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ガラスの天井とは?日本の現状や解消に向けた取り組み事例も

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職場に優秀な社員がいるとします。この社員は、的確な決断ができる、問題解決能力がある、周囲からの信頼が厚いなど、リーダーにふさわしい能力を備えた人物です。また、結婚をしており、幼い子どもが2人います。さて、この人物は実際に昇進するのでしょうか。ここで問題になるのが、この社員が男性か女性かです。

この記事では、性別などを理由に昇進を阻まれるガラスの天井について、日本の現状、ガラスの天井を解消することのメリット、日本の取り組み・動向、企業が取り組むべきこと、企業の取り組み事例、よくある質問、SDGsとの関係について解説します。

ガラスの天井とは

ガラスの天井とは、昇進に値する人物が、性別や人種などを理由にその道を阻まれることを言います。昇進の道筋は透明なガラス越しに見えているにもかかわらず、物理的な障壁により、上に進めないことを例えた言葉です。

1980年代後半のアメリカでは、女性が上級管理職や役員になる道はほとんどありませんでした。こうした状況は、女性が企業で働くときに直面する目に見えない障壁「グラスシーリング」(glass ceiling:ガラスの天井)が原因であると考えられるようになります。そして1991年には「ガラスの天井法」(Glass Ceiling Act of 1991)が成立し、女性と少数派の人々の昇進に際して人為的な障壁をなくすことなどが定められました。

今では、女性が昇進できない理由の1つにガラスの天井があるとして、日本においても議論されています。

壊れたはしごとの違い

ガラスの天井と関連した言葉に「壊れたはしご」があります。壊れたはしごとは、主任や係長など、昇進の初期段階において、すでに障壁があることを例えた言葉です。ガラスの天井が、上級管理職や役員などに昇格する障壁であるのに対して、壊れたはしごは、その手前の役職にも就けないことを指します。はしごが壊れているため、最初から上ることもできないという例えです。

壊れたはしごは、ガラスの天井と共に組織内の昇進の障壁として論じられることがあります。

日本におけるガラスの天井の現状

こうした目に見えないガラスの天井は、日本にもあると考えられています。その理由は、いくつかの分野において女性の参画が少ないことが挙げられます。女性参画の現状を、3つのデータを元に見ていきましょう。

ジェンダーギャップ指数は146カ国中125位

1つ目に参照するデータは、世界経済フォーラムが毎年発行しているジェンダーギャップ指数です。ジェンダーギャップ指数とは、経済、教育、保健、政治の4つの分野における性別の格差を分析した数値です。

2023年のジェンダーギャップ指数を見てみると、日本は0.647と146カ国中125位でした。数値が0であれば完全不平等、1であれば完全平等を表しているため、日本は完全平等には遠い数値です。

さらに分野別に見ていくと、教育や健康はそれぞれ0.997、0.973と高く、ほぼ平等を実現しています。一方、経済参画や政治参画は低く、不平等な状態であることが分かります。特に政治参画については0.057と、世界で最も低いレベルの138位です。

日本のジェンダーギャップ指数は分野ごとの差はあるものの、全体としてジェンダー平等には至っていません。また世界経済フォーラムは、全体の結果を受けて、世界的に見ても男女の格差は大きく、ガラスの天井は依然存在していると結論付けています。[i]

【経済】管理職に占める女性の割合は12.9%

2つ目は、管理職に占める女性の割合です。「男女共同参画白書 令和5年版」によると、日本の就業者に占める女性の割合は45.0%と、約半数を占めています。そのうち管理職に占める女性の割合は12.9%と、低い数値にとどまっています。

諸外国と比べてみると、就業者に占める女性の割合は同程度であるのに対して、管理職の割合は少ないことが分かります。世界的に見ても、日本は男女の差が大きく、女性の経済参画が進んでいないと言えるでしょう。

また、100人以上を雇用する企業の労働者のうち、役職者に占める女性の割合は、上位の役職ほど低いという結果もあります。

詳しく見ていくと、役職者に占める女性の割合は、係長級24.1%、課長級13.9%、部長級8.2%です。部長級は係長級の1/3程度しかいません。つまり、昇進の道の途中にガラス天井があると推測できます。

【政治】議員に占める女性の割合は15%程度

3つ目は、国会や地方議会に占める女性の割合です。内閣府男女共同参画局によると、国会議員に占める女性の割合は15.6%、地方議員は15.1%と、低い数値にとどまっています。衆議院や参議院の間に差はありますが、全体的に女性の議員は少ないと言えるでしょう。

続いて、世界から見た日本の位置を確認してみましょう。衆議院の女性議員の比率10.0%(2023年2月13日時点)を基準にした場合、190カ国(2021年1月1日時点)中165位と下位に入ります。

例えば、衆議院の26.0%や衆議院と参議院を合わせた15.6%を基準にしても、女性議員の比率の最高順位は84位と低いままです。

その他、司法や行政の分野においても、女性の比率は2~3割と低いのが実情です。これらのデータから、女性の参画を妨げている原因の1つに、ガラスの天井の存在があると考えられます。日本は、ジェンダー平等を実現するために、ガラスの天井を解消する必要があるでしょう。

ガラスの天井を解消することのメリット

ガラスの天井を解消することは、容易ではありません。しかし、企業にとってはメリットもあります。

ESG投資を呼び込める

1つ目のメリットは、EGS投資を呼び込めることです。内閣府の調査研究(2018年)によると、機関投資家は、レポートなどから情報を収集する中で、女性取締役比率や女性管理職比率などの項目にも注目していることが分かっています。なぜなら、機関投資家の7割近くは、女性活躍情報が企業の業績に長期的に影響すると考えているからです。

また、企業が女性活躍を推進することで、その努力や実行力が評価されるという側面もあります。

投資機関のうち、EGS投資残高が1兆円以上と回答したのは30.3%に上ります。[ii]

女性活躍の障壁を解消することは、EGS投資を呼び込むための重要な取り組みになるでしょう。

パフォーマンスが向上する

2つ目は、企業のパフォーマンスが向上することです。内閣府男女共同参画局が国内の上場企業50社を対象に行った調査によると、女性役員比率が多い企業は経営状態を示す数値が良く、パフォーマンスの高い傾向にあります。

このデータから、企業が女性の活躍の場をつくることは、経営にとっても大きなプラスになることが分かります。

また、東証一部上場企業のうち、女性役員のいない企業の割合は、2021年に33.4%と、2017年の62.0%から大きく減っています。[iii]最初から役員とまではいかなくても、管理職レベルのガラスの天井を解消できれば、企業の継続と発展を推進していく力になることが期待できます。

人材の流出防止になる

3つ目は、人材の流出防止につながることです。女性の割合の少ない職場は、多様性に乏しいという見方ができます。一方で、女性の割合が一定数いる組織は、多様性があると言えるでしょう。

内閣府男女共同参画局の調査によると、性別が偏らない、つまり多様な背景を持った従業員がいると感じることで、勤続年数が増えるという結果があります。

ミレニアル世代のうち、「5年以上長期で勤続する予定」と回答している人の多くは、多様性のある組織の従業員です。

人手不足の中、従業員に働きやすいと感じてもらうことは、企業が人材を確保していく上で不可欠です。女性の活躍を推進することで、組織の在り方を見直し、多様性を生み出していくことも重要になるでしょう。

ガラスの天井の解消を目指した日本の取り組み・動向

ガラスの天井を解消できれば、企業のメリットになるのはもちろん、ジェンダー平等の実現にもつながります。日本はこの課題を解決するために、これまで法律などの整備を進めてきました。ここでは、働く女性に関連する法律や制度を簡単に振り返ってみましょう。

雇用機会均等法(1985年成立)

雇用機会均等法は、働く人に対して性別、婚姻、妊娠・出産などを理由に差別することを禁止する法律です。事業主は、働く人が妊娠・出産などにより不利益を受けない体制を整備することなどが定められています。

育児休業法(1991年成立)

育児休業法は、子どもを養育するための育児休業の取得や、短時間勤務の申請などの制度を定めた法律です。(現在は育児・介護休業法)

仕事と家庭を両立することを目的として制定されました。

次世代育成支援対策推進法(2005年成立)

次世代育成支援対策推進法は、働く人が仕事と子育てを両立できるように支援することを事業主に求める法律です。女性活躍推進の取り組みが優良である事業主を認定する「えるぼし」や、子育てサポート企業の証である「くるみん」などの認定制度を定めています。

女性活躍推進法(2015年成立)

女性活躍推進法は、事業主に、男女の管理職比率や長時間労働の状況などを把握することや、女性の活躍を支援するための行動計画の策定などを求める法律です。行動計画の策定は、従業員100人を超える事業主に義務付けられています。

これらの法律は、内容を強化しながら改正を重ねています。企業は必要な情報を逃さずに、常に最新の法律に基づいて対応することが求められます。

その他の施策

上記の法律の他にも、子育て支援などの総合計画「エンゼルプラン」(1995年)、その後の「新エンゼルプラン」(2000年)がこれまでにありました。さらに、「子ども・子育て応援プラン」(2004年)、子ども子育てビジョン(2010年)といった施策も、政府により行われています。

そして2015年には、保育サービスの拡大や認定こども園、幼稚園、保育所の財政支援を行う「子ども・子育て支援新制度」がスタートし現在も続いています。

ガラスの天井の解消に向けて企業が取り組むべきこと

企業は、女性の活躍に関する法律や制度を守ることはもちろん必要です。その上で、ガラスの天井の解消に向けて取り組めることもあります。2つのポイントを確認していきましょう。

管理職候補の育成

1つは、管理職候補の育成です。例えば、

  1. リーダーとして活躍するためのリーダーシップ研修を実施する
  2. キャリアについて相談できるメンターシップを導入する

などがあります。ただし、仕事と家庭を両立できる体制を整えた上で行うことが必要です。

従業員の意識改革

もう1つは、女性に対する従業員の意識改革です。従業員の中には、結婚や出産前・後の女性が役職に就くことに不安を感じる人もいるかもしれません。研修などを通してこうした不安を取り除き、ガラスの天井のない企業風土に変えていくことも大切です。

ガラスの天井の解消に向けた企業の取り組み事例

それでは、ガラスの天井の解消に向けて、企業はどのような取り組みをしているのでしょうか。事例を2つ紹介します。

大橋運輸株式会社(運輸業、郵便業)

大橋運輸株式会社は、自動車部品の輸送や引越、生前整理などを手掛ける、従業員数90人(うち女性17人)の企業です。女性管理職登用のほか、仕事と育児の両立支援や男性育児参画などの取り組みを積極的に行っています。

安全衛生推進室の室長を務める女性は、社長に勧められて運行管理者の国家資格を取得した後、管理職になりました。しかし、子育てと高齢の親との同居もあり、最初は週3日の短時間勤務でした。通常勤務で働いている人からは、「管理職なのに早く帰る」「夜間勤務ができない」などの不満を聞くこともありましたが、社長のサポートにより続けられていると言います。[iv](2022年度取材時)

ガラスの天井を解消するためには組織全体の意識改革も必要ですが、トップの決断も重要であることを教えてくれる事例です。

DACグループ(サービス業)

DACグループは、グループ全体の従業員数645人(うち女性341人)の総合広告事業を展開する企業です。女性管理職登用のほか、女性職域拡大などの取り組みを行っています。

女性の活躍を支援する具体的な取り組みとしては、1987年に女性の地位向上などを目的として「白百合の会」を発足しています。さらに2009年には女性管理職向けの研修を開始し、2012年からは女性幹部育成のため研修を実施。2009年には、課長代理以上の女性管理職比率は32%になり、現在は40%を目標に掲げています。(2021年取材時)[v]

本人が前向きにキャリアアップのできるような意識改革を、研修を通じて行っている点が参考になる事例です。

ガラスの天井に関してよくある疑問

ここでは、ガラスの天井に関してよくある疑問について見ていきます。

ガラスの天井指数って何?

ガラスの天井指数とは、イギリスの週刊誌「エコノミスト」が毎年3月8日の国際女性デーに合わせて発表している指数です。[vi]

OECDに加盟する29カ国を対象に、労働力参加率や育児休暇などの10の指標を分析し、女性の働きやすさを指数として算出しています。

日本のガラスの天井指数は?

2024年のガラスの天井指数によると、日本の順位は29カ国中27位でした。上位5位は、1位アイスランド、2位スウェーデン、3位ノルウェー、4位フィンランド、5位フランスです。日本にとって、ガラスの天井の解消は大きな課題であることが分かります。

ガラスの天井は男性にも関係する?

ガラスの天井は、男性にも関係します。日本では、女性の管理職はまだまだ少ないのが現状です。そのため、キャリアについて相談できる同性のメンターが十分いません。管理職を経験している男性のサポートがその役割を果たすことで、ガラスの天井の解消につながります。

ガラスの天井とSDGs

最後に、ガラスの天井とSDGsとの関係について確認します。ガラスの天井は、目標5「ジェンダー平等を実現しよう」と強いつながりがあります。

目標5「ジェンダー平等を実現しよう」

目標5「ジェンダー平等を実現しよう」は、政治、経済、公共の場での意思決定の際に女性が参画すること、そして平等なリーダーシップが取れるようにすることを掲げています。

ガラスの天井は、女性の昇進を実現するために解消すべき障壁です。この障壁を解消できれば、意思決定の場面に女性が参加し、男性と平等にリーダーシップを取ることができるでしょう。結果として、目標5のジェンダー平等の達成につながります。

まとめ

ガラスの天井とは、昇進に値する人物が、性別や人種などを理由にその道を阻まれることを例えた言葉です。日本は、経済や政治の分野において女性の割合が少ない傾向にあります。この状況を解消するためには、法律などの整備のほか、企業の取り組みも必要です。

また、ガラスの天井は、SDGsの目標5「ジェンダー平等を実現しよう」とつながりがあります。企業が女性の活躍を推進すれば、ESG投資を呼び込めるなどのメリットがあることに加え、SDGsにも貢献できます。結果として、企業価値の向上や事業運営のプラスにつながることから、ガラスの天井の解消は今後の企業経営の鍵を握るとも言えるでしょう。

[i] 「ジェンダーギャップ・レポート 2023」 停滞するジェンダー平等 – 格差是正まで131年 メディア | 世界経済フォーラム
[ii] 「機関投資家が評価する企業の女性活躍推進と情報開示」内閣府
[iii] 「機関投資家が評価する企業の女性活躍推進と情報開示」内閣府
[iv] 女性の活躍推進や両立支援に積極的に取り組む企業の事例_大橋運輸株式会社
[v] 女性の活躍推進や両立支援に積極的に取り組む企業の事例_ DACグループ
[vi] The Economist’s glass-ceiling index