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ルッキズムとは?やめたい人がすべきことや社会問題になっている背景も

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わたしたちの日常には、メディアやSNSによって様々なイメージが氾濫しています。なかには、社会において「魅力的な人」を位置づけようとするものも多く、若者を中心としてメンタルヘルスに悪影響を及ぼす場合もあるのです。

そうした「外見」にまつわるルッキズムは、世界で大きな社会現象になっています。

この記事では、ルッキズムの持つ性質や心身への影響に加え、わたしたちがルッキズムを脱するためのヒントをご紹介します。何気なくやってしまいがちだからこそ、一度立ち止まってルッキズムについて考える機会を作ってみて下さい。

ルッキズムとは

ルッキズム(Lookism)とは、外見で人を判断することを指し、それによって差別を行うことを言います。

かねてから、テレビに映画・雑誌といったメディアを中心として、人気の俳優やモデルが登場するたびに、若者を中心に多くの人々が「あの人のような外見になれたら」と憧れを抱いてきました。

近年はSNSの普及も影響し、より多くの人々にとってルッキズムが身近になっています。

歴史

ルッキズムという言葉は、1978年にアメリカのメディア・ワシントンポストによって作られた造語です。英語で「外見・容姿」を意味するLookと、「主義」をあらわす-ismを合わせて出来ました。

当時の記事では「身体的に”魅力的でない”とみなされる人々に対する差別的な扱いは、主に職場だけでなく、デートやその他の社会的な場でも行われる」としてルッキズムが紹介されています。

「ルッキズム」という言葉こそ、誕生してからまだ時間があまり経っていませんが、それ以前から「外見で人を判断する」という行為は社会にはびこっていました。

年齢や性別だけでなく、出身地・人種・宗教といったさまざまな要素から、相手を外側だけで決めつけ、社会的あるいは人間的な価値を勝手に判断してしまうのです。

そうしたルッキズムにまつわる差別によって、昔から奴隷や職業的な制限・外見によるいじめのような深刻な問題が後を絶ちません。

実際にアメリカでは、1970年代まで「醜形法」という法律が存在し、見苦しいとされる病気や醜形を持つ人は、人前に出てはいけないとされていました。

つまり、社会の中では魅力的な外見を持つ人たちが肯定され、魅力的でないとされる人々は不利な境遇にあったのです。

このような歴史があることを踏まえたうえで、改めてなぜ「今、ルッキズムが問題なのか」について、もうすこし詳しく見ていきましょう。

ルッキズムが社会問題となっている背景

ルッキズムが社会問題として注目を浴びるようになったのは、従来のメディアの存在に加え、SNSの登場が大きな要因となっています。

SNSの台頭によりルッキズムが社会問題に

これまでは、人前に立つ仕事といえば、政治家や俳優・モデルなど、一部の人々に限られていました。

登場する人物や場所は限られており、彼らの外観が「魅力的な男性・女性像」として扱われることはあったものの、その存在をさほど身近に感じられないという人も多かったことでしょう。

しかし、2000年代にスマートフォンが登場し、2010年代には若者を含む多くの人々にとっての必需品となりました。

さらに、InstagramやFacebook・TikTokのようなソーシャルメディア(SNS)の登場によって、一般の人が気軽に写真や映像を投稿できるようになりました。

よって、よりたくさんの人々が「魅力的な外見」を発信できるようになり、同時にその情報を消費者として受け取る機会も多くなったのです。

また、インフルエンサーやYouTuberのように、ある一定の影響力を持つ人たちが、企業と提携し、美容製品・エステサロンといった商品を宣伝する広告に触れる機会も増えました。

大人であれば「これは広告だ」「自分と他人は違う」と認識し、自身の外見と切り離して捕えることは難しくないでしょう。しかし多くの子どもは、現実と広告を切り分けて考えることは困難です。

このような時代の背景によって、現代に生きるわたしたちは、「魅力的な外見」に関する情報を、より多く目にするようになりました。

それに伴い、社会的に「魅力的」だとされる人々のイメージ像を、テレビや雑誌からだけでなく、SNSからも受け取るようになり、他人と自分を比較しやすい状況になっているのです。

ルッキズムの具体事例

ここでは、ルッキズムがどのような場面で生まれやすいのか、また「魅力的」だとされる人々はルッキズムによってどのような待遇を受けているのか、具体事例を見ていきましょう。

外見によって、社会での優遇が変わる

アメリカの複数の調査によると、外見が魅力的だとされる人々は、そうでない人に比べ、就職の面接で高評価を受けやすく、また給与も高い傾向にあることが明らかになっています。

例えば、外見が魅力的でないとされる人々は、魅力的な人々に比べると生涯で25万ドル(約373万円)もの収入を逃しているとされています。外見による社会的な待遇の違いはルッキズムの大きな弊害といえるでしょう。

外見で勝手に人格を判断する

ルッキズムは、個人による差別にも大きな影響をもたらしています。

例えば、「見た目が好みでないから付き合いたくない」「魅力的でない女性は頭が悪い」のように、実際の性格を理解せず、外見だけでその人の人格を判断する事例が挙げられます。

また性別だけでなく人種の違いによっても「日本人は大人しそう」「ヨーロッパの人は肌が白くて背が高いのでモテそう」といったように、見た目で勝手なイメージを作り出し、日常生活でのさまざまな判断材料として利用してしまうことがあります。

見た目による判断だけで誹謗中傷の的にする

学校や職場・メディアといった場所では、外見の良し悪しによって、いじめや誹謗中傷の的にされやすい傾向があります。

特に大罪を犯したわけでもないのに外見が目立つことを利用され、「あの人は悪いことをした」と一方的な批判を受けるケースが少なくありません。

こうしたルッキズムによる差別は、差別された側の人々に大きな影響をもたらします。

ルッキズムによる心身への影響

ルッキズムは、単純に「外見で人を判断する」だけでは終わりません。社会に広くはびこったルッキズムに苦しみ、心身への影響を及ぼす人が増えています。

実際には、ルッキズムによってどのような影響が出ているのでしょうか。

摂食障害

まずは、10~20代の若い女性に多く見られる摂食障害です。

摂食障害は、食欲があっても自身のボディイメージの認知の歪みから、痩せたいという願望が強い状態に陥り、その結果、意図的に食事を制限したり、食べた後に嘔吐・下痢を誘発したりする行為を止められないなどの症状がある状態を指します。

精神的な状態にも変化があるため、家族や友人との付き合いや日常生活にも大きな影響をもたらします。

場合によっては、うつ病や不安障害といった別の精神障害、1型糖尿病といった深刻な病気を併発するケースも報告されており、摂食障害の治療には相当な時間と労力がかかるのです。

日本では年間21~24万人の患者が治療を受けていますが、治療を受けていない人や途中で辞めてしまった人までを含めると、推定で40万人ほどいるといわれています。

醜形恐怖症

次にあげられるのは、醜形依恐怖症です。

醜形依存症とは、自身の身体に、実際には存在しない重大な欠点があると思い込み、毎日何時間も身体について考えてしまったり、何度も鏡を確認してしまったりしてしまい、日常に支障をきたしてしまう病気を指します。

なかには整形手術を受け、同じ個所を何度もやり直しては「もっとかわいく・格好よくなりたい」という想いから、不自然な形になるまで施術を受けようとする人もいるほどです。

症状の背景には精神的な異常がみられる場合が多く、強迫神経症や統合失調症といった症状が疑われます。

患者のほとんどは女性といわれていますが、男性の中にもルッキズムによって「自分には筋力がないから筋力注射をしたい」「髪が薄い部分を隠したい」と、思い込みによる過剰な行動をとってしまうケースが見られます。

自身の見た目を気にした行動・精神面への影響

上記のような病気にまでは達していないものの、ルッキズムによって他人に外見を判断されることを恐れてしまう人は少なくありません。

人前に出ることで注目を浴び、自身の外見をジャッジされてしまうリスクを恐れ、学校のクラスや仕事場のミーテイングで発言が出来なかったり、人通りの多いエリア・時間帯に外出できなくなったりと、日常生活に支障をきたしてしまう場合もあるのです。

メディアやSNSによるボディイメージを目にする機会が多い現代だからこそ、こうしたルッキズムに悩まされる人が増えています。

このように、ルッキズムによる人々への心身への影響は深刻であり、年々増加傾向にあります。その一方で、ルッキズムを気にせず人と接したい、または自身がルッキズムをやめたいと考えている人もいるはずです。

ルッキズムをやめたいと考えている人がすべきこと

ルッキズムをやめたいと思った時にできることは、何があるのでしょうか。

アメリカで行われた2006年の調査によると、生後2か月の新生児でさえも「魅力的な顔」を識別していることが分かっています。

このように、より魅力的な外見を判断することは、ある意味では人間の視覚的な本能だということもできるでしょう。

しかし、そのうえでわたしたちがルッキズムに対してできることはあるはずです。

ここでは、そのためのヒントを3つ挙げてみました。

SNSとの付き合い方を考える

まずは、SNSやメディアとの付き合い方・距離の取り方を考えることです。

近年、特に若い人たちにとってSNSは、様々な情報を得る手段であり、友人・知人との連絡ツールとしても欠かせない存在となっています。

そのため、1日に何度も他人の投稿を目にする機会があると、周りからの「魅力的な」外見に関する写真や動画を観てしまいがちです。

元気な時は良いかもしれませんが、落ち込んでいたり精神的に弱っていたりした場合には、つい情報に流されて他人と比較してしまい、ルッキズムの呪いに陥る可能性があります。

そこで投稿フィードはなるべく見ないように心がけ、あくまでも「SNSの投稿はその人の”広告”である」と割り切ってしまうのも手です。

連絡手段として他人とやり取りする場合は除き、SNSを見るのは1日〇回・〇時間まで、と決めておくとよいでしょう。

どうしても止められない場合は、リマインダー設定で制限時間をかけるか、スマホアプリやキャリアが提供しているサービスを利用するのもおすすめです。

ルッキズムについて学ぶ

ルッキズムがどのように日々の生活に潜み、どうすれば対策できるのかを知りたい場合、まずルッキズムに関する情報を集める必要があります。

そこでおすすめなのが、本を読むことです。SNSで発信している情報を読むのももちろんよいのですが、本であればほかの情報に惑わされず、文字に集中してルッキズムを勉強することができます。

例えば、前川裕奈氏の「そのカワイイは誰のため? ルッキズムをやっつけたくてスリランカで起業した話」という本では、若いころからルッキズムに悩まされた筆者が、海外滞在を通して気づいたルッキズムについて、容姿コンプレックスを克服するまでの経過が綴られています。

特に女性は、男性に比べてルッキズムによる精神的な障害を抱えやすいことから、こうした当事者の本を読み、ルッキズムにつて「どのような対応がルッキズムにつながるのか」「ルッキズムに対抗するにはどうしたらよいのか」といった知識を学べるでしょう。

いつもの暮らしの中でアンテナを張ってみる

ルッキズムをある程度学んだら、日常生活で自分や周りの発言を意識してみましょう。

情報や発言を客観視することで、ルッキズムの輪郭が掴めてくるはずです。

自身の発言やSNSでの発信の際にも「これはルッキズムに当てはまらないだろうか」と立ち止まって考える癖をつければ、自然とルッキズムとの関係を断てるのではないでしょうか。

脱ルッキズムを目指す社会の取り組み事例

ここでは、実際にルッキズムからの離脱を図るために行われている社会の取り組み事例をご紹介します。

広告の規制とルールの改正(ノルウェー)

北欧の国・ノルウェーでは、かねてから広告の種類が厳しく規制されてきました。

テレビやSNSといったメディアではもちろん、町中の広告を見ていても、酒類やエステなど、ある一定の種類の広告を目にすることはまずありません。

例えば、12歳未満の子どもに対するテレビ広告は禁止されています。したがって、おもちゃを始めとした子ども向けの製品に関する広告は見かけないのです。

おもちゃを紹介するカタログなどはありますが、「女の子はピンク」「男の子は青」といったステレオタイプに基づく商品はほとんどありません。

また、化粧品に関する広告にも、厳しい規制がかけられています。これは若い女性を中心に特定のボディイメージが決めつけられ、心身への影響が出るのを懸念しているためです。

近年はノルウェーの人気ドラマ「Skam」に出演した人気俳優・Ulrikke Falch(ウールリッケ・ファルチ)が、かつて自身も悩まされた摂食障害や、幼少時代に「女の子らしく」いられなかったことへの葛藤などの経験をもとに、若者へのボディポジティビティ(ありのままの身体を愛すること)を伝えるなど、影響力のある人物によるルッキズムの発信もさかんになっています。

そんなノルウェーでは、この数年でさらに広告への規制を強めたことで話題となっています。

SNSでの投稿写真・広告に関する新ルールとは?

そのひとつとして、企業やインフルエンサーがSNSに掲載する広告写真についての新ルールが挙げられます。

2021年、ノルウェーでは、フォトショップなど写真編集ソフトを使用した際に「加工しています」という情報の開示を義務化する法律が可決されました。

これはまさしく、若者が加工された写真を見て「自分もこうなりたい」とルッキズムの呪いに陥るのを防ぐのが目的です。

今では写真の編集ソフトの発達によって高度な加工が実現し、肌の毛穴を隠してトーンを上げるだけでなく、ウエストやバストといった身体の調節まで可能になっています。

広告の目的に沿って制作された「加工された美しさ」を本物だと思い込み、ルッキズムに陥った若者の心身にダメージを与えないよう、ノルウェーではこうした写真加工の情報開示が義務化されたのです。

可決された当時は賛否両論ありましたが、国外からも「似たような法律を作ってほしい」といった声が寄せられ、ルッキズムからの脱出を図りたい人々にとっては、ノルウェーの広告に関するルールが今後どのような効果を発揮するのか、注目が集まっています。

ルッキズムに関してよくある疑問

ここで、ルッキズムに関してよくある質問を取り上げ、答えていきます。

ルッキズムとアイドルの関係は?

ルッキズムとアイドルには、大きな関係があると言えます。

なぜなら、アイドルは外見をひとつの売りとしている職業のため、多くの人々があこがれの対象として見る傾向にあるからです。

アイドルを「魅力的な」外見を持つ人だとみなし、異性や社会からの待遇を期待してしまい、同じような顔や体型に憧れて真似ようとする人は少なくありません。

またアイドル自身も「常に外見でジャッジされる」という意識が強くなり、精神的なダメージを受けてしまい、休業や引退に追い込まれるといった事例も起きています。

もちろん、アイドルを「自分とは違う人」と割り切って楽しんでいる人も多くいますが、ルッキズムによって外見だけでその人の魅力を判断してしまい、他人と自分を比べて悩んでしまう人がいるのもまた事実です。

ルッキズムに対してやりすぎと言われている理由は?

近年、日本では古くから続いてきた大学のミスコンが廃止になったり、お笑いのネタとして相手の外見をいじることが自粛されたりと、ルッキズムに関して少しずつ変化が起きています。

こうした取り組みを「やりすぎ」ととらえる人もいるようです。

その理由として、「魅力的な人にスポットライトがあるのはいいこと」「過剰になりすぎると何も言えなくなる」といった意見が見られます。

しかし、外見をひとつの基準にするからこそ「きれい」「ブサイク」と対局な価値観が生まれますし、特に後者に関する表現を他者から受けるのは、誰にとっても気持ちが良いものではないはずです。

いくらそれが相手にとって「優しさ」や「愛」だとしても、言われたほうは少なからず傷つきますし、やがて感覚がマヒして他人にも同じような行動を起こす可能性があります。

また、ルッキズムを利用して相手を攻撃する人に関しては、その多くが相手よりも社会的に有利な立場にあり、いわば「何でも言える(と錯覚した)特権を持っている」状態にあります。

誰もが自分にしか持っていない身体の特徴や魅力があることを認識し、外見だけでなく内面から判断するのが普通な社会にするためには、ルッキズムから脱するための取り組みを進めていくことを優先するべきではないでしょうか。

ルッキズムとSDGs

最後に、ルッキズムとSDGsとの関係性について確認しておきましょう。

2015年、国連で採択されたSDGs(持続可能な開発目標:Sustinable Development Goals)では、17つの目標が設定されました。

今回は中でも特にルッキズムとのかかわりが深い、SDGs目標10「人や国の不平等をなくそう」についてお伝えします。

SDGs目標10「人や国の不平等をなくそう」に関連

sdgs10

SDGs目標10「人や国の不平等をなくそうでは、国籍や人種・性別にかかわらず、誰もが等しく生きられる社会システムを整えるように呼び掛けています。

ルッキズムは、主に外見によって判断・差別される事象を指しますが、ルッキズムが起こる原因はさまざまです。

  • 性別
  • 年齢
  • 職業
  • 宗教 など

こうした社会的な属性にかかわらず、誰もが平等に生きられる社会を目指すには、個人の努力だけでなく企業や自治体・国がルールを定め、みんなで守っていくことが求められます。

まとめ

今回は「ルッキズム(Lookism)」について、言葉の定義や背景だけでなく、ルッキズムを脱するために出来ることまで、幅広くご紹介しました。

外見には、確かに多くの情報が含まれています。しかしそれだけを判断材料にしてしまっては、見えない人格や特性を見落とすことになり、社会での様々な場面で不平等が生まれてしまいます。

また若者を中心に、ルッキズムに捉われて心身に負担がかかってしまっているのも事実です。

こうした状況を脱するためにも、まずはルッキズムを知り、日常の中で意識することから始めてみてはいかがでしょうか。

<参考リスト>
Lookism: The Hidden Form of Discrimination – BahaiTeachings.org
Opinion | Why Is It OK to Be Mean to the Ugly? – The New York Times
摂食障害|こころの情報サイト
摂食障害:神経性食欲不振症と神経性過食症 | e-ヘルスネット(厚生労働省)
醜形恐怖症 – 10. 心の健康問題 – MSDマニュアル家庭版
Skam’s Ulrikke Falch Talks About Feminism and Body Positivity in Norway through her Instagram – PAPER Magazine
SNSの加工写真にラベル付けを義務化へ–ノルウェー – CNET Japan
Influencers react to Norway photo edit law: ‘Welcome honesty’ or a ‘shortcut’? – BBC News