「省エネ」という言葉は誰もが一度は聞いたことがあるでしょう。なんとなく環境に良いこと、というイメージを抱く人も少なくないと思いますが、そもそもなぜ省エネを行う必要があるのでしょうか。
この記事では、省エネが必要な理由や、政府や企業が行っている取り組みについて解説します。
省エネとは
省エネとは、省エネルギーの略で石炭や石油、天然ガスなどのエネルギー資源を無駄遣いせずに効率よく使うことです。
一般的には使っていない電気を消す、夏場のエアコンの設定温度を上げるなどの行動に加えて、少ないエネルギーで効率よく稼働する製品に対しても省エネという言葉が用いられています。
冷蔵庫、エアコン、お風呂、スマートフォンなど、私たちの身の回りは便利なモノで溢れていますが、これらを動かすためにはエネルギーを必要とします。そして、エネルギーを生み出すための資源が、石油や石炭、天然ガスなどです。
例えば、モノを動かすのに必要な電気エネルギーは、火力発電所などで石油、石炭、天然ガスのエネルギー資源を燃やし、その熱を利用して生み出されています。
では、なぜ省エネが大切で皆で取り組む必要があるのでしょうか。
省エネへの理解をより深めるために、
- なぜ省エネが必要なのか
- 地球温暖化の現状
- エネルギーの現状
の順番で説明し、その後に省エネに関する取り組みを紹介します。
なぜ省エネが必要なのか
省エネは、エネルギーの安定供給確保と地球温暖化防止の2つの意義を持っています。
エネルギーを安定供給するため
後ほど詳しく説明しますが、石油や石炭などのエネルギー資源には限りがあります。そして石油や石炭そのものを人間が作り出すことは現時点ではできません。つまり、地球上の人々が何も考えずにエネルギーを使い続ければ、近い将来資源が枯渇し、これまでの豊かな生活を送れなくなる可能性があります。エネルギーを安定供給し続けるためにも、今ある資源を長期間保てるように節約していく必要があるのです。
地球温暖化防止のため
近年、地球温暖化が深刻な状況となっています。
産業革命以降、技術の発達により私たちの暮らしは豊かなものになりました。しかし、工業化が進む中で石炭や石油、天然ガスを大量に消費したことで、大気中に排出される二酸化炭素も増加しました。
そしてこの頃から地球温暖化が騒がれるようになり、実際に様々な悪影響が見られるようになりました。今後地球を持続可能なものにするためにも、省エネに取り組むことは不可欠です。
次の章ではもう少し踏み込んで、世界の地球温暖化の現状について見ていきましょう。
世界の地球温暖化の現状
ここでは世界の地球温暖化の現状と原因を見ていきましょう。
年々気温が上がっている
政府間パネル(IPCC)の第5次評価報告によると、1880年から2012年の32年間で、世界の平均地上気温は0.85℃上昇しています。特に1951年以降の上昇率が大きく、地球温暖化が進んでいることが分かります。
IPCCは、どのようなシナリオを当てはめたとしても、今後気温は上昇し続けると指摘しています。
主な原因は二酸化炭素
現在、世界で消費されているエネルギーの大半は、石油や石炭といった化石燃料を燃やして作られていますが、この過程で排出される二酸化炭素が地球温暖化の主な原因です。
排出された二酸化炭素によって大気中の二酸化炭素濃度が上昇すると、宇宙に逃げるはずの熱がうまく放出されず、地球の表面に漂います。そのため地球の気温が上昇し、気候変動などの影響を及ぼしているのです。
各地で大雨、干ばつなどの異常気象が発生
具体的な影響としては、気温上昇に伴う気候変動が挙げられます。気候が変動していることで、世界各地で豪雨の頻発、干ばつなどの異常気象が発生しているのです。(参考:環境省)
干ばつとは、長い間雨が降らない、または降雨量が少ないことによって土地が乾いてしまい、農作物が育たないことを意味します。豪雨の頻発については、日本でも毎年のように大雨による被害が発生しているのでイメージしやすいと思いますが、干ばつも深刻な問題です。
例えばアルゼンチンでは、歴史的な降雨不足によって、小麦の発育に影響が出ており、2022年9月~2023年8月の生産量予測が1,650万トンと、前年度と比べて28%減少する見込みとなっています。(参考:JETRO)
他にも飲み水の確保が困難になるといった水関連の問題が発生し、これによって非衛生的な環境に陥り伝染病などが流行してしまうなど、負の連鎖が発生します。
このように、地球温暖化はすでに目を背けられない問題となっているのです。
世界のエネルギーの現状
省エネの必要性や背景にある地球温暖化について確認したところで、世界のエネルギーの現状について見ていきましょう。ここでは、エネルギー需要と、可採年数の観点から解説をします。
エネルギー需要の高まり
経済産業省資源エネルギー庁によると、世界のエネルギー消費量は経済成長と共に増加を続けています。石油の消費量は1965年から2019年までに、3倍以上に増加しました。特に新興国では、経済成長の加速と共に、人口増加とエネルギー需要の拡大が見られます。
対してOECDに加盟する先進国のエネルギー消費量の伸び率は、グラフからも分かるように鈍化しています。この理由としては、先進国においては人口が減少傾向にあることと、省エネが進んでいることが挙げられます。
エネルギー資源の可採年数が迫っている
世界的な経済成長と人口増加によってエネルギー需要が高まる一方、エネルギー資源の枯渇が問題となっています。
環境省によると、現在の生産量を前提とすると石油の可採年数(今後採掘が可能と予想される期間)はわずか45年、天然ガスは60年と言われています。新たな油田の発見や、非在来型(新しい技術などによって生産された油)の石油・天然ガスの期待可採量を含めれば可採年数が延びる可能性もありますが、いずれも資源に限りがあることに変わりはありません。
家庭エネルギー消費の現状
このような現状がある中、私たちの家庭におけるエネルギー消費はどのような状況にあるのでしょうか。
世界的に家庭エネルギーの消費は増加傾向に
世界の家庭エネルギーの消費量は、増加傾向にあります。
世界のエネルギー消費の内訳を見ると、1971年から2015年までの44年間で、家庭エネルギーの消費量は1.9倍となっています。その理由に、家庭内のエネルギー利用機器の普及が進んだことや、新興国の発展、また自動車の普及が進んだことが挙げられます。
日本の家庭の用途別エネルギー消費について
日本の家庭で消費されるエネルギーを用途別に見ると、動力(家電を動かすなど)や照明に使われるエネルギーが33.3%と最も多く、次に給湯、暖房が続きます。
日本の家庭のエネルギー源別消費について
1965年度から比較すると、日本の家庭におけるエネルギー源別消費は、電気の割合が大幅に増えたことがわかります。
これは、電化製品の普及に加えて大型化したことやオール電化住宅の普及拡大などにより、電気を使用する場面が増えたことが挙げられます。
家庭でエネルギーを多く使う機器は?
環境省がまとめた統計に基づくと、家庭でエネルギーを多く消費する機器は、エアコン、冷蔵庫、洗濯機などの家電機器です。続いて暖房や給湯といった空調機器や動力を伴う機器がエネルギーを消費する傾向にあります。
また、資源エネルギー庁によると、これらの機器は、古ければ古いほどエネルギーを多く消費する傾向にあるとしています。
このように、エネルギーは私たちの生活に欠かせない存在であり、省エネに取り組むことは他人事ではないことがわかります。
続いては、省エネを進めるためにどのような取り組みが進められているのかを見ていきましょう。
省エネに関する世界の取り組み
世界では、先進国を中心に省エネへの取り組みが進んでいます。ここではアメリカとドイツを例に挙げ、取り組み内容を紹介します。
【アメリカ】EERSで省エネを促進
アメリカは、「EERS(The Emissions and Energy Reporting System)」と呼ばれる省エネ対策を進めています。EERSは、エネルギーを供給する側が消費する需要家に対し省エネ目標を定め、定期的に削減値を評価する仕組みのことです。
具体的な目標数値は1年ごとに定めるものから、複数年の累積削減率を評価するものまで州によって異なります。達成できた場合はエネルギー供給者に公共事業委員会から補助金が発生し、逆に未達成の場合は罰金が課せられます。エネルギー供給者、需要家、そして政府が省エネに関わって取り組んでいるのです。
(参考:経済産業省)
【ドイツ】省エネ促進のため補助金を配布
2050年までに一次エネルギー※消費量を2008年比で50%まで削減することを目標に掲げているドイツは、省エネを推進するために企業に対する支援プログラムを提供しています。
対象となる省エネの分野には、再生可能エネルギー由来の熱技術や、エネルギー効率化のためのセンサー、太陽熱システムなどが挙げられており、これらに投資をすると費用の補助対象となります。補助の割合も30%〜40%と高く、省エネの促進を加速させています。
省エネに関する日本の取り組み
次に日本の主な取り組みを2つ紹介します。
省エネ法の改正
日本では、製造業や運輸業などを営む企業に対して省エネを促す「省エネ法」を定めています。一定以上のエネルギーを消費している企業に毎年定期報告を行うことを義務付けたり、立ち入り検査や指導を行ったりしています。この省エネ法は、オイルショックをきっかけに積極的に取り組まれるようになり、必要に応じて何度も改正を実施してきました。
最近では2022年に省エネ法の改正に関する法律案が閣議決定されました。主な改正内容は、化石エネルギーから非化石エネルギーへの転換を目標に定め、電気の効率的な利用計画の提出などを求めることが追加されます。
日本政府は2030年までにCO2を46%削減、2050年までに脱炭素化という目標を定めており、これらの目標を達成するために、今回改正が実施されました。
省エネ補助金の充実
日本は省エネに関する補助金が充実しています。一例を挙げると、環境省は省エネ改修や省エネの実現のための構築を行う民間企業に対して、補助対象経費の1/3(上限:5,000万円)を補助金として配布しています。
また、工場や事業所がエネルギー消費効率の高い設備へ投資を行う場合の補助金も実施されています。政府が省エネの取り組みとして実施するこれらの補助金は、「省エネ補助金」と呼ばれています。
次の章では、企業が行っている省エネへの取り組み事例を紹介します。
省エネに関する日本企業の取り組み事例
近年は大企業から中小企業まで、多くの事業所が省エネに取り組んでいます。ここでは「トヨタ自動車株式会社」と「株式会社エスコ」を例に紹介します。
製造から販売後まで省エネを意識「トヨタ自動車株式会社」
トヨタ自動車株式会社は、「トヨタ環境チャレンジ2050」を定め、省エネに取り組んでいます。具体的には、車を製造する際に消費するエネルギーが少なくなる材料へ置き換えたり、再生可能エネルギーを導入したりなどを行っています。
また、車の利用者が長期的に省エネに取り組めるエコカーの製造も行っており、製造段階から使用段階まで省エネを意識して事業を展開しています。
省エネ削減を全国に「株式会社エスコ」
株式会社エスコは、省エネ製品やサービスを提供し、省エネ化に取り組んでいるコンサルティング会社です。
消費電力が少ないLEDを使った省エネ設備更新工事や、独自に開発した高性能電子ブレーカー設置工事サービスを行っており、電気の基本料金を約半分に抑えられる省コストサービスを全国で展開しています。
省エネかつ省コストで、環境に優しいだけでなく消費者にもメリットを提供している企業です。
私たちができる省エネアクション
最後に、私たち個人ができる省エネ行動を紹介します。
自宅でできる省エネ
先述したように、家庭で使用されるエネルギーの約半分が電気です。そこで、まずは電気から省エネに取り組むことをおすすめします。取り組み例には、
- 照明を白熱電球からLEDにする
- 使用していない家電製品のコンセントは抜く
- 冷房は室温28℃を目安に設定
- 冷蔵庫は「強」から「中」にし、熱いものを直接入れない
- 自動車の代わりに自転車や電車を使用する
などがあります。特に待機時消費電力は2012年時点で全消費電力の5%を占めているので、多くの家庭で実施することで改善が期待されます。
会社でできる省エネ
会社で省エネに取り組むことは、省コストや企業のイメージアップにつながり、経営面でも大きなメリットをもたらします。会社でできる省エネには、下のような例があります。
- 照明の点灯時間を限定する
- サマータイムを積極的に導入し、日中の稼働時間を長くする
- 冷房は室温28℃を目安に設定
- エレベーターではなく階段を使用するように推進する
- 生産ラインの適切な運用管理
また、長期的なプランとしては、投資は必要になりますが、高効率の空調設備や高機能換気設備の導入も検討すると良いでしょう。
学校でできる省エネ
全国に数多くある学校が省エネに取り組めば、大きなエネルギー消費削減につながります。学校で活用できる省エネには、
- 冷房は室温28℃を目安に設定する
- 照明器具のこまめな消灯をする
- ポスター掲示や集会で省エネの呼びかけを行う
- 設備の小規模な省エネ改修
- グリーンカーテンで直射日光を防ぐ
- 断熱効果の高い窓の設置
などがあります。
また、省エネ対策に取り組むことで、生徒や先生への省エネ教育になるというメリットもあります。
まとめ
省エネは、地球温暖化や資源の枯渇の観点から見て非常に重要な取り組みです。省エネに取り組むことは、二酸化炭素の排出を抑え、同時に資源を守ることにつながります。
今回記事の中で紹介したように、先進国を中心に、政府が省エネに対する目標を定め、取り組みを進めてきました。企業としても省エネに取り組むことで、政府の補助の対象となったり、イメージアップにつながったりとメリットも生まれます。
しかし、家庭で消費されるエネルギーの量も多く、私たち一人一人が省エネに取り組むことが重要です。住み続けられる地球を守っていくためにも、私たちが行動し、自分ができることから始めてみましょう。