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LGBTQ+とは?種類やジェンダーとの違い・診断方法、日本の現状・問題点

LGBTQとは?種類と日本の現状・問題点・取り組み事例を簡単に解説

ニュースやSNSなどでよく見かける「LGBT」の文字。「LGBT」がセクシュアルマイノリティ(性的少数者)のことを意味することは、今や多くの人が認識するようになりました。

LGBTQ+(エルジービーティーキュープラス)は、「Lesbian(レズビアン)」「Gay(ゲイ)」「Bisexual(バイセクシュアル)」「Trans-gender(トランスジェンダー)」「Queer/Questioning(クィア/クエスチョニング)」の頭文字をとって名付けられた言葉です。

ですがしかし、言葉が広まるにつれ、あいまいな使われ方や、間違った使われ方をしている場面もよく見受けられます。そこで今回は「LGBTとは何か?」といった基礎的なことから、当事者の直面する困難、法整備の状況などについても解説していきます。

LGBTQ+(プラス)とは?

そもそも「LGBT」とは、

  • L…Lesbian(レズビアン:女性同性愛者)
  • G…Gay(ゲイ:男性同性愛者)
  • B…Bisexual(バイセクシュアル:両性愛者)
  • T…Trans-gender(トランスジェンダー:生まれた時の生物的な性別と、自分の認識している性別が一致していない人)

の頭文字をとってうまれた言葉です。

現在ではこの4つにあたる人々だけでなく、セクシュアルマイノリティ(性的少数者)全般を指す言葉として使われており、最近では、さらに「LGBTQ+」「LGBTQIA+」という言葉も聞かれるようになりました。

  • Q…Questioning(クエスチョニング:性自認や性的指向を決められない、迷っている)
  • I…Intersex(インターセックス:身体的性において男性と女性の両方の性別を有している)
  • A…Asexual(アセクシャル:どの性にも恋愛感情を抱かない)

そして、これらのセクシュアリティ以外にもさまざまなセクシュアリティがあるという意味で「+」がつけられています。

ちなみにLGBTの割合に関する調査はいくつか行われており、結果にバラつきはあるものの、全人口に対して7~9%の割合で存在しているとされるケースが多いようです。つまり30人規模のクラスや職場であれば、2〜3人程度のセクシュアルマイノリティがいることが容易に想定できるのです。

では、上記を踏まえてLGBTQのそれぞれの頭文字がどのような意味を持つのかを確認しましょう。

【L】Lesbian(レズビアン)

LGBTの”L”は、Lesbian(レズビアン)

”性的指向が女性に向く女性”を指す言葉です

ちなみに、あくまでも性的指向が女性に向いているというだけで、その人の性表現(容姿・仕草・言葉遣いで表現される性別)が男女どちらかは関係ありません。つまり、いわゆる”ボーイッシュ”なレズビアンもいれば、”女性らしい”性表現をするレズビアンもいます。

よく目にする「レズ」という略語は、レズビアンへの蔑視や偏見を込めた使われ方をしてきた歴史があります。広く知られた略称ではありますが、誤解や偏見を生まないためにも「レズビアン」と略さずに使うようにしましょう!

【G】Gay(ゲイ)

つづいて、LGBTの”G”。こちらはGay(ゲイ)、つまり”性的指向が男性に向く男性”を指します。

レズビアンと同じく、分類に関わるのは性別と性的指向だけで、性表現は関係ありません。いわゆる”オネエタレント”などからもイメージしやすい「女性らしさ」を表現するゲイから、見た目や仕草では見分けのつかないゲイまで様々です。

ゲイにも、「ホモ」という蔑称があります。元は同性愛者を表す「ホモセクシュアル」が略された言葉ですが、「レズ」と同じく、差別的な意味合いをもって使われてきた歴史があります!

当事者が自分たちのセクシュアリティを表現するときに使われることはありますが、こちらも基本的には使用しないほうが良い言葉といえます。

【B】Bisexual(バイセクシュアル)

LGBTの”B”は、Bisexual(バイセクシュアル)性的指向が男性・女性のどちらにも向かう人を指す言葉で、日本語では両性愛者とも言います。

性的指向の向く性別は、一つとは限らないということです。当人の性別で、”バイセクシュアル女性””バイセクシュアル男性”と分類することもあります。

バイセクシュアルの人は時に、”異性愛者と同性愛者のあいの子””どっちつかず”などと言われてしまうことがあります。同性愛者と比べると、なんとなくイメージしづらいことにも原因があるのかもしれません。

しかし、バイセクシュアルも多様な性のあり方の一つであり、優劣はありません。異性愛者とも同性愛者とも異なる一つの性のあり方として捉えることがポイントです。

【T】Transgender(トランスジェンダー)

では、LGBTの”T”であるTransgender(トランスジェンダー)はとはどのようなセクシュアリティなのでしょうか。一言でいうと「”生物学的な性別”と”性自認”が異なる性」と言えます。

具体的には、

  • ”女性(男性)の身体”で産まれたが、自分のことは男性(女性)だと思っている人
  • ”男性(女性)の身体”で産まれたが、男性(女性)として生きることに違和感を感じている人

などが挙げられます。

セクシュアリティの分類

そもそも、セクシュアリティをなぜ分類する必要があるのでしょうか。

「性のあり方はグラデーション」とも言われるくらい、沢山のセクシュアリティの存在が認められている時代。一見、”分類することに何の意味があるのか?”と思うこともあるはずです。セクシュアリティを分類することには、

  • 当事者同士の連帯(つながり)がうまれやすい
  • セクシュアリティについての理解を深めやすい
  • 学術的な研究を深めるうえで有効

などのメリットがあります。

ゲイである筆者も、思春期に”自分は「ゲイ」というカテゴリーの存在なんだ”と気づくことができて(性自認)、その結果、精神的な孤独などから解放されることができた記憶があります。

一方で、全てのセクシュアリティを細かく分類することは不可能に近く、また意義もあまりありません。重要なのは、自分のセクシュアリティをどう感じているか、そして個々人のセクシュアリティを否定せずに尊重することです。

性的指向による分類

「どの性別の人に恋愛感情や性的欲望が向くか」を意味するのが、”性的指向”です。

性的指向は、

  • 異性に向く人
  • 同性に向く人
  • 両方に向く人
  • 性的指向がない人

など様々なあり方があります。

社会には、”性的指向が異性に向く人こそが「普通」である”と認識している人も多くいます。たしかに性的指向が異性に向く人が世の中の大多数を占めてはいるのですが、そうではない人が「普通ではない」つまり「異常である」ということはありません。

性的少数者への差別のきっかけともなるので、性的指向が異性に向く人のことを「普通」と考えるのは危険なのです。

性自認による分類

性的指向のほかに知っておきたい概念として、”性自認”があります。

これは、自分の性別についてどのように認識しているかを表します。産まれたときに身体的特徴によって決められる”生物学的な性別”とは別に、「自分のことを男性だと思っているか、女性だと思っているか」で判断します。

もちろん性自認が男女どちらかにも当てはまらない場合もあります。これを仮に”無性”とした場合、性自認は「男性」「無性」「女性」の3つだけではなく、グラデーションのように無数に存在するのも押さえておきたいポイントです。

現代社会では、”男性はこうあるべき”、”女性はこうあるべき”といった性規範(ジェンダー)が数多く存在しています。”男らしい”、”女性らしい”といった言葉が自然に使われることからも、社会には無数の性規範(ジェンダー)があることがわかります。

さらに、「あなたは男(女)だから、○○をするのが普通」というような考えには、そもそも「あなたは男(女)」と決めつけていることにも問題が隠されています。

自分の性自認に関わらず、世の中が自分の性別を決めてしまっているのです。多くの人にとっては自分の性自認と世の中が決める性別(ジェンダー)が一致していますが、そうではない人がいるということを押さえておきましょう。

トランスジェンダーと性同一性障害

トランスジェンダーのことを医学的に「性同一性障害」と呼ぶことがあります。しかしこの言葉には”治療すべき〈病気〉”というイメージがあるため、最近では「性別違和」「性別不合」と言われることが増えてきています。

トランスジェンダーのうち、外科的手術を受けて身体の性と心の性を一致させることを望む人々のことを、「トランスセクシュアル」と呼びます。これらの人々に行われる手術のことを「性別適合手術」といいます。トランスジェンダーでも、全員がこの性別適合手術を望んでいるわけではないことも、押さえておきたいポイントですね。

LGBTQ・LGBTQ+・LGBTsとは?

ここまで「LGBT」というキーワードをもとに、様々な性のあり方を見てきました。また近年では、「LGBTQ」や「LGBTQ+」という言葉が使われることも増えてきました。

”Q”とは

  • Questioning(クエスチョニング:自分の性について分からない人や、特定の枠に属さない人)
  • Queer(クィア:セクシュアルマイノリティ全体を指す、包括的な言葉)

のどちらかまたは両方の頭文字です。

さらに「LGBTQ」で表されるセクシュアリティ以外にも性のあり方は様々であることから、「LGBTQ+(プラス)」「LGBTs(複数形のs)」という言葉も生まれています。どれもセクシュアルマイノリティを指す言葉ですから、必要以上に難しく考える必要はありません。

重要なのは、セクシュアルマイノリティはLGBTの4つだけでは分類できず、無数のあり方が存在しているということです。 この記事ではこれ以降、これらの用語で表される性のあり方や人々のことを「セクシュアルマイノリティ」と呼びます!

性のあり方は他にもある

“性のあり方は無数にある”…そういわれても、具体的にイメージが付きづらいのではないでしょうか。そこでセクシュアルマイノリティの種類をいくつか取り上げて見ていきましょう。”自分の知らない性のあり方を知り、それを楽しむこと”は、セクシュアルマイノリティへの理解を深めるうえでとても有効な手段です。

Xジェンダー

X(エックス)ジェンダーとは、”性自認が男女どちらでもない人”、”どちらとも言い切れない人”などのこと。

実際のあり方としては

  • 自分の中に男性・女性の両方の性別が存在している人
  • 自分の性別は男性と女性の中間地点である人
  • 女性・男性という区分には当てはまらない(無性)の人
  • 自分の性自認が日々揺れ動いている人

など、一人一人で感じ方が違います。

ここまで取り上げてきたのは、生物学的な性別や性自認が、男性女性どちらか一方に属するセクシュアリティでした。そうではない人たちがいること、そしてそこから生まれる苦しみがあることも、ぜひ認識しておきましょう。

Aロマンティック/Aセクシュアル

「Aロマンティック」「Aセクシュアル」”A”は、打消しの接頭辞。”ア・ロマンティック”、”ア・セクシュアル”と読みます。

それぞれ

  • Aロマンティック…性別を問わず他人に恋愛感情を(ほとんど)抱かない人
  • Aセクシュアル…性別を問わず他人に性的欲望を(ほとんど)抱かない人

のことを指します。

恋愛感情と性的欲望は必ずしもセットではなく、また「無い」というあり方もあります。

『恋愛感情が湧かないなんておかしいよ』『(男なのに)性的欲望というものがないの?』などという言葉を聞くことがありますが、これらは当事者にとっては受け入れることができず、とても辛い言葉です。

悪気がなくても、こういった発言をしてしまうことはよくあります。悪気の有無に関わらず、当事者は精神的な負担を覚えてしまうものです。いままでこのような発言をした覚えのある方は、これからぜひ気を付けてみましょう。

パンセクシュアル

先ほど解説したバイセクシュアル。実は、さらに2つに分類することができます。

  • 自分の中に「同性愛モード」と「異性愛モード」の2つが共存している
  • 恋愛感情・性的欲望の向かう先を選ぶ基準に、性別がない

このうち、後者のことをパンセクシュアル(全性愛者)と呼びます。基準に性別がないとは、つまり性別にとらわれないということです。

パンセクシュアル の補足

パンセクシュアルはバイセクシュアルに含まず、別個のものとして扱われることもあります。

セクシュアルマイノリティ以外の人はなんと呼ぶ?

ここまでは多様な性のあり方の中でも、セクシュアリティ・マイノリティ(性的少数者)の人たちの代表的な分類を紹介してきました。多数派の性のあり方にも呼び名があり、使われる機会も増えてきているので、ここでおさえておきましょう。

  • シスジェンダー(Cis gender)…産まれたときの性別と性自認が一致している人
  • ヘテロセクシュアル(Heterosexual)…性的指向が異性に向く人

ここまでこの記事を読んできた方はお気づきかもしれませんが、生物学的な性別・性自認・性的指向はそれぞれ別個の要素です。そのため、シスジェンダー=ヘテロセクシュアルではありません。社会的に最も多数派である、”出生時の性別と性自認が一致している異性愛者”は、「シスジェンダー・ヘテロセクシュアル」ということになります。

LGBTQの当事者の困難・日常生活で困ること

セクシュアルマイノリティの人々は、社会生活を送るうえで多くの困難や支障に直面しています。だれ一人取り残すことない社会をつくっていくためにも、セクシュアルマイノリティの人々がどういった困難に悩まされているのか、知ることからはじめてみましょう。

学校

学校では、セクシュアルマイノリティが「いじめ」の対象となることが非常に多くあります。

  • “ホモ”などの差別的な発言
  • セクシュアリティを当人の許可を得ずにばらす”アウティング”
  • 無視

など、いじめの形態は様々です。

宝塚大学教授の日高庸晴氏が2016年に行った調査では、全ての世代のセクシュアルマイノリティの過半数に近い人々が、学生時代(小・中・高)に何らかのいじめ被害にあった経験があることが分かっています。

学生同士のいじめのほかにも、「教職員から心無い言葉をかけられた」、「性自認とは異なる制服着用や役割を求められた」など、大人の無理解が引き起こす問題もあります。

学校は、様々なマイノリティへの差別やいじめが起きやすい環境です。学校や家庭・社会での教育で、子どもたちに正しい知識を教えていくことが大切といえるでしょう。そのためにもまずは、大人が間違った認識を改めていく必要がありますね。

職場

就職してからも、困難があります。

職場での困難として

  • 就職活動の際にカミングアウトをしたら、面接を中断される
  • 管理職や同僚の理解がなく、差別的な発言や待遇を受ける
  • 家族手当などの制度が異性間の結婚しか想定されておらず、不公平

などが挙げられます。

生きていくうえで多くの人が所属しなければいけない”職場”で、このような困難に直面しているセクシュアルマイノリティがいることは、非常に大きな問題です。なかには「LGBTフレンドリー」を謳う企業でもこのような困難が発生したケースもあり、根の深い問題であることが分かります。

なお職場での差別については、後述する”パワハラ防止法”も関わってきます。

公共サービス

生活する中で利用する公共サービス。その中にもセクシュアルマイノリティが困難に直面することがあります。

たとえば、

  • 身分証明書の提示などで、性表現と法律上の性別が違うことが分かってしまう
  • 同性のパートナーが入院をした際、家族としての扱いが受けられない(面会ができない)
  • 福祉などの相談窓口において、職員の理解が足りずに嫌な思いをする/適切なサービスを受けられない
  • 同性のパートナーを、配偶者として社会保険の扶養認定することができない
  • 高齢者向けの福祉施設で、男女で分ける運営がされているために、精神的な負担がある

など。

これは、

  • セクシュアルマイノリティの差別禁止
  • 同性婚に関わる法律の整備が遅れている現状
  • サービスを提供する側が間違った知識を持つこと

などに原因があります。

公共サービスの運営に携わる方は、一般の人たち以上に正しい知識を身につける必要があると考えられますね。

LGBTQ当事者が実際に日常生活で困ったこと事例

LGBTQの当事者が、実際に日常生活で困ったことを伺ってきました。

知人との交流

カミングアウトをしていない友人や同僚と会話をするとき、異性との交際・結婚が前提で話が進むため、事実・本心を話すことができない。嘘をつきつづけることになるので、精神的負担が大きい。

学校生活

教員に自身のジェンダーに基づく悩みを相談したところ、教員側の知識・理解が不足しており、適切なアドバイスを受けられなかった。

授業中にLGBTを笑いのネタにするような発言があり、精神的な負担を感じた。

「男らしさ・女らしさ」を推奨するかのような指導があった。

家庭生活

家族(両親)に自身のジェンダーをカミングアウトしたところ、受け入れてもらえず、精神的な負担を抱えることとなった。また実家との距離が空いてしまった。

就労

就職活動の際にトランスジェンダーであることを表明したら、面接を打ち切られてしまった。

※トランスジェンダーは他の性のあり方の人に比べ、仕事をしていない(=就労時に困難がある)割合が高いというデータがある(参考:niji Voice2020〜LGBTも働きやすい職場づくり、⽣きやすい社会づくりのための「声」集め〜)

病院

パートナーが入院した際、「家族」として認められず面会を拒否されてしまった。

親族であれば認められる手術同意書への署名が、同性パートナーでは認められなった。

相続

長年連れ添ったパートナーが他界してしまったが、親族関係にないため、相続をすることが出来なかった。

LGBTQに関する法律

女性のイメージ画像

では、セクシュアルマイノリティの差別禁止や権利保護のための法整備は、現在どのような状況なのでしょうか。

日本では、2020年6月に施行されたパワハラ防止法(改正労働施策総合推進法)で、大企業*や自治体における”性的指向や性自認に関わるハラスメント”や”アウティング”が禁止されました。

パワハラ防止法に、これらの項目が追加されただけでも大きな進歩ではありますが、これはあくまでも企業などの労働環境で適用される法律。企業を一歩出ると、まだ法整備はほとんど進んでいないのが現状です。

今後の法整備に期待するためには、国民一人一人がセクシュアルマイノリティについて正しく理解をする必要があります。

それでは、海外の法律について、いくつかチェックしていきましょう!

パワハラ防止法(改正労働施策総合推進法) の補足

*中小企業には2022年4月から禁止されています。

【台湾】同性婚法

以前よりアジア最大級のプライドパレードが開かれたり、LGBTの人権・差別禁止についてが教育に盛り込まれていたりと、セクシュアルマイノリティ関連の先進国であった台湾。2019年の法改正により、アジアで初めて同性婚が法的に認められる国となりました。合法化から約1年の間に同性婚を行ったカップルは4,000組を超え、多くの人々の願いが叶った形となります。

日本のように同性婚が認められていない国の国民が、台湾において現地の方と同性婚をすることはまだできません。また、同性婚が合法化された台湾でさえも反対派の声も根強いようで、まだまだ課題もありますが、日本も見習うべきケースであることは間違いないでしょう。

ちなみに、台湾のほかにも同性婚が合法とされている国・地域は多くあり、パートナーシップ登録制度などを含めると、20%以上の国・地域で権利が保障されています。

【イギリス・ドイツ・スペインなど】性自認によって戸籍上の性別を変更できる法律

戸籍上の性別を変更することができるかどうかは、トランスジェンダーにとって非常に重要な問題です。

2010年ごろからヨーロッパの国々を中心に、個人の性自認によって戸籍上の性別を変更できる法律の整備が進んできます。

日本でも「性同一性障害特例法」によって性別の変更ができるようになりましたが、”性別適合手術を済ませていること”や”婚姻をしておらず、20歳未満の子がいないこと”などの多くの条件があります。トランスジェンダーの人々が、より障壁なく性自認にあった性別に変更するためにも、さらなる法整備が必要と考えられます。

【日本】性別変更の手術要件を最高裁が違憲判断

2023年10月25日、最高裁判所は、戸籍上の性別変更に生殖機能をなくす手術を受ける必要があるという要件について、憲法に違反していると判断しました。

現在、戸籍上の性別変更をする場合以下の要件を満たす必要があります。

・成人(18歳以上)であること
・現に婚姻をしていないこと
・現に未成年の子がいないこと
・生殖腺がないこと又は生殖腺の機能を永続的に欠く状態にあること

この4番目の要件が事実上手術を必要としており、憲法が保障する「意思に反して体を傷つけられない自由」の制約に当たると判断したのです。

今後は、この判断に基づき国会で法律の見直しが行われることになります。つまり、戸籍の性別を変更するにあたって手術が不要になる可能性が高いでしょう。

LGBTQに関する日本企業の取り組み事例

法整備に加えて、近年では企業も取り組みを進めています。ここでは日本企業の取り組み事例を紹介します。

関西電力

関西電力では、多様な人財の活躍に向けて制度の整備など様々な取り組みを進めています。そのなかにLGBTQへの理解啓発に関する取り組みもあり、すべての人が働きやすい環境を整えるため、

  • 全従業員を対象にeラーニングの実施
  • LGBTQに関する知識やハラスメント防止に関するハンドブックを作成
  • 相談窓口の設置

などを進めています。

LGBTQという言葉は知っているものの、詳しい内容までは把握していないという方も多いと思います。そこで知識をインプットできる場を提供することで、LGBTQの方々が抱える働きにくさの解消につながります。

川崎重工業

川崎重工業では、LGBTQを含めた女性、外国人、障がい者など多様な人材を生かしていくためのダイバーシティ推進が実施されています。

LGBT(性的マイノリティ)当事者が働きやすい職場づくりのため、

  • ダイバーシティ推進サイト「ひびきあうチカラ」の運営
  • LGBTハンドブックを発行し、社内研修や従業員教育へ活用
  • 自身がLGBTの支援者であることを周囲に示すKawasaki LGBT ALLYマークを制定
  • 同性パートナー登録規程
  • 性自認に基づく氏名で就労可能なビジネスネーム制度

などに取り組んでいます。

PRIDE指標2022では最高評価であるゴールドを5年連続で受賞している実績を持ちます。

参考サイト:https://www.khi.co.jp/sustainability/society/diversity.html

LGBTQとSDGsの関係

“セクシュアルマイノリティ”と”SDGs”。どちらも近年注目の度合いが高まっているテーマですが、双方にはどのような関係性があるのでしょうか。最後は、この二つについて簡単にチェックしていきましょう。

そもそもSDGs(エスディージーズ)とは、2015年に国連で採択された国際目標のことです。”Sustainable Development Goals”の略で、日本語では「持続可能な開発目標」と訳されています。2030年までに達成すべき17の目標が明記されており、そのどれもが、今後よりよい世界をつくっていくために達成しなければならない目標です。

SDGsはセクシュアルマイノリティ(LGBTQ)に触れていない

では、SDGsにはセクシュアルマイノリティに関する記述はあるのでしょうか。

実は、SDGs内でセクシュアルマイノリティに直接言及されている箇所はありません。これは、SDGsが国連の全加盟国に課せられた目標であり、中にはセクシュアルマイノリティの権利確保に否定的なスタンスをとる国もあることが理由だと言われています。

ただし、あらゆるマイノリティは、世間の目が行き届かなかったり、「普通ではない」と誤解されたりして、社会から取りこぼされることが多い存在です。SDGsの大前提である「誰ひとり取り残さない」ことは、あらゆる面におけるマイノリティの人にも、様々な権利が保証されるべきだということを忘れてはなりません。

セクシュアリティという観点からみると、目標5「ジェンダー平等を実現しよう」が関わりのあるテーマです。簡単に確認してみましょう!

ジェンダー平等を実現しよう

sdgs5

17あるSDGsの目標のうち、5つ目のSDGs5「ジェンダー平等を実現しよう」は、さまざまなジェンダー問題を解決するために掲げられている目標です。

本文では女性や少女に対する差別をなくすことに重点が置かれています。ただし、どんなセクシュアリティであっても、それを理由とした差別を許されないということに異論を唱える人はいないはず。「大人の事情」から明記はされていませんが、セクシュアルマイノリティを含む全てのジェンダーの平等を実現することが、SDGs目標5達成への”肝”であると言えるでしょう!

まとめ

今回は「LGBT」と呼ばれるセクシュアルマイノリティについて、基礎的知識から直面する困難、そして法整備やSDGsとの関連まで紹介しました。セクシュアルマイノリティの人々は、多くのコミュニティに存在しています。これまで「自分には関係ない」と思っていた人も、常に知識をアップデートする必要があるテーマなのです。

低くなおこの記事では出来るだけ分かりやすくお伝えするために、思い切って説明を省略した部分も多くあります。セクシュアルマイノリティを取り巻く様々な問題に興味を持たれた方は、ぜひ本などからも情報をゲットしてみてください!

参考文献
LGBT法連合会 webサイト
プライドハウス東京レガシー webサイト
NPO法人EMA日本 webサイト
森山至貴著「LGBTを読みとく クィア・スタディーズ入門」ちくま新書
神谷悠一・松岡宗嗣著「LGBTとハラスメント」集英社新書
蟹江憲史著「SDGs(持続可能な開発目標)」中公新書