古川 智博
1952年佐賀県伊万里市生まれ。1974年大学卒後 大手電機メーカーに2年間勤務後24歳にて起業し家電小売業を創業、代表となる。 その後ビデオレンタル店を全国展開(152店舗)し1994年10月より電化製品、一般生活用品のリュース店(7店舗)を展開。1974年より家電品を含む一般生活用品の販売及びリュース事業を軸としてマーケティングを学ぶ。創業当初より海外貿易に興味を持ち、数十回渡米後 東南アジア諸国に歴訪を重ねる内に日本とは圧倒的に違う「貧困率」の高さに衝撃を受け 微力ながら現状の事業を社会貢献に活かせないかと熟慮の末、2015年MVPを創業し現在に至る。国内では障がい者の方々の雇用を含む「SDGsのプラットフォーム」を目指している。
introduction
「もったいない」をキーワードに、国内外で事業を展開するもったいないボランティアプロジェクト(以下、M.V.P.とする)。日本で不用とされたものを海外に輸出・リユースすることで、※日本の特別支援学校や障がい者施設への自立・就労支援、海外の教育支援に繋げるプロジェクトを行っています。今回はM.V.P.代表の古川さんに、「もったいない」にまつわる現状や国内外の取り組みについてお話を伺いました。
※補足 :特別支援学校のうち、1校は実際に「もったいないもの」を集めて、MVPにお送りいただいており、買取分としてお支払いしております。残り2校は在学する高等部の生徒さんに「作業実習」という形で着物の解体作業をお願いしており、こちらは工賃の発生はしておりません。障がい者就労支援施設の方はこの後の記事内に出てくるB型事業所への作業委託となり、工賃が発生します。
身近に眠る「もったいない」の総量は、なんと40兆円
–今日はよろしくお願いします!はじめに、もったいないボランティアプロジェクト(以下M.V.P.とする)について教えてください。
古川さん:
2016年に創業し、国内外の支援を行っている一般社団法人です。全国15箇所に事業所を拡大し、不用とされたものや、使わないけどまだ使えるものなどを寄付していただいております。
事業所に届いた「もったいない」ものたちは、協業している障がい者施設や特別支援学校にお送りし、障害者の就労支援を行っています。海外で需要があるものは輸出・販売も行っていて、売上金の一部でミャンマーの孤児院も支援しています。
工程
①素材別に分ける
②拭きあげる
③割れ物のみ新聞で包む
④カウントしながら段ボールに詰める
⑤軽量して段ボールの外に記載する
–キーワードである「もったいない」を、古川さんはどのように定義していますか?
古川さん:
2021年の※[1] 調査で、日本の家庭に眠る※[2]かくれ資産の総額が43兆円であることがわかりました。そのかくれ資産のなかの※[3] 3兆円分の物資がリユースショップに届いていると言われています。かくれ資産の43兆円からリユースショップに届く物資3兆円を引くと「40兆円」。つまり、40兆円もの不用とされているもののまだ使えるものが存在するということです。それらを「もったいない」と定義し、なるべくリユースする仕組みを作っています。
かくれ資産とは
「1年以上使用しておらず、理由なく家庭内に保管しているモノを不要品とし、不要品保管数量調査および『メルカリ』の平均取引価格により不要品を金額に換算した数値」
引用元:株式会社メルカリ
–リユースされているの3兆円分だけで、残りの40兆円分もの物資が家庭に眠ったままなのですね。事業所には、大体どのくらいの物資が届くのでしょうか?
古川さん:
ご家庭から「もったいない」というキーワードで集まるものは、月に60トンほどです。企業との取引では、売れ残りなどを中心に、月間100トンを買い取らせていただいています。なので、合計160トンのもったいないものを毎月取り扱っている状況となります。
日本では人気がないものが、実は海外では宝の山になる
–膨大な量ですね。そういった「もったいない」ものを循環させようと思われたきっかけは何ですか?
古川さん:
個人的に愛知県でリユースショップを8店舗ほど経営しておりまして、そこでまだ使えるのに処分されてしまう商品が、海外では需要があることに気づいたのがきっかけです。
リユースショップでは、主にエンドユーザー※から、「古物商」という認可を取得した商品を買い取りさせていただいています。それらの品物をクリーニングし、値段をつけて店頭で販売しているのですが、食器は敬遠されがちなんです。
エンドユーザーとは
「エンドユーザーとは、ある製品を実際に使ったり消費したりする人や組織のこと。製品の作り手や売り手から見て、直接の顧客(クライアント)や所有者と、実際の利用者が異なる場合に用いられる概念である」
IT用語辞書
–認可を受けているものを販売しているはずなのに、なぜ食器は売れ残ってしまうのでしょうか。
古川さん:
十分きれいで質がよくても、日本では使用済み食器に対しては消極的に考える人が多くいます。そのため、最終的にゴミとなってしまうんですね。でも海外では違いました。
10年ほど前に、海外のリユースショップへ行ったときに、日本の食器がたくさん売られている光景を目にしました。日本と異なり、海外では使用済みの製品もたくさん売られていて、特に日本の食器が人気を集めていたんです。
–日本では敬遠されがちな食器類が、海外ではむしろ人気商品だったのですね!
古川さん:
はい。そこで、日本では捨てられてしまうけれど、まだ十分に活用できる「もったいない」物資を輸出することにしたんです。徐々に事業を展開していき、今に至ります。
貧困率40%と言われているミャンマーの支援実態
–日本では捨てられるものが海外で人気なのであれば、確かに「もったいない」ですね。
現在は、どのくらいの量を輸出しているのですか?
古川さん:
毎月40フィートのコンテナ20台に詰め込み、東南アジアの国々を中心に輸出しています。小売業者や問屋などに販売し、その売り上げの一部をミャンマーの孤児院への支援や、国内の障がい者支援に役立てています。
–毎月コンテナ20台も輸出しているのですか!すごいですね。まずここからは、ミャンマーの孤児院支援について教えていただけますか。
古川さん:
毎年5回ほど、M.V.P.のスタッフがミャンマーの孤児院を訪問しています。事前に現地の人に必要な物資を伺い、現地のスーパーで買い揃えています。調達するものは、食料品、衣服、文房具などがメインですね。具体的には子供たち人数分のお菓子(一人一人手渡し)、新品の文具(一人一人手渡し)、お米、現金(施設の修繕などに活用)、皮膚病が流行っているときは薬などを調達しました。また、現在は輸送コストがかかったり子どもたちのサイズに合わなくて余ってしまうという理由から、古着や中古の靴の調達はしていません。
ミャンマーでは皮膚病が流行しているので、日本で薬を購入し持参する場合もあります。
–スタッフの方々が直接現地に行っているのですか!すごいですね。
古川さん:
その他の活動としては、支援金のお届けや学校の建設などを行っています。今はコロナや内戦の影響で、ミャンマーを訪問できない状況が続いているのですが、近い将来に日本語学校を開設する計画も進めております。
–さまざまな側面から支援をなさっているのですね。支援する際に、大変だったことはありますか?
古川さん:
物資を確実に孤児院に届けることには、結構苦労しました。もともとは、スタッフが直接伺うのではなく、日本から船で物資を送っていたんです。ですが残念なことに、100箱の段ボールを送っても、最終的に届く段ボールは10箱ほどしか残らなかったんですよ。
–えっ!十分の一になるのですか?何故でしょうか?
古川さん:
孤児院に届く前に荷物が抜かれてしまうんですよ。港に降ろした荷物をトラックに詰め込む際に、港から運搬する業者の担当者が物資を取ってしまうんですね。抜き取りを指摘しようとすれば、ボイコットされてしまう場合も珍しくありません。このような状況が判明してからは、スタッフが直接伺い現地のスーパーで物資を買い揃えるようにしています。
–とても衝撃的な現実ですね。
古川さん:
ミャンマーはアジアの最貧国と呼ばれ、近年中には人口の半数近く※が貧困層となることが懸念されています。その上、貧困層とされている方たちは、5人や10人の家族単位で1日200円以下の生活を強いられているんです。
※引用元:CNN, 2021, 「ミャンマー、貧困率5割に迫る恐れ 新型コロナとクーデターで」
–10人で1日200円以下は、いくら物価の違いがあっても厳しいですよね…。
古川さん:
そうですよね。ミャンマーの孤児院や支援金などの援助を通して、まずは1日1〜2食しか食べられない現状を、3食お腹いっぱいに食べられるようにしたいと考えています。将来的には子どもたちの教育支援にも力を入れて、たくさん食べてたくさん学べる子どもたちを増やしていきたいですね。
〈ミャンマーの街〉
–学校建設も支援なさったと、おっしゃっていましたもんね。
古川さん:
そうですね。継続的に支援をするなかで、現地の理事長に何が一番必要かを聞いたところ、「学校をつくってほしい」とおっしゃったんです。国が内戦で混乱していて学校に通える子どもたちが少なく、識字率も非常に低い現状があるからです。実際に学校を建設したことで、現地の人に喜んでもらえたと感じております。今後も、現地の人の声を取り入れながら活動していく予定です。
〈ミャンマーで設立した学校〉
障がいを持つ方が自立できる未来を目指して
–続いて、国内の障がい者施設への支援について教えていただけますか。
古川さん:
はい。私たちは現在、協業する施設で150人ほどの障がいを持つ方々の就労支援をしています。就労継続支援にはA型とB型があるのですが、私たちはB型の支援施設に該当します。
–就労継続支援A型とB型はどのような違いがあるのですか?
古川さん:
就労継続支援A型は、障がいを持つ方が「雇用」という形で事業所にて勤務して、給料が支払われます。就労継続支援B型は、通常の事業所で働くことが困難である方に対して、就労の機会や生産活動を提供して、活動に応じた工賃を支払います。
–なるほど、雇用関係にあるかどうかが分かれ目なんですね。具体的にどのような形で支援をしているのでしょうか?
古川さん:
就労支援の一環として、私たちが集めた「もったいない」ものを、次の持ち主へ届けるための準備をお願いしています。例えば食器の場合ですと、一度使われた食器を拭いて、新聞紙で包み、箱に詰めます。梱包後の箱の重さを記録し、運搬や輸出ができる状態にしてもらうんです。他にも、古い着物を布に戻して、ヘアゴムにリメイクしていただいたりしています。
–支援にあたって、どんな点に注力なさっていますか?
古川さん:
障がいを持つ方が、自立した生活を送れるように工賃をしっかりお支払いしています。
実は、就労継続支援B型で支払われる月の平均工賃は約15,000円程度※と言われています。国の手当があったとしても、自立して生活できる額ではないと感じました。額としては月4万円お支払いしていて、働いてくださっている皆さんにも喜んでいただいています。
※厚生労働省, 「令和2年度工賃(賃金)の実績について」
コロナ禍のうちは、国内事業でじっくり力を蓄えていきたい
–最後に、今後の展望について教えてください。
古川さん:
コロナ禍ということもあり、なかなかミャンマーを訪れることができないので、当面の間は国内の事業を充実させようと考えています。例えば、障がいを持つ方の就労支援は、現在の約150人から5年以内に5,000人にまで拡大する計画を立てています。
就労支援を行う事業所からの問い合わせも増えていて、順番に面談をしているところです。
–5年以内に5,000人ですか!支援の輪が広がるのが楽しみですね。私たちにもできることはありますか?
古川さん:
ぜひ、「もったいない」ものをM.V.P.に持ち込んだり、宅配便で送ったりして支援の一歩を踏み出してみてください。私たちは、貧困層や障がいを持つ方の支援など、17あるSDGsのゴールのうち、12項目がクリアできるだけの幅広い支援を行っています。
個人で取り組むにはハードルが高いなと感じる方はぜひ、物資という形で、私たちにその思いを託してみてくださいね。
また、すぐには送れる「もったいない」ものがないという方は、SDGsについて知ったことを話題にするだけでもいいかと思います。実際に、中学校で私たちの活動について講義した際には、お子さんが講義で学んだことをご家族に話して、ご家族の方が事業所を訪問し寄付をくださったこともあるんですよ。
–私も、何かお送りできるものがないか探してみようと思います。
古川さん:
ありがとうございます。コロナ禍が落ち着いてきたら、現在進めている日本語学校のプロジェクトを含め、海外の貧困層の支援にもしっかり注力していく予定です。
–国内外でのご活躍、応援しています!本日は貴重なお話をありがとうございます。