#SDGsを知る

2050年カーボンニュートラルに欠かせない第6次エネルギー基本計画とは?地球温暖化に日本ができること・各部門の課題を解説

イメージ画像

地球温暖化の防止が最重要課題である今、私たちの生活に不可欠なエネルギーに関する議論は避けて通れません。この問題の解決への道標として政府が策定するのが「エネルギー基本計画」です。最新の第6次計画の概要をもとに、国がどのようなエネルギー政策を進めているのかを見ていきましょう。

第6次エネルギー基本計画について

エネルギー基本計画は、政府がエネルギー政策の基本的な方向性を示すために策定する計画です

国民へのエネルギー供給国の重要政策ですが、エネルギーを取り巻く状況は、基本となるエネルギー源の種類や、生産国の状況、日本と諸外国との関係など、時代とともに変化しています。エネルギー基本計画はこうした変化を踏まえ、3〜4年に一度検討や見直しを行なってきました。

現在の第6次エネルギー基本計画2021年10月に策定されています。

基本計画の全体像

第6次エネルギー基本計画では、主に

  • 気候変動問題への対応:2050年カーボンニュートラル、2030年度の削減や新たな削減目標実現への道筋を示す
  • S+3Eに基づく日本のエネルギー需給構造の課題克服

を重要テーマとして掲げています。

気候変動問題への対応

現在のエネルギー政策では、地球温暖化気候変動に対する取り組みがより強く求められています。

その目標となるのが「2050年カーボンニュートラル」と「新たな温室効果ガス排出削減目標」の実現に向けたエネルギー需給構造の変革です。

具体的には、省エネルギーや脱炭素カーボンニュートラルへの新たな技術開発やイノベーションであり、国際的な競争力の増加とルールの枠組み作りです。

気候変動対策を進めながら、同時に日本のエネルギー需給が抱える課題の克服を図るのが、次のS+3Eで示された方針です。

S+3E

第6次エネルギー基本計画では、政策の基本的な方針として「S+3E」を示しています。

この「S+3E」とは

  • 安全性(Safety)
    安全最優先の原子力発電や災害・人材不足・インフラ劣化などの対策
  • エネルギーの安定供給(Energy Security)
    エネルギー自給率の改善や多層的な供給体制による強靱性(レジリエンス)の向上
  • 経済効率性の向上(Economic Efficiency)
    コスト削減や効率化、規制改革などによるエネルギー価格の安定
  • 環境への適合(Environment)
    再生可能エネルギーや省エネルギー技術による脱炭素化やサプライチェーン、地域環境への影響へも配慮したエネルギー政策

の4つの頭文字をとったものです。

第5次エネルギー基本計画からの変更点

2021年に策定された第6次エネルギー基本計画は、2018年に策定された第5次計画に比べ、より高い温室効果ガス削減目標と国内のエネルギー安定供給が重視されています。

第5次エネルギー基本計画では、温室効果ガス削減目標は2030年に26%、2050年に80%にとどまり、他の先進国と比べても本気度の低さが指摘されてきました。

この政策変更の背景には、第5次計画からの数年で起きた国内外の大きな変化があります。

脱炭素化に向けた世界的潮流

イメージ画像

最も大きな要素は、より大きな気候変動問題への関心の高まりです。

2015年のパリ協定採択以降、世界中でカーボンニュートラル達成に向けての機運が高まり、再生可能エネルギーの普及や脱炭素化への取り組みが盛んになっています。

一方で、地球温暖化の影響から世界各地で大雨や猛暑・寒波、洪水、山火事などの災害が増加・激甚化してきたことも、気候変動対策に拍車をかけるものになっています。

こうした世界的な潮流を受け、日本では2020年10月に「2050年カーボンニュートラル宣言」がなされました。翌年に策定された第6次エネルギー基本計画でも、カーボンニュートラル宣言で言及された「2050年までに温室効果ガスの50%、2030年までに46%削減」という目標が反映されています。

国内外の情勢変化

第6次エネルギー基本計画の策定に影響を与えた要因として、国内外の地政学的な情勢の変化があります。具体的には

  • 経済・技術分野での中国の台頭と政治・経済面での米中対立
  • 脱化石による産油国依存の低下・脱炭素技術の中国依存などパワーバランスの変化
  • 新型コロナウイルス感染拡大によるサプライチェーンの脆弱さの露呈
  • エネルギーの安定供給を脅かす国内の自然災害の頻発・激甚化

などの事例は、エネルギー政策に対する再考を求める動きになっています。

第6次エネルギー基本計画でも、こうした点を踏まえてエネルギーの安定的な確保と供給を目指し、技術開発や投資をより重視する立場を明確にしています。

東京電力福島第一原子力発電所事故後10年の歩み

イメージ画像

日本のエネルギー政策を語るうえでは、2011年に発生した東日本大震災による東京電力福島第一原発事故の問題は避けて通れません。第6次エネルギー基本計画では事故後10年という節目に当たり、福島第一原発の歩みと今後の取り組みについて大きく取り上げています。

エネルギー政策の原点

基本計画では、福島の復興・再生への政府の責任を明示するとともに、事故を踏まえてのエネルギー政策の再出発への決意が述べられています。

国は、「福島第一原発の廃炉は2041〜51年までの完了を目指す」としており、事故炉の冷温停止状態や汚染水発生量の推移、使用済み燃料プールからの燃料取出しや炉内調査の進捗なども報告しています。

そして、悲惨な事態を防げなかった「安全神話」への反省と教訓を重く受け止め、何よりも安全性を優先したうえでエネルギー政策の原点に立ち返るとしています。

今後の取組「復興と廃炉の両立」

もう一つの取り組みは「福島の復興・再生と廃炉の両立」です。

国は、除染など避難指示解除に向けた環境整備を続け、長い年月をかけてでも帰還困難区域全ての地域で避難指示を解除する意向を示しています。その上で進めるのが

  • 廃炉に関する研究支援と技術基盤の確立
  • 被災事業者の事業・なりわいの再建や新しい産業の創出
  • 再生可能エネルギーと水素を二本柱とした福島新エネ社会構想実現

などの事業です。2020年にその一環となる浪江町の福島水素エネルギー研究フィールドが完成し、2022年には運用が始まっています。 

2050年カーボンニュートラル実現に向けた課題と対応

2050年カーボンニュートラル達成には、自然エネルギーの推進とCO2の排出削減が必要です。しかし日本では広大な平地や遠浅の海が少ない、自然災害が多いなど、自然エネルギーの活用には不利な条件を抱えています。

また、日本ではCO2排出量の多い製造業がGDPの2割以上を占めており、カーボンニュートラル実現の障壁ともなっています。こうした課題を乗り越えるために

  • 最新技術の実用化:水素還元製鉄、CO2吸収型コンクリート、CO2回収型セメント、人工光合成、水素、合成メタン、バイオマス、再生可能エネルギー熱、合成燃料
  • 電化の推進:製造業での電化推進や、EVやFCVの導入拡大
  • 炭素除去技術の活用:DACCS(Direct Air Carbon Capture and Storage)/BECCS(Bio-Energy with Carbon Capture and Storage)/森林吸収源など

などに取り組むことで、産業や民生、運輸などの各部門で徹底した省エネルギーや電化・脱炭素化を進めることが重要とされています。

電力部門の対応

エネルギー供給の最前線にいる電力部門では、再生可能エネルギーを始め全てのエネルギー源でカーボンニュートラルとエネルギー安定供給への対応が求められます。

  • 再生可能エネルギー
    変動出力や系統容量の対応/緊急時の安定性/自然条件や社会制約への対応/分散型エネルギー導入や電力システム柔軟性の向上でのコスト低減/革新技術の開発
  • 原子力
    安全性・経済性・機動性の向上/人材・技術・産業基盤の強化/廃炉や廃棄物処理などバックエンド問題解決に向けた技術開発
  • 水素・アンモニア・CCS/CCU/カーボンリサイクル※
    技術的確立とコスト低減/事業化に向けた環境整備

※CCS/CCU/カーボンリサイクル=CO2回収・利用・貯留技術

産業・業務・家庭部門における対応

これらの部門では、脱炭素化設備やインフラの導入が重要になります。ただ、産業設備は高額で使用年数も長いため、カーボンニュートラルを見据えた設備導入はタイミングが難しいところです。

その他にも

  • 太陽光発電など再生可能エネルギーの最大限の活用
  • 規制と支援措置を組み合わせた政策
  • 合成メタン・合成燃料、水素ボイラーや水素還元製鉄などの技術開発と活用
  • ZEH・ZEBなど住宅や建築物の省エネルギー性能の強化
  • 高効率機器・設備の導入
  • IT化によるエネルギーマネジメント

などの対応によるエネルギー転換や脱炭素化の促進が求められています。

運輸部門における対応

CO2排出量の大きな割合を占める運輸部門では、交通手段のカーボンニュートラル化は喫緊の課題です。基本計画ではそれぞれ

  • 自動車
    2035年を目処に電動車100%の実現とインフラの導入拡大/物流効率化、省力化やモーダルシフトなど、車の使い方の変革
  • 船舶分野
    LNG船、水素燃料船、EV船などゼロエミッション船の導入促進
  • 航空分野
    管制の高度化による運航方式の改善/SAF( Sustainable aviation fuel)やバイオエタノール燃料などの実用化と導入促進

という目標を掲げています。

合成燃料は現在、集中的に技術開発と実証が進められており、2030年を目指した大規模な製造技術の確立と、2040年までの商用化が見込まれています。

複数シナリオの重要性

エネルギー基本計画では、2050年に向けた道筋(シナリオ)を複数用意することの重要性にも触れています。基本計画ではEUや英国の例を取り上げており、そこでは

  • 技術の成功に関する長期の不確実性
  • 技術の進展、消費者の選択、規制により異なる将来の見通し
  • 2050年に向け正確な技術や行動予測は難しく、エネルギーミックスの目標を定めていない

といった条件を前提として、不確定な未来に対し、技術革新や行動変容に過度に期待し過ぎないシナリオの必要性を示しています。

日本の基本計画でも、技術の不確実さ将来の不透明さを視野に入れた複線的なシナリオが重要としていますが、そのシナリオの具体的な内容は示されていません。植林や土地利用など炭素除去技術の活用に触れてはいるものの、基本的には新たな脱炭素技術イノベーション・技術革新頼みという印象は否めません。

2050年を見据えた2030年に向けた政策対応

エネルギー基本計画では、2050年の温室効果ガス50%削減を見据え、2030年までの中間目標に向けた政策が表明されています。

2030年度におけるエネルギー需給の見通し

計画では2030年度に46%の温室効果ガス削減(2013年度比)に向け、以下のようなエネルギー需給の見通しを立てています。

  • 2030年度のエネルギー需要:2億8,000万kl程度
  • 電力需要:8,640億kWh
  • 総発電電力量:9,340億kWh程度

これに対し、一次エネルギーによる供給量は、4億3,000万kl程度と試算されており、その内訳は

  • 石油等:約31%
  • 再生可能エネルギー:約22~23%
  • 石炭:約19%
  • 天然ガス:約18%
  • 原子力:約9~10%
  • 水素・アンモニア:約1%

となっています。

なおこの数値は、徹底した省エネルギーや非化石エネルギーの拡大を進め、様々な課題が克服されたという想定のもとに算出されています。

再生可能エネルギーの主力電源への取組

エネルギー基本計画では、太陽光風力地熱水力バイオマスなど再生可能エネルギーを最大限に導入することを最優先として、2030年に向けて3,130億kWhの実現を目指すとしています。

さらに施策強化などで成果が上がれば、この目標を3,360〜3,530億kWh、電源構成全体で36〜38%までの引き上げという、より高い目標達成にも明言しています。

課題としてはさらなるコスト低減や送配電網の整備地域環境に配慮した適地の確保などがあり、技術革新や制度の見直しなどの解決策で普及への取り組みを進める方針です。

原子力政策の再構築

エネルギー基本計画では、原子力を「優れた安定供給性と効率性の低炭素の準国産エネルギー源」であり、CO2削減カーボンニュートラルに寄与するエネルギーとしています。

一方で、東京電力福島第一原発事故の真摯な反省と原子力発電に対する国民の不信・不安感を払拭するため

  • いかなる事情よりも安全性を全てに優先する安定的な事業環境の確立
  • 国民、自治体、国際社会との信頼関係の構築
  • 原発再稼働には原子力規制委員会による世界で最も厳しい規制基準の適用

を掲げ、原発依存度を可能な限り低減させる、という方針を示しています。

しかし、エネルギー基本計画では原子力の電源構成は20〜22%となっており、これは国内の27基で80%という高い利用率を想定した数字です。

さらに政府は2022年12月に、原発の建て替えや運転期間の延長容認を盛り込んだ「原発回帰」とも言うべき方針の転換を行いました。

経済性の低さや廃炉・廃棄物の問題に加え、こうした「原発依存度の低減」という方針と矛盾する政策決定は今後の懸念材料となります。

化石燃料の今後のあり方

イメージ画像

基本計画では、安定供給を大前提にできる限り化石燃料比率を引き下げ火力発電の脱炭素化を進めるとしています。とはいえ石油や天然ガスは現在もエネルギー供給の主力を担っており、政府も化石燃料が重要なエネルギー源であるとする立場は維持する方針です。

2030年に向けては、LNG火力は電源構成の20%前後石炭火力は19%程度の見込みとされます。化石燃料低減を目指しつつも、当面は主要な供給力再生可能エネルギーの変動性を補う調整力として活用するという政府の姿勢には、改めて本気度が問われるところです。

こうした中、脱炭素化の観点から化石燃料の代替として求められているのが水素・アンモニアや合成燃料などの社会実装です。

いずれも課題となるのが技術開発の進み具合と供給コスト削減です。

将来的には、水素燃料は2030年に30円/N㎥、2050年には20円/N㎥以下に、燃料アンモニアは2030年には10円/N㎥台に下げることで、化石燃料と同等のコスト低減を目指しています。

エネルギーミックスの見直し

第6次エネルギー基本計画では、エネルギーミックスの見直しがなされています

2030年度の省エネ目標については従来から2割増とするほか、

  • 再生可能エネルギー:2030年度までに現在の導入割合から倍増し、電源構成全体で最大36〜38%を目指す
  • 火力:安定供給を大前提に、できる限り発電比率を引き下げる
  • 原子力:電源構成で20~22%程度を見込む
  • 水素・アンモニア発電:2030年度の電源構成の1%を目標に新設する

など、多様なエネルギー供給の選択肢を示し、安定した供給能力の確保を目指すとしています。

エネルギー基本計画はなぜ必要なのか

最後に「なぜ国としてのエネルギー基本計画が必要なのか」ですが、ここまでの説明を踏まえると、以下のような理由があげられます。

  • 資源が乏しい日本での安定したエネルギー供給には、適切な計画が不可欠
  • 世界的な地球温暖化や気候変動対策に遅れを取らないための積極的な目標
  • コロナ禍やウクライナ侵攻など、予測困難な情勢の変化に備えるための基本方針

エネルギーを取り巻く環境は、現在も日々変化しています。状況に応じ、的確な対応を取るためにも、国の立ち位置を定めた明確な指針が必要になってくるのです。

エネルギー計画はSDGsの目標達成への指針

適切なエネルギー計画が人類の持続可能な環境と生活基盤を支えることは、SDGs(持続可能な開発目標)の目標とも強く関連してきます。それは温暖化対策やカーボンニュートラル(気候変動に具体的な対策を)に留まらず

など、SDGsが掲げる多くの解決目標につながります。エネルギー基本計画は、SDGsに対する国としての意志表明でもあるのです。

まとめ

同時に国のエネルギー基本計画への理解を深めることは、自分たちの暮らしと地球温暖化対策とのつながりを知ることでもあります。

現在の日本政府は光熱費の高騰を抑えるために、再生可能エネルギーよりも原発稼働率を増やそうとする動きが目立っています。はたしてこの方針が本当に正しいのか。そもそも今のエネルギー基本計画が本当に温暖化対策に沿うものになるのか。エネルギー基本計画を一つの指針として、今後の情勢に注視していきたいところです。

参考資料
第6次エネルギー基本計画が閣議決定されました (METI/経済産業省)
エネルギー基本計画
エネルギー基本計画の概要
これまでのエネルギー基本計画について|資源エネルギー庁
2030年度におけるエネルギー需給の見通し (関連資料)|資源エネルギー庁
2050年カーボンニュートラルを目指す 日本の新たな「エネルギー基本計画」|スペシャルコンテンツ|資源エネルギー庁
第6次エネルギー基本計画(案)の評価点と問題点|自然エネルギー財団
原発事故の教訓はどこへ…原発回帰を強める岸田政権 不十分な議論、再生可能エネルギーに消極姿勢:東京新聞 TOKYO Web 2023年3月11日
明日香壽川・歌川 学・甲斐沼美紀子・佐藤一光・ 槌屋治紀・西岡秀三・朴 勝俊・松原弘直 パリ協定およびグラスゴー気候協定の 1.5℃目標の実現可能性を より高めるための日本の第 6 次エネルギー基本計画代替案 環境経済・政策研究 Vol. 15, No. 1 (2022. 3)