#インタビュー

LOVST TOKYO|植物由来のヴィーガンレザーで、消費行動やライフスタイルを見直すきっかけづくりを

LOVST TOKYO

ラヴィストトーキョー株式会社 唐沢 海斗さん インタビュー

唐沢 海斗

ラヴィストトーキョー株式会社・代表取締役
米国の州立大学を卒業後、大手人材派遣会社にて新規事業開発を経験。
ヴィーガンを受け入れることができなかった自身の原体験から、LOVST TOKYOを創業。ファッションを通して畜産業由来の社会課題の解決を目指す。

Introduction

「アップサイクルから始まる、巡りのよい暮らし」をコンセプトに、廃棄リンゴから生まれた「アップルレザー」をはじめ、植物由来のヴィ―ガンレザーアイテムを展開するライフスタイルブランド「LOVST TOKYO(ラヴィストトーキョー)」。

今回、同ブランドを運営するラヴィストトーキョー株式会社の代表である唐沢海斗さんに、ブランドの立ち上げや開発ストーリー、植物由来のヴィーガンレザー商品を通して実現したい世界観を伺いました。

ヴィーガンファッションを通して、社会課題の解決を目指す

–まずは御社のご紹介をお願いします。

唐沢さん:

弊社は、「LOVST TOKYO」というD2Cブランド事業をメインに活動している会社です。「アップルレザー」のように、廃棄されてしまうリンゴジュースの搾りかすから生まれた植物由来のヴィーガンレザーを用いて商品を展開しています。他にも、自治体やメーカーと協力して国産のアップルレザーの研究開発を進めるなど、素材のソリューションを活かした製品の開発サポート事業も行っています。

–植物由来のヴィーガンレザーに着目したきっかけは何だったのでしょうか。

唐沢さん:

僕がヴィーガンのような考え方やライフスタイルを初めて知ったのは海外で生活していた時です。実は、最初は全然受け入れられなくて「何言ってんだろ、この人たち?」というネガティブな印象を持っていました。でも、そのあとのサンノゼやサンフランシスコでの生活で意識が変わりました。プラントベース市場の広がりを感じましたし、なによりヴィーガンのようなライフスタイルの選択を柔軟に取り入れる人たちが多かったからです。

そこで改めて、ヴィーガンというライフスタイルの選択には「動物愛護」という側面以外に、地球温暖化という明確な社会課題を解決できる選択の一つでもあると考えるようになりました。僕たちがこれまで当たり前のようにしていた「お肉を食べる」という行為も、地球温暖化の原因の一つです。人間が排出している温室効果ガスの約14〜5%が畜産業から出ているというデータもあります。畜産業は、人口の増加に伴い、安定的に成長している産業ですが、牧草地を確保するために森林伐採も行われています。森林伐採のうち、30%ほどが畜産業に起因しているというデータもあります。

また、動物性のレザーは食肉の「副産物」としてみられるのが一般的ですが、もう少し俯瞰的にみてみると、原皮を売買することで「畜産業」を応援してしまうことになりますし、加工するプロセスで大量の水や化学物質を使ってしまうんですよね。そんな産業の悪循環を見直すきっかけを誰かが作っていかないといけないと思ったんです。

一方で、プラントベースやヴィーガンのライフスタイルや考え方は、日本ではまだまだ浸透していませんでした。起業家としては、みんながまだ知らないものを伝えていくことにこそ、意義を持って臨めます。ただ、いきなり「食」から入ってしまうのでは、まだまだ日本だと敷居が高いのかなと感じていました。実際、僕自身もそうでしたが、何も知らずにお肉を食べている人からは一線を引かれてしまう可能性が高いですよね。だったらファッションの方が入口としてもう少し柔軟な印象を与えられるんじゃないかと思い、ヴィーガン×ファッションの事業に取り組むことに決めました。

ヴィーガンファッションは動物性の素材を使わないファッションです。逆に動物性素材を用いたファッションは、レザーやダウン、ファー、シルク、カシミアなどがありますが、なかでも畜産業に密接な関わりがあるレザー産業を見直すきっかけをつくるべく、ヴィーガンレザーに着目しました。

ただ、従来のヴィーガンレザーは石油系の樹脂が主原料になっていたので、動物にも環境にも配慮した、より良い選択肢を届けたいと思い「アップルレザー」のような植物由来のヴィーガンレザーに辿り着きました。

アップルレザーで作った商品ってかわいいし、なんかかっこいいし、良いモノだねって思ってもらう。そしてブランドのファンになってもらって、その意義に共感してくれた人が最終的に、「じゃあ私もちょっとプラントベースの食事をやってみてもいいかな?」と思ってもらえたらすごく嬉しいなと考えています。

実際に僕たちのブランドやヴィーガンレザー商品をきっかけに「ヴィーガンのライフスタイルを知り、ヴィーガングルメ祭りに行くようになりました。」という意見をもらったこともあります。好きなファッションを通して自分らしく自己表現できる。そして、それが回り回って地球に貢献している。僕たちが本質的にやろうとしていたことが、少しずつ形になっていると実感できる瞬間でした。

レザーにも劣らない品質にこだわった、植物由来のヴィーガンレザーを開発

 –「LOVST TOKYO」では、アップルレザー、グレープレザー、コーンレザーなどの素材を取り扱っていますが、これらはどのような商品なのでしょうか。

 唐沢さん:

一般的に言われる「ヴィーガンレザー」とは、大きいジャンルで言うと合成皮革・人工皮革です。製造プロセスとしては、ベースとなる裏の基布をセットして、表面の樹脂層を貼り合わせていくようなイメージです。ちなみに、裏の基布が織物系であれば合成皮革、マイクロファイバー系であれば人工皮革と呼ばれています。

「アップルレザー」は、表面の樹脂層にリンゴジュースの搾りかす粉末を入れてつくる合成皮革です。りんご由来の成分の配合比率は製造メーカーによって異なりますが、現在僕たちが国産として手がけているものは、表皮層において、搾りかす粉末が25%、残りの75%は樹脂で構成されます。

リンゴジュースの搾りかすは、青森県のJAさんから調達し、老舗の合皮メーカーさんの協力を経て素材が完成するんです。僕たちはその素材を使い、浅草の工房および、中国のパートナー工場で製品づくりをしています。


–樹脂にリンゴジュースの搾りかす粉末などを混ぜ込むことは、どのようなメリットがあるのでしょうか。

唐沢さん:

原料的に見て、使っている石油系樹脂の量を減らせることです。一般的な人工レザーの表皮層は、100%石油由来の樹脂原料を使っています。対してアップルレザーは、リンゴジュースの搾りかす粉末を入れた分だけかさ増しされるので、従来の合皮より25%ほど石油由来の原料を削減できているんです。また、食品産業廃棄物として捨てられてしまっていたものを原料として再活用できているので、フードロスの観点からも環境に配慮したものとなっています。

–なるほど、よく分かりました。その中で、今人気の商品をご紹介いただけますか。

 唐沢さん:

一番人気なのは、アップルレザーのルームキーですね。単価も5,000円程度でアップルレザー商品の入り口としてはちょうどよく、ギフト用として選んでいただくこともあります。他にはリュックサックも人気です。アップルリュックというちょっと丸いシルエットがかわいいものが定番商品です。


–一般的な合皮と比べて耐久性はいかがですか。

唐沢さん:

合皮というと、すぐポロポロになってしまう印象を持たれがちですが、使っている樹脂の品質が耐久年数を左右するので、その樹脂次第なところがあります。樹脂にも3種類あって、一番品質が低いものはポリエステル系のポリウレタンです。これは一般的にアパレル雑貨などに用いられている樹脂で、1~3年しかもちません。一方、ミドルレンジのランクのものは、家具などへの使用が想定されており、3~5年ほどの耐久年数が出せるようになっています。最も高品質なものだと、ポリカーボネート系の樹脂で、これだと7~10年もちますので、耐久性が求められる車のシートなどに使われています。

ユーザーさんにとって、アイテムのライフサイクルが短いということはデメリットですし、よく動物性のレザー商品との耐久性を比較されることもありました。そこで、僕たちがメーカーさんと手がけた「国産のアップルレザー」には、ポリカーボネート系の樹脂を採用したんです。コスト的な面でアパレル商品の用途に採用されることはまずないのですが、世間一般に流通している合成皮革よりも耐久性に優れ、動物にも環境にも配慮した素材を作りたいという僕たちの熱意が伝わり実現することができました。経年変化による劣化の度合いを見るジャングル試験では、10年以上という高い結果も出ています。動物にも環境にもやさしくて、長く使ってもらえるものを設計できていると思います。

生産過程から流通まで。よりサステナブルなものづくりを進める

–続いて、商品のお届けに関するお考えも教えていただけますか。

唐沢さん:

まず、購入の際は、その商品のカーボンフットプリント※が分かるように、各商品ページに記載をしています。梱包材にはサステナブルな資材を使ったり、ちょっとメッセージ性のあるものにするなどの工夫をしています。その先の消費行動を変えるきっかけになるんじゃないかと僕自身信じているからです。

カーボンフットプリント

商品やサービスの原料調達から廃棄・リサイクルまでの間に排出される温室効果ガスをCO2に換算して表したもの。

具体的には、環境と貧困問題の解決につながるバナナペーパーをメッセージカードに使用したり、土に還る生分解性パッケージで商品を梱包したりして送っています。開封後捨てて終わりではなく、ちょっと切って家でコンポストをしてみて、本当に土に還るかどうか実験してもらうのも面白いんじゃないかな。

他にも、商品タグには花の種を漉き込んだシードペーパーを使っているものもあります。一晩水につけて土に埋めると、やがて花が咲くんです。商品タグはこれまで、そのまま捨てられていたことが多いかと思いますが、ここから花が咲くというちょっとマジック的な体験も面白いですよね。動物にも環境にも配慮した優しい暮らしの新体験を一緒に届けるということを狙っていますね。

また、リペアにも柔軟に対応できるようにし、長く愛着を持って使用したいユーザーさんに常に寄り添っていきたいと考えています。現在、使わなくなった商品の回収プログラムも準備しています。

より多くの人に、ヴィーガンファッションを通して、地球にやさしい暮らしの成功体験を届けたい

–ここまで話を伺い、素敵な商品を通して社会課題を考えるきっかけを提供しているように感じました。

唐沢さん:

僕たちが事業を通して目指しているのは、社会にとっての好循環「Circular Living」というインパクトモデルを確立していくことなんです。これは何かというと、ユーザー自身の成功体験から生まれる他者還元の気持ちを育むことです。

ファッションを楽しむことを通して、発信してもらう。そして、その発信から社会課題に対して何か気づく人が増え、僕たちがまたその課題に寄り添っていく、という気持ちの循環の形なんです。

また、僕たちは一人ひとりのユーザー様との共創体験を通して、単純にものを消費する以上の消費価値を届けていきたいと考えています。

以下が、インパクトモデル「Circular Living」の図です。

特にユニークだねとよく言われるのが、僕たちがユーザーの課題と捉えている「ポジティブな罪悪感(サークル左上)」です。最近は色々なメディアが社会課題やサステナブルについての情報を発信しているので、これまでの消費行動に対して「これって本当に環境に良いのかな?」とか「見えない生産者を傷つけていないかな?」という、自分の中でちょっとモヤモヤした罪悪感を抱くことがあると思うんです。とはいえその感情は、社会にとっては良い罪悪感ですよね。だから僕たちは、その感情を肯定されるべき「ポジティブな罪悪感」と呼んでいて、僕たちも同じ気持ちを抱いているよと語りかけることから始めたんです。

そして実際に、普段「どんな時にポジティブな罪悪感を感じていますか?」というアンケートを実施しました。最終的にはその結果をユーザーさんと僕たちの共感の形「ポジティブな罪悪感5か条」として定め、ブランドフィロソフィーとして末長く守っていくことに努めています。

–最後に、今後の展望をお聞かせください。

唐沢さん:

より環境に配慮した素材の開発は続けていきます。さきほどアップルレザーに関しては、25%がりんご由来の成分というお話をしましたが、残りの75%の樹脂も、できるだけ植物由来の樹脂に置き換えていけるように、メーカーさんと調整を進めています。今と同じ耐久性を維持しながら、より環境に配慮した素材を作り上げていくのは挑戦ですが、献身的に協力してくれるメーカーさんと一緒に乗り越えていきたいです。

そして実は今、自社のショールームも準備をしているんです。今までオンラインが中心のコミュニケーションだったのですが、もう少しオフラインとも掛け合わせて、お客様一人ひとりに合ったよりパーソナルなサービスを提供し、さらなる成功体験を生み出したいと考えています。

また市場全体で言うと、僕たちのようなサステナブルに取り組むブランドが今後より成長することで、市場全体の成長もさらに後押しできると思っています。エコは儲からないという固定概念を僕たちが覆していくことも、僕たちが担っている大きな責務だと感じているので、良い模範となれるように引き続き精進していきたいですね。