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株式会社ペーパル | 捨てられる米やモルト粕を利用した紙の開発でフードロス削減に貢献

株式会社ペーパル 矢田和也さん インタビュー

矢田 和也

1987年生まれ。奈良県出身。北海道大学大学院卒。2013年に富士通株式会社へ入社。子供の頃からものづくりが好きで、大学時代はアプリの構築に没頭し、就職後も複数のアプリを企画。2019年に現職の紙製品の企画・販売を行う株式会社ペーパルに入社。食品ロス問題に取り組む滋賀大学准教授との出会いをきっかけに、食品ロス問題に関心を持つ。社内で食品ロス問題の解決につながる製品開発を行うプロジェクトを立ち上げ、現在に至る。

introduction

奈良の株式会社ペーパルは明治23年に創業した、紙を扱う老舗企業です。メイン事業である紙の卸売業に加えて、近年は自社開発の商品に力を入れています。なかでも、捨てられていた米やビールのモルト粕を使った「フードロスペーパー」という環境にやさしい紙づくりが注目されています。

今回は、株式会社ペーパルの矢田さんに、環境に配慮した紙商品や取り組みのきっかけ、開発の裏側などを聞きました。

廃棄される米を活用した紙「kome-kami(コメカミ)」

まず、株式会社ペーパルの事業内容を教えてください。

矢田さん:

私たちのメイン事業は紙の卸売事業です。製紙メーカーから紙を仕入れて加工し、印刷会社に納入するという一連の流れを行っています。この事業とは別に、数年前から自社商品を作るようになり、その一つが米から作ったフードロスペーパー「kome-kami(コメカミ)」です。

kome-kamiはどのような商品でしょうか?

矢田さん:

捨てられたり、食べられなくなったりした米を回収して、パルプと混ぜ合わせて紙にした商品です。今、日本ではフードロスが問題となっており、年間約643万トンの食品が捨てられていますが、米も多くが廃棄されている現状があります。

「自治体が保管している災害用備蓄米の賞味期限が切れたもの」、「食品の流通段階で返品されたもの」、「加工段階で発生した非食用米」など、今まで廃棄されていた米を紙として蘇らせました。

それで「フードロスペーパー」なんですね!

矢田さん:

そうですね。フードロスペーパーという名前には、「フードロスをなくしていきたい」「廃棄する際のコストを価値に変換することで、フードロスをなくす活動を応援したい」という思いが込められています。

「kome-kami」誕生のきっかけ

では、フードロスペーパー「kome-kami」の開発背景にはフードロスへの思いがあるんですね。何かきっかけがあったのでしょうか?

矢田さん:

フードバンクの顧問をしている大学准教授の方と知り合ったのがきっかけです。そのときに食品ロスという社会問題を聞き、解決に向けて貢献できるような商品を作りたいと思いました。

食品ロスについてどのようなお話を聞かれたのでしょうか。

矢田さん:

フードバンクとは様々な理由で廃棄されてしまう食品を、生活困窮者などに配給する活動およびその活動を行う団体で、食品ロスの削減と生活困窮者支援の2つの社会課題解決に貢献しています。

そんなフードバンクでも、賞味期限が切れる前に人々に行きわたるよう工夫されているものの、どうしても余ってしまう食品があるそうです。顧問の方の「ビジネスとすることで、持続可能な仕組みを作りたい」という言葉に大きく共感し、kome-kamiを考えました。

そしてkome-kamiは、売上の一部をフードバンクに寄付しているんですよね?

矢田さん:

はい。今まで捨てられていたものを紙という価値に変え、そこから生まれた利益を還元することで、フードロスを削減していきたいですね。

米を紙にする開発の苦労

ここからは商品開発の面からお話を伺います。米を紙にするのは新しい取り組みだと思うのですが、今までに加工する技術はあったのでしょうか?

矢田さん:

実は江戸時代までの文化として、紙に米を使うことはあったようなんです。浮世絵の発色をよくしたり、筆のにじみをなくしたりするために米が使われていました。しかし、時代の流れとともに手作業で生産されなくなり、化学薬品に変わっていき、その技術が途絶えてしまいました。

では、kome-kamiはゼロから開発されたんですか?

矢田さん:

はい。これがすごく大変で、商品化まで1年かかりました。米は粘着性があるので、機械にくっついたり壊してしまったり。出来上がった紙にも穴があいてしまうなど数々の困難があり、あきらめようと思ったこともあります。でも、「なんとか商品化して社会課題の解消に貢献したい」との思いから試行錯誤を続け、2021年3月にやっと販売を開始できました。

矢田さんがあきらめなかったから、kome-kamiが誕生したんですね!

消費者の反応

kome-kamiを販売して、人々の反応はどうでしたか?

矢田さん:

社内では「普通の紙より高いし、売れないのでは?」と心配する声もありましたが、たくさんの個人の方に購入していただいたんです。多くの方に受け入れられて正直驚きましたね。

なにが人々に響いたのでしょうか?

矢田さん:

コンセプトに共感してくれた方が多い印象です。社会問題への意識の高い方が増えていることを実感しました。また、紙自体にも興味を持ってくださる方もいましたね。

実際に紙を使った方の感想はどのようなものでしたか?

矢田さん:

荒めのラフな感覚でありつつしっとりした手触りの紙で、にじみが少なく書きやすいという感想をいただいています。パンフレットに採用してくれた企業さんからは「自然な風合いがいい」と言っていただけました。今では箱や紙袋、ノート、名刺など様々なものに使われています。

クラフトビールペーパーも紙に

米以外の素材でも紙を作られているんですよね?

矢田さん:

はい。クラフトビールを醸造する過程で廃棄となるモルト粕を用いたクラフト紙「クラフトビールペーパー」も開発しました。株式会社kitafukuから「モルト粕が大量に廃棄されていて、活用方法を考えている」とお話を聞いて、共同で開発することにしたんです。

モルト粕は1か月の醸造で約2,000kgも出ることがあり、そのほとんどが廃棄されていました。その捨てられていたモルト粕を活用し、パルプと混ぜ合わせて紙として蘇らせたんです。

こちらも開発は大変だったのでしょうか?

矢田さん:

そうですね。モルトの風合いを残すか、印刷の精度を高めるかのバランスを調整するのが難しかったです。

こちらも風合いが魅力的な商品ですね。

矢田さん:

ビール会社はパッケージや名刺、メニューなどでたくさん紙を使うので、そういうところに使っていただきたいですね。

捨てられる素材を活用し、フードロス削減に貢献していきたい

今後の展望を教えてください。

矢田さん:

米やモルト粕だけではなく、まだまだ活用しきれずに捨てられてしまう素材がたくさんあると思います。そういったものを紙に変換して価値を高めて提供することを、これからもっと増やしていきたいですね。今年の春頃には、新素材の商品を販売する予定です。

捨てられてしまう食品をどんどん活用できれば、フードロス削減に大きな貢献ができますね!

矢田さん:

はい。そのためにkome-kamiも広めていきたいですね。kome-kamiをもっと世の中に浸透させて、その利益でフードロス削減にさらに貢献できるよう、これからもがんばって活動していきます。

本日はありがとうございました。

関連リンク

>>株式会社ペーパル公式サイト

>>フードロスペーパー