私たちは毎日ごみを出しています。分別して集積場に出すと、ごみ収集車が集めてくれ、目の前からは見えなくなって一段落。そこから先は、住民として普通は目にすることはありません。
その中で長きにわたって、焼却・埋立そして環境破壊等が大きな問題になっていることを耳にします。私たちが出したごみは、なぜそのような問題につながっているのでしょうか。
本記事ではごみ問題を整理し、現状がどうなっているか、これからどのように考え、行動していけばよいか、一緒に考えていきましょう。
目次
ごみ問題とは
ごみ問題とは、その名の通り「ごみ」が引き起こす問題のことですが、その種類は様々です。そこで、まずは「ごみ」について確認していきましょう。
「ごみ」を辞書で引くと、
〇ものの役に立たず、ない方がよいもの。また、つまらないもの。(岩波書店「広辞苑」)
〇一般には生活に伴って発生する不要物。(ブリタニカ交際百科事典)
と定義されています。漢字では「塵・芥」と書きますが、一般的に「もう使わないから捨てたい」あるいは「捨てられた」ものが「ごみ」です。
次に、ごみの種類を整理していきましょう。
一般ごみ
一般ごみとは、日常生活に伴い家庭から排出される小型の可燃物をいいます。
台所から出る生ごみ類や紙類・布類・小型プラスチック製品が該当し、その他にも靴やカバン・ビデオテープなどの小型可燃物も含まれます。処理施設設備や技術によって、分別の仕方が自治体ごとに違っているのが現状です。
多くの自治体は、プラスチック製品等を「資源ごみ」として別回収したり、大きさによっては「粗大ごみ」と規定したりしていますが、川崎市のように「普通ごみ」と呼ぶ場合もあります。
産業ごみ
法律では「廃棄物」を次のように定義しています。
「廃棄物」とは、ごみ、粗大ごみ、燃え殻、汚泥、ふん尿、廃油、廃酸、廃アルカリ、動物の死体その他の汚物又は不要物であつて、固形状又は液状のもの(放射性物質及びこれによつて汚染された物を除く。)をいう。廃棄物の処理及び清掃に関する法律(廃棄物処理法)より |
産業ごみとは、会社や工場などの事業活動で出たごみです。産業ごみは廃棄物処理法では「産業廃棄物」と定義され、20種類を定めています。それ以外は「一般廃棄物」という規定になっています。ガス状のものや放射性廃棄物は該当しません。
災害ごみ(災害廃棄物)は、台風や地震、津波等の大規模な災害が起きたとき出たごみです。倒れた建物や流木もすべて災害ごみで、一般ごみに含まれます。
東日本大震災では、瓦礫となったコンクリートくずが全体の半分以上を占めました。
不法投棄
日本では、ごみの分別や処理方法、その費用について法律や条例で定められています。不法投棄とは、文字通り法律に反してごみを捨てることです。
ごみに関する法律や規制については後ほど整理しますが、費用を負担したくない、手軽な処理をしたいなどの理由で、勝手に人気のない場所にごみを捨てる人や業者がいます。
また、廃棄物に関する法律が無い国にごみを「輸出」する人や業者もいます。
ごみ問題の現状
では、実際にはどんなごみ問題が日本国内や世界であるのでしょうか。その現状について見ていきましょう。
日本
日本における問題のひとつとして挙げられるのがごみの量です。
一般廃棄物も産業廃棄物も、1970年代後半から増え続け、近年増加率は鈍っているものの依然大量のごみが排出されています。
ごみの量に加えて、地域住民の処分場建設反対運動などその処理に関する紛争も多くなっています。
また、処理に掛かる費用も多くなっています。
世界
続いて世界の現状を見ていきます。
下の地図は、1990年から29年間の世界のごみ排出量(1人あたり)の分布を表しているものです。
この図では、ごみの排出量が多ければ多いほど緑が濃くなっており、先進国に集中していることが分かります。
しかし次のグラフで分かる通り、先進国ほど収集率も高くなっています。
つまり、開発途上国では排出量は少ないものの、収集されないごみが多いのです。これらのごみは、海や川に流されたり、不法投棄されたりしています。
現状から、ごみ問題の深刻さが少しずつ見えてきたようです。次は、ごみ問題の原因を整理していきます。そして深刻な影響について話を進めていきましょう。
なぜごみ問題が深刻化しているの?原因は?
ごみ問題深刻化の原因にはさまざまな要素が絡んでいますが、ここでは主な3つの原因に絞って整理していきます。
大量生産・大量消費の経済体系
1950年代からの高度成長期は、1960年代から1970年代にかけて大量生産・大量消費・大量廃棄型の社会につながっていきました。1980年代に入ると、バブル景気によりますます消費量は増大し、ごみは増え続けました。
特にプラスチック製品は生産量・廃棄量とも増大し、回収されたプラスチックごみの79%が埋立あるいは海洋等へ放棄されていました。
気候変動による自然災害の増加
そして大量廃棄は地球温暖化を加速させ、それに伴う気候変動が問題視されるようになりました。
気候変動は気温や気象の長期的な変化を指し、変動の原因として太陽の活動などによる自然現象によるものと、人為的なものがあります。人為的な原因の最も大きなものが、廃棄されたごみの燃焼や、車の排気ガスなどによる温室効果ガスの発生です。
温室効果ガスによる地球温暖化は、深刻な干ばつ、水不足、大規模な暴風雨など、多くの災害を生み出していることはご存じの通りです。他にも、生物の多様性がおびやかされるなど被害は広がっています。
下のグラフは、福島県一般廃棄物課から令和4年に出された「令和元年の東日本台風の廃棄物処理」の進み具合を表したものです。
累計処理数352,248トンは、大型トラックに最大積載量25トンを積んで運んでも14,000台分以上になります。それを処理するのに3年かかったことになります。
食品ロスの増加
大量生産・大量消費の生産体系は、私たちの食生活にも影響が見られるようになりました。それが食品ロスです。
食品ロスとは、本来食べられるのに捨てられてしまう食品です。事業活動に伴って出る「事業系食品ロス」と各家庭から出される「家庭系食品ロス」があります。
実際にどの位の食品ロスが出ているか見てみましょう。
日本の食料自給率は38%です。それでも図に見られるように、毎日茶碗1杯分に近いご飯が捨てられているのです。食品ロスからの生ごみは、運搬する際にも焼却する際にも余分な二酸化炭素を排出しています。
そして世界でも年間13億トンもの食品ロスが出ています。一方で9人にひとりが栄養不足と言われており食料不足に悩む国々があるのです。
ここまで、ごみ問題の裏側にある原因について見てきました。ではこれらの原因は、私たちの生活にどのように影響を与え、どんな問題を引き起こしているのでしょう。
ごみ問題によって引き起こされる影響
前章であげた原因は、互いに絡み合って様々な問題を引き起こしています。この章では、その中でも特に深刻な「埋立地」と「環境破壊:特に海への影響」について考えていきたいと思います。
埋立地不足:大量廃棄の影響
日本のごみは、
- 可燃ごみは焼却された灰
- 不燃ごみは再利用できる部分を除いて細かく砕かれて
埋立地に埋められます。どちらもかさを小さくしてからの埋立ですが、どの処分場の容量も残余期間(ごみで満杯になるまでの残り期間)も逼迫(ひっぱく:ゆとりがないこと)しています。
逼迫がせまっていても、新しい処分場は住民の理解や設置費用などの問題があり、簡単には増やせません。
2016年時点で、
- 一般廃棄物の埋立処分場はあと20.5年
- 産業廃棄物の埋立処分場はあと17年
でいっぱいになると予測され、現在もこれは変わっていません。
環境破壊:海への影響
災害時や不法投棄されて出たごみが、川や下水道から海に流れ出ることで大きな問題を引き起こしています。
特にプラスチックごみは、全体の容積・個数もとても多くなっていることが下のグラフから分かります。
ごみが海底に積もるとその下の海藻が育ちにくくなったり、死んだ生物が分解されにくくなります。
また、生き物がえさと間違えて食べてしまったり、体にからんで本来の動きができなくなったりして死に至る例は後を絶たないなど、生態系への影響も見られるようになりました。
さらに海洋ごみの一部は、漂着ごみとなって陸に戻り、沿岸部の生活環境を著しく悪化させています。
そして、分解されず細かくなっていったマイクロプラスチックは、海の生き物の体に入り、私たちの口にも運ばれる可能性があります。
プラスチックごみは分解されるのに何十年何百年とかかります。数百年にわたって海の環境に深刻な影響を及ぼし続けることになるのです。
ごみ問題の対策
ここまで読むと、ごみ問題の深刻さが一層はっきりしてきたのではないでしょうか。では、その対策はどうなっているのでしょう。ここからは、ごみ問題はグローバル化していることを踏まえ、日本だけでなく、世界の法律・規制について説明します。
日本の法律・規制:環境基本法・循環型社会形成推進基本法を軸に
公害問題が大きくなっていた1970年、公害関係法の1つとして廃棄物処理法が誕生しました。その後、地球環境問題が世界規模で顕在化する中、1992年には地球サミットが開かれ、それを受けて1993年日本では、環境行政の基本となる法律、環境基本法が制定されました。
その理念に基づき、廃棄物の減量と再利用をめざして、それまでの3Rをさらに統合的に捉えた循環型社会形成推進基本法が、2000年に制定されました。
3R
- Reduce(リデュース):抑制
- Reuse(リユース):再利用
- Recycle(リサイクル):再生
その後も東日本大震災や台風被害による災害廃棄物、近年の新型コロナ感染拡大などの問題に直面する中で、見直しが繰り返されて今日に至っています。
現在は下の図のように、環境基本法と循環型社会推進基本法を軸に個別物品ごとのリサイクル法も整備され、環境の保全を目指した法体系になっています。
「循環型社会への構築」が言われてからの日本の廃棄物排出量は、下のように減少傾向を示すようになりました。
世界の法律・規制:バーゼル条約
どの国にも廃棄物に関する規制がありますが、ここでは、国際化するごみ問題を規制する大きな条約を取り上げます。
1980年代に入り、先進工業国からの廃棄物が開発途上国に放置され、環境汚染が生じるなどの問題が発生しました。また、無断で有害廃棄物を輸出し、最終的な責任も不明という問題が起こってきました。
こうした状況を受けて、経済協力機構(OECD)および国連環境計画(UNEP)が検討を重ね、1989年スイスのバーゼルにおいてつくられた国際条約がバーゼル条約です。
1992年に発効、日本は1993年に加盟しています。
29条からなるこの条約が明確にしたのは次の点です。
- 廃棄物の輸出には輸入国の書面による同意を要する。
- 加盟国は、国内における廃棄物の発生を最小限に抑え、可能な限り国内で処分する
バーゼル条約発効後、下のグラフに見られるように世界の廃プラスチックの輸出量は減少が続いています。
日本でも世界でも環境問題を見据えて規制を見直すことで、効果が出始めていることは嬉しい傾向です。次はもう少し具体的に、ごみ問題の解決に向けた企業の取り組み事例を見ていきましょう。
ごみ問題の解決に向けた企業の取り組み事例
ごみ問題についての理解や規制が進み、3Rの取り組みが取り組みが広まってきました。
衣料・家具・日用品関連の企業を始め、すでに多くの企業や団体が商品開発などを行っていますが、ここでは、食品ロスの解消に「アップサイクル」というスタイルで取り組んだ会社を紹介します。
アップサイクル:Chibaアップサイクルラボ
アップサイクルとは、本来であれば捨てられるはずだったものを、より価値の高いものへと生まれ変わらせることです。
Chiba アップサイクルラボは、一般に廃棄率が高いと言われ、食品ロスの見こまれるパンをアップサイクルして、パンビール開発プロジェクトを始めました。キャッチフレーズは「飲めば飲むほどフードロスが減るビール」です。
千葉市の支援も受け、地域のパン屋や醸造所、他の食品へも展開できるような広がりのあるプロジェクトをめざしています。
ごみ問題の解決に向けて私たちができること
ごみ問題の解決に向けて、企業ばかりでなく私たちにもできることはないのでしょうか。ここでは今日から意識できるポイントを紹介します。
Rを意識した日々の暮らし
ごみをできるだけ減らし(Reduce)、繰り返し使い(Reuse)、終わったら資源ごみにする(Recycle)ことが、私たちが日常生活でごみ問題に取り組む基本です。
日本では、ごみの分別や買い物のときのエコバッグ利用などが定着してきていますが、国や地域によってはRental(借りる)・Repair(修理する)等のRも大事にされています。まずはそれぞれのRについて理解を深め、身近なところから始められることに取り組んでいきましょう。
身近なアップサイクル
前章では企業のアップサイクルを紹介しましたが、身近にできるアップサイクルもあります。
- 普通なら生ごみにしてしまう野菜や果物も皮をジャムやチップスにする。
- 布の切れ端や使わないハンカチでバッグ等を作る。
- 捨ててしまう空き缶・空き瓶を花瓶や植木鉢にする。
アイデア次第で、ごみ問題の解決策が生まれそうです。
ごみ問題とSDGsの関係
最後に、ごみ問題とSDGsの関係も確認していきましょう。
特にSDGs目標12「つくる責任つかう責任」と関連
ごみ問題は、17の目標のうちのいくつもに関連しています。その中でも特に関連が深いのは、目標12「つくる責任つかう責任」です。
「つくる責任つかう責任」は、「持続可能な消費・生産形態を確実にする」ことです。
目標12の中の詳しい説明の中では、「2030年までに」や「食品廃棄を半分にし」「化学物質や廃棄物の排出を減らし」など、とても具体的な目標が明確にあげられています。企業の責任や税制にもふれています。
ごみの量をいかに減らすか、また資源として再利用するかが、循環型社会を目指す上で重要だということです。
まとめ
ごみの量が増え続けた現状を見てきました。また、危機感を持って解決策が模索され、努力が一定の効果を見せ始めたことも確認しました。
私たちは、さらにどのように考え行動すれば持続可能な社会が作れるのでしょう。
「エシカル消費」をご存じでしょうか?
「エシカル(ethical)」とは「倫理的/道徳的な」という意味を持つ英語です。具体的には、私たちの生活や環境を守る製品を扱う企業を応援する消費活動をさします。
一人一人が日常生活でエシカル消費を意識し、購入後のごみ問題まで思いを馳せながら行動することで、環境破壊の歯止めになるに違いありません。
<参考資料>
環境省 1-1-1.不法投棄件数及び投棄量(新規判明事案)
東日本大震災における災害廃棄物処理について(概要)
日本の廃棄物処理の 歴史と現状
ごみ排出量ランキング – 世界事典
世界のごみの現状を知る | 広報誌・パンフレット・マンガ・カレンダー・ラジオ | JICAについて
プラスチックを取り巻く国内外の状況
食品ロスとは:農林水産省
食品ロスの現状を知る:農林水産省
日本の廃棄物処理の 歴史と現状
国際連合広報センター
千葉市記者発表資料(令和3年10月1日発表)https://www.city.chiba.jp/somu/shichokoshitsu/hisho/hodo/documents/211001-3.pdf
ごみゼロへの挑戦:山谷修作(丸善出版)
SDGs時代のごみ問題:松藤敏彦(丸善出版)
ごみプランニング:和田英樹(築地書館)
プラスチックとごみ問題:子どもと環境問題研究会(メイツ出版)
ゴミと人類:稲葉茂勝(あすなろ書房)
SDGs:蟹江憲史(中央公論新社)