1945年8月6日、その日の広島は快晴でした。午前8時15分、3機の長距離爆撃機B-29が広島上空に飛来し、その内の1機であるエノラゲイが一発の爆弾を投下しました。爆弾投下から43秒後、地上600メートルに小さな太陽が出現します。
小さな太陽は一気に膨張し、広島の町を飲み込んでいきました。後に人々はその新型爆弾が原子爆弾という核兵器だったことを知ります。8月9日には長崎にも原子爆弾が投下され多くの人の命を奪いました。
アメリカで生み出された核兵器は世界各地に拡散し、今でも世界の人々の命を脅かすものとして存在し続けています。今回は核兵器がどのようなものか、核兵器の種類や生み出された歴史、核兵器の被害や現状などについてわかりやすく解説します。
核兵器とは
核兵器とは核反応を利用した兵器のことです。核反応とは、原子核が他の原子核や粒子と衝突することで別の種類の原子核に変わることです。*1)
核反応の中でも大量のエネルギーを放出し、それを持続させることができる状態のことを核分裂・核融合といいます。核兵器は核分裂のエネルギーを利用した兵器と考えればよいでしょう。*2)
核兵器の特徴
核兵器には3つの特徴があります。
熱線 | 核兵器は爆発の瞬間、高温の熱線が発生広島型原爆の場合、爆発の約0.2秒後に7,700℃、爆心地周辺の地表面の温度は3,000~4,000℃に達した*3) |
爆風 | 爆発の威力で爆風が発生爆心地周辺は秒速300メートルに達した*4) |
放射線 | 放射線が発生し、物質や人体を透過放射線を浴びる(被曝する)ことで細胞や遺伝子異常が発生「死の灰」や「黒い雨」で多数の人が被曝*4) |
これまで使用されてきた兵器では見られない核兵器独特の特徴です。これらの特徴があることから、核兵器が非人道的な兵器とされてきました。
核兵器の種類
核兵器は今までにない兵器であり、実際に使用された広島や長崎では多くの方が犠牲になりました。そうした被害があっても、一部の国は核兵器を開発・生産・保有しています。核兵器にはどのような種類があるのでしょうか。仕組み・使用目的・兵器の形に着目して分類してみましょう。
仕組みによる分類
核兵器は原子爆弾と水素爆弾に分類できます。原子爆弾は核分裂爆弾、あるいは核爆弾と呼ばれます。核分裂を起こしやすいウラン235やプルトニウム239に中性子をぶつけることで核分裂を促し、発生したエネルギーを利用するのが原子爆弾です。*5)原子爆弾のエネルギーは一般的な爆弾の100万倍に達します。*6)
水素爆弾は核融合のエネルギーを利用した核兵器です。水素の同位元素である重水素や三重水素(トリチウム)が、核融合反応でヘリウムになる際に発生するエネルギーを利用しています。*5)この水素爆弾は、原子爆弾の1,000倍という途方もない量のエネルギーを放出します。*6)
使用目的による分類
ニュースなどでは核兵器の使用目的により、核兵器を戦略核と戦術核に分けて解説することがあります。
戦略核 | 敵国の戦争遂行能力を破壊広範囲にわたって影響を及ぼす |
戦術核 | 戦闘部隊への攻撃のために使用局地的に使用する |
両者の違いは正直なところ不明確ですが、核軍縮交渉などで「戦略核」「戦術核」という言葉がたびたび登場します。ここでは、威力が大きく広範囲に影響を与える核兵器を戦略核とします。ただ、どちらの核兵器であったとしても、使用されればその地域に甚大な被害をあたえることは間違いないといえます。
兵器の形による分類
核兵器をどのような形にしているかで分類する方法もあります。
- 核ミサイル
- 核弾頭
- 核爆弾
- 各魚雷
核兵器をミサイルに搭載すれば核ミサイルになります。ミサイルや魚雷の弾頭部に核兵器を用いれば核弾頭に、航空機から投下する爆弾の形であれば核爆弾に、魚雷に装着すれば各魚雷になります。いずれの場合も通常兵器に核兵器が搭載されていることがわかります。
核兵器の歴史
核兵器は放射線の研究とともに開発されてきました。ここでは、核兵器開発の歴史について年表形式でまとめます。
1934年 | フェルミが中性子を使った原子核の人工転換に成功 |
1938年 | マイトナーとフリッシュが核分裂とエネルギー放出を解明 |
1939年 | アインシュタインがルーズベルト大統領に核兵器開発を促す手紙に署名 |
1942年 | マンハッタン計画始動 |
1943年 | ロスアラモス研究所所長としてオッペンハイマーが着任 |
1945年7月 | アラモゴードで原爆実験に成功(トリニティ核実験) |
1945年8月6日 | 広島に原爆投下 |
1945年8月9日 | 長崎に原爆投下 |
1949年 | ソ連が核実験に成功 |
1952年 | アメリカが水爆実験に成功 |
1954年 | 第五福竜丸事件 |
年表の中でも、特にポイントとなる内容について見ていきましょう。
マンハッタン計画
マンハッタン計画とは、アメリカによる原爆開発計画の通称です。核兵器の開発に関して、ナチスドイツに先を越されることを恐れたアメリカのルーズベルト大統領は、巨額の費用を投じて核兵器開発を行いました。
開発の中心人物はドイツから亡命してきたオッペンハイマーです。原子核や量子電磁力学、宇宙線などの分野で数々の成果を出した研究者でユダヤ系ドイツ人です。原爆投下後、オッペンハイマーはアインシュタインらとともに水爆反対運動を行いました。
原爆投下
1945年8月6日、ウラン235を用いた広島型原爆(通称「リトルボーイ」)が広島市に投下されました。8月6日に死亡が確認されたのは5万3,644人、1945年中に亡くなった方は3万5,334人で合計8万8,978人の死亡が確認されています。広島市では死亡者数を14万人前後と推計しています。*8)
1945年8月9日、プルトニウム239を使った長崎型原爆(通称「ファットマン」)が長崎市に投下されました。原爆の被害は死者は73,884人、重軽傷者74,909人に及びます。たった2発の爆弾で都市が壊滅的ダメージを被ったのです。*9)
第五福竜丸事件
第五福竜丸とは、1954年3月1日にアメリカがマーシャル諸島で実施した水爆実験で被ばくしたマグロ漁船です。第五福竜丸は、水爆実験を行った場所から160キロ離れた海域で操業中、水爆実験に遭遇しました。その後、放射能を含んだ「死の灰」が第五福竜丸に降り注ぎ、23人の乗組員全員が被曝します。
核兵器の危険性は?使うとどうなる?
核兵器を使用するとどのような被害が発生するのでしょうか。爆発直後の被害と放射線の影響の2点について解説します。
爆発直後の被害
爆発直後の被害の例として長崎市を取り上げます。その理由としては戦時中、長崎県防空本部と長崎市防衛本部が行った報告が残っているからです。
1キロ以内 | 人畜は強力な爆発圧力と熱気でほぼ即死家屋は粉砕爆心地付近は消失し、周辺で強力な火災が発生墓石倒壊草木は爆風の方向になぎ倒され、幹枝も切断・炎上 |
2キロ以内 | 人畜の一部は即死、大部分は重軽症家屋や木柱などのうち約80%が倒壊各所で火災発生コンクリート柱や鉄柱は倒壊せず負先は一部炎上・枯死 |
2~4キロ以内 | 人畜の一部が重軽傷輻射熱線で一部やけど黒い物質は引火家屋・建物は半壊、一部消失爆心方向の木柱の表面が黒く焦げる |
4~8キロ以内 | 人畜の一部が重軽傷家屋は半壊または一部損壊15キロ以内で爆風あり家屋の窓ガラスや扉、障子などを破壊 |
*10)
爆心地周辺は文字通り焼け野原と化しました。核兵器の威力のすさまじさを物語っています。
放射線の影響
広島と長崎に投下された原子爆弾は、通常の爆弾では発生しない大量の放射線を放出し、人体に深刻な影響を与えました。放射線の影響は短期的なものと長期的なものに分けられるため、順を追って見ていきましょう。
人体が放射線を浴びると、細胞を破壊し血液を変質させます。同時に、骨髄で血液を作り出す造血機能を破壊し、肺や肝臓などに深刻なダメージを与えます。
原爆による放射線の影響は、遮るものの有無や爆心地からの距離により個人差があります。爆心地から1キロ以内の人々は初期放射線を直撃で受けており、当日もしくは数日中に亡くなっています。外傷がなかった人や、被曝後に救助で被爆地に入った人の中にも死亡する人や発病する人が相次ぎました。
こうした症状は急性障害とよばれます。主な症状は以下のとおりです。
- 吐き気
- 食欲不振
- 頭痛
- 不眠
- 脱毛
- 倦怠感
- 血尿
- 吐血
- 血便
- 発熱
- 白血球や赤血球の減少
- 月経異常
- 口内炎
*10)
急性症状は被曝から5週間ほどで落ち着きましたが、被曝の影響はその後も続きました。しばらくすると白血病やがんで亡くなる人が増えました。白血病は3年後から増え始め7~8年後にピークを迎えます。がんは5〜10年後に増加し始めたと考えられています。*11)
【世界】核兵器の現状
第二次世界大戦後、広島や長崎の状況を踏まえ核兵器の数を減らす核軍縮の動きが加速しました。しかし、冷戦後はむしろ核保有国が増加しています。世界の核兵器拡散の現状について解説します。
核兵器の拡散
第二次世界大戦後、しばらくの間、核保有国は国連の常任理事国でもあるアメリカ・ソ連・イギリス・フランス・中国に限られていました。
その後、1968年に結ばれたNPT(核不拡散)条約により核兵器の新規保有禁止や核保有国による非核保有国への核攻撃の禁止などが定められました。
しかし、この条約はすでに核兵器を持っている5国だけ保有を認めるという不平等な内容であったため、一部の国が反発しています。そして、インド・パキスタン・イスラエル・南スーダンはNPT条約を批准せず、北朝鮮は2003年に脱退しました。
その中で1998年にインドとパキスタンが核実験を実施し、核保有国への道を歩み始めます。2006年には北朝鮮も核実験を行い、核保有国となりました。
【日本】核兵器の現状
世界で唯一の被爆国となっている日本では、非核三原則を掲げて世界から核兵器をなくすという立場をとっています。ここでは、非核三原則の内容を確認します。
非核三原則
非核三原則とは1968年(昭和43年)に当時の首相だった佐藤栄作が国会で答弁した日本政府の基本方針のことで、核兵器を「持たず、作らず、持ち込ませず」という内容です。*12)
非核三原則のうち、「持たず」と「作らず」はNPTに加盟することで達成されています。「持ち込ませず」はアメリカ軍が日本に持ち込むことについて保証されていないという批判があります。*13)
また、国とは別に地方自治体が独自に「非核宣言」を行うケースもあります。日本非核宣言自治体協議会によると、1,667の自治体が非核宣言を行っています。
核兵器保有国について
先ほど核兵器保有国が増えていると述べましたが、現在はどの国が核保有国なのでしょうか。核兵器を保有している国は以下のとおりです。
従来から保有が確認されているアメリカ・ロシア・イギリス・フランス・中国に加えて核実験を行ったパキスタンやインド、北朝鮮とイスラエルが核兵器を保有しています。イスラエルは核保有を宣言していませんが、事実上保有国とみなされています。
核兵器を保有する理由
核兵器を保有する理由として以下の点が考えられます。
- 外交交渉を有利に進めるため
- 核兵器の力で自国を防衛するため
- 「敵対国」に対する不信感があるため
核兵器は外交カードとして一定の有効性を持ちます。例えば、北朝鮮は経済面でも軍事面でも超大国であるアメリカに及びません。しかし、核兵器を保有することでアメリカとの交渉を優位に進めようとしています。
他にも、核兵器を持つことで、別の核保有国から攻撃されないようにするという考え方も保有する理由です。こうした考え方を「核抑止」といいます。冷戦時代に盛んに唱えられていた考え方で、互いに核兵器を保有し、両者の軍事力のバランスが取れているから自国が核攻撃を受けないという考え方です。
もう一つ、敵対国に対するぬぐいきれない不信感も核兵器を保有する理由です。よく指摘されるのがリビアの事例です。リビアの独裁者だったカダフィ大佐は2003年に大量破壊兵器の計画を保有し、無条件での査察を受け入れました。
リビアはアメリカとの関係改善に成功しましたが、アラブの春の動乱で反体制派に加担した欧米の空爆を受け政権を追われました。北朝鮮が外交カードとして核兵器を用いても、アメリカが要求する核兵器の放棄に応じないのは、カダフィと同じような末路を歩みたくないという考えがあるのかもしれません。
核兵器禁止条約とは
ここでは、先述した核兵器禁止条約(TPNW)について詳しく見ていきます。
核兵器禁止条約(TPNW)とは、核兵器の開発・保有・使用などを法的に禁止する国際条約のことです。*14)2017年に採択され、2020年に発行条件となる50カ国の批准を得て、2021年1月に発効しました。
核兵器を非人道的な兵器とし、いかなる場合にも核兵器が使用されないことを保証するには核兵器をなくすしかないという考えに基づいて結ばれた条約です。
日本は不参加
非核化を勧める条約としては核兵器不拡散条約(NPT)や包括的核実験禁止条約(CTBT)がありますが、これらの条約では核兵器廃絶はできないと考えたノルウェー、メキシコ、オーストラリアなどの国々が条約採択に向けて動きました。
しかし、核保有国であるアメリカ・ロシア・中国などは条約に批准していません。日本もTPNWに批准していない国の一つです。唯一の被爆国であるにもかかわらず、なぜ日本はTPNWに批准しないのでしょうか。
岸田首相は日本が批准しない理由として、「核保有国は1国たりとも参加していない」*15)と述べています。日本はNPTなどの場で核軍縮を進めるべきとの立場をとっているのです。同盟国であるアメリカへの配慮があるのかもしれません。
核兵器とSDGs
核兵器は多くの人々の命を一瞬にして奪う残虐な兵器であるだけではなく、使用された地域を放射能で汚染し、人が住めない土地にしてしまいます。ここでは、核兵器とSDGs目標16との関わりについてみてみます。
目標16「平和と公正をすべての人に」との関わり
SDGs目標16は持続的な開発を実現するため、平和な社会を築くことを目指しています。核兵器は平和な社会を破壊する恐ろしい兵器です。核兵器を開発したオッペンハイマーは戦後、水爆の開発や核の拡散に反対する立場をとりました。
ルーズベルト大統領に核兵器開発を進言した科学者のアインシュタインは、1955年に哲学者のラッセルとともに核戦争廃絶を訴える「ラッセル=アインシュタイン宣言」を出し、核廃絶運動のきっかけとなりました。この宣言には湯川秀樹やジュリオ=キュリーなど名だたる科学者たちが名を連ねています。
一部の国が核兵器の力を背景に自国の利益拡大を図ってしまうと、世界の持続的発展は望むべくもなくなってしまうでしょう。SDGsの考えに従い「誰一人取り残さない」発展を目指すには、核兵器の廃絶が必要不可欠なのではないでしょうか。
まとめ
今回は核兵器についてまとめました。冷戦終結後、核軍縮が進められて一時期は核廃絶も可能なのではないかと考えられたこともありました。しかし、現実はそれほど甘くありませんでした。
2000年代後半から核兵器が広がりを見せるようになり、核保有国が徐々に増え始めました。2022年のロシアによるウクライナ侵攻により、大国同士の戦争の可能性が浮上するにつれ、核兵器が必要という機運も高まりつつあります。
とはいえ、核による均衡は一歩、対応を誤れば核兵器による「世界最終戦争」につながる恐れがあります。今後も世界情勢を注視しつつ、核兵器禁止条約への批准などを通じて核兵器廃絶の道を模索するべきではないでしょうか。
<参考>
*1)デジタル大辞泉「核反応(かくはんのう)とは?」
*2)原子力委員会「核分裂・核融合」
*3)広島平和記念資料館「広島平和記念資料館 | 展示を見る | 常設展示 | 5 核兵器の危険性 | 5-2 原子爆弾の脅威 | 5-2-3 熱線」
*4)浦安市「原子爆弾の基礎知識」
*5)改定新版 世界大百科事典「核兵器」
*6)長崎大学核兵器廃絶研究センター「核兵器/核物質の解説」
*7)精選版 日本国語大辞典「中性子爆弾(ちゅうせいしばくだん)とは?」
*8)広島市「死者数について – 広島市公式ホームページ|国際平和文化都市
*9)ながさきの平和「原爆の威力 | 原爆の惨状 | 長崎の原爆 | 調べる | ながさきの平和【公式】」
*10)広島市「放射線による被害 – 広島市公式ホームページ|国際平和文化都市」
*11)広島市「後障害について – 広島市公式ホームページ|国際平和文化都市」
*12)デジタル大辞泉「非核三原則(ひかくさんげんそく)とは?」
*13)日本大百科全書「非核三原則(ひかくさんげんそく)とは?」
*14)デジタル大辞泉「核兵器禁止条約」
*15)NHK「核兵器禁止条約になぜ日本不参加? 危機感強める被爆者たち 」
*16)スペースシップアース「スペースシップアース 目標16」