#インタビュー

いちご株式会社|不動産に心を込めて新しい価値を生み出す

いちご株式会社 木村さん インタビュー

木村 真紀

2006年にいちごに入社し、秘書部門やIR部門を経験したのち、2015年よりブランドコミュニケーション部にてメディア関連の広報や広告関連を担当。

いちごは、サステナブルな社会を実現するための「サステナブルインフラ企業」として、不動産やクリーンエネルギー事業を通じて日本の豊かな未来に貢献することを目指しており、コンテンツと不動産を融合し、不動産の価値を高めるさまざまな取り組みを行っている。それらを、色々な角度から、メディアやHP、SNSなどを通じて社内外に発信することで、会社全体のブランド価値の向上を目指す。

introduction

サステナブルインフラを掲げ、不動産の有効活用や再生可能エネルギー事業を展開するいちご株式会社。「不動産」の視点だけでなく、人や地域に長きにわたって愛される価値を生み出し、持続可能な社会の実現を目指しています。今回、いちご株式会社の木村さんに、現在の事業に至った背景や取り組みなどを伺ってきました。

サステナブルなインフラ事業を展開

今日はよろしくお願いします。早速、事業内容について教えてください。

木村さん:

弊社は、不動産を超えてサステナブルインフラという新しい市場の創出を目指しています。そのために、「心築事業」「クリーンエネルギー事業」「アセットマネジメント事業」の3つを柱に事業を進めています。

3つの事業はそれぞれどのようなものなのでしょう?

木村さん:

まずは心築事業についてです。「心築(しんちく)」とは、弊社独自の言葉で、一つ一つの不動産に心を込めた新たな価値を創造していく、という考え方です。

こちらについては、またのちほど詳しくお話します。

では、クリーンエネルギー事業ついてお聞かせください。

木村さん:

クリーンエネルギー事業では、地域や環境に優しい太陽光発電や風力発電などのいわゆる再生可能エネルギーを推進しています。全国各地にある使われていない土地=遊休地に発電所を設置し、国内エネルギー自給率の向上を目指しています。

3つ目のアセットマネジメント事業はどのようなものでしょう?

木村さん:

J-REITやインフラ投資法人などの運用を行っています。

J-REITとは

J-REITは、多くの投資家から集めた資金で、オフィスビルや商業施設、マンションなど複数の不動産などを購入し、その賃貸収入や売買益を投資家に分配する商品です。

引用元:一般社団法人 投資信託協会

私たちがこれまで培ってきた技術やノウハウを活用することで、個人のお客様でも安心して投資できるような金融商品を取り扱っています。

本日は、この3つの事業のなかでも私たちが掲げる「サステナブルインフラ」の考え方のきっかけになった心築事業についてお話できればと思います。

2008年のリーマンショックをきっかけに、今ある建物を大切にする風潮に変化

この心築事業を主軸に置く転機となったのが、2008年に起きたリーマンショックです。

リーマンショックとは

2008年に米国の投資銀行大手リーマン・ブラザーズが負債総額6000億ドル超となる史上最大級の規模で倒産したことを契機として発生した世界的な金融・経済危機のこと。

引用元:野村證券

それまでスクラップアンドビルド、いわゆる古い建物を壊しては新たに作り、それを売るということを繰り返し、短期間に収益を得るモデルが主流でした。これは、日本が新しい建物を好む傾向にあることが背景にあります。

それはなぜですか?

木村さん:

日本は地震大国であるため、安全性の観点から耐震強度がしっかりしている新しい建物が良いという風潮があったんです。とはいえ日本の建築基準法は大変厳しいもので、どの建物も基本的には安全で強固なものです。しかし、手を加えなければもちろん経年劣化はあるので、徐々に資産価値も下がってしまいます。

つまり、価値が下がる前に壊して新しい建物を作って売ろう、という手法だったわけですね。

木村さん:

はい。その中でリーマンショックによって不動産価格の低迷や売買マーケットが停滞してしまった。そこから「今ある建物を大切にしていこう」という考え方が広まり、これが私たちの造語である「心築」のもととなりました。そこから既存の建物に手を加えて長寿命化する取り組みをスタートさせたんです。

新たに建設するのと比べて資源も節約できそうですね。

木村さん:

はい。新しい建物を建てるにはやはり膨大な資源も必要ですし、コストもかかります。対して私たちの不動産は資源、コスト、時間、どれも抑えられるんです。

冒頭で心築は、「不動産に心を込めて新しい価値を創造」と仰っていました。ここまでのお話を踏まえると、既存の建物を耐震強度の面などで補強していき、長く使ってもらえるようにするという意味合いでしょうか?

木村さん:

はいそうですね。これは2つの視点から考えています。1つは、今おっしゃった既存の建物に手を加えて新築と同じくらいの設備にし、安全性も高めて価値を向上させるという意味合いです。

2つ目は、不動産をインフラとして捉え、ソフト面を強化して地域や利用者の方に愛される建物を目指すことです。

ソフト面の強化ですか?

木村さん:

はい。不動産は、例えば商業施設であれば買い物客、オフィスビルであればそこで働く方々と、人が使うものです。これは単なる不動産としての「建物」ではなく、インフラと言えます。建物に魅力的なソフトを付加することでより価値を高める。わかりやすいよう事例を紹介しますね。

建物に加えてソフト面も強化した「THE KNOT TOKYO Shinjuku(ザノット東京新宿)」

THE KNOT TOKYO Shinjuku

私たちは、2018年に新宿中央公園の目の前にホテル「THE KNOT TOKYO Shinjuku」をオープンしました。築40年のホテルを購入し、躯体だけ残してフルリノベーションしたものです。

フルリノベーションで、ハードである建物の寿命を延ばした訳ですね。ソフト面はどのような工夫をされたのでしょうか。

木村さん:

客室だけでなくさまざまなスペースを設け、ホテルとしての役割を越えた価値を創造したんです。

例えばパン屋さん。

MORETHAN BAKERY(パン屋さん)

ここは1階の外からでもアクセスしやすい場所にあり、利用者は共有スペースなどで新宿中央公園を眺めながらおいしいパンとコーヒーを口にできます。平日の日中は、子連れのお母さん達の談笑の場にもなっています。

開かれた空間ですし、ストレス解消にもつながりそうです。

木村さん:

他にも、共用スペースは誰でも立ち寄れるようにしており、空いた時間にちょっとした仕事やミーティングができるなど、さまざまな目的で利用いただいています。

また、ラウンジスペースには、若手アーティストや写真家の作品を展示しているんです。

若手アーティストの活躍の場にもなりそうですね。

木村さん:

そうですね。新宿から若手アーティストの作品を発信していくことで、若い世代を支える役目を果たしていきたいなと。

つまり建物だけの評価に加え、これらのソフト面を整えていくことで、その場、そこに住む人達にとって必要不可欠なインフラとしての役割も担わせるということですね。

木村さん:

はい。新しいコミュニティが生まれています。また、経済耐用年数の長期化というところも大切にしておりますので、もともとのホテルにあった宴会場をすべて客室に変え利益を確保しつつ、インフラとしての価値を創造するという形です。

経済面からのアプローチもしつつ社会に貢献する、まさにSDGsな取り組みだと感じます。他にもこのような事例はありますか?

さまざまなコンテンツと不動産を掛け合わせる

木村さん:

不動産と色々なコンテンツを掛け合わせた取り組みも展開しています。例えば「アニメ(カルチャー)×不動産」「農業×不動産」といったものがありますね。

それぞれどのような内容か教えていただけますか?

不動産を活かして文化の発信を

AKIBAカルチャーズZONE

木村さん:

「アニメ(カルチャー)×不動産」は、秋葉原に我々が所有している「AKIBAカルチャーズZONE(ACZ)」があります。「ここにしかない」「ここなら見つかる」をテーマに、すべてのフロアにアニメ関連の店舗が入っています。

2019年にはアニメ製作「いちごアニメーション」を立ち上げ、押井守監督のアニメ「ぶらどらぶ」を単独出資で製作しました。アニメやACZの認知を獲得しつつ、店舗の皆様の売上にも貢献させていただき、それらの取り組みが秋葉原の街全体の活性化につながることを目指しています。

御社の不動産を活かして、アニメが好きな人、アニメに関わる人、クリエイターをつなぐ役割を担っているんですね。

若者の農業支援

ひなたいちご園(宮崎)

木村さん:

「農業×不動産」では、宮崎で展開しているスマート農業事業があります。

スマート農業を始めるとなると、初期費用がかさみ資金的な面で諦めてしまう方が多いというのが今の現状です。

そこで、我々が建設したスマートビニールハウスというIoT技術を導入したビニールハウスを貸し出し、やる気のある若い生産者のスタートアップを支援しています。ビニールハウスを一から用意する必要がないので、初期費用を抑えることができます。

IoTとは

Internet of Things(インターネット オブ シングス)の略で、「様々な物がインターネットにつながること」「インターネットにつながる様々な物」を指しています。

引用元:総務省 ICTスキル総合習得教材

ビニールハウスの家賃についても収穫期にのみ徴収する形をとっています。農業は収穫期以外は収入がないため、家賃も負担になってしまいますので。

あらゆる面から支援体制を整えているんですね。しかし収穫期のみに家賃を払っていただくとなると、御社の利益がかなり減ってしまうことになりませんか?

木村さん:

家賃は変動制を取り入れています。収穫期に売り上げが上がれば、その分を加算した額をお支払いいただく形です。

そのため、私たちもより売れるルートを農家の方々と一緒になって模索します。

例えば、私たちが連携しているホテル、都内のカタログギフトを取り扱う会社を紹介したり、運営している宮崎の宮交シティへ農作物を卸せるようにしたりなどです。

任せきりではなく、一緒に考えていただけるのは心強いですね。

中規模不動産を軸に価値を創造する

最後に今後の展望をお聞かせください。

木村さん:

今、都市開発で新しい建物が建つ光景を目にすると思いますが、あれは大規模不動産と呼ばれるものです。ただ、日本の9割は中規模不動産が占めています。

私たちは、この中規模不動産が活躍できるようにしていきたい。

隠れたポテンシャルを持っているのに手付かずの不動産に、私たちが心を込めて新しい価値を創造することで、地域の方々にも長く使ってもらえる建物になっていくと思います。

そのためにも、今行っている3つの事業を軸に誠実に取り組んでいきたいですね。

本日はありがとうございました。

取材・かりんとう / 執筆・大越

関連リンク

いちご株式会社