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【元教員が解説】いじめの原因や対処法、対策まで

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親御さんが、お子さんから聞かされる言葉の中で1番ビクッとするものの1つに「学校に行きたくない」があります。また学校に送り出すときには「みんなとうまくやっているか」が、勉強に関することよりも大きな心配ごとです。集団の中での我が子の立ち位置が、すべての親の心を占めていたように思います。

いじめは「どこにでも昔からある!」確かにその通りです。では仕方のないことなのでしょうか。誰もがいけないことだと思っていますし、自分はこうむりたくないと思っています。そしてしないように心がけるべきことであることも確かです。では、いじめの原因をつかみ、心をコントロールしたり、みんなで歯止めをかけたりするにはどうすればよいでしょう。

筆者も今まで多くのいじめの事例を見聞きしてきましたが、教師や親として、その時その時の対応に精一杯でした。社会情勢も刻々と変わっていく今、改めていじめの現状や対策を整理し、分かりやすく説明していきますので、ぜひ一緒に考えていきましょう。

いじめとは

「昔もあった」と言われるいじめが、社会問題として認識されてきたのはそう古いことではありません。いじめは特に1980年代から問題視されだし、多くの人に認知され始めました。そして、時代と共に定義も修正されたり追加されたりしてきました。その変遷をふまえ、現在の「いじめ」の定義を整理することから始めましょう。

言葉としての定義:広辞苑

辞書でいじめを調べると、かなり以前から「苛め:いじめること。時に学校で、弱い立場の生徒を肉体的または精神的に痛めつけること」とあります。

しかし社会の有様や人の価値観によって言葉のニュアンスは変わります。社会学での定義や国の方針も見ていきましょう。

社会学としての定義

社会学者の森田洋司氏は、著書「いじめとは何か?」の中で、

「いじめとは、同一集団内の相互作用過程において優位に立つ一方が、意識的に、あるいは集合的に他方に対して精神的・身体的苦痛をあたえること

引用:いじめとは何か:森田洋司(中公新書)

と定義づけています。

また、同じく社会学者の内藤朝雄氏は「狭義の定義」として

社会状況に構造的に埋め込まれたしかたで、かつ集合性の力を当事者が体験するようなしかたで、実効的に遂行された嗜虐的関与

引用:いじめの構造:内藤朝雄(講談社現代新書)

としています。

どちらも集団・社会という場面設定です。いじめが起きる原因が加害者や被害者個人の心の問題だけでないことに言及しています。

文部科学省の定義

文部科学省によるいじめの定義は、社会情勢の変化を鑑みてかなり変わってきています。

●1986(昭和61)年からの定義

  1. 自分より弱い者に対して一方的に
  2. 身体的・心理的な攻撃を継続的に加え
  3. 相手が深刻な苦痛を感じているものであって

学校として(関係児童生徒、いじめの内容等)を確認しているもの

●1994(平成6)年からの定義

上記の定義から、

<削除>「学校として(関係児童生徒、いじめの内容等)を確認しているもの。」
<追加>「いじめに当たるか否かの判断を表面的に・形式的に行うことなく、いじめられた児童生徒の立場に立って行うこと」

●2006(平成18)年からの定義

「当該児童生徒が、一定の人間関係のある者から、心理的、物理的な攻撃を受けたことにより、精神的な苦痛を感じているもの。」

削除>「一方的に」「継続的に」「深刻な
<変更>身体的・心理的→心理的、物理的

●2013(平成25)年からの定義

いじめ防止対策推進法の施行に伴って次のように定義されています。

「いじめ」とは、「児童生徒に対して、当該児童生徒が在籍する学校に在籍している等当該児童生徒と一定の人間関係のあるたの児童生徒が行う心理的又は物理的な影響を与える行為(インターネットを通じて行われるものも含む。)であって、当該行為の対象となった児童生徒が心身の苦痛を感じているもの。」とする。

引用:いじめの定義の変遷(文部科学省)

注釈として「早期解決のために警察との連携も必要」と付け加えられています。

いじめの形態を詳細な特徴にこだわらず幅広くとらえるようになり、「本人の被害感」を元に考える定義になってきたことがわかります。

このような変遷には、いじめが原因で自殺してしまった事例が大きく関わっています。自ら命を絶つことでしか、学校におけるいじめから逃れられないと感じた子ども達がいたということです。

様々な場面で見られるいじめの事例

いじめは本当にいろいろなところで起きています。職場や居住区、親族・家族間でさえ見られるため、ここでは主な事例をあげていきます。

仕事でのハラスメント

ハラスメント(harassment)は直訳すると「いやがらせ」です。会社など組織で起きた場合は「いじめ」という言葉よりこちらを使うことが多くなっていますが、行為はほぼ同じです。

上司と部下、雇い主と従業員、本社と下請け会社などいろいろな関係の下で現れます。様々な形態のハラスメントがありますが、よく聞かれるのはパワーハラスメントパワハラ)とセクシャルハラスメントセクハラ)です。

厚生労働省は、次の3つの行為を満たすものを「ハラスメント」としています。

  1. 優越的な関係に基づいて(優位性を背景に)行われること
  2. 業務の適正な範囲を越えて行われること
  3. 身体的若しくは精神的な苦痛を与えること、又は就業環境を害すること

そして実際の行為を下のような6つの類型に分類しています。

類型
身体的な攻撃上司が部下に対して、殴打、足蹴りをする
精神的な攻撃上司が部下に対して、人格を否定するような発言をする
人間関係からの切り離し自身の意に沿わない社員に対して、仕事を外し、長期間にわたり、別室に隔離したり、自宅研修させたりする
過大な要求上司が部下に対して、長期間にわたる、肉体的苦痛を伴う過酷な環境下で、勤務に直接関係のない作業を命ずる
過小な要求上司が管理職である部下を退職させるため、誰でも遂行可能な業務を行わせる
個の侵害労働者を職場外で継続的に監視したり、私物の写真撮影をしたりする
引用:職場のハラスメント対策リーフレット(厚生労働省)表作成:筆者

パワハラは「労働施策総合推進法」で、セクハラは「男女雇用機会均等法」でと、それぞれ関連する法令で防止策がとられています。また、妊娠・出産した女性や、育児休業を申請・取得した労働者に対する嫌がらせについては「育児介護休業法」等で規定が設けられています。

近年、女性自衛官の受けたパワハラ問題が大きく報道されました。この件をきっかけに,

防衛省では調査を行ったり、より厳格な処分基準を設けたりしましたが、そこに至るまでに、多くの被害者がいたことも事実です。

地域コミュニティでのいじめ

集合住宅の自治会や地域の隣組などでもいじめ現象が見られます。都会の住居者の入れ替わりが早いアパートやマンションより、社宅や村といった結束力が強く成員の流動性が少ないコミュニティの方に多くみられます。

参考:「いじめに関する一考察」本田時雄・高橋啓著(文教大学;生活科学研究No.19)

村八分」という言葉をお聞きになったことがあると思います。火事と葬儀の二分以外では仲間外れにすることで、村ぐるみのいじめと言えます。

近年でもまれに起きており、新潟県の関川村の事例は現代の村八分事件 ※ として報道されました。これは、集落の有力者の旧態然とした行為によるハラスメント事件です。

※ 新潟県岩船郡関川村沼集落村八分事件

2004年、村の有力者が、イベントに不参加を申し出た一部の住民に「従わなければ村八分にする」と圧力を加えた事件。2007年住民側の勝訴となった。(参考:判例タイムズ No.1247)

昔ながらのコミュニティには、地域の教育力や協働性があったことも事実で、現代の都会にはない力であることも確かです。

とはいえ、自衛隊や村八分事件の事例に共通するのは、縦の人間関係の強さや成員の流動性が少ない中で起こっているということです。

これは学校という環境にも強く当てはまる特徴ではないでしょうか。一日の長い時間を、同じ仲間と同じ空間で仲良く過ごすのがよいとされる環境が学校です。さらに昔から警察や司法の手が入らない方がよいという土壌があります。その中に生きる子どもは、先の事例の自衛隊員や住民のように、自分の力で訴えたり環境を変えたりすることが難しいのです。

「いじめ問題」というと、その多くが学校でのいじめを取り上げるのは、弱い立場の子ども達を救いたいという社会の切実さの表れといえるのではないでしょうか。

次章では、学校でのいじめにスポットを当てて詳しく見ていきます。

学校で起きるいじめの種類

学校で起きるいじめというのは、具体的にどんな行為を指すのでしょうか。またどのくらい被害にあっているのでしょうか。現状をみてみましょう。

いじめの態様

令和4年度の文部科学省のいじめ調査では、「いじめの態様」として「その他」を含め9つの項目があげられています。

出典:20231004-mxt_jidou01-100002753_2.pdf(調査概要)

グラフを概観すると次のような姿が見えてきます。

  • 小中高特別支援学校のすべての学校で「冷やかしやからかい、悪口や脅し文句、嫌なことを言われる」が最も多くなっています。
  • 特別支援学校の生徒が暴力や危険行為の被害を多く感じています。
  • SNS等のひぼう・中傷や嫌なことなど、見えづらいいじめが年齢が上がるにつれて増加しています。また年々増加傾向を示しています。

いじめの認知件数

実際にどのくらいの子ども達が「いじめを受けた」と訴えているのでしょう。

出典:20231004-mxt_jidou01-100002753_2.pdf(調査概要)

いじめ防止対策推進法が施行されてからも増加傾向を示していますが、「本人の被害感」を定義に位置付けたことの意図が理解され、アンケートや教育相談が充実してきた結果とも言えます。いじめの積極的認知が進めば、重大な事態にに至る前に対応しやすくなります。

いじめの重大事態とは?

いじめ防止対策推進法の「いじめの重大事態」には1号と2号があります。

  • 第1号:生命心身または財産に重大な被害が生じた疑いがあると認めるとき
  • 第2号:相当の期間学校を欠席することを余儀なくされていると認めるとき

残念ながら重大事態の件数は過去最高になっています。文部科学省は「認知数が増えているにも関わらず重大事態数が増えているのは、認知されてからの対応に課題がある」と分析しています。

出典:20231004-mxt_jidou01-100002753_2.pdf(調査概要)

ネット上のいじめ

年々増加しているSNS等のネット上のいじめは、見えづらいために対応が遅れやすく、重大事態になる可能性が大きい事案です。ネット上の情報は、

  • 情報の発信者が特定しにくい
  • 情報が広範囲の不特定多数に瞬時に広がる
  • 時間と場所を選ばす、被害を回避できにくい

といった特徴をもちます。そのため、初期に対応できないと司法や専門家の力を借りなければならない深刻な事案となってしまいます。

いじめの原因

前章のグラフで、令和2年の箇所が大きく下がっていることに気付かれたでしょうか。コロナ感染症の流行で全国一斉休校など教育活動が制限されたため、いじめ認知件数も重大事態件数も大幅な減少をみせたのです。

その代わりに、家庭内の児童や高齢者への虐待が多く報道されました。ここからわかるのは、いじめの発生は人や集団に深く関わっているということです。人や集団とどう関わっているのか、整理していきましょう。

いじめの発端「むかつく」

「むかつく」という状態は、何かあるいは何にでもイライラしてるような不安定な気持ちです。定義の章でご紹介した朝田氏は「不全感」と呼んでいます。「ストレス」と置き換えてもいいでしょう。大人でも時にはむかつくのですから、経験の浅い未熟な子ども達は、みんな不全感を持っているといっても過言ではないでしょう。

不安定な気持ちを安定させようとすることは自然なことです。問題はどのように安定させようとするかです。朝田氏はこれを「全能(への)筋書」と名付けています。自己制御を欠き、他人を傷つけることや支配するという「筋書」で、心理的な報酬を受けたと感じてしまうことがあるのです。

参考:人の災難を喜ぶいじめっ子の脳 | ナショナル ジオグラフィック日本版サイト
いじめ場面における傍観行動生起プロセスモデルの作成(東京学芸大学紀要 2014)
引用・参考:いじめの社会理論:内藤朝雄(柏書房)

しかし、むかつくからと言って、誰もがいじめに走るわけではありません。人と関わること・集団の中にいることが、スイッチとなってしまうことが多いのです。

人・集団との関わり

近年、日本の生徒たちの間で「カースト」という言葉が一般的になっているようです。もちろんインドの身分制度からきている言葉ですが、学校を舞台とするスクールカーストは、小学校高学年から見られる、生徒の閉鎖的なグループ間に生じる人気などに裏付けされた上下関係のことです。学校や学級といった集団ばかりでなく、その中に新たな小集団ができるわけです。

引用:小原一馬(宇都宮大学協働教育学部研究紀要 2021年  No.71)

自分以外の人と関わったり集団の中で過ごしたりするとき、全員が均質でない以上、相対的な評価や力のアンバランスが生まれます。それ自体は自然なことで、地域コミュニティが教育力や協働性を持つように、メリットもあります。スクールカーストのようなグループ形成がみられるのも、同質の仲間の中で過ごすことで一種の安定感を感じるからでしょう。

しかし、その相対評価や力のアンバランスが乱用されたり誤作動を起こしたりしたとき、いじめやハラスメントへと転化されてしまうのです。

では乱用を防いだり、誤作動を早期発見するにはどうしたらよいでしょう。
次章では、教員がいじめを発見した際の対処法について整理していきます。

【教員】いじめを発見した際の対処法

学校が集団教育の場である以上教員は、

  • 第一に発見できる可能性が高い
  • いじめられた側いじめた側周囲の生徒、そして全体に関われる

という立場にあります。

いじめを発見した時の教員としての対処法には、次のようなポイントがあります。

前提条件:日頃から行っておくことは?

  • いじめは人権侵害行為で、行ってはならない」ことを全員に指導しておく。
  • 生徒との信頼関係を築いておく。

年齢が低いほど他人の人権に対する意識が未熟です。道徳や人権教育の時間ばかりでなく、あらゆる場面で指導のチャンスがあります。

発見したら?

次の3つに絞りました。

  1. いじめられている児童生徒の側に立ち、守り通す意思を言葉や態度で伝える。
  2. 学級担任一人で抱え込まず、管理職への報告、スクールカウンセラーや養護教諭への相談など全教職員の協力を得る。
  3. 表面的な解決に満足せず、見えづらい部分があることを自覚して、根気強く継続的に観察・指導する。

法務省や児童相談関連の機関では「まず学級担任に相談」や「学校との連携を密にして」と呼びかけています。教員は集団全体を日頃から観察できる立場にあります。心の傷が深くならないよう、できるだけ早期に発見・対応することが望ましいことはもちろんです。

参考:法務省:「いじめ」をなくすために・「いじめ」させない 見逃さない
文部科学省:学校におけるいじめ問題に関する基本的認識と取組のポイント

【親】いじめを発見した際の対処法

筆者が現役の頃、新入生の親御さんから「学校でいじめられないかしら」という心配をよく聞きました。一方「いじめないかしら」と心配する方は、ほとんどいませんでした。しかし、誰にでもどちらの側にもなる可能性があるのです。

「いじめられている」を発見

もし我が子がいじめられているかもしれないと思ったら、まず子どもの意見を十分聞いてあげることです。そして学校に相談することが大事です。学級担任が1番の窓口ですが、話しやすい教員でいいのです。以前の担任でも、保健室の先生でも、管理職でも、部活の顧問でもです。近年はカウンセラー制度も少しずつですが充実してきたので、大いに利用することをおすすめします。

「いじめている」を発見

親としてできる大きなことがもう1つあります。我が子がいじめている側かもしれないときの対応です。

「いじめの原因」の章で、いじめの発端が不全感(むかつき)であり、それが集団の中で間違った方向に醸成されてしまって発生する、とお話ししました。親は我が子の内側に生じた不全感に直接働きかける力を持っています。「いじめられているかも」と心配したときと同様に、まず子どもの話の話に耳を傾けてください。気持ちを受け入れた上で一緒に考えていきましょう。子どもは、親からの評価を良心として定着させていきます。その繰り返しが規範意識を養い、社会秩序の形成につながっていきます。

【友人】いじめを発見した際の対処法

いじめが起きたとき、加害側の内面の人権意識・規範意識へのはたらきかけ、被害者へのサポートだけで十分でしょうか。実は周囲の人からの抑止力が不可欠なのです。

観衆と傍観者

観衆とは、直接いじめに加わらなくても、はやし立てたり笑ったりして、いじめを積極的に肯定するような態度をとる存在です。これは加害者を積極的に肯定する行為で、加害者と言っても過言ではないほどです。

傍観者とは見て見ぬふりをする存在です。無関心な場合もあれば、自分が被害者になることへの恐怖からなる場合もあります。加害者を否定していないことは確かで「傍観者も加害者である」とする考え方もあるほど、中立とはほど遠い存在です。

1つのいじめ問題が解決しても、観衆や傍観者がかわらなければ、次のいじめの温床となってしまいます。

キーパーソンとしての友人

被加害者どちらの友人であっても、観衆や傍観者であっても、友人の立場は重要です。

いじめの被害者はまず親に相談しています。

<いじめについての不安や悩みの相談相手>

総数兄弟姉妹親戚先生友人ネット自力解決その他相手無不明
10068.29.12.334.129.54.522.76.815.94.5
「平成26年度全国家庭児童調査結果の概要」(厚生労働省)より筆者作成

友人に相談する子どもは約3割ほどですが、「いじめをとめてほしい」と期待する相手は断然「友だち」なのです。直接止めることができなくても、否定的な反応を示す友人が多ければ抑止力にもなり、再発を防ぐ効果も大きくなります。

いじめを未然に防いだり、完全になくしたりすることは難しくても、長期化・再発を繰り返さないため、さらに自分が次の被害者にならないためにも、クラスで「いじめはよくない」という雰囲気を作るために考え行動することが重要です。先生にも親にも話して、みんなで「いじめは許さない」学級づくりを目指しましょう。

いじめをなくすためには

いじめ防止対策推進法が施行されても今尚心配な状況であるいじめですが、解消している事例や成果を上げつつある例もあります。この章では、成功例を紹介し、何がポイントになっているのか整理していきましょう。

いじめ対策の成功例①傍観者や学級集団に目を向けて

いじめ防止対策推進法は、国には総合対策、地方公共団体には地域の状況に応じた施策の策定・実施を義務付けています。示された基本方針に則り、それまでの施策に反省を加えて多くの地方版施策が策定されました。

新しく策定されたものの中には、傍観者や学級集団・リーダーに対するものも多くあり、目を見張ります。

高崎市では、ターゲットを直接傍観者に絞った「傍観者意識改善マニュアル」が作成されました。

奈良県の中学校からは、生徒の学級代表者会議でいじめの兆候を取り上げ、多くの目で観察し、被害者に声をかけたり教師に報告したりすることで、早期対応ができたとの成果が報告されています。また、学級代表者や協力者がリーダーとして成長していっている点も、このいじめ対策の成果と言えるでしょう。

いじめ対策の成功例②スクールカウセラーの活用

スクールカウンセラー(SC)の配置が徐々に進むに従って、その専門性を生かした取り組みも増えてきたようです。多くの学校で「組織で対応する」ことが根付いてきた証でもあります。

出典:いじめ問題対応 ハンドブック(和歌山県)

和歌山県の中学校からは、生徒だけでなく、保護者や教職員の相談にものってもらったり、専門知見を共有させてもらったりして成果をあげているという報告がありました。

SCは、被害者に対して問題解決後も長期的・継続的に向き合うので、再発の防止にも効果をあげています。

筆者が担任をしていた時、保護者から「もっと早くお話ししたいと思っていたんだけど、先生忙しそうで・・・。」とよく言われました。SCが常駐している勤務先ではなかったので、窓口となるべきなのに気軽な相談窓口と思えなかったのでしょう。申し訳なかったと反省しています。

現在、SCの数は十分とは言えません。いじめ解決の推進力として増やしてほしい人材です。

【関連記事】ソーシャルワーカーとは?仕事内容や相談できること、なるために必要なこと

いじめ対策の成功例③ネットいじめへの保護者の気付き

保護者や周囲の大人が活躍した事例もあります。

例えばネットへの書き込み等は、学校外で行われることが多く、腕力もいらず声も発することなく一人でできてしまいます。その中で家族はネットいじめの第一発見者になれる存在です。

文部科学省の事例には、発見した周囲の大人の通報が早期対応に結びつき、解決に至ったとありました。

発見のポイントなどを保護者目線で書かれたハンドブックも出ています。

いじめ対策の成功例④シティズンシップ

ここでは、シティズンシップ(市民性教育)に関する取り組みを紹介します。

イギリスや北欧の国々で

EUにはいじめ防止教育をシティズンシップに取り入れているところが多くあります。特にイギリス、スウェーデン、ノルウェー、オランダが早くから取り組んでいます。

日本にも道徳や公民があり、共通する部分がありますが、望ましい市民性を培うために、さらに統合された科目です。いじめを集団の問題として解決する力を養い、主体的に取り組む態度を身につけさせようとする教育です。

ノルウェー・ベルゲン大学の心理学者ダン・オルヴェウス教授のプログラムが中核となっていて、専門のトレーナーが関わります。

その成果は、学年を追うごとにいじめの場において

  • 傍観者が減っている
  • 仲裁者が増えている

といった点に現れています。

日本でのシティズンシップ:高知県

日本でも傍観者へのはたらきかけに力を入れて取り組むところが出てきました。
高知県ではダン・オルヴェウスのいじめ防止プログラムを、平成30年から導入して取り組んでいます。

とはいえ、日本には専門トレーナーが不在であることが課題となっているようです。

20年前に比べ、仲裁する子どもが増えたことは成果と言えますが、学年が進むごとにその数が減ってしまうという日本の特徴はまだ課題として残っています。

反省やそれに基づいた修正を加えながら、保護者を含め多くの関係者を巻き込んで取り組んでいるところで、成果を共有させてもらえる日を待ちたいところです。

いじめとSDGs

最後にいじめとSDGsとの関連をみていきましょう。

いじめは日本だけの問題でなく、世界中で見られる現象です。未来を担う子ども達が、幸せに生きていくために必要なことを学ぶべき学校で起きていることは、憂うべきことです。

いじめの解決に取り組むことは、いくつもの目標と関わりますが、関連の深いSDGs目標が次の2つです。

SDGs目標4「質の高い教育をみんなに」

この目標の達成方針には「弱者に配慮し、人権を尊重した、安全で効果的な環境を提供する」ことが明記されています。

いじめの被害者側に立ち、人権尊重を前提にどの子供たちも安心して学習できる環境を整えることは、大人たちみんなの責務であり、その責務を遂行することが、目標達成につながります。

SDGs目標16「平和と公正をすべての人に」

目標16に含まれる12のターゲットの最後に「持続可能な開発のための差別的でない法律や政策を推進し施行する」とあります。

いじめ防止対策推進法は多くの地域に具体的ないじめ防止プログラムを誕生させました。「いじめは行ってはならない」と明確に提示し、遂行のための基本方針を提示したことは、この目標達成に大きく貢献しています。

また、この推進法が述べているスクールワーカーや関連機関・関連団体との連携は、SDGs目標17の「パートナーシップで目標を達成しよう」の教育領域版と言えるでしょう。

まとめ

いじめについて、定義や原因をまとめ、事例をあげてきました。特に学校でのいじめにどう対峙すべきかを一緒に考えていただきました。

筆者は新人教員の頃、「クラスのいじめは担任の学級経営のまずさ」と思い、周囲に相談することを恥ずかしいと思っていました。幸い周囲の温かい協力で重大な事態にはなりませんでしたが、今思い出しても暗い気持ちになります。だんだん親御さんからの相談にも向き合えるようになりましたが、もっともっと専門知識を身につけておけばよかった、関連機関をできるだけたくさん知っておくべきだったと思っています。

一人ひとり個性を持つ私たちは、それぞれ人権を持ち、自分も幸せになる権利を持つと同時に、他の人もみんなその権利を持っているのです。

読者の皆さんも、まずは自分を大切にし、できれば、家族や身近な人に「最近様子がちょっと変?」と思ったら声をかけてあげてください。もし「大丈夫」という返事でも、観察を続けてみてください。ご自身で解決できなくても遠慮なく誰かに助けを求めましょう。

<参考資料・文献>
別添3 いじめ防止対策推進法(平成25年法律第71号)
いじめの定義の変遷(文部科学省)
e-Stat 政府統計の総合窓口
令和4年度児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査(令和5年10月4日)
 〇https://www.mext.go.jp/content/20231004-mxt_jidou01-100002753_1.pdf(調査結果)
 〇https://www.mext.go.jp/content/20231004-mxt_jidou01-100002753_2.pdf(概要)
法務省:「いじめ」をなくすために・「いじめ」させない 見逃さない
学校におけるいじめ問題に関する基本的認識と取組のポイント(文部科学省)
平成19年度「児童生徒の問題行動等生徒指導上の諸問題に関する調査」について(文部科学省)
https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/seitoshidou/__icsFiles/afieldfile/2009/06/18/1278479_1_1.pdf(上記調査結果)
https://www.nier.go.jp/shido/centerhp/shienshiryou2/3.pdf「いじめの追跡調査2007-2009」(文部科学省;国立教育政策研究所)
人の災難を喜ぶいじめっ子の脳 | ナショナル ジオグラフィック日本版サイトいじめ場面における傍観行動生起プロセスモデルの作成(東京学芸大学紀要 2014)
国内におけるいじめ研究の動向と課題(広島大学;久保田真功)
いじめへの対応のヒント(文部科学省)
日本では他国より、「傍観者」の割合が多く、「通報者」「仲裁者」が少ない
平成17年度教育改革国際シンポジウム報告書(文部科学省)
小中学生におけるいじめ傍観の多様な様態 1(心理学研究2021年)
ダン・オルヴェウスいじめ防止プログラムについて(高知県庁)
Share of children who report being bullied, 2015
いじめとは何か:森田洋司(中公新書)
いじめの社会理論:内藤朝雄(柏書房)
いじめの構造:内藤朝雄(講談社現代新書)
排除の現象学:赤坂憲雄(岩波新書)
「いじめに関する一考察」本田時雄・高橋啓著(文教大学;生活科学研究No.19)
判例タイムズ
宇都宮大学協働教育学部研究紀要 No.71