#SDGsを知る

GHGプロトコルとは?スコープ1〜3との関係や算定方法も

イメージ画像

脱炭素経営への第一歩は、GHGプロトコルを理解することから!

世界中で脱炭素化に向けた取り組みが進められている中、企業や組織の温室効果ガス(GHG)排出量の算定・報告が重要になってきました。GHGプロトコルは、温室効果ガス排出量の算定・報告の国際的な基準として採用されています。

GHGプロトコルの概要から、スコープ1〜3との関係、算定方法、メリット・デメリットなどを知り、企業の温室効果ガス削減計画や、持続可能な経営に活かしましょう。

目次

GHGプロトコルとは

GHGプロトコル(Greenhouse Gas Protocol)とは、温室効果ガス(GHG)の排出量を測定し、報告するための国際的な標準およびガイドラインです。企業や組織が事業活動による温室効果ガス排出量を把握し、持続可能な経営戦略を策定する際に利用されます。

GHGプロトコルは、世界資源研究所(WRI)※と世界経済フォーラム(WBCSD)※によって開発され、企業の環境負荷を明らかにし、削減目標を設定する上で重要な役割を果たすものです。

世界資源研究所(WRI)

アメリカ合衆国ワシントンD.C.に本部を置く、環境と開発に関する政策研究と技術的支援を行う独立した非営利組織。

世界経済フォーラム(WBCSD)

持続可能な開発を目指す企業約200社のCEO連合体。1995年に設立され、本部はスイス・ジュネーブ。持続可能な開発に関する世界有数のリーダーシップ組織として、企業や政府、NGOなどとのパートナーシップを通じて、持続可能な社会の実現に向けた取り組みを推進している。

GHGプロトコルの目的

GHGプロトコルの目的は、企業の温室効果ガス排出量を正確に把握し、効果的な削減に取り組むことを支援することです。企業の温室効果ガス排出量の全体像を把握することによって、削減のためには具体的に何に取り組めばいいかを明確にできます。

企業の温室効果ガス削減の取り組みは、地球温暖化対策に貢献するだけでなく、長期的に見た燃料コスト削減や、原油価格高騰によるリスクへの対策などにもなります。

次の章で、GHGプロトコルの内容を確認しましょう。*1)

GHGプロトコルを知る上でのポイント

よく「複雑でわかりにくい」と言われるGHGプロトコルですが、ここでは最低限おさえておくべきポイントを確認していきます。

スコープ1〜3

GHGプロトコルは、企業のGHG排出量を以下の3つのスコープに分類しています。

  • スコープ1:自社の事業活動に直接関連する排出量
  • スコープ2:自社の事業活動に間接的に関連する電気・熱の使用に伴う排出量
  • スコープ3:自社の事業活動に関連するその他の間接的な排出量

【スコープ1〜3】

スコープ3の15のカテゴリ分類

スコープ3は下の表の15のカテゴリに分類して算定します。

【スコープ3の15のカテゴリ分類】

スコープ3カテゴリ該当する活動(例)
購⼊した製品・サービス原材料の調達、パッケージングの外部委託、消耗品の調達
資本財⽣産設備の増設(複数年にわたり建設・製造されている場合には、建設・製造が終了した最終年に計上)
スコープ1,2に含まれない 燃料及びエネルギー活動調達している燃料の上流⼯程(採掘、精製等)調達している電⼒の上流⼯程(発電に使⽤する燃料の採掘、精製等)
輸送、配送(上流)調達物流、横持物流、出荷物流(⾃社が荷主)
事業から出る廃棄物廃棄物(有価のものは除く)の⾃社以外での輸送(※1)、処理
出張従業員の出張
雇⽤者の通勤従業員の通勤
リース資産(上流)⾃社が賃借しているリース資産の稼働(算定・報告・公表制度ではスコープ1,2 に計上するため、該当なしのケースが⼤半)
輸送、配送(下流)出荷輸送(⾃社が荷主の輸送以降)、倉庫での保管、⼩売店での販売
10販売した製品の加⼯事業者による中間製品の加⼯
11販売した製品の使⽤使⽤者による製品の使⽤
12販売した製品の廃棄 使⽤者による製品の廃棄時の輸送(※2)、処理
13リース資産(下流)⾃社が賃貸事業者として所有し、他者に賃貸しているリース資産の稼働
14フランチャイズ⾃社が主宰するフランチャイズの加盟者のスコープ1,2に該当する活動
15投資株式投資、債券投資、プロジェクトファイナンスなどの運⽤
その他(任意)従業員や消費者の⽇常⽣活
引用:環境省『サプライチェーン排出量とは︖』p.2

※1)スコープ3基準及び基本ガイドラインでは、輸送を任意算定対象としています。

※2)スコープ3基準及び基本ガイドラインでは、輸送を算定対象外としていますが、算定頂いても構いません。

スコープ4とは?

最近になって、「スコープ4」という概念が注目されるようになってきました。スコープ4とは、企業の事業活動に関連する間接的な排出量のうち、サプライチェーン上の排出量以外の排出量を指します。

具体的には、

  • 製品の使用段階における排出量(スコープ3カテゴリ12)
  • 廃棄物処理段階における排出量(スコープ3カテゴリ14)
  • その他の間接的な排出量(スコープ3カテゴリ11、15~19)

などのような排出項目がスコープ4に含まれます。

スコープ4は、スコープ1〜3と異なり、企業自らが直接排出しているわけではないため、排出量そのものを算出することはできません。そのため、スコープ4の排出量を評価する際には、削減貢献量という概念を用います。削減貢献量とは、企業の事業活動によって、製品の使用段階や廃棄物処理段階などの排出量を削減できる可能性がある量のことを指します。

例えば、省エネ性能の高い製品を開発・販売することで、製品の使用段階における排出量を削減できる可能性があります。この場合、省エネ性能の高い製品を販売したことによる削減貢献量をスコープ4として算出することができます。

このスコープ4は、GHGプロトコルの算定には現状関わりがないため、本記事ではなんとなくの理解で読み進めていただければと思います。

サプライチェーン排出量の管理

【サプライチェーン排出量】

サプライチェーンとは、原材料の調達、製造、物流、販売、廃棄など、製品やサービスの提供に必要な一連の流れ全体を指します。つまり、サプライチェーン排出量とは、企業の事業活動に関連する温室効果ガスの排出量のうち、サプライチェーンとして関係のあるすべての温室効果ガス排出量のことです。

サプライチェーン排出量は、先ほどのスコープ1〜3に分類して、それぞれのカテゴリごとに算出します。

温室効果ガスの排出量算定と報告

省エネ法※や温対法※によって、温室効果ガスの排出量を算定・報告が義務付けられている企業はもちろん、近年では企業の環境への取り組みの一環として、温室効果ガスの排出量を算定し、開示する企業が増加しています。

国際的な基準であるGHGプロトコルによる報告は、透明性と一貫性が重視されています。そのため報告書には、

  • 温室効果ガスの排出量を測定する方法
  • 使用されたデータや前提条件
  • 計算方法

などが明確に記載される必要があります。これにより、他の組織やステークホルダーが報告内容を理解し、一定の規準のもとで比較することができるのです。

省エネ法

エネルギーの使用の合理化及び非化石エネルギーへの転換等に関する法律の略称で、エネルギーの使用を合理化することにより、エネルギーの消費量の削減や非化石エネルギーの利用拡大を図ることを目的とした日本の法律。

【関連記事】省エネ法とは?改正ポイントや企業が取り組むべき内容をわかりやすく

温対法

地球温暖化対策の推進に関する法律の略称で、地球温暖化の原因である温室効果ガスの排出量の削減等を図ることを目的とした日本の法律。

【関連記事】温対法とは?省エネ法との違いや企業が取り組むべき内容をわかりやすく解説!

GHGプロトコルは実際どのように活用されている?

GHGプロトコルは、世界中で幅広く活用されています。企業や組織が自社の温室効果ガス排出量を正確に把握し、削減に取り組むための重要なツールとして、国際的なスタンダードになりつつあります。

企業の排出量管理と削減戦略

多くの企業がGHGプロトコルを使用して、自社の排出量を数値やデータで可視化し、管理すると同時に、削減戦略を策定しています。例えば、製造業の企業では、生産プロセスにおけるエネルギー使用や原料の取得に伴う温室効果ガス排出量をGHGプロトコルに基づいて算定し、省エネや再生可能エネルギーの導入などの取り組みを行っています。

持続可能な投資と報告

投資家や金融機関も、GHGプロトコルに基づく報告を要求し、企業の持続可能性を評価する際に活用しています。企業が自らの排出量を報告することで、投資家は環境負荷の少ない企業に投資できるようになります。

地方自治体の環境政策

地方自治体もGHGプロトコルを用いて、地域全体の排出量を把握し、環境政策の立案や実施に活用しています。都市部では、交通量やエネルギー使用量などのデータを元に、地域の排出量を削減するための施策を策定しています。

このように、GHGプロトコルは企業、投資家、地方自治体など、様々なステークホルダーによって活用され、持続可能な社会を実現するための重要なツールとして位置づけられています。*2)

GHGプロトコルの算定方法

イメージ画像

GHGプロトコルの算定方法は、環境省がガイドラインやデータベースを提供しています。ここでは大まかな算定の流れを理解しておきましょう。

①対象の範囲を決定する

まず、どの範囲の活動やプロセスについて温室効果ガスの排出量を算定するかを決定します。これには直接的な排出源だけでなく、間接的な排出源も洗い出して加えることが重要です。

対象の範囲を先ほどのスコープ1〜3に分類して、

  • 燃料の燃焼
  • 事業プロセスからの排出
  • 製品の使用
  • 廃棄物処理

など、それぞれの温室効果ガス排出源を特定します。

②GHGの種類と計測単位を決定する

次に、排出する温室効果ガスの種類を分類します。

二酸化炭素、メタン、窒素酸化物などに分け、それぞれ計測単位(例:トンCO2当たりの排出量)を決定します。

③データ収集と測定

過去のデータや現在の活動に関する情報を収集し、必要に応じて測定や監視を行います。例えば、

  • エネルギー使用量
  • 燃料消費量
  • 化学物質の使用量

などのデータを取り、必要な情報を集めます。測定の方法には、

  1. 直接測定:直接排出される量を測定
  2. 間接測定:電気・熱の使用に伴う排出量や、製品の使用・廃棄に伴う排出量などの推定値を求める
  3. 推定:サプライチェーン排出量や、事業活動以外の活動に伴う排出量などは、推定を行うことが一般的

などがあります。

④排出量の計算

収集したデータをもとに、温室効果ガスの排出量を計算します。この際には、GHGプロトコルが提供する、標準的な排出係数や排出量計算式を使用して、各活動やプロセスからの温室効果ガス排出量を算出します。

【GHGプロトコル 算定の基本式】

算定は基本的に

  • サプライチェーン排出量=Scope1排出量+Scope2排出量+Scope3排出量

で、Scope3は基本式を各カテゴリ別にそれぞれ計算し、合計して算定します。

⑤報告書の作成

最後に、計算結果を報告書としてまとめます。報告書には、

  • 温室効果ガスの排出量を測定する方法
  • 使用されたデータや前提条件
  • 計算方法

などを明確に記載する必要があります。

また、報告には、

  1. 自己報告
  2. 第三者認証

の2種類があります。第三者認証とは、第三者機関による認証を受ける方法で、より透明性の高い情報提供のために推奨されています。

ここまで見てきてわかるように、GHGプロトコルを採用して温室効果ガスの排出量を測定するには手間コストがかかります。それでもGHGプロトコルを採用する企業が増加しているのはなぜでしょうか?
次の章では、企業がGHGプロトコルを採用するメリットに焦点を当てていきます。*3)

企業がGHGプロトコルを採用するメリット

イメージ画像

環境問題に対する企業の責任がますます重要視される中、企業がGHGプロトコルを採用することによるメリットは、持続可能な経営を目指す企業にとって重要な要素となります。

主なメリットについて、それぞれ見ていきましょう。

環境負荷の可視化と削減戦略の策定

GHGプロトコルを採用することで、企業は自社の環境負荷を明確に把握することができます。具体的な排出量の算定により、どの部門やプロセスが最も多くの温室効果ガスを排出しているかが明らかになります。

この情報を元に、効果的な削減戦略を策定し、効率的に環境負荷を減らす取り組みが可能となります。

経営効率の向上とコスト削減

GHGプロトコルに基づく排出量の計測と管理は、企業全体の効率を向上させることができます。省エネやリサイクルなどの取り組みにより、エネルギーや資源の効率的な利用が促進され、結果としてコスト削減につながります。

また、環境負荷の削減により、規制順守にかかるリスクやコストを低減する効果も期待できます。

企業価値の向上と投資家からの評価

GHGプロトコルに基づく報告は、投資家や顧客からの企業への信頼を高め、環境に配慮した企業への投資や取引の機会を拡大する効果があります。持続可能な経営に取り組む企業は、社会的責任を果たし、環境に配慮することで、企業価値を高めることができます。

これらのメリットを活用することで、企業は環境負荷の低減と経営効率の向上を両立させることができます。急速にグローバル化が進む中、国際的な基準であるGHGプロトコルの採用は、企業にとって持続可能な経営を実現するための重要な手段となるでしょう。

企業がGHGプロトコルを採用するデメリット・課題

GHGプロトコルは、企業の温室効果ガス排出量削減に取り組むための重要なツールです。しかし、その一方で、企業がGHGプロトコルを採用するにあたって、現状はまだデメリットや課題が存在します。

これらの問題点を洞察し、その解決策を講じることは、企業がより効果的にGHGプロトコルを活用するために不可欠です。

初期投資や情報開示の負担

GHGプロトコルを導入するには、測定機器の購入やシステムの構築など、初期投資が必要です。特に中小企業にとっては、この初期コストが大きな負担となることがあります。

また、GHGプロトコルに基づく排出量の算定結果を公表する場合、定められたルールに従って情報を開示する必要があります。この情報開示には、一定の負担が伴う可能性があります。

しかし、政府補助金の活用や段階的な導入計画の策定により、負担を軽減することが可能です。

技術的に複雑

温室効果ガス排出量の正確な計測は、専門的な知識を必要とし、多くの企業にとって技術的なハードルとなります。この課題を克服するためには、専門家の育成や外部コンサルタントの活用が有効です。

また、政府による技術的なガイダンスやトレーニングプログラムの提供も、今後の展望として期待されています。例えば、

【環境省】

  • GHGプロトコルに基づく排出量の算定を支援するツールやサービスの開発・提供
  • GHGプロトコルの解説や研修の実施
  • GHGプロトコルの普及・啓発活動

【経済産業省】

  • サプライチェーン排出量の算定支援ツールの開発・提供
  • サプライチェーン排出量の算定ガイドラインの策定
  • サプライチェーン排出量の算定・削減に関するセミナーの開催

などの取り組みが実際に行われています。

継続的な管理が必要

GHGプロトコルに基づく排出量の管理は一度きりの取り組みではありません。継続的な監視と改善が求められるため、内部体制の整備が不可欠です。

この点では、経営層が積極的に関わることと、従業員の意識向上が重要な役割を果たします。

これらのデメリットや課題は、GHGプロトコルの普及と発展に伴って、徐々に解決されていくと予想されています。例えば、算定コストや手間の軽減については、GHGプロトコルに基づく排出量の算定を支援するツールやサービスの開発が進められており、今後の改善が期待されています。

また、GHGプロトコルに基づく排出量の算定は、企業の温室効果ガス排出量削減に向けた取り組みの第一歩に過ぎません。企業は、算定結果を踏まえて、具体的な削減対策を検討し、実行していくことが重要です。

次の章では2023年のGHGプロトコルの改訂について解説します。*4)

GHGプロトコルの改訂について

2023年6月26日にGHGプロトコルから「Land Sector and Removals Guidance」のドラフト版が公開され、9月28日に確定版が発表されました。このガイダンスでは、以下の点が定められています。 

  • 炭素除去※をScope1・2・3に組み込むことで、枠組みを拡張す
  • Scope1の定義が拡張され、社有林の森林吸収もScope1として算定
  • Scope3でも、土地管理土地利用変化による排出・除去が対象となる。
  • 炭素除去の要件や、炭素クレジット※の扱い
炭素除去

大気中の温室効果ガスである二酸化炭素(CO2)を回収・除去する技術や取り組み。CCS(炭素回収・貯留)やDACCS(直接空気回収・貯留)・森林の再生など多様な方法がある。

【関連記事】CCSとは?カーボンニュートラルの貢献度・CCUSとの違い・問題点を解説

炭素クレジット

温室効果ガスの排出削減量や吸収量をクレジットとして発行し、売買できるようにする仕組み。炭素クレジットを購入することで、企業は自社で削減努力をしても削減しきれない温室効果ガスの排出量を、クレジット分だけ削減したとみなす(=カーボンオフセット)ことができる。

【関連記事】J-クレジットとは?目的や仕組み、メリット・デメリットをわかりやすく!

【関連記事】カーボンオフセットとは?仕組みや目的をわかりやすく解説!個人にできることはある?

【GHGプロトコルの軌跡とロードマップ】

改訂された主なポイントをさらに詳しく解説します。

より詳細な排出要因の分類

新たに改訂されたGHGプロトコルでは、排出要因をより細かく分類し、特定の産業や活動に関連する排出量を精密に計算できるようになりました。これにより、企業は自社の活動が環境に与える影響をより正確に把握し、効果的な削減策を立案することができるようになります。

再生可能エネルギーの取り扱い

再生可能エネルギーの利用が増える中、その取り扱いに関するガイドラインが明確化されました。再生可能エネルギー源からの電力消費をどのように計上し、排出量削減にどのように貢献しているかを示す方法が規定されています。

スコープ3排出量の詳細化

サプライチェーンを含む間接的な排出量であるスコープ3の計算方法が見直され、より実態に即した報告が求められるようになりました。これにより、企業は自社製品やサービスのライフサイクル全体での環境負荷を把握しやすくなります。

【スコープ3の見える化】

改訂による影響と企業の対応

この改訂がもたらす影響は大きく、企業には新たな報告義務や削減目標の設定が求められます。企業はこれまで以上に環境への取り組みを強化し、透明性のある報告を行うことが重要です。

このガイダンスの変更点の内容を把握し、自社の取り組みに活かしましょう。*5)

GHGプロトコルに関してよくある疑問

イメージ画像

ここでは、GHGプロトコルに関するよくある疑問について、わかりやすく回答・解説します。

GHGプロトコルと温対法の違いは?

GHGプロトコルは、企業が自身のGHG排出量を計測、報告、削減するための国際的な基準であり、温対法は日本の法律です。温対法は、GHG排出量の削減を目指す企業や地方公共団体に対する制度や取り組みを定めています。

GHGプロトコルは、企業や組織の任意の取り組みに基づいて適用されます。一方、温対法は一定の規模を超える事業者が、温室効果ガスの排出量を算定・報告・公表することを義務付ける法律です。

GHGプロトコルとSBTの違いは?

GHGプロトコルとSBT※の違いは、目標の設定方法にあります。

GHGプロトコルは、企業や組織が自ら算定した温室効果ガスの排出量を基に、削減目標を設定します。一方、SBTは、パリ協定の目標である「産業革命前からの気温上昇を2℃より十分低く抑え、1.5℃に抑える努力を追求する」ことを達成するために必要な削減目標です。

SBTは、科学的根拠に基づいた目標であり、企業や組織が脱炭素化に向けた取り組みを加速させるための指針として活用されています。

SBT(Science Based Targets)

科学的根拠に基づく目標設定の略称で、パリ協定が求める水準と整合した、5年〜15年先を目標年として企業が設定する、温室効果ガス排出削減目標のこと。

【関連記事】SBTとは?メリットや認定条件、日本の認定企業一覧、取り組み事例を紹介

GHGプロトコルとLCAの違いは?

GHGプロトコルは、企業や組織の温室効果ガス排出量を算定・報告する枠組みです。一方、LCAは、製品やサービスのライフサイクルを通じた環境負荷を評価する手法です。

LCAは近年注目されており、製品やサービスの環境負荷を評価することで、環境に配慮した製品やサービスの開発・選択を促すことを目的としています。

【関連記事】LCAはカーボンニュートラルに欠かせない!メリット・デメリット、問題点も紹介

GHGプロトコルを実践するための政府からの補助金はある?

日本では、GHGプロトコルの実践を支援する目的で、政府から補助金が交付されています。

例えば、環境省では、「環境省サプライチェーン排出量算定⽀援事業」を実施しています。この事業では、企業のサプライチェーン全体のCO2排出量の算定を⽀援し、排出量削減の選択肢や可能性を広げるための助⾔・情報提供を行います。*6)

GHGプロトコルとSDGs

GHGプロトコルSDGsは、ともに持続可能な社会の実現を目指すものであり、密接な関係があります。特に貢献する目標との関係をまとめました。

SDGs目標7:エネルギーをみんなに そしてクリーンに

GHGプロトコルは、再生可能エネルギーの取り扱いに関するガイドラインを明確化し、再生可能エネルギーの利用を促進しています。これにより、企業は持続可能なエネルギー源への転換を進め、結果としてより多くの人にクリーンなエネルギーが届けられることにもつながります。

SDGs目標12:つくる責任 つかう責任

GHGプロトコルは、温室効果ガス排出源の詳細な分類やスコープ3排出量の詳細化を通じて、企業が自社の活動に伴う環境負荷を正確に把握するために役立ちます。企業はこの情報から、持続可能な消費と生産に向けた取り組みを効果的に推進できます。

SDGs目標13:気候変動に具体的な対策を

GHGプロトコルは、温室効果ガスの排出量を計測・報告し、削減策を講じることを推奨しています。温室効果ガスの削減は、気候変動への対策の中でも最も重要なことの1つです。

企業が自社の温室効果ガスの排出源や排出量を正確に把握することは、気候変動に対する具体的な行動を取るための第一歩となります。

このように、GHGプロトコルは、温室効果ガス排出に関する具体的な取り組みを通じて、SDGsの目標達成に大きく貢献すると考えられています。

>>各目標に関する詳しい記事はこちらから

まとめ

GHGプロトコルは、企業や組織が自社の温室効果ガス排出量を正確に把握し、削減目標を設定・達成するための基盤を提供します。温室効果ガス排出量の算定・報告は、企業や組織が脱炭素化に向けた取り組みを進める上で、欠かせないものです。

GHGプロトコルを採用することによって、以下の効果が期待できます。

  • 排出量の削減や最適化に向けた対策を効果的に実施できる
  • 削減目標を科学的根拠に基づいて設定できる
  • ステークホルダーへの情報開示により、信頼性を高められる
  • 国際的な基準による算定としてグローバルに通用する

また、GHGプロトコルは、今後もさらに発展していくと考えられます。例えば、

  • サプライチェーン排出量の算定・報告の強化
  • 炭素除去の算定・報告の導入

などが注目されています。GHGプロトコルに、2023年の改訂で炭素除去の算定・報告が導入され、企業や組織の炭素除去への取り組みがさらに加速すると期待されています。

温室効果ガスの算出・報告は、今後さらに広く普及していくと考えられます。このため、国際的基準であるGHGプロトコルの重要性とその活用方法、そしてそれが持続可能な開発にどのように貢献するかをしっかりと理解しておきましょう。

GHGプロトコルに基づく取り組みは、企業や組織の脱炭素化を加速させ、持続可能な社会の実現に今後も大きく貢献するでしょう。GHGプロトコルについての知識を活かして、あなたの生活やビジネスを持続可能なスタイルへ転換していくことも大切です。

<参考・引用文献>
*1)GHGプロトコルとは
環境省『温室効果ガス(GHG)プロトコル』
環境省『サプライチェーン排出量とは︖』
GREENHOUSE GAS PROTOCOL『About Us What is GHG Protocol?』
GREENHOUSE GAS PROTOCOL『We set the standards to measure and manage emissions』
環境省『サプライチェーンを通じた温室効果ガス排出量算定に関する基本ガイドライン (ver.2.4) 』(2022年3月)
環境省『参考資料 GHGプロトコルの概要』
経済産業省『気候変動をめぐる国際的なイニシアティブへの対応』
*2)GHGプロトコルを知る上でのポイント
環境省『サプライチェーン排出量全般』
資源エネルギー庁『知っておきたいサステナビリティの基礎用語~サプライチェーンの排出量のものさし「スコープ1・2・3」とは』(2023年9月)
経済産業省『カーボンフットプリント ガイドライン 』(2023年5月)
環境省『サプライチェーン排出量とは︖』p.2
大和総研『温室効果ガス排出削減の新たな概念、Scope4とは?』(2023年5月)
経済産業省『平成30年度国内における温室効果ガス排出削減・吸収量(産業界の削減貢献量の見える化のための調査事業)調査報告書』(2019年3月)
経済産業省『国際的な気候変動イニシアティブへの対応に関するガイダンス』(2021年3月)
*3)GHGプロトコルの算定方法
環境省『サプライチェーン排出量算定の考え方』
参議院『サプライチェーンにおける温室効果ガス排出』(2016年7月)
名城大学『GHG Protocol 運⽤上の問題点と対策』(2006年9月)
経済産業省『カーボンニュートラル実現に向けたサプライチェーンCO2の見える化の取り組みと、実現に向けた課題』(2023年2月)
*4)企業がGHGプロトコルを採用するデメリット
経済産業省『カーボンフットプリント レポート』(2023年3月)
JEITA『データセンターの活動により排出されるCO2の扱いに関する提案』(2021年5月)
*5)GHGプロトコルの改訂について
GREENHOUSE GAS PROTOCOL『Land Sector and Removals Guidance: Where We Are Now』(2023年6月)
経済産業省『カーボンニュートラル実現に向けたサプライチェーンCO2の見える化の取り組みと、実現に向けた課題』p.8(2023年2月)
みずほリサーチ&テクノロジーズ『GHGプロトコル新ガイダンス素案を読む』(2023年3月)
GHGプロトコル『系統電力に関わる対策による温室効果ガス削減量算定ガイドライン』
環境省『GHGプロトコルと整合した算定への換算⽅法について(案)』(2022年9月)
CCSとは?カーボンニュートラルの貢献度・CCUSとの違い・問題点を解説
J-クレジットとは?目的や仕組み、メリット・デメリットをわかりやすく!
カーボンオフセットとは?仕組みや目的をわかりやすく解説!個人にできることはある?
*6)GHGプロトコルに関してよくある疑問
SBTとは?メリットや認定条件、日本の認定企業一覧、取り組み事例を紹介
LCAはカーボンニュートラルに欠かせない!メリット・デメリット、問題点も紹介
環境省『【参考②】環境省サプライチェーン排出量算定⽀援事業』
*7)GHGプロトコルとSDGs
経済産業省『SDGs』