現代に暮らすわたしたちにとって、プラスチック商品はとても身近な存在です。しかし一方で、プラスチックによる環境汚染や健康への影響も多く聞かれるようになりました。
中でも「マイクロビーズ」は、深刻な環境・健康被害を引き起こす要因となっていますが、消費者でも何に使われているのかを知らない人が多いのが現状です。
今回はマイクロビーズについて、どのようなものなのか、海外と日本で行われている対策・現状についてご紹介します。
マイクロビーズとは
マイクロビーズとは、目に見えないほど小さな球状のビーズを指します。大きさの定義は正確には決まっていないものの、環境省の資料によると、数ミクロン~数百ミクロン(0.001mm~0.1mm)程度とされています。
マイクロプラスチックのなかのひとつ
用途や形状に関わらず「5㎜以下のプラスチック粒子」をマイクロプラスチックと呼びます。
このマイクロプラスチックは、大きく2つに分類できます。
一次マイクロプラスチック(Primary microplastics)
一次マイクロプラスチックとは、化粧品やボディケア用品・工業用研磨剤といったアイテムに使用される、小さな球状のプラスチックビーズです。身のまわりのプラスチック製品を製造する際に使われる米粒状のプラスチック粒も、一次マイクロプラスチックに含まれます。
二次マイクロプラスチック(Secondary microplastics)
二次マイクロプラスチックとは、環境中に流出したプラスチックが紫外線や外的な力によって劣化・崩壊し、極小の破片となった状態のものです。
マイクロビーズは一次プラスチックに分類され、特定の用途に使うために小さく加工されたもののことを指します。
次の章では、マイクロプラスチックについてもう少し詳しく見ていきましょう。
洗剤や歯磨き粉、洗顔料に含まれている
マイクロビーズは、肌の古い角質を取り除くスクラブや、なめらかな質感を出すための乳化剤として、ヘアケア用品やボディウォッシュ・歯磨き粉といった幅広いアイテムに使われています。
ほかにも、マスカラやファンデーションのような化粧品類に含まれることもあります。
以前は、果実の殻や種子がスクラブの原料として利用されてきましたが、安定して生産でき、安価で扱いやすい原料としてマイクロビーズが台頭して以来、世界中の企業が多くの商品に取り入れるようになりました。日本では1980年代ごろから広く使われるようになっています。
マイクロビーズの原材料には、ポリエチレン(PE)やポリメタクリル酸メチル (PMMA)をはじめ、確認されているだけで67種類以上が存在します。共通するのは、どれもプラスチックから出来ている点です。
このように、身近な製品の中に含まれるマイクロビーズですが、近年さまざまな側面から問題視されています。一体何が起きているのでしょうか。
【関連記事】プラスチック問題とは?現状の排出量と環境・海への影響、SDGsとの関連性
マイクロビーズは何が問題なのか
ここでは、「環境」と「人体」の2つの観点から、マイクロビーズが引き起こす問題について説明します。
環境への影響
まずは、マイクロビーズの使用による環境汚染への懸念についてです。
通常、生活水は処理施設でのフィルターなどで漉し、不純物を除去しています。しかし、歯磨き粉や洗顔料に含まれるマイクロプラスチックは、排水フィルターを簡単にすり抜けてしまい、除去することができません。するとマイクロビーズが海や川に流れ出てしまい、水の中に住む生き物たちがエサと間違えて食べてしまう可能性があります。
例えば、東京農工大学が東京湾に生息するカタクチイワシ64尾の体内を調べたところ、80%程度の49尾からマイクロビーズが検出されたとの報告があります。
マイクロビーズの原料となるプラスチックは、環境中に含まれる微量の化学物質を吸着する性質を持っています。これが生物の体内に入れば、生態系の破壊につながる恐れがあるのです。
人体への影響
マイクロビーズによる影響は、環境だけでなく人体にも及んでいます。
第一に、マイクロビーズの入ったアイテムを使うことによって、洗い流しきれなかった粒子が体内に残っている可能性があります。使うアイテムによって、皮膚だけでなく口内や歯の間に挟まったり、洗顔の際に目に入ってしまったりすることも考えられます。
いくら小さいとはいえ、元はプラスチックであるため、眼球や口腔を傷つけてしまうかもしれません。
また、外に流出したマイクロビーズを魚たちが食べているということは、それらの魚介類が、わたしたちの食卓に並んでいるということでもあります。それを裏付けるように、近年になって、人間の体内からマイクロビーズが検出されたと、多く報告されているのです。
一部では「マイクロビーズは排泄されるから大丈夫」という声もあるものの、マイクロビーズを体内に蓄積し続けた場合、血管や消化器官といった身体の大切なパーツを傷つける可能性もあります。
まだ研究ですべてが解明されているわけではありませんが、この先マイクロビーズの使用が続けば、人体への影響が複数見られるようになるかもしれません。
海外におけるマイクロビーズの対策の現状
ここまで、マイクロビーズの一般的な知識についてご紹介してきました。次は、マイクロビーズ対策として、世界ではどのような取り組みが進められているのかを見ていきましょう。
世界的には、1960年代からマイクロビーズがケア商品に使われるようになりました。本格的な利用が始まったのは1990年代に入ってからといわれています。
EU
ヨーロッパでは、ボディケアや洗顔料・歯みがき粉から毎年3,800トンものマイクロビーズが、自然界に流出しているといわれています。一方で、いち早くマイクロビーズ規制に乗り出した地域でもありました。
特にEU加盟国であるオランダ・オーストリア・スウェーデン・ベルギーの4か国は、2014年に「化粧品のマイクロビーズを含むマイクロプラスチック使用を禁止する」といった共同声明を出しています。
本格的な規制に乗り出した最初の国はオランダで、2016年までにマイクロビーズの流通・製造・販売を禁止しました。
現在では、ECHA(European Chemicals Agency:欧州化学帰還)がマイクロビーズ規制に関するルールを提案しています。しかし、その中身は数種類の成分を例外とする内容で、対策としては十分でないとの指摘も見られます。
それでもヨーロッパ内のさまざまな国で、独自にマイクロビーズを規制する法律が施行されはじめています。フランスとイギリスの例を紹介します。
フランス
フランスでは2018年1月、マイクロビーズを含む洗い流し(リンスオフ)商品の規制法案が施行されました。市場への投入が禁止され、マイクロビーズを含む商品が流通できないようになっています。
イギリス
フランスと同時期の2018年1月、イギリスでも同様の規制法案が施行されています。2018年7月には販売禁止となり、国内でマイクロビーズを含むボディケア用品などを売ることができなくなりました。
またイギリスの法案では、衛生用品も規制対象に含まれるため、高吸収材としてマイクロビーズが使われている紙おむつも販売できません。
アメリカ
ヨーロッパと同じ時期に、アメリカでもマイクロビーズに関する規制案が作られました。
2015年12月にマイクロビーズを含む化粧品類の製造や流通を禁止する「the Microbead-Free Waters Act of 2015」と呼ばれる法案が成立しています。
通常のコスメだけでなく、歯みがき粉といったアイテムも規制対象となっています。
ただし、生分解が可能なプラスチックには明確な言及がなく、一部の識者の間では「法案に抜け穴がある」と指摘されています。
アジア
欧米諸国だけでなく、アジアの国々でもマイクロビーズ規制が始まっています。
例えば韓国では、2017年にマイクロビーズの製造・流通が禁止に。翌年には販売も禁止になりました。
台湾でも、2018年に製造と流通が禁止になり、2020年には販売もできなくなっています。
このように、世界では積極的にマイクロビーズへの対策が進んでいます。
では次に、日本でどのような対策が行われているのかをチェックしていきましょう。
日本におけるマイクロビーズの対策の現状
日本の法律では、明確にマイクロビーズを規制・禁止しているわけではありません。特に罰則もないため、あくまでも企業内での努力に頼っている状況です。
2016年には日本化粧品工業連合会が会員企業に向けて、マイクロビーズの自主規制を呼び掛けています。そして2017年に行われた調査では、国内でのマイクロビーズ販売量は19万トンとの結果が発表されました。
洗い流しのスクラブ製品に含まれるマイクロビーズに関しては、環境省のプラスチック資源循環戦略(2019年5月)において「2020年までに洗い流しのスクラブ製品に含まれるマイクロビーズの削減を徹底する」と明言されるまでになりました。
用途が違えば「マイクロビーズ不使用」といえる?
そして2020年、環境省が「洗い流しのスクラブ製品に含まれるマイクロプラスチックビーズの使用状況の確認結果について」という調査を行いました。対象の商品は、洗い流しのリンスやボディケア用品・口腔ウォッシュといったアイテムが当てはまります。
この報告によると、商品10,583件のうち、マイクロビーズの使用は見られなかったものの、原料にポリエチレンを含むものが194件見られました。
報告書ではすべて「研磨・スクラブ用途としてではないがポリエチレンが入っている商品」として換算されているものの、マイクロビーズの原料であるポリエチレンが入っていることには変わりありません。これでは結局、環境や人体への汚染は解決されないことになります。
このような背景がある日本ですが、各企業はどのような取り組みを行っているのでしょうか。いくつか例を挙げてみていきましょう。
花王
幅広い商品を展開する日本の大企業・花王は公式ウェブサイト内で「2016年末までに、洗顔料や全身洗浄料、歯みがきのような商品からマイクロビーズ使用をやめる」との宣言を出しています。企業の声明によると、現在はすでに切替が完了しているとされ、研磨・スクラブ目的でのマイクロビーズは成分に入っていません。
コーセー
世界に広く知られている化粧品メーカー・コーセーは、ほかの日本企業に比べてもいち早く、2014年度にマイクロビーズの配合を取りやめました。2018年時点では、これまでに使用していた商品も含め、マイクロビーズを含む洗い流しタイプのアイテムの国内外への出荷を行っていません。
資生堂
化粧品メーカーの資生堂は、自社のウェブサイト上で「2018年以降、洗い流しタイプの商品にはマイクロビーズを使用していない」と表明しています。よってシャンプーや洗顔料といったアイテムに、マイクロビーズは含まれていません。
ポーラ
コスメから健康食品までさまざまな分野のアイテムを取り扱う企業・ポーラは、自社のウェブサイト上にて「一部のスクラブ材などに含まれるマイクロビーズから、天然の代替材料に変更している」と発表しています。
マンダム
メンズのメイク用品やヘアケアアイテムに力を入れている企業・マンダムでは、2017年末までに代替材料への切り替えを完了しています。
このように世界と日本では、まだマイクロビーズ規制への対策に大きな差が見られます。しかし、ひとつしかない地球で起きている問題を解決するには、国を超えた協力が必要です。
今後、日本のマイクロビーズ対策がスピード感を持って進んでいくことが求められます。
マイクロビーズとSDGsの関係
最後に、マイクロビーズとSDGsの関係について見ておきましょう。
目標14「海の豊かさを守ろう」と関わりが
マイクロビーズと最も関連のある目標は、目標14「海の豊かさを守ろう」です。
この目標では、プラスチックを含むごみの削減だけでなく、漁業の乱獲を減らすといった取り組みを通じて、海の生態系を守ることを目指しています。
マイクロビーズは、現在の技術では100%取り除くことが難しく、知らないうちに大量のプラスチックを海に流してしまっているのが現状です。
技術の発展による除去はもちろんですが、何よりもまずはマイクロビーズの使用をやめ、少しでも海の汚染を防ぐことが最優先だと言えるでしょう。
わたしたち消費者は、できるだけマイクロビーズを含まないアイテムを探し、選ぶ努力をする・マイクロビーズを使用する企業に呼び掛けてみるなど、小さくても出来ることからはじめていきましょう。
【関連記事】SDGs14「海の豊かさを守ろう」現状と課題、日本の取り組み事例、私たちにできること
まとめ
今回は、マイクロプラスチックの中でも特に小さな粒子である「マイクロビーズ」について、基本的な知識から世界・日本における現状までを幅広くお伝えしました。
わたしたちが暮らしの中で使っているアイテムに含まれている可能性があるマイクロビーズだからこそ、今日からでもやめることは出来ます。それによって少しでも環境・人体の汚染を防ぐことができるので、是非アクションを起こしてみて下さい。
また近年は、マイクロビーズを含まないアイテムも増えています。まずは自分の使っている身近なアイテムを見直すことから初めてみませんか。
参考リスト
Microbeads vs microplastics in cosmetics – Beat the Microbead
マイクロビーズ(まいくろびーず)とは? 意味や使い方 – コトバンク
花王が脱マイクロビーズ!海がプラスチックでいっぱいになる前に(後編) – 国際環境NGOグリーンピース
洗顔料や歯磨きに含まれるマイクロプラスチック問題(Daily facial cleanser and toothpaste,and another microplastic issue)大妻女子大学 兼廣春之|海ごみシンポジウム(H28.1.23-24)
Fighting Plastic Pollution in the Oceans – Plastic Soup Foundation
Legal Ban on the Use of Specific Microplastics in Europe? | Insights | Sidley Austin LLP
PLASTIC THE HIDDEN BEAUTY INGREDIENT| SOUP FOUNDATION
The Microbead-Free Waters Act: FAQs | FDA
洗い流しのスクラブ製品に含まれるマイクロプラスチックビーズの使用状況の確認結果について | 報道発表資料 | 環境省
マイクロプラスチックビーズ|花王
商品における取り組み | サステナビリティ | 株式会社コーセー 企業情報サイト
マイクロプラスチックビーズ | 資生堂
環境 | サスティナビリティ活動 | 企業情報 | ポーラ公式 エイジングケアと美白・化粧品
株式会社マンダム|CSR情報|マンダムグループのCSR考働|環境