#インタビュー

大阪公立大学|文理の垣根を越えた「総合知」で、持続可能な社会を創る人材を育成

大阪公立大学 大塚耕司さん インタビュー

大塚 耕司

1989年大阪府立大学大学院工学研究科博士前期課程修了。博士(工学)。

1989年大阪府立大学工学部助手。2007年大阪府立大学大学院工学研究科教授。

2016年大阪府立大学現代システム科学域長。2021年大阪府立大学副学長(学生担当)。

2022年大阪公立大学副学長(学生担当、SDGs戦略担当)。

Introduction

大阪公立大学は、約140年の歴史を誇る大阪市立大学と大阪府立大学が統合し、2022年4月に新たに誕生した大学です。開学にあたってのキャッチフレーズを「総合知で、超えていく大学。」とし、1学域・11学部、大学院15研究科を擁しています。今回は、大阪公立大学大学院現代システム科学研究科の大塚耕司教授に大阪公立大学のSDGsに関する取り組みについてお話を伺いました。

持続可能な社会を創る教育に、文系・理系の枠は要らない

–本日はよろしくお願いします。早速ですが、大阪公立大学のSDGsに関する教育の特長について教えてください。

大塚さん:

大阪公立大学のSDGsに関する教育の特長は「現代システム科学域(College of Sustainable System Sciences)」にあると考えています。英語名に「サステナブル」という言葉が入っているように、持続可能な社会の実現をリードできる人材を育成することを目指した学域(学部と同じ単位。学部に比べて広い学問分野を包含する)なんですよ。

–「持続可能な社会」の実現を目指す学域ですか。とても現代的ですね。

大塚さん:

現代システム科学域は、大阪府立大学において学部の再編が行われた2012年に誕生し、大阪公立大学に引き継がれました。当時から、持続可能な社会の実現をリードする人材を育成することは、教育機関の重要な役割だと考えられていたため設置されました。

–SDGsが国連で採択された2015年よりも前から、そのようなお考えをお持ちだったのですね。具体的には、どのようなことを学ぶのでしょうか。

大塚さん:

文理を融合し、領域を超えた横断的な知識を身につけられるカリキュラムを提供しています。SDGsの17のゴール全てを含む幅広い知識を網羅的に学ぶことで、深めたい領域を見つけたり、複合的な課題解決力を身につけたりすることができるんです。

サステナビリティに特化した大学院のコースなどは他大学でもありますが、学士過程から重要な学びの軸として「持続可能性社会」を据えている点は、大阪公立大学ならではのユニークな部分だと思っています。

学生からの注目度の高さを受け、教育の質も変化した

–学生さんたちからの反響はいかがですか?

大塚さん:

2012年に設立された当初から感じていたことですが、特に今年は現代システム科学域を第一志望として入学する学生が想像以上に多く驚いています。

現代システム科学域では一般受験だけではなく、国際バカロレア特別選抜、スーパーサイエンスハイスクール(SSH)特別選抜、ユネスコスクール特別選抜など、多様な受験メニューを用意していますが、全ての特別選抜枠に対して入学希望があり、学生を受け入れることができました。

–特別選抜枠に全て希望者がくるほど、受験生たちから注目されているのですね。

大塚さん:

そうですね。今は社会全体がSDGsに関心を寄せていますから、この注目度の高さは今後も続くのではないでしょうか。熱意のある学生たちが集まってくれているおかげで、教員や授業内容にも変化があったんですよ。

–すごいですね。どんな変化があったのですか?

大塚さん:

まずは教員が「サステナビリティ」を強く意識するようになりました。各教員の専門分野だけではなく、持続可能な社会を創るためには、様々な角度から物事を捉えて領域横断的な研究を深める必要があることを、授業の中でも頻繁に発言するようになりました。

様々な角度から物事を捉える必然を意識することで、研究手法の幅も広がりました。例えば私自身は工学が専門なのですが、工学的なアプローチだけではなくて、アンケート調査やインタビュー調査など、社会科学的なアプローチも研究の中に取り入れる機会が増えましたね。

–研究のアプローチ方法が増えると、今までにない結果への期待が高まりますね。

大塚さん:

はい。ただし「広く浅く」だけにならないようには気をつけており、卒業論文を作成する際には、個々の「専門知」の土台を築き上げた上で、広い視野で専門分野の異なる他者と協働を重ねているか、といった観点でも指導をしています。

多様な分野を研究する大学だからこそ、導き出せる答えがある

–持続可能な社会へ向けて、学生たちへの教育にとても注力されていることが理解できました。ここからは、大学法人として、SDGsの達成へ向け意識されていることを伺いたいと思います。

大塚さん:

最近では、大学も民間企業と同様に、SDGsやESGに関する対応や発信が求められていると感じています。昨今は、社会問題に対して「どのような行動を起こしているか」が、大学や企業の価値を左右する重要な指標になりつつありますからね。

ESGとは

環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)の英語の頭文字を合わせた言葉で、この3点が企業が長期的に成長するために欠かせない指標であるという考え方が広まりつつあります。

参考:https://www.nomura-am.co.jp/special/esg/detailesg/

–具体的に、どのようなときに必然性を感じられますか。

大塚さん:

先ほど入試の話をしましたが、持続可能な社会を目指す大学かということを受験生が受験の判断要素に入れていると実感しています。研究面で企業とコラボレーションをするにあたっても、SDGsの視点が必ず議題に上がってきますね。

–確かに、様々な側面でSDGsへの配慮が求められているのですね。大阪公立大学では、実際にどのような方法でSDGsへの取り組みを検討しているのでしょうか。

大塚さん:

大阪公立大学を経営する公立大学法人大阪は、SDGsに関する戦略や施策について議論する「SDGs戦略会議」を設置しました。「SDGs戦略会議」では、SDGsや脱炭素などに関連する様々な社会問題に対して、大学法人としてどのような価値を創造するかを議論し、法人経営に活かすという役割が与えられています。

–経営陣に直に、SDGs戦略について進言できるのですね。

大塚さん:

はい。例えば「脱炭素」というテーマひとつを取っても、経済や自然環境、人々の生活などあらゆる要素が複雑に絡み合っていますよね。大学としても、各研究分野が単体で行動を起こすのではなく、視野を広げ、協業によって新しいイノベーションが生まれる可能性に着目しています。今後も、さまざまな研究領域を有する「総合知」という特長を活用して、研究成果を社会に還元し、健全な法人運営につなげていきたいですね。

教育でも、組織運営でも、持続可能な社会をリードしていく

–最後に、今後の展望について教えていただけますか。

大塚さん:

これまで培ってきた教育研究の質をさらに向上させるとともに、SDGsやESGを強く意識したマネジメント体制を整えていきたいと考えています。

その1つが、チェック・改善機能の強化です。現在「SDGs戦略会議」の下に置かれている「環境マネジメント推進室」では、主に法人運営にまつわる環境負荷をチェックする機能を果たすべく環境報告書の作成を行っていますが、将来的には「ESGマネジメント推進室」に格上げし、経営陣と一緒に、サステナビリティやESGをベースとする法人運営を設計・実現していく役割を持たせたいと考えています。

–環境だけでなく、社会やガバナンスの側面についても検討を深めるのですね。

大塚さん:

そうですね。さらに、教員・職員・学生たちから意見を吸い上げて、一丸となって大学の今後について検討できるような、風通しの良い環境も整えていこうと考えています。

–組織の在り方としても、SDGsの観点を大切になさっていくのですね。

大塚さん:

文理の枠を取り払った新しい人材育成カリキュラムを提供していることに加えて、大学法人経営のお手本としてサステナビリティ・マネジメントを先導していけるといいなと思っています。

–今後も、大阪公立大学の進化から目が離せませんね。本日は貴重なお話をありがとうございます!

関連リンク

大阪公立大学HP:https://www.omu.ac.jp/