょうか。
世界経済フォーラムによると、白人の学生が、
- 裕福な地域に住んでいる傾向があり、
- よりレベルの高い学校に通っている可能性も
あると指摘しています。(※3)
テストの平均点の差は、幼少期からの教育機会の差を示しており、高所得の家庭であるほど良質な教育機会が与えられる可能性が高くなるとしています。
また、アメリカでは一般的に、有色人種の子どもを持つ両親は、白人の子どもたちの両親に比べて収入や学歴が低く、そのことにも注目が集まっているようです。さらに、同ページでは有色人種の家庭では、インターネットの環境が整っていないことも多く、遠隔学習が容易ではないと主張しており、地域や学校だけでなく、家庭環境の面でも、人種による教育格差が存在しているといえるでしょう。
発展途上国フィリピンで見られる教育格差
発展途上国の例として、ここではフィリピンを取り上げます。
ユニセフUISによると、フィリピンはアジアの中で男女格差が最も小さい国とされていますが、貧困率は50%と、とても高くなっています。(※4)
その結果富裕層が居住するエリアのすぐ隣では、電気・ガス・水道などのインフラも整備されていないような、いわゆるスラムに住む人たちであふれています。この格差は教育面でも色濃く反映されます。
経済的理由で教育課程をドロップアウトする子どもたち
フィリピンは学校教育にK-12 を採用しており、
- 幼稚園1年(K)
- 小学校6年(初等教育)
- 中学校4年(中等教育)
- 高校2年(中等教育)
が義務教育になっています。
そして、専門的職業や学問分野の学位に必要なカリキュラムは、大学以上の高等教育で受けられます。日本と違い、高校も義務教育に含まれているのが特徴的です。
ユネスコUISによると、初等教育・中等教育の就学率は男女ともに90%前後の高い水準を記録していますが、高等教育の就学率は男女合計しても40%に届いていません。(※5)
これは親の経済的事情が大きく関係しているようです。フィリピンでは公立学校の学費や教科書代は小中高の学年に関係なく無料ですが、校外学習やその他課外活動、制服は有償で、生徒が払わなければいけません。
このような経済的な負担から、学年を追うごとに退学してしまうケースが見られるようです。
学歴社会と高い失業率
また、大学に進学できたとしても就職先が確保されるとは限りません。
フィリピン統計庁のPhilippine Statistics Authorityによると、15歳以上の4,365万人の経済的に活動的な人口のうち、381万人が失業しており、そのうちの34.7%は15歳から24歳の若年層でした。また学歴別の失業者の割合では大卒者は24%となっています。
この要因のひとつとして考えられるのは、フィリピンの労働法で、このなかには「6か月を超えて雇用を継続すると、自動的に正社員になる」という決まりがあり、一度正社員になるとさらに手厚く守られるようになります。
- 正社員には13か月給料という制度により、毎年12月になると2か月分の給料が受け取れる。
- 正社員は経営者に給料の前借りを要求することができる。そして経営者はこの要求を断れない。
- 会社側の事情によって解雇することもできない。
このように、7か月目以降は会社の経営状況に関わらず、国によって労働者は守られるため、経営者側からすると正社員を雇うメリットがないのです。
このような状況により、大学に通えたとしても正社員になれずに貧困状態に陥ってしまう可能性があると言えるでしょう。
また優秀な人材は、フィリピン国内の高い失業率を危惧して、海外へ出稼ぎへ出てしまうケースも多いようです。フィリピン統計庁によると2016年時点で、海外就労者は220万人いると推定しています。ただでさえ高等教育を修了している優秀な人材が少ないにもかかわらず、国内に優秀な人材が残らないことがフィリピンの課題と言えるでしょう。
日本の教育格差の現状
これまで世界の教育格差と周辺問題について説明してきましたが、日本の教育格差についても見てみましょう。
母子世帯における子どもの貧困が深刻
厚生労働省が2019年に発表した調査によると、7人に1人の子どもが貧困家庭です。(※6)
そして今、ひとり親世帯、特にシングルマザーの貧困が問題視されています。
令和元年に発表された母子家庭の年収をまとめた福祉保健基礎調査「直近の調査に基づくひとり親家庭の現状」によると、母子世帯では年収300万円未満の世帯が59.3%を占めています。これは母子世帯の就業上の地位の低さが原因の一つです。
同調査によると、母子世帯の就労状況はパート・アルバイト・契約社員等の割合が4割以上という結果が出ています。
シングルマザーの取材を通して、その実態をまとめた水無田気流さんの著書「シングルマザーの貧困」によると、「未就学児のいるシングルマザー」は企業にとって高リスクな人材と書かれています。
現在の日本の労働環境では、正社員は時として残業もやむを得ないという姿勢で臨まなくてはいけませんが、子どもがいるため日常的な残業は頼みづらく、急な子どもの体調不良で休まれる可能性もあることがネックになっているようです。
また、正社員になっても男性ほど収入が上がらないのが現状です。
OECD(経済協力開発機構)による報告書「男女平等の追求:苦難の道のり」によると、「女性労働者の賃金」は同男性労働者に比べて大きな差があり、これはインドや南アフリカのような発展途上国に次ぐ割合です。
当たり前が当たり前ではない
NHKディレクターとして、貧困が子どもに与える影響について取材を行ってきた新井直之さんは著書「チャイルド・プア 社会を蝕む子どもの貧困」にて、貧困世帯で生活している子どもたちの生々しい実態を記しています。
貧困世帯の子どもの特徴としてひとり親世帯が多く、なかには家庭崩壊を経験している子供も少なくありません。また親がアルコールや薬物依存症を抱えているケースや、自閉症や適応障害を持っているケースなどもあります。
参考: チャイルド・プア 社会を蝕む子どもの貧困
そんな家庭の中では、
- 学年費や給食費などの負担が大きく、子どもがアルバイトをして捻出している
- 体調不良になっても、医療費が支払えないため病院に行けない
- 就職活動で必要なスーツを買うことができない
といった、私たちが当たり前と感じていることでさえ、当たり前ではなくなるのです。
日本の貧困世帯の子どもは、途上国の子どものように、スラムで生活して物乞いをしているわけではありません。そして大きな報道がされないこともあり、気づきにくい問題です。しかし、ここまで見てきたように、日本にも生きていくのに必死な子どもたちもいるのです。
経済格差が教育格差につながる
日本社会は本人にはどうすることもできない「家庭」の状況による大きな格差が存在しています。
文部科学省が発表した「平成30年度子供の学習費調査」によると、子どもが公立の幼稚園に通っている間にかける学習費用は、
- 年間収入400万円未満の世帯
年間約19万5,000円 - 年間収入1200万円以上の世帯
約36万2,000円
と、2割弱の性生まれています。
もう少し具体的に見てみましょう。
統計省統計局が公開している「家計調査 家計収支編 2019年 年間収入階級別」によると、年収200万円未満の世帯では月あたり平均148,218円の消費支出をしていますが、「教育」には平均898円しか支出されていないのです。
こういった教育投資の差額は小学校、中学校と子供の年齢が上がっていくにつれて大きくなっていき、ますます教育格差が広がるのです。
富裕層の家に生まれた子どもは、
- 教育に恵まれた環境
- 幼児期からはじまる多額の教育投資
を存分に活用して、実力主義の世の中を渡り歩きます。
一方で貧困世帯に生まれた子供は、教育意識の低い環境により受験や就職に後れをとってしまいます。富裕層と貧困層で完全な階層社会がうまれてしまうのは、非常に大きな問題として対策を練る必要があります。
コロナ禍の影響も
教育格差は昨今のコロナ禍の影響により、さらに広がることが懸念されています。
三菱 UFJ リサーチ&コンサルティング株式会社が発表した「コロナ禍が教育格差にもたらす影響調査-調査レポート」によると、コロナ禍に入ってからの全体的な勉強時間はどの世帯も下がっているとの結果が出ています。しかし世帯年収800万円以上の世帯では勉強時間の減少幅が小さくなっています。それだけではなく年収800万円以上の家庭は学校外の勉強時間が増えているという結果がでました。
また調査レポートによると
世帯年収の高い世帯は低い世帯と比較して、2021 年 1 月の学校外の勉強時間が高止まりしている傾向があり、臨時休校による勉強時間の損失を取り戻すために世帯年収が高い世帯では継続的に学校外教育投資を行っている可能性が示唆される。
コロナ禍が教育格差にもたらす影響調査-調査レポート
と述べています。
所得の高い家庭はコロナによる臨時休校においても、学校外教育(オンライン授業、映像教材など)に投資することが可能です。しかし貧困層の家庭では、学校外教育を受けていないため、学校からの課題しか与えられません。
この状況下ではどんどん学力に差は生まれてしまい、さらなる格差が広がってしまうことでしょう。
教育格差の解決に向けた日本企業の取り組み
教育格差を解消するために、実際に事業を行っている企業を紹介します。
株式会社すららネット
株式会社すららネットは、
- アニメーション教材「すらら」の研究・企画・開発と販売
- すららを利用した学校・学習塾向けのコンサルティング事業
を行っている企業です。
アニメーション教材すららについて、公式ホームページでは以下のように記されています。
すららは2005年に研究がスタートし、英語・国語・数学の各分野における著名講師やeラーニング研究で技術を持つ大学教授などのプロジェクトにより開発を行っている、ゲー ミフィケーションを応用した「対話型アニメーション教材」です。
株式会社すららネット
貧困世帯への学習支援
これまで株式会社すららネットの教育事業は、課金モデルを採用していたため、貧困層はなかなか利用できませんでした。そこで、学習支援活動をしているNPOや自治体向けに通常よりも低価格で「すらら」を提供。これにより貧困層にもサービスを展開でき、事業を活かした社会貢献活動を行っています。
またJICA(国際協力機構)から補助金を受けることにより、インドネシアやスリランカなどの発展途上国にもサービスを展開しています。
この教育事業は目標4「質の高い教育をみんなに」の達成に貢献しており、また教育格差が抑制され大学などの高等教育を受けられるようになれば、目標10「人や国の不平等をなくそう」の達成にもつながります。
また本業の事業活動を通して社会課題を解決しようとする試みは、社会的価値と企業価値を両立しており、これからの企業モデルとして理想的なものといえるでしょう。
教育格差の解決に向けて私たちにできること
次に、教育格差の解消に向けて私たちにできることを見ていきましょう。
ひとり親家庭を親身にサポートする
教育格差を解消するSDGsのための取り組みは企業だけではなく、個人単位で目標に取り組むことが重要です。
もし友人や知人が都合によりひとり親になってしまった場合、自己責任で済ませてしまうのではなく、できる限りサポートしてあげましょう。
シングルマザー・シングルファーザーはコミュニティから孤立してしまう傾向があります。しかし、積極的にコミュニケーションをとることでさまざまな悩みを共有できるようになるかもしれません。
また、国や自治体が行っている支援策を伝えてあげることで、貧困から抜け出せる可能性も。
それにより子どもの教育にも投資をできるため、教育格差を是正することにつながります。直接的な取り組みでなくとも、個人単位の行動が現状を変えられるかもしれないのです。
【関連記事】NPO法人チャリティーサンタ|全ての子ども達にプレゼントと思い出を。困窮家庭への支援で皆を笑顔に。
教育コンテンツを拡散する
塾や私立学校などの質の高い教育を受けるためには、多くの場合資金が必要です。
しかし、地域や経済的な格差により私教育を平等に受けることは難しくなっています。
そこで、無料で提供されている教育コンテンツの知名度を拡散することで今まで地域や経済的な要因で十分な教育を受けられなかった子どもや学びたい人に知識を届けることができます。
無料で利用できるコンテンツには、大学などの団体が提供するオープン教材や「NHK for school」、教育系YouTuberの授業動画などが挙げられます。
SDGsと教育格差の関係
ここまで教育格差について詳しく見てきました。つづいては、SDGsと教育格差の関係を見ていきましょう。
SDGsは17の目標と169のターゲットで構成されています。17の目標のなかでも教育格差とはSDGs4「質の高い教育をみんなに」とSDGs10「人や国の不平等をなくそう」と関連します。
1つずつ確認しましょう。
SDGs目標4「質の高い教育をみんなに」との関係
SDGs目標4「質の高い教育をみんなに」ではすべての人々への包摂的かつ公正な質の高い教育を提供し、生涯学習の機会を促進するということを達成するために10個のターゲットで構成されています。
その中から貧困による教育格差に関係するものを取り上げて解説していきます。
ターゲット4.2 全ての子どもたちが、初等教育を受ける準備が整うようにする
2030年までに、全ての子どもが男女の区別なく、質の高い乳幼児の発達・ケア及び就学前教育にアクセスすることにより、初等教育を受ける準備が整うようにする。
幼児期の発達に力を注げないことは、初等教育のつまずきにつながる可能性があります。すべての子どもがスムーズに初等教育へ移行できるように、そして安心して小学校に通えるように、体制を整えなければいけません。
ターゲット4.3 全ての人々が高等教育への平等なアクセスを得られるようにする
2030年までに、全ての人々が男女の区別なく、手の届く質の高い技術教育・職業教育及び大学を含む高等教育への平等なアクセスを得られるようにする。
生まれた家庭の経済状況に関わらず、すべての子どもに等しく教育機会を与える必要があります。
SDGs目標10「人や国の不平等をなくそう」との関係
SDGs目標10「人や国の不平等をなくそう」では各国内および各国間不平等を是正するための10個のターゲットで構成されています。その中から教育格差に関係するものを取り上げて解説していきます。
ターゲット10.1 所得下位40%の所得成長率を上げて、持続させる
2030年までに、各国の所得下位40%の所得成長率について、国内平均を上回る数値を漸進的に達成し、持続させる。
内閣府が発表した「日本経済2018-2019」によると、国民全体の可処分所得の成長は1990年代以降で鈍化しているという結果がでました。教育格差は親の経済格差が原因で起こるため、貧困世帯の所得成長を促す必要があります。
ターゲット10.2 男女間の経済的、社会的地位の平等を目指す
2030年までに、年齢、性別、障害、人種、民族、出自、宗教、あるいは経済的地位その他の状況に関わりなく、すべての人々の能力強化及び社会的、経済的及び政治的な包含を促進する。
日本では男女の賃金格差が根深い問題となっており、OECD(経済開発協力機構)が発表した「ジェンダーギャップ指数2022」によると、総合スコアは146か国中116位と低い結果でした。正社員の賃金格差はシングルマザーの貧困につながる要因でもあるため、解消に取り組むと同時に、誰もが平等に教育を受けられる体制を整えることも重要でしょう。
【関連記事】ジェンダーギャップ指数とは?日本の順位や取り組みを紹介
まとめ
「生まれ」による教育格差は本人の努力ではどうすることもできません。そして、教育格差による貧困世帯の学力の低下は、貧困の連鎖を引き起こしてしまいます。
SDGsでは教育格差と貧困を解消する具体的な目標を掲げており、私たち一人一人の行動によって目標達成に近づくことが可能です。皆さんも相対的貧困という目に見えづらい問題を意識し行動することによって、世界をより良い方向に変えていきましょう。
文中注釈
※1 Pew Research Center U.S. has world’s highest rate of children living in single-parent households
※2 The Educational Opportunity Project at Stanford University
※3 世界経済フォーラム「米国における人種間の教育格差の実態」
※4 Global Gender Gap Report 202
※5 UNESCO UIS
※6 厚生労働省「2019年 国民生活基礎調査の概要:Ⅱ各種世帯の所得などの状況」
参考文献
松岡亮二.教育格差―階層・地域・学歴.初版,東京,ちくま新書,2019
林壮一.アメリカ下層教育現場.電子書籍版,東京,光文社新書,2013
水無田気流.シングルマザーの貧困.電気書籍版,東京,光文社新書,2014
中村友彦.フィリピンのストリートチルドレン:貧困と開発.電気書籍版
堀田佳男.なぜアメリカ金融エリートの報酬は下がらないのか.第1版,東京,株式会社プレジデント社,2011
新井直之.チャイルド・プア 社会を蝕む子供の貧困.第1版,東京,TOブックス,2015