#SDGsを知る

株式会社エナーバンク| 脱炭素社会の実現を目指して、再生可能エネルギーの創出から調達までを支援

株式会社エナーバンク

株式会社エナーバンク 村中さん 小泉さん インタビュー

村中

慶應大学および大学院でシステム最適化を研究し、スマートグリッドを学ぶ。学生起業家選手権コンテストでWebサービス「tetol」を発表し、優勝。No.1採用-ビジネスNo.1でソフトバンクに入社。ネットワーク企画、サービス開発、IoT新規事業を経験。孫正義の後継者候補ソフトバンクアカデミア3.5期生に選出。経済産業省エネルギープラットフォームプロジェクトの主担当を経験。2016年4月には、電力自由化による電力事業の立ち上げおよび、電力見える化プロダクトの開発・ビジネスサイドのリーダーとして従事。2018年7月、株式会社エナーバンクを創業。エナーバンクにおいて、2018年10月に電力オークション「エネオク」を、2019年10月に環境価値取引「グリーンチケット」を、2023年6月に太陽光発電設備導入支援事業の「ソラレコ」をリリース。電気工事士2種を保有。

小泉
奈良先端科学技術大学院大学にて廃熱を電気に変換する「熱電変換」に関する研究を行い、首席で卒業。新卒で医療系スタートアップ企業に入社し、北陸/近畿/中国/四国地方の営業、顧客支援、パートナー企業との協業に従事したほか、ITSaaS系スタートアップ企業にて業務改善システムのアカウントエグゼクティブを務めた。その後、株式会社エナーバンクにて2022年は自治体へのアプローチに従事、現在はセールスマネージャーとしてエンタープライズ向けに再生可能エネルギー電力調達や環境価値(非化石証書・Jクレジット・グリーン電力証書)の購入・活用、太陽光発電事業者のマッチングおよびコンサルティングを提供している。

introduction

株式会社エナーバンクが2019年にリリースした「エネオク」は、電力の自由化によって電気契約に悩む人が、オークション形式で電気契約を見つけられる無料仲介サービスです。

同サービスは「競り下げ方式」によるオークションで、最安値の電力調達を可能にするだけでなく、再生可能エネルギーも条件に追加することができます。自治体や民間企業で加速する「脱炭素」のニーズを捉えたことから、サービスを開始して5年目で取り扱い総額が387億円を超えました。

また、環境価値の取り扱いや太陽光事業者のマッチングサービスも展開し、さまざまな角度から「脱炭素社会の実現」に向けて取り組んでいます。

今回、同社の事業について、共同創業者代表取締役の村中さんと、小泉さんにお話をお伺いしました。

「エネルギーのデータが活用できるように」電力自由化がビジネスチャンスになった

ーまずは、会社概要と事業内容を教えてください。

村中さん

株式会社エナーバンクは、「エネルギーをもっとシンプルに」というビジョンのもと、2018年7月に立ち上げたエネルギーテックの会社です。

エネルギーは今、存在して当たり前の世界となっています。さらに、デジタル社会へと進んでいく中で、電力の使用データや電力会社と顧客の契約情報などもデジタルデータに置き換わってきています。これまで、デジタルデータは電力業界内でのみ活用できるものでしたが、電力の自由化によってさまざまな事業者に開放されるようになりました。

そこに着眼したのが私たちです。

脱炭素社会へと世の中が変わっていく時代、電力の使用状況や再生可能エネルギーの使用有無を示すデジタルデータは、ビジネスになると考えたんです。そこで、「エネルギーのデータを貯めていく」という意味で、エナーバンクという社名にしました。

弊社では、電気を使う世の中のみなさま、電力の言葉では「需要家」と呼ばれる法人や自治体の方々が、「自分たちに合ったエネルギーサービスを、自分で選択できる環境を作ること」を目的に事業を展開してきました。

現在提供しているサービスは、国内唯一の電力のリバースオークションサービスである「エネオク」、グリーン電力証書などの環境価値を取り扱う「グリーンチケット」、太陽光事業者の選定サービス「ソラレコ」の3つです。

「エネオク」は調達側にも提供側にもメリットがあるオークション

ー1つずつ伺います。まずは「エネオク」について、どのようなサービスなのか教えてください。

村中さん

エネオクは、電力を使いたい需要家が、最安の電力契約を見つけることができる「オークション型の無料仲介サービス」です。このオークションに採用しているのは、小売電気事業者が競争して入札するリバースオークション形式になります。他社の入札価格が見える状態で、一定期間何度でも再入札可能な仕組みなので、他社が提示した価格を知ることができない相見積よりも安くなるのが特徴です。

相見積もり

複数の業者に見積もりを提出してもらい価格を比較すること。業者同士は他社の提示した価格がわかりません。

リバースオークション

一定期間、複数の業者が競争して入札をするオークション形式。他社の提示価格がわかるため、それよりも低い価格で再入札をすることができます。

ただ、この話だけを聞くと「電力の価格競争をさせるだけの仕組みなら、提供側にはメリットがなさそうだ」と感じるかもしれません。しかし、「エネオク」を通じて私たちは、電力の無駄や無理を埋めて、提供側がより安定的な電力供給をするサポートを行っています。

具体的に説明すると、「今、電気をつけました」「今、工場のラインを動かしました」というように、電力の使用状況には常に変化があります。その変化を電気の言葉でデマンドといいますが、デマンドを24時間365日連続的なデータとして取ったとき、さまざまな山ができるんです。

例えば学校だと、夏休みや冬休みはあまり電気が使われませんよね。その一方で、夏や冬に電力をたくさん使う工場もあります。昼間だけ電気を使うオフィスビルもあれば、夜も診療している病院では夜間も電気を使うでしょう。これらの需要家を組み合わせると、一つの大きな安定したデマンドが作れるというところに着想したのが、エネオクの技術の根幹です。

エネオクでは、この複数の需要家をまとめて作り上げたデマンドカーブ(電力の需要曲線)に対して、小売電気事業者が入札をかけることができます。つまり、電力会社は自分の発電カーブに応じた入札が可能となり、安定的に電力を供給できるようになるんです。弊社はこの技術の特許も取得しています。

ーこれまで世の中になかった「エネオク」というサービスをスタートされるにあたって、大変だったことはありましたか?

村中さん

エネオクをリリースした頃は、私たちの会社も立ち上げたばかりで信頼が高くはなく、提供側の小売電気事業者が3社ほどしか集まりませんでした。そこで私たちが考えたのは、とにかく需要家を捕まえようという戦略です。

まずは「コストを削減したい」などの課題を抱えた需要家を連れてきて、「提供できる可能性があれば、ぜひこのプラットフォーム(エネオク)で入札してください」とお声がけをすることで、徐々に5社になり10社になり、今では45社ほどにまで増えましたね。

それだけでなく、このサービスが浸透した大きなきっかけもありました。エネオクは需要家側がコストや契約期間の他に、企業の排出係数や再生可能エネルギーの比率も条件として選択できます。その点が注目され、2020年に環境省が提供する「再生可能エネルギー調達ガイド」に掲載されたんです。そこで一気に知名度が上がり、全国の小売電気事業者や自治体からお問い合わせが入るようになりました。

再エネ条件付きを選ぶ需要家が5年で0から8割に

ーエネオクでは、「再生可能エネルギー条件付き」の電力を選べるのですね。エネオクのリリース時から選択できる仕様だったのでしょうか?

村中さん

エネオクをスタートしたときから「脱炭素のニーズが来るだろう」と想定して、再生可能エネルギーの比率が指定できる仕様にしていました。ただ、最初はコストのみを検討の条件にする需要家がほとんどでしたね。それが今では、オークション数の8割を再生可能エネルギー条件をつけたものが占めています。

その理由は、「脱炭素宣言もあり企業としては再生可能エネルギーにしたいけれど、コストは抑えたい」というニーズにも、エネオクなら応えることができるからです。

実は、再生可能エネルギーで調達した電気に対しては、「電気そのものの価値」と「環境価値の価値」がミックスされて、「再生可能エネルギー電力プラン」になります。どうしても、再生可能エネルギーの「価値」部分はコストを下げられません。しかし、電気の部分は下げられる事業者がいます。

それは、先ほどお話したように再生可能エネルギーを安定的に使用できる「ユーザー群」をエネオクのプラットフォームで見つけ出し、提供側とマッチングをさせることで、安く再生可能エネルギーを提供できるからです。そのため環境価値が乗ったとしても、電気の単価を抑えた分、元の電力(再生可能エネルギーがないメニュー)よりも抑えた調達ができる可能性があるんです。

再エネ調達から環境価値提供へ、そして再エネ創出まで手がけるように

ー続いては、グリーンチケットについて教えてください。

小泉さん

グリーンチケットは、「グリーン電力証書」「非化石証書」「J-クレジット」といった環境価値の証書を取り扱っているサービスです。

一般的には、脱炭素のために「太陽光発電設備を設置しよう」「風力発電を作ろう」「省エネにしよう」という流れがあります。でも、広大な土地がないと再生エネルギーを作ることは難しいですし、省エネにも限界がありますよね。そこで、環境価値を取り出し「証書化」して、これを購入することによって再生可能エネルギーを使ってるとみなす仕組みが、世界的に作られているんです。

私たちがグリーンチケット事業で行っているのは、環境価値をうまく世の中に流通させて、再エネの設備の増強や日本のカーボンニュートラルをさらに盛り上げていこうという取り組みです。

ー電力の調達支援(エネオク)から、環境価値の提供(グリーンチケット)という分野に展開された背景をお伺いできますでしょうか?

村中さん

元々、環境価値は非常に「デジタルデータ」と相性がいいと考えていたので、「環境価値で起業しようかな」と思ったときもあったんです。「でも、まだ早い」と。当時は脱炭素社会宣言も出ていなかったですし、「クレジット」という言葉の定義さえ世の中に認識されていなかったので、「もし起業したら、5年ぐらい売り上げが出ないかもしれない」と感じていました。

ただ、電力業界に身を置く中で、太陽光で発電した電力の買い取り価格であるFIT価格が下がり続ける状況を見て、太陽光事業者のためにも「新しく収益となる仕組みを探さなければならない」と考えるようになりました。そこで、環境価値を私たちが販売できればいいのでは、という仮説を立てたんです。

なぜなら、エネオクの営業をしていると、再生可能エネルギーを使いたいという顧客と接点を持つことができるためです。環境価値単独での営業はハードルが高くても、エネオクを使用していて再生可能エネルギーがほしいお客様に、「環境価値単独でも買えるんですけど、こちらもいかがですか」と声をかけるのは難しくありません。そこで、起業時から興味のあったグリーンチケット事業を2019年に立ち上げたという経緯になります。

小泉さん

実際に、このグリーンチケットの需要はどんどん増えています。いかにカーボンニュートラルに力を入れているのか、環境に配慮しているのかが企業価値に直結する時代ですから、企業は脱炭素に取り組まないわけにはいきません。

ただ、そのような設備を持っていない企業は少なくありませんので、環境価値を購入して自社の使用している電気のCO2排出量をゼロにするという流れが加速していますね。さらに、先ほど村中が申し上げたように、太陽光発電を取り入れている企業からの「新しく収益化できるものとして、環境価値を売りたい」という需要も増えてきています。

ーソラレコについても教えてください。

小泉さん

ソラレコは、太陽光発電設備の導入支援サービスです。

太陽光発電の設備を導入するには、煩雑な事務作業が発生します。太陽光設備事業者に提出しなければならない資料も会社ごとによって異なるんです。また、各社がさまざまな提案を出してきますからそれぞれに対してシミュレーションしなければなりません。そもそも、各社の提案を横並びにして検討するために、条件を合わせること自体が非常に難しい。

そこをお手伝いするために、需要家と太陽光設備事業者の間に入るのがソラレコというサービスです。どんな条件で設備を導入したいのかを需要家にヒアリングし、設備事業者へ「このような条件で見積もりや提案をください」と投げます。さらに各社から出てきた見積もりを横並びにして、比較検討できる資料にしたうえで提案をします。ですから、煩雑な作業はすべて弊社に外注できるんです。

加えて、弊社は太陽光発電設備事業者ではありませんので、フラットな目線で複数社を比較できる強みもあります。しかも、これらのマッチング支援は無料です。

このようなメリットが評価されて、ソラレコは環境省にも使っていただいています。さらに、大阪府との共同調達の連携をするなど、自治体との連携も増えていますね。

エネルギーの「持続可能性」に寄与したい

ー御社の今後の展望を教えてください。

小泉さん

例えば、エネオクを利用したお客様が「環境価値」にも興味があれば、環境価値の調達を支援したり。脱炭素のサポートをさせていただいたお客様が電力のコストにお悩みであれば、エネオクで電力調達のお手伝いをしたり。より幅広くお客様のニーズを捉えて、総合的に支援していきたいと考えています。

また、2024年問題でますます増える物流施設や、AI・5Gなどの技術が発達して増加するデータセンターは、莫大な電力を使っています。個人的には、それらの電力調達や脱炭素の支援にも力を入れたいですね。

村中さん

電力業界は、昨今ますます変化のスピードが早くなっています。

私たちは電力の自由化というタイミングでエネオクを立ち上げましたが、その後は脱炭素社会宣言が起きたり、2022年にはロシアウクライナ戦争で日本が輸入しているLNGや石炭の価格が上がったりと、電力を取り巻く環境は様変わりしています。

いい意味でも悪い意味でもそれらの波を直に受ける私たちは、変化は常にチャンスと捉えてきました。電力が高騰したときには、小売電力事業者が次々に撤退していきました。しかし、私たちはパートナー企業から「こういう条件だったら電力を提供できる」という具体的な条件をヒアリングして、困っている電力難民の需要家をサポートすることで、取り扱い額を伸ばすことができたんです。

今後も電力や脱炭素エネルギーの領域では、さまざまな変化が起こるでしょう。そのような業界において、私たちは先陣を切って新事業を開拓していくことで、「エナーバンクの人はプロフェッショナルだ」と言われるブランドにしたいですね。

また、「持続可能性」という言葉は、再生可能エネルギーやCO2だけでなく、「人材」という観点もあると思ってます。私たちが先行して取得した情報やノウハウを学べる環境を作ろうと考えています。そうすることで、「エネルギーにおける持続可能性」というところに寄与していきたいと思います。

–本日はありがとうございました!

関連リンク

エナーバンク:https://www.enerbank.co.jp/

代表SNS

・facebook:https://www.facebook.com/mkenichi5

・Twitter:https://twitter.com/muraken_enetech