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生活困窮者とはどのような状態か?定義や現状、支援制度も

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2013年に「生活困窮者自立支援法」が公布され、生活困窮者の自立を支援する制度がスタートしました。

今回はこの自立支援法に着目しながら、生活困窮者の現状や困窮の原因、自立支援制度、そして私たちの出来ることやSDGsとの関係までご紹介します。

生活困窮者とは?どのような状態を指すのか?

そもそも「生活困窮者」とは、どのような状態にある人のことを指すのでしょうか? 文字どおり生活が困窮している人を指す言葉ですが、一定の定義付けをすることもできます。

定義

生活困窮者自立支援法(以下、自立支援法)では、生活困窮者について以下のように定義づけています。

この法律において「生活困窮者」とは、就労の状況、心身の状況、地域社会との関係性その他の事情により、現に経済的に困窮し、最低限度の生活を維持することができなくなるおそれのある者をいう。

引用元:厚生労働省

このように自立支援法では、日本国憲法第25条で国民の権利として保障されている「最低限度の生活」を送ることが出来なくなる可能性がある人々のことを、生活困窮者と定義づけています。

具体的な年収

生活困窮者と判断するための具体的な収入制限はありません。ただし、自立支援法に基づく生活困窮者自立支援制度の中の「住宅確保給付金」「一時生活支援事業」については、収入の目安があるので、参考までにご紹介します!

【住宅確保給付金・一時生活支援事業の収入要件(年収換算・筆者試算)】

 東京都区部在住の単身者の場合 1,094,400円

あくまでもこの収入要件は、給付金の支援を受けるための基準です。収入がこれ以上の場合でも、家賃が払えない仕事が見つからない等の困りごとにより生活が困窮している場合は、生活困窮者ということができます。生活が困窮しているかどうかに、一定の線引きをするのはあまり意味がないとも言えます。

生活保護受給者との違い

生活困窮者と似た言葉に生活保護受給者が挙げられます。違いを確認しましょう!

そもそも自立支援法は、「最後のセーフティネット」とも言える生活保護に至る前の支援策として立法されました。また、生活保護を脱却した方が自立する過程の支援も含まれます。

生活保護の認定には、以下のようなさまざまな要件があります。

  • 収入が基準額以下かどうか
  • 売却できる資産(土地・自動車・貴金属)がないかどうか※基準は自治体により異なる
  • 3親等以内の扶養義務者に援助を受けられるかどうか
  • 就労能力があるかどうか

このように厳しい要件があるため、生活に困って福祉事務所を訪れたものの、年間約40万人が生活保護の受給に至らないという現状があります。

生活困窮者の現状

では、生活困窮者の人々は日本にどのくらいいるのでしょうか?

自立支援法に基づいて行われる自立相談支援事業の「新規相談受付件数」は、実際に生活が困窮して相談に訪れる人の数を表していると言えます。そこでこの新規相談受付件数の推移に着目して、生活困窮者の現状を確認してみましょう。

新型コロナの影響により急増

自立相談支援事業の始まった平成27年度以降、新規相談受付件数は毎年22万〜24万人台を前後していました。一方で令和2年度は前年度比約3倍の78万人強と急増、令和3年度も55万人強と高い水準を維持しており、新型コロナウィルスの感染拡大により多くの人の生活が困窮に至っていることが分かります。

月ごとの相談件数を見ると徐々に減少している事が分かりますが、未だ感染拡大以前よりも高い水準を推移しています。

なぜ生活が困窮するのか?原因は?

では、これらの人々の生活は、なぜ困窮するに至ってしまうのでしょうか。困窮の原因はケースバイケースと言えますが、いくつかの主要な原因を見ていきましょう。

ひとり親家庭

未婚、離別、死別などに起因するひとり親家庭は、生活困窮に至りやすい状況にあります。令和3年度の調査では、母子家庭の母の平均年間就労収入は約236万円(1か月平均19万円強)でした。子どもの教育にかかる費用も鑑みると、十分な収入でないことは明らかです。

また、これらの世帯の子どもの進路にも注目すると、全ての世帯の高校卒業後の進学率(大学・短大・専修学校)が約79%※1であるのに対し、母子世帯は66.5%※2、父子世帯は57.9%※2と有意差があることが分かります。

※1…令和3年度学校基本調査 状況別卒業者数(3-1)内のデータを基に計算 令和3年3月卒業生分

※2…令和3年度 全国ひとり親世帯等調査結果報告に掲載のデータ 令和3年11月1日現在19歳の者の割合

病気(メンタルヘルスも含む)

病気により就労が困難となり、困窮に至る人も多くいます。全く働くことが出来ないわけではないものの、正規雇用での就労が難しいという人も少なくありません。非正規雇用は賃金が低いだけでなく、雇用そのものが不安定です。新型コロナウィルスの感染拡大時など、景気が悪いときに真っ先に職を失うのは、非正規労働の人々です。

また生活困窮者の中には、メンタルヘルス(心身の健康)上の問題を抱える人もいます。身体的には問題がなくても、フルタイムの仕事に就くことがむずかしいことはよくあることです。さらには、メンタルヘルス上の問題を抱える場合、福祉につながる気力が湧きづらいという課題もあります。

高齢者の生活困窮

高齢により生活困窮に至るケースも見受けられます。高齢者に多くみられる認知症やアルツハイマー病により、自らの生活をマネジメントすることが困難となり、結果として困窮してしまうことがあります。

突然の疾病やケガ、また事故も起こしやすくなり、まとまった支出が必要となることもあります。中には詐欺被害や、近親者(子どもなど)へ金銭を渡したり、近親者の失業等に起因して自身も生活困窮に至ったりするという場合もあります。

生活が困窮するとどのような影響があるのか

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生活が困窮すると、具体的にどのような影響があるのでしょうか。一例を見てみましょう。

住む場所を失う

生活の困窮により家賃が支払えず、住む場所を失うことに至ることもあります。一度住居を失うと、一般的な就労が難しくなり、貧困のスパイラルに陥りやすくなってしまいます。

住居を失った場合、ネットカフェや簡易宿泊所、24時間営業のファストフード店などで夜を明かすケースが多く、さらに困窮が進むと路上生活(ホームレス)となる可能性もあります。

また家賃は何とか払えている場合や持ち家の場合も、光熱費を滞納し、ガスや電気、水道を利用できなくなる可能性もあります。

健康を損なう

生活が困窮すると、食費を削る必要が出てきます。その結果、安価で空腹を満たせるものを中心に食べるようになり、栄養状況に偏りが生じがちです。また、健康づくりには、スポーツをはじめとした趣味・余暇の活動も欠かせません。しかし生活が困窮している場合、これらを楽しむことも困難となります。

その結果、

  • 健康を損なうケース
  • メンタル面で問題を抱えてしまうケース

が少なくありません。趣味・余暇活動に関していえば、日々の楽しみを奪われてしまうこととなり、当事者にとっては大きな問題です。

教育格差、それに伴う国の財政悪化

子どものいる世帯の生活が困窮した場合、教育へ非常に大きな影響があります。

内閣府の調査(令和3年子供の生活状況調査の分析報告書)によると、世帯収入が低い家庭の子どもほど、クラスの中の成績が「低いほう」にありました。

子どもに対する「教育」は学校における教育のほか、家庭・地域での教育塾や習い事なども含まれます。これらの教育についても、生活困窮者の世帯においては、そうでない世帯の子どもに比べて十分ではないことが考えられます。

また日本財団による研究(「子どもの貧困の社会的損失推計」レポート)によると、教育格差を改善した場合、放置した場合と比べて子供たちの生涯年収が増加します。これに伴い社会保障費や税金の支払いも増え、国(政府)の財政状況にも影響してくることが明らかになっています。

生活困窮者自立支援制度について

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ここまで、生活困窮者の定義や現状、影響などを紹介してきました。続いては、自立支援法に基づく「生活困窮者自立支援制度」について、具体的な支援例も交えて取り上げていきます。

生活困窮者自立支援制度とは

ここまででも解説したとおり、生活困窮者の自立支援のため「生活困窮者自立支援法」が2013年に公布、2015年に施行されました。この法律の目的は、第一条に以下のように記載されています。

この法律は、生活困窮者自立相談支援事業の実施、生活困窮者住居確保給付金の支給その他の生活困窮者に対する自立の支援に関する措置を講ずることにより、生活困窮者の自立の促進を図ることを目的とする。

引用元:衆議院

つまり、生活困窮者の自立促進のために、相談支援事業や給付金の支給など、様々な支援を行うということです。

社会保険・労働保険(労災・雇用保険)を第一のセーフティネット、生活保護を最後のセーフティネットとすると、生活困窮者自立支援制度はその中間にある「第二のセーフティネット」ということができます。

具体的な支援例

自立支援制度として具体的に行われる支援には、以下のようなものがあります。

住居確保支援

離職・失業などにより家賃を支払うことが困難な状況にある場合、最大9か月間、実際の家賃額(上限あり)の支給を受けることができます。(収入・資産等の条件あり)

※東京特別区在住の場合の支給上限額

  •  1人世帯 53,700円
  •  2人世帯 64,000円
  •  3人世帯 69,800円

就労支援

ハローワークと連携し、就労への支援が行われます。自治体によっては、自立支援の相談員がハローワークに同行するなどの支援も行っています。

また、社会的スキルの問題などを抱えているために就労が困難な人もいます。そのような人への支援として、社会適応訓練・就労準備訓練などを行う「就労準備支援事業」もあります。

一時生活支援事業

すでに住居を失い、路上やネットカフェなどで暮らす人を対象に、一時的な宿泊場所と衣・食を提供する支援があります。

衣食住を確保した状態で、就労自立、地域生活への移行を目指すことができます。

子どもの学習・生活支援事業

生活困窮世帯の子どもが学習面での指導、進路アドバイスを受けることができます。家庭の事情で学習環境が整っていない子どもを対象に、居場所の提供を行う自治体もあります。

各自治体で工夫を凝らした事業が展開されています。

家計改善支援事業

生活困窮者の中には、家計の管理が行き届いていないケースも少なくありません。相談員が収入と支出の状況整理、問題点の明確化を行い、家計のコントロールが出来るよう支援を行います。また債務(借金)がある場合は、法テラスと連携してより専門性の高い相談を受けることもできます。

包括的な相談支援

このように様々な支援制度がありますが、支援を必要とする人々の手に行き届かないと意味がありません。そのため生活困窮者は支援員と相談をし、一人ひとりの状況に合わせた包括的な支援プランを作成することができます。

また生活困窮者の中には社会とのつながりが薄く、自力で相談窓口へ足を運ぶことが困難な人もいることから、相談員自らが生活困窮の恐れがある人のところへ直接出向く「アウトリーチ」も重要とされています。

生活保護との連携

生活困窮者自立支援制度と生活保護制度は異なる法律に基づいており、政府や各自治体での担当部署も異なる制度です。しかしどちらも国民のセーフティネットとして機能し、対象となりうる層を共有しているため、相互で緊密な連携が必要です。

自立支援の相談窓口において聞き取りをした結果、生活保護制度の対象となる可能性が高いと判断した場合は、生活保護制度に関する情報提供や助言を行うことが自立支援法に定められています。

反対に生活保護が廃止となった人(受給が終了し自立に向かう人)が生活困窮者に該当する場合、生活困窮者自立支援制度や給付金の情報提供、助言を行うこととなっています。

生活困窮者解消に向けて私たちができること

では生活困窮者の解消に向けて、私たちはどのようなことができるのでしょうか。

支援が必要な人を窓口につなげる

生活困窮者は自立支援制度を利用して様々な支援を受けることができます。しかし、制度を知らないとその恩恵を受けることはできません。身の回りに支援を必要としている人がいる場合、各自治体の窓口に繋げることは非常に重要です。

直接の知り合いでなくても、地域に心配な人がいる場合は、相談窓口に相談できます。地域の一員として生活困窮者の自立を支援することが重要です。

民間支援も行われている

この記事では主に自立支援法に基づく自立支援制度を紹介してきましたが、生活困窮者を対象にした民間の支援も行われています。例えば、フードバンク子ども食堂、炊き出しなどはそのうちの一つです。これらの活動にボランティアとして関わったり、資金面での支援を行うこともできます。

生活困窮者とSDGsの関係

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最後に、生活困窮者とSDGsの関係も確認しておきましょう。

SDGs目標1「貧困をなくそう」などと関係

17の目標のうち、最も大きくかかわるものは目標1「貧困をなくそう」です。そのほか目標2「飢餓をなくそう」目標3「すべての人に健康と福祉を」目標4「質の高い教育をみんなに」とも関係しています。

そもそもSDGsは17の目標で構成されていますが、それぞれの目標は相互に関係しています。SDGsの目指す「誰一人取り残さない、持続的可能な社会」の実現には、どの目標も一つとして欠かすことができないということです。特に「誰一人取り残さない」という視点は重要で、自立支援制度というセーフティネットで全ての生活困窮者を自立へと導くことが求められます。

まとめ

この記事では「生活困窮者」について、生活困窮者自立支援法やそれに基づく自立支援制度を中心に解説してきました。

コロナ禍や経済混乱により増加する生活困窮者。支援制度が整いつつあるいま、生活困窮者の方々に関心を寄せ、正しく理解することも私たちにできる大切なことです。もし生活困窮者について誤った知識をお持ちのお知り合いがいたら、ぜひ正しい情報をシェアしてくださいね。

<参考文献>
厚生労働省「生活困窮者自立支援制度に係る自治体事務マニュアル」
厚生労働省「一時生活支援事業の手引き」
厚生労働省「生活困窮者自立支援法について」
厚生労働省「生活困窮者自立支援制度の 施行状況について」
厚生労働省「生活困窮者自立支援制度支援状況調査の結果について」
厚生労働省「生活困窮者自立支援制度における支援状況調査 集計結果 (令和2年度)」
厚生労働省「生活困窮者自立支援制度における支援状況調査 集計結果 (令和3年度)」
厚生労働省「生活困窮者自立支援制度における新規相談件数等速報値 (令和4年度)」
厚生労働省「令和3年度全国ひとり親世帯等調査結果報告」
文部科学省「学校基本調査 令和3年度 初等中等教育機関・専修学校・各種学校《報告書掲載集計》 卒業後の状況調査 高等学校 全日制・定時制 281 状況別卒業者数」
厚生労働省「生活困窮者自立支援制度と 生活保護制度の連携のあり方について」
内閣府「令和3年 子供の生活状況調査の分析 報告書」
日本生命財団(代表研究者: 西垣 千春(神戸学院大学教授))「高齢者の生活困窮の原因分析に基づく予防対策の開発に関する研究」
日本財団「子どもの貧困対策」
杉並区「生活困窮者自立支援制度」
郡山市「生活にお困りの方の自立支援相談窓口について」
大阪市「生活にお困りの方へ
新宿区「基準額一覧表」