水力発電とは?仕組み・導入メリット・デメリット、日本の発電量と課題、SDGsとの関係

近年、日本の主要な発電方式である火力発電や原子力発電は、地球温暖化や環境汚染、安全面の観点から問題視されています。

その中で、環境にやさしい発電方法として水力発電が再び注目されているのです。

この記事では、水力発電の概要から普及率まで紹介していきます。

目次

水力発電の特徴と発電の仕組み

まずは水力発電の特徴と仕組みについて簡単に紹介していきます。

水力発電とは

水力発電とは水が流れる勢いを利用して発電機を動かし、電気をつくる発電方法です。

水が上から下に流れる勢いを利用するため、水の位置エネルギーを電気エネルギーに変換する方法とも言えるでしょう。主に山岳地帯のダムや貯水池がある場所に中〜大規模の水力発電設備が設置され、各地方では河川を利用した小規模水力発電設備も整備され始めています。

火力発電とは異なる特徴として、二酸化炭素を排出しない発電方法であることが挙げられ、脱炭素社会を実現していく上で再注目されています。

しかしその歴史自体は古く、明治時代初期から火力発電と同様に日本の主要発電方法の一つとして利用されてきました。

現在では、火力発電や原子力発電などの安定的に大規模発電できる発電方法が日本の主流となり、水力発電による発電量は全体の1割程度となっています。

水力発電の種類|構造物での分類

繰り返しになりますが水力発電は、水が流れてくる力を利用して発電機を動かし発電しますが、その種類は大きく分けて「構造物での分類」と「運用方法での分類」に分けられます。

  • 構造物での分類→ダムの構造などによる分類
  • 運用方法での分類→水の流れを運用(コントロール)の仕方による分類

これだけでは少しわかりにくいかもしれないので、まずは構造物での分類として具体的にどのような種類があるのかを見ていきましょう。

①ダム式

ダム式の水力発電とは、その名の通りダムを利用した水力発電です。

そもそもダムとは、山間部にある大きな川に対して、建てられた人口の壁を指します。これにより、川の流れはせき止められ、人口の貯水池ができあがります。

そしてタムは、山間部で大雨があったとしても川に流れる水の量を調整でき、氾濫を防ぐ役割を果たしています。

ダム式の水力発電は、まずダムでせき止めている水を放流します。これにより水の流れを生み出し、ダムのすぐ近くにある発電施設で電気を生み出します。

どの程度の水をいつ放流するのかをコントロールできるのがダム式の水力発電のメリットと言えるでしょう。

②水路式

水路式の水力発電は、ダムではなく堰堤を活用した方式です。

堰堤とはダムと同じく、山間部にて川の流れをせき止める目的で建設される人工の壁を指します。

辞書によってはダムと堰堤を同一のものとして扱っている場合もあるようですが、高さや大きさといった規模で使い分けられています。

堰堤はダムに比べても規模が小さいため、貯水としての役割は薄いとされています。

そのため、

  • 川の流れを変えて他の場所に引く
  • 川の流れを弱くする
  • 土砂が流出するのを防ぐなどする

といった目的で利用されるのが一般的です。

水路式の水力発電ではまず、堰堤を用いて独自の川の流れをつくります。

これによって、水力発電ができる程度の勾配と川の流れを生み出し、発電を行います。

ダム式に比べて、川の水量、水の流れを生み出す落差も弱いため、中小規模の水力発電として利用されています。

③ダム水路式

ダム水路式とは、ダム式と水路式を掛け合わせた水力発電方式です。

ダムによってせき止められた貯水池を用いて、人工的に水の流れを作り発電を行います。

ダムで得られた高低差だけでなく、水路を引くことでさらに高低差を得られる場合に採用されます。

ダムによる貯水能力と発電量のコントロール、水路による落差増大の良いとこどりをした発電方式と言えるでしょう。

そのため、水力発電の中でも高い発電能力を持った方式でもあり、国内の大規模な水力発電施設の多くはダム水路式を採用しています。

とはいえ、ダムと水路の両方を建設する必要があるため、建設費用やメンテナンス費用などが高額になることはネックと言えるでしょう。

発電方法による水力発電の種類|運用方法での分類

先ほど紹介したのが水力発電に欠かせない水の流れ、落差の作り方だとすると、ここから紹介するのは発電方法です。

各方式によって得られた水の流れを、どのように利用して発電を行うのか、それぞれの違いや特徴とともに紹介していきます。

①自流式

自流式(流れ込み式)の水力発電では、流れてきた水をそのまま発電に用います。

雨がたくさん降り、川が増水すると発電量は大きくなります。その一方で、降水量が低く、川全体で渇水気味になると、流れてくる水も少なく発電量も少なくなってしまいます。

つまり、発電所側で水の流れを操作しないため、発電量を調整できないのです。

しかし大きなダムや発電所の建設が必要ないため、発電施設の建設コストが抑えられるのが大きなメリットです。ダムによる水量、高低差の増加ができないことから、自流式水力発電は小規模な水力発電施設で採用されています。

②調整池式

調整池式の水力発電では、河川から流れてきた水を調整池に貯水して、発電量をコントロールする方法です。

貯水池は、河川から流れてきた水をダムのように貯めておくことができますが、貯水量は少ないのが特徴です。基本的には、1日〜1週間分の水を発電用水として貯水できます。そのため、短期間の電力需要に合わせて発電量を調整しています。

これはどのような意味かというと、太陽光や風力といった再エネ発電は発電量が自然状況に左右されてしまうため、一日の間でも発電量にばらつきがあります。

例えば、太陽光発電ならば、昼間は多くの発電量を実現したとしても、夜間にはほとんど発電できません。

そこで、他の再エネ発電が捻出できない時間帯や日に限っては、調整池式の水力発電が発電を行うことで、地域一帯の電力需要に応えられるということです。

③貯水池式

貯水池式はダムで作り出された貯水池を利用して水力発電を行う発電方法です。

発電用水を貯水して発電量をコントロールできる点は調整池式と同様ですが、貯水池式では貯水できる水の量が大きくなります。

調整池が1日~1週間単位でしか水の放流量を調整できないのに対して、貯水池では年間を通じて貯水量と放流量(発電量)をコントロールできます。

例えば、台風や梅雨などの降水量が高い時期に大量の水を貯水し、降水量が少ない渇水期に貯めた水を放流して発電を行う、という利用方法も可能です。

④揚水式

揚水式とは、川の上流と下流にそれぞれダムを持ち、上のダムから流れてくる水の力を利用して下流にある発電機で発電する方法です。

上流にあるダムや池から水を放出して、下流で発電するという方法は、調整池式や貯水池式と同様となります。揚水式がこれらと異なる点は、下流にあるダムの水を電気の力で上流まで引き上げられる点です。

下流にある水を上流に引き上げることで、もう一度上流の水を放出し、下流で発電することが可能になります。

発電設備でありながら、「発電するために電気を使用する」この方式に何の意味があるのかと疑問を抱く人もいると思います。

この、一見無駄な電気利用は他の発電設備と組み合わせることで効果を発揮します。

揚水式ならではのメリット:蓄電池としての役割を果たす

現在日本では、発電量を調節できるのは火力発電のような燃料を燃やして発電する方法だけです。加えて今の技術では、様々な方法で発電した電気を長時間・大容量蓄電できません。

いくら発電能力があり、電気を供給できたとしても、その瞬間に電力需要が無ければ意味がありません。また、過剰な電気供給は、地域一帯の停電や各種発電施設への出力制限などのトラブルにつながってしまいます。

そこで、揚水式の水力発電設備があれば、電力が余っている時間帯は余っている電気を用いて上流に水を引き上げ、電気が不足している際は水を放出して発電を行えるようになります。つまり、揚水式の水力発電設備は擬似的な蓄電池の役割を果たすのです。

近年、各種再生可能エネルギーを利用した発電方法が普及してきたため、発電量と電力需要を標準化する揚水式の水力発電設備の機能に注目が集まっています。

水力発電のメリット

続いては、水力発電のメリットを見ていきましょう。

①二酸化炭素を排出量が少ない

水力発電は、他の発電方法に比べて排出される二酸化炭素の量が少ないことがメリットとして挙げられます。

具体的にどの程度少ないのかを、電力1kWh発電した際に排出される二酸化炭素量gを各発電方法別にまとめたグラフで確認しましょう。

日本の主力発電方法である火力発電と比べても、発電量に対する二酸化炭素排出量は著しく低いと分かります。

また、太陽光発電風力発電といった、他の再生可能エネルギーと比較しても、水力発電の二酸化炭素排出量は下回ります。

脱炭素化社会の実現に向けた取り組みが加速する中、二酸化炭素排出量が少ない水力発電は世界的に注目を集めています。

②日本の環境に適した再エネ発電

例えば、大規模な太陽光発電を行う場合、大量の太陽光パネルを設置できるほどの土地が必要となります。しかし、日本の多くは山岳地帯であり、大規模な太陽光発電を実施できる平地は多くありません。

風力発電に関しても、安定的に実施するためには年間を通じた風が必須になります。ヨーロッパでは1年を通して偏西風が吹くため、積極的に風力発電が導入されています。しかし、日本では偏西風のような年間を通じて吹く安定した風は望めません。

一方、水力発電を行う場合、降水量が重要となってきます。この点、日本の降水量は世界平均の2倍となっており、世界的にも降水量が多い国と言えるでしょう。

また、山岳地帯を流れてくる河川によって、水力発電に必要な水の流れも生まれます。

このように、水力発電は他の再エネ発電と比べても、日本に適した発電方法であると言えます。

③他の再エネ発電を比較しても、発電量が安定している

水力発電は、他の再生可能エネルギーを利用した発電方法と比較しても、電力の安定供給性にすぐれた方法です。

太陽光発電は、太陽が出ている昼間は問題なく発電できても、夜間の発電量は落ち込みます。つまり、夜間の電力供給には適していません。

また、気象庁によると、東京の晴れ日数(日照時間が可照時間の40%以上)は年間約198日でした。これは、年間のうち約50%ほどしか効率的に太陽光発電を行えていないことを意味します。

風力発電についても、先述したように日本での運用に不安が残ります。

これらに比べて、調整池や貯水池が設けられた水力発電施設では、近隣の電力需要を踏まえて柔軟に発電が行えます。

④有害な物質が排出されない

水力発電では、発電時に有害物質を排出しない点も非常に大きなメリットです。

火力発電は、発電時に石炭や石油を燃焼するため、大量の二酸化炭素が排出されます。人間にとっての害は小さいものの、二酸化炭素は地球温暖化の原因ではないかと懸念されています。

核分裂反応によって発電を行う原子力発電も、人体にとって有害な放射性物質が発生しているため、健康被害を及ぼすリスクがあります。

当然、これらの放射性物質は厳重に処理を行い、近隣住民へ害が及ばないよう処分されます。しかし、地震や台風といった災害時に、原子力発電所が事故をおこすと、大量の放射性物質が放出されてしまい非常に危険です。

このように、現在日本で利用されている発電方法には、発電時に有害物質を排出してしまう場合があります。それに対して、発電時にこれら有害物質を排出しない水力発電は、もしもの時にも安心な発電方法と言えるでしょう。

水力発電のデメリット・課題

水力発電のデメリットや課題についても見ていきましょう。

①決して発電量は大きくない

安定した発電量を誇る水力発電ですが、量はそう大きくはありません。

資源エネルギー庁が公表している電力調査統計によると、2022年4月の水力発電による発電量は約75億kWhでした。一方で、同月の石炭火力発電による発電量は約181億kWhであり、火力発電全体の発電量は約456億kWhです。

1基あたりで発電量を換算すると、一般的な水力発電の発電所数は1,719基であることから、約436万kWhとなります。石炭火力発電の場合、発電所数は92基なので1基あたり約5億kWh発電していることになります。

このように、水力発電は火力発電と比べても発電量は高くないため、都心部の電力をまかなうといった利用方法は難しいでしょう。

②開発リスクと開発コストが高く、新規参入が難しい

新たに水力発電所を作る場合、それに伴ってダムの建設が必要となりますが、ダムの建設には森林の開拓などを含めて多大な費用がかかります。

また、ダムは長い年月とともに底に土砂が蓄積されていきます。したがって、ダムの機能を維持するため定期的に土砂を撤去するメンテナンスが必要となり、その際にはもちろんコストが発生します。

近年、日本全体で少子高齢化や生産人口の不足が問題となっており、どの自治体も住民からの税収が見込めず、財政難となっていることから、多大なコストがかかる大規模水力発電の開発、運用は、新規参入が難しいかもしれません。

③発電所の設置場所が限定され、送電が非効率

水力発電設備を建設できるのは、大きな河川が流れる場所か、ダムや堰堤付近の場所に限られるため、山間部が最も効果的に発電・運用できます。

しかし、こうした発電所付近に住んでいる住民はそう多くありません。

また、山間部の水力発電施設は、電力需要の高い都心部からも距離が離れています。

つまり、規模の大きい水力発電で電力を大量に発電したとしても、電力需要のある場所へ送電するまでの間に、ある程度の送電ロスが発生してしまうのです。

世界・日本における水力発電の普及率

水力発電は日本の環境に適した再エネ発電として注目されています。一方で、発電量の少なさや効率的に送電するのが難しいなどの問題点も抱えています。

こうした、水力発電の概要を踏まえた上で、続いては世界と日本における水力発電の普及率について見ていきましょう。

世界の普及率

ここでは国際エネルギー機関であるIeaの資料をもとに、世界の水力発電普及率を紹介していきます。

世界の発電割合で見ると、水力発電は1973年で全発電量の内1.8%だったのに対して、2019年時点では2.5%まで上昇しています。

また、実際の発電量だけで見ても、1973年の1,973TWhから2019年の4,329TWhまで上昇し、約50年間の間に約2倍ほど上昇している計算です。

これに対し、Ieaは2050年の脱炭素社会の実現にはまだ十分ではないとし、これからも水力発電を成長させていく必要があると指摘しました。

中国が最も発電量が高い

国別の発電量については中国が最も高く、2019年の1年だけで1.304TWhを水力発電で発電しています。2019年における世界の水力発電による発電量が4,329TWhだったため、中国だけで世界の水力発電の約3割を占めています。

続いてブラジルが2位に位置し、発電量は398TWh、カナダが3位の380TWhです。

発電量割合ではノルウェーが1位

水力発電による発電割合で見ると、1位はノルウェーの93.4%であり、自国の電力需要のほとんどを水力発電で賄っています。続いて2位はブラジルの63.5%、3位はカナダの58.8%です。

日本の普及率

先ほどのIeaの資料によると、2019年度における日本の水力発電を利用した発電量は、88TWhで世界9位です。これは、自国の電力需要の約8.4%を担っている計算であり、この割合は世界9位の利用率となります。

国内でよく利用されているのは、年間降水量が2,000mm程度を記録する北陸地方や北陸地方です。日本全体では降水量が高いものの、各地方や季節によって降水量にばらつきがあることが、都道府県別の水力発電利用量にも関係しています。

このような背景がありつつ、今後水力発電による発電量は増加していくと予測されています。

将来的には水力発電による発電量は1.5倍となる予測

現在、すでに利用されている水力発電設備の年間可能発電電力量は約92TWhです。

そして、2021年3月31日時点で工事中の水力発電設備の年間可能発電電力量は約4.8TWh、未開発でありながら水力発電設備として利用可能な場所での年間可能発電電力は約46TWhです。

利用可能な水力発電設備の整備が終わると、合計年間可能発電電力量は約136TWhとなり、現在の約1.5倍程度にまで上昇する見込みとなっています。

日本で水力発電が普及しない理由

ここまで見てきたように、デメリットや課題を抱えてはいるものの、水力発電は日本の環境に適した再エネ発電です。しかし、太陽光発電のような爆発的な増加につながっていないことも事実です。

その理由はどこにあるのでしょうか。

ここでは国土交通省に勤めた経験を持ち、水力発電に精通した竹村公太郎氏の著書「水力発電が日本を救う ふくしまチャレンジ編」を参考に、日本で水力発電が普及しない理由を紹介していきます。

法律によって既存の多目的ダムを流用するのが困難

山の川をせき止め、膨大な量の水を貯水するダムは、様々な用途で使用できます。例えば、川の水量を調整し氾濫しないようにする治水や、田んぼや畑に水を送り届ける利水などが挙げられます。

そして、こうしたダムの使用用途は建築段階で決定しておかなければならないと、特定多目的ダム法によって定められているのです。

日本には数多くのダムがありますが、全てが水力発電を目的として建設されたわけではありません。

たとえ大規模なダムで、水力発電によってある程度の発電量が見込めたとしても、特定多目的ダム法によって発電目的に使用するのは困難と言われています。

これにより、ダムはあっても水力発電として利用できないという事態が全国に発生していると指摘されています。今後日本で水力発電を普及していくのであれば、こうした法律による課題は解決していかなければなりません。

※参考:特定多目的ダム法

既存のダムを流用しても、膨大なコストがかかる仕組み

水力発電増強を阻んでいるものとして、バックアローションの問題が挙げられます。

バックアローションとは

施設を建設するとき、利益を得る者が建設費用を負担すべきだとする原則があり、これを後から参加した利用者に適用することを「バックアロケーション」と呼びます。

つまり、既にあるダムを利用しようとする場合、水力発電で得た利益を「ダム建設費用」として支払わなければならないのです。既存のダムを利用して水力発電を行う場合、ダム建設費用を節約できるのがメリットとしてあります。しかし、この問題によって実質的にダム建設費用を支払う必要がでてきます。

これは膨大な額の支払いとなってしまい、発電量や売電総額などを考慮しても、採算状況が悪くなります。結果として、水力発電の事業化が見込めなくなってしまうのです。

こうした状況は中小水力発電のほとんどに当てはまる事例と言われています。

ダムの運用目的変更は、近隣住民からの反対が生じやすい

もし、これらの課題を乗り越えたとしても、既存の多目的利用ダムを水力発電に利用することに、近隣住民が反対する場合があります。

ダムを水力発電に利用しようとすると、発電量を増やすために、常時貯水する量も増えていきます。この時、台風の接近や大雨が予報されると、降水量増加に備えるため、貯水されている水を放流しなければいけません。

すると、一度に大量の水がダムから放流されることにより、下流の川が増水し、氾濫や洪水の恐れがあると指摘するのです。

水力発電を問わず、発電設備の建築は近隣住民の理解を得られなければ、後々さらなるトラブルへと発展してしまいます。

水力発電を普及させるのであれば、こうした指摘点をどれだけ対策できるのかも重要になってくるでしょう。

水力発電の普及率をあげるための政府の取り組み

とはいえ水力発電は脱炭素社会を目指すうえで重要な再エネ発電の一つです。

また、2050年の脱炭素社会実現に向けて、今後さらなる普及を実現していく必要があります。

水力発電を普及させていくには、政府や自治体による協力が不可欠です。

そこで、水力発電の普及率を上げるために行われている取り組みを紹介します。

電源立地地域対策交付金

先述したように、水力発電設備を開発する場合、地元住民からの理解を得られないケースがあることから、政府は自治体向けの交付金として、「電源立地地域対策交付金」を制度化しています。

これは、発電設備などがある地方公共団体に交付金を交付する制度です。設備がある地域住民の生活の利便性向上、産業振興を目的とした、公共用施設整備事業、地域活性化事業、福祉対策事業などの費用として活用することができます。

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海外の水力発電の取り組み事例

続いては、実際に進められている水力発電の取り組みを見ていきましょう。ここでは、世界での事例を紹介します。

事例①ノルウェー

ノルウェーは北ヨーロッパに位置する国です。面積は日本とほぼ同等でありながら、人口は約541万人と日本人口の約4%程度となります。

降水量は年間約1,400mmと日本と比べてあまり高くありませんが、深い谷のフィヨルドが地形として存在します。

冬の間に積もったフィヨルド上の雪が解けると、高低差のある水の流れを生み出し、水力発電として活用しています。

そのような背景があるノルウェーは自国の電力の内、約9割を水力発電によって賄っています。

ノルウェーでは電力自由化に伴い、周辺国と共同の電力市場ノルドプールを開設しました。これにより、フィヨルド上にある水が雪や氷となっている季節でも、他国から電力を供給することが可能です。逆に、水力発電で過剰に発電してしまったとしても、他国に余剰電力を売電できます。

また、ノルウェーでは電力自由化に伴い、多くの企業が発電事業を行えるようにしたものの、送配電に関しては国や地域が独占的に管理しています。これにより、電力の供給元が分散されていても、送配電に関するトラブルを起こさずに、電力需要家まで電気を届けています。

日本でも、送電問題が再生可能エネルギーの普及に歯止めをかけています。これを考慮すると、効率的かつ確実な送電を、国家が主導して行うのは効果的と言えるでしょう。

事例②アイスランド

アイスランドはヨーロッパ北部に位置する国であり、面積は北海道より少し大きい10万km²、人口は36万人です。

2020年度、アイスランドは約19TWhの電気供給量の内、約13TWhを水力発電によって賄っており、これは約70%を占めています。

他の再生エネルギーとして地熱発電が大きな割合を占めており、約6TWhの発電量をほこっています。つまり、水力発電と地熱発電という2種類の再生可能エネルギーだけで、国内電力需要のほぼ全てを賄っているのです。

このように水力発電と地熱発電が普及している大きな理由としてアイスランドの地形が挙げられます。アイスランドには氷河の浸食によって生み出されたU字の谷も多数存在しており、これが高低差となり水力発電に欠かせない水の流れを生み出します。

アイスランドは日本と同じく自国から化石燃料を採掘できません。そのため、積極的に再生可能エネルギーを利用する取り組みが見られ、現在の発電割合を実現していると考えられます。

事例③オーストリア

オーストリアはヨーロッパ北部に位置する国であり、面積は北海道とほぼ同等の約8.4万km²、人口は約892万人です。

2020年度のオーストリアにおける電力供給量約72TWhに対して、水力発電による電力供給量は約42TWhでした。

つまり、オーストリアにおける水力発電の電力供給量は全体の約60%に相当します。

オーストリアにはアルプス山脈が横断しており、国土の約3分の2が高低差のある山岳地帯です。

また、河川にも恵まれており、アルプス山脈のふもとでは積極的に水力発電が実施されています。オーストリア国内だけでも3,000を超える水力発電施設があると言われており、発電した電力量は他国に輸出するほどです。

2021年3月には再生可能エネルギー拡大法案が閣議決定され、議会に提出されました。

同法案では2030年までにオーストリア国内の電力を全て再生可能エネルギー資源で賄うための法的枠組みが定められています。

具体的には、水力発電を含む各再エネ発電に対して、増加しなければならない発電量を示し、それを実現するため毎年10億ユーロを再エネ発電に投資する旨を決定しています。

10億ユーロはは日本円に換算すると、約1,400億円に相当します。(20222年9月時点で1ユーロ:140円)

積極的に自然環境を活かすこと、具体的な再エネ発電普及に関する政策を定めることが、水力発電普及に大きく影響していると言えるでしょう。

日本の水力発電の取り組み事例

世界だけでなく、日本における水力発電も見ていきましょう。

事例①新潟県『奥只見ダム』

新潟県は北陸地方に位置し、日本海と隣接した県です。

新潟地方気象台によると、年間降水量は海岸部で1,500〜2,000mm、山沿いでは3,000mmを超える場合もあります。

また、新潟県では越後山脈をはじめ、多くの山が存在するのも特徴です。

このように、新潟県は水力発電に適した環境が多く、積極的な設備導入が期待されています。具体的には水力発電として利用できる資源量は全国でも第4位に位置し、特に中小水力発電のポテンシャルは高いと考えられています。

現在では昭和より運用されている大規模水力発電設備に加えて、出力1,000kW以下の小規模水力発電を運用していくことで、水力発電普及に取り組んでいます。

代表的な大規模水力発電としては奥只見ダムを利用した奥只見発電所が挙げられ、その出力は56万kWと言われています。

これは一般水力としては国内最大出力とも言われており、新潟県での電力需要を支えています。

一方で、2022年8月には大雨による被害で新潟県が運営する水力発電所2か所が停止するなどの被害も発生しています。

今後、さらに新潟県内で水力発電を普及させていくには、こうした自然による影響も考慮して、水力発電所を開発、運営していく必要があるでしょう。

参考:産経新聞 8月豪雨で2発電所が浸水 新潟県、復旧見通せず

事例②福島県『田子倉発電所』

福島県は東北地方の南部に位置する県です。

福島県は2011年に発生した東日本大震災に伴う、福島第一原発事故を受けて、「原子力に依存しない」「安全・安心で持続的に発展可能な社会」を目指す方針を立てています。

そして、再生可能エネルギーの利用促進が必要であると判断し、県内での再エネ発電普及を推進しています。

具体的な目標として、2020年には再エネ発電で県内の電力需要の40%を満たし、2040年には100%全ての電力需要を再エネ発電で賄う旨を示しています。

そんな福島県の水力発電を担う一つとして、昭和34年より運用されている大規模水力発電施設「田子倉発電所」が挙げられます。

田子倉発電所周辺は、高低差を伴う峡谷とその峡谷と一気に流れ落ちる河川が存在し、早くから水力発電に適した環境であると開発が行われていました。

その結果、近辺には水力発電に使用するための11個のダムと、14の発電所が設けられ、福島県における大きな電源地帯となっています。

福島県では2040年の100%再エネ発電を達成するために、小規模水力発電に目を付けており、今後も水力発電普及に取り組んでいくでしょう。

水力発電普及のために私たちができること・個人でできること

水力発電普及のために私たち個人ができることを見ていきましょう。

あらゆる角度から水力発電についての理解を深める

日本で水力発電が普及しない理由として、「近隣住民からの反対がある」という点を先述しました。水力発電を普及させるという観点からは、こうした行動が間違っているように思うかもしれません。

しかし、過去の事例を見ていくと、全ての反対意見が間違っているとは言えないでしょう。

例えば、埼玉県小川町では、太陽光発電事業が原因で土砂崩れが発生しました。

当該地域では大規模な太陽光発電を実施するため、森林を伐採し、大量の太陽光パネルを設置する計画が立てられていました。

しかし、土地開発が行われている途中、小川町に大雨が降ると、開発途中の山が崩れ土砂崩れが起こったのです。本来、森林は地中深くまで根を張り、大量の降水があっても水分を吸収することで、土砂崩れを防いでいます。

太陽光発電事業の土地開発に伴い森林が伐採され、地盤は軟弱化、土砂崩れの原因となりました。

このように、発電設備の設置、運営が近隣住民へ被害を与えてしまう事例は少なくありません。

だからと言って、数多くのメリットがある水力発電を推進していかないのも本末転倒です。

大事なのは、水力発電が周辺環境へどのような影響を与えるのか、開発に伴い発生するリスクはどの程度考慮されているのか、などをあらゆる角度から分析し、しっかり把握することです。

水力発電とSDGsの関係

では最後に水力発電とSDGsの関係について見ていきましょう。

SDGsとは

SDGsとは、2015年9月の国連サミットで加盟国の全会一致で採択された、2030年までに持続可能でよりよい世界を目指す国際目標です。

17の目標(ゴール)と、それらを達成するための具体的な指標を示している169のターゲットによって構成されています。

SDGsでは開発途上国だけでなく、先進国も目標達成に向けて取り組む必要があります。

そのため、現在も日本を含めた多くの国で、SDGsの目標達成に向けた取り組みがなされています。

SDGs目標7「エネルギーをみんなに、そしてクリーンに」との関係

17の目標の中でも特に水力発電と関わる目標は、SDGsの目標7「エネルギーをみんなに、そしてクリーンに」です。この目標は、「すべての人々の、安価かつ信頼できる持続可能な近代的エネルギーへのアクセスを確保する」というテーマのもと、5つのターゲットから構成されています。

水力発電は再生可能エネルギーを利用した発電方法であるため、持続可能な発電と言えるでしょう。そのため、水力発電を促進していき、化石燃料に依存した発電方法から脱却することで、目標7を達成できます。

SDGs目標13「気候変動に具体的な対策を」との関係

もう1つ関係するのが目標13「気候変動に具体的な対策を」です。この目標は、現在世界中で問題視されている、地球温暖化や自然災害といった環境問題に着目しています。

日本の発電割合では、火力発電が最も大きな割合を占めているのが現状です。しかし、火力発電は発電の際に大量の二酸化炭素を排出します。二酸化炭素は温室効果ガスとも呼ばれ、地球温暖化の原因とも考えられています。

そのため、水力発電が普及していくことで、火力発電の発電量が減少していけば、温室効果ガスの排出量も減少し、地球温暖化への対策となると言えるでしょう。

まとめ

水力発電は水の位置エネルギーを電気エネルギーに変換する発電方法です。

水力発電を行うためには、降水量や山の傾斜が必要となり、実施できる場所は限られています。日本はこれらの条件を満たした場所が多く、水力発電に適した国と言われています。

しかし、まだまだ水力発電は普及しておらず、発電割合では全体の1割にも満たないのが現状です。

化石燃料を利用した発電方法から、再エネ発電への移行が望まれるため、今後も水力発電普及に向けた取り組みが必要となるでしょう。

<出典>
1.isep 2020年の自然エネルギー電力の割合
2.電気事業連合会 揚水式水力発電
3.JICE 雨や雪の多い国土
4.国土交通省 気象庁 晴れ日数と降水日数の平年値
5.経済産業省 資源エネルギー庁 電力調査統計
6.Iea Key World Energy Statistics 2021
7.Iea Hydropower-Analysis
8.経済産業省 資源エネルギー庁 日本の水力エネルギー量
9.EUSTAT ノルウェー
10.EUROSTAT アイスランド
11.EUROSTAT オーストリア
12.新潟地方気象台 新潟県の気象の特徴
13.新潟県 新潟県の中小水力発電導入推進の取組

<参考文献>
竹村公太郎.水力発電が日本を救う ふくしまチャレンジ編.東洋経済新報社

この記事の監修者
阪口 竜也 フロムファーイースト株式会社 代表取締役 / 一般社団法人beyond SDGs japan代表理事
ナチュラルコスメブランド「みんなでみらいを」を運営。2009年 Entrepreneur of the year 2009のセミファイナリスト受賞。2014年よりカンボジアで持続型の植林「森の叡智プロジェクト」を開始。2015年パリ開催のCOP21で日本政府が森の叡智プロジェクトを発表。2017年には、日本ではじめて開催された『第一回SDGsビジネスアワード』で大賞を受賞した。著書に、「世界は自分一人から変えられる」(2017年 大和書房)