3Dプリンティングや食品容器など、身近な製品にも使われているPLA樹脂は、植物由来の生分解性プラスチックとして、サステナブルな社会の実現に貢献できる素材として注目されています。
しかし、PLA樹脂にもメリット・デメリットがあります。PLA樹脂がどのように私たちの生活に役立ち、環境問題の解決に貢献するか、知識を深めておきましょう。
本記事では、PLA樹脂の基本情報やメリット・デメリット、実際の使用事例、さらには強度などを、わかりやすく解説します。
PLA樹脂とは
PLA樹脂とは、バイオプラスチックや生分解性プラスチックの一種です。PLA樹脂はポリ乳酸とも呼ばれ、乳酸がエステル結合※によって重合した高分子で、化学式は(C3H4O2)nで表されます。
【ポリ乳酸の構造】
また、トウモロコシやサトウキビなどのバイオマス※を原料として生産でき、環境に優しい特性を持っています。
バイオプラスチックの定義
PLA樹脂を知る上で、まず「バイオプラスチック」という言葉を理解することが大切です。バイオプラスチックとは、石油などの化石燃料を原料とする従来のプラスチックとは異なり、植物などの再生可能な有機資源を原料として作られるプラスチックのことです。
つまり、生物由来の資源を活用することで、環境への負荷を軽減できるという大きな特徴があります。
混乱しがちな、
- バイオプラスチック
- バイオマスプラスチック
- 生分解性プラスチック
について、ひとつずつ定義を確認しましょう。
①バイオプラスチック
バイオプラスチックとは、 バイオマス(生物由来の有機資源)を原料とするプラスチックの総称です。原料が石油ではなく、植物など再生可能な資源である点が特徴です。
しかし、バイオプラスチックは全てが生分解性とは限りません。
②バイオマスプラスチック
バイオマスプラスチックとは、バイオプラスチックのうち、特にバイオマスを直接原料としたプラスチックを指します。バイオマスプラスチックはバイオプラスチックの一種で、バイオマスプラスチックにも生分解性を持つものと、持たないものがあります。
③生分解性プラスチック
生分解性プラスチックとは、微生物の働きによって、二酸化炭素と水にまで分解されるプラスチックです。環境負荷が低いとされ、バイオプラスチックの一種です。
生分解性プラスチックは、分解される環境条件が重要です。つまり、生分解性プラスチックでも、温度、湿度、微生物の種類など、適切な環境条件が揃わなければ、上手く分解されない場合があります。
【バイオプラスチックの定義】
また、生分解性プラスチックは、必ずしもバイオマスプラスチックであるとは限りません。生分解性プラスチックの中には、バイオマスプラスチックに含まれないものもあります。具体的には、
- PBAT(ポリブチレンアジペートテレフタレート)
- PBS(ポリブチレンサクシネート)
- PETS(ポリエチレンサクシネート)
などが代表的です。これらは原料の主成分が石油由来です。
石油由来の生分解性プラスチックは、主に原料の持続可能性などの観点から、バイオマス由来の生分解性プラスチックに比べて環境への負荷が高いとされています。
PLA樹脂の特徴
PLA樹脂は、トウモロコシやサトウキビなどの植物から抽出したデンプンを発酵させて作られる乳酸を原料とし、これを重合して作られます。重合とは、小さな分子(モノマー)がたくさん集まって、大きな分子(ポリマー)になる化学反応のことです。
PLA樹脂の主な特徴は以下の通りです。
生分解性
PLA樹脂は、特定の条件下では微生物によって分解され、最終的には二酸化炭素と水にまで分解されるという性質を持っています。
【関連記事】生分解性プラスチックとは?種類や原料、問題点から使用例、企業の取り組みを解説
【PLA樹脂が性分解される仕組み】
生分解性プラスチックは、特定の条件下で水と接触すると徐々に加水分解という反応を起こし、長い分子鎖が短い鎖に分解されていきます。加水分解によってできた小さな分子は、土壌中に存在する微生物(特にバクテリアやカビ)のエサとなります。
これらの微生物は、PLA樹脂から分解された小さな分子をさらに分解し、最終的には二酸化炭素と水にまで分解します。
カーボンニュートラル
PLA樹脂がカーボンニュートラルと言われるのは、その原料となる植物が成長する過程で吸収した二酸化炭素を、製品として燃焼したり分解されたりした際に、再び大気中に放出するため、結果として大気中の二酸化炭素量に大きな変化を与えないからです。
- PLA樹脂の原料となるトウモロコシやサトウキビなどの植物は、光合成によって大気中の二酸化炭素を吸収し、成長します。
- 成長した植物からデンプンを抽出し、発酵・精製などの工程を経てPLA樹脂が製造されます。この過程でも、新たな二酸化炭素が排出されますが、植物が成長する際に吸収した二酸化炭素とほぼ同じ量です。
- PLA製品として利用された後、廃棄されると、自然界の微生物によって二酸化炭素と水に分解されます。または、焼却処分された場合も、二酸化炭素が排出されます。
上のような過程を総合すると、植物が吸収した二酸化炭素が、PLA樹脂の製造や使用、分解を通じて再び大気中に戻ることになります。つまり、大気中の二酸化炭素量に大きな変化はなく、カーボンニュートラルと言えるのです。
PLA樹脂の主な用途
PLA樹脂は、その特性を生かして、さまざまな分野で活用されています。
3Dプリンティング
PLA樹脂は、3Dプリンターのフィラメントとして広く利用されています。比較的安価で扱いやすく、出力時の収縮率が低いなどの特徴から、プロトタイプ作成や小ロット生産に適しています。
食品容器
生分解性という特性から、食品容器としてのさらなる利用が期待されています。特に、お弁当箱や使い捨て食器など、短期間で廃棄される製品への応用が進んでいます。
繊維
PLA樹脂を原料とした繊維は、柔らかく肌触りが良いことから、衣料品やインテリア素材として利用されています。
農業資材
マルチシート※やポットなど、農業資材としても利用されています。土壌への悪影響が少なく、収穫後には土壌に還るため、環境負荷を低減できます。
このように、PLA樹脂は環境問題への関心の高まりとともに、その注目度を増しているバイオプラスチックです。生分解性やカーボンニュートラルといった特徴を持ち、さまざまな分野での応用が期待されています。
しかし、まだ課題も存在するため、今後も技術開発が進み、より持続可能な社会の実現に貢献していくことが期待されています。*1)
なぜ今PLA樹脂が注目されているのか
PLA樹脂(ポリ乳酸)の環境に優しい特性は、プラスチックごみによる環境問題の解決に寄与する可能性があります。さらに、PLA樹脂は農業用シートや食品トレイなど、さまざまな用途での利用が進んでおり、特に環境負荷を軽減するための素材としての期待が高まり、注目を集めています。
【バイオプラスチックとは】
なぜ今、PLA樹脂が注目されているのか、もう少し詳しく見ていきましょう。
環境意識の高まり
近年、地球温暖化やプラスチックごみに関する問題が深刻化しています。国際的な機関や政府が環境保護のための政策を強化する中、PLA樹脂のような生分解性プラスチックへの需要が急増しています。
特に若い世代の間で環境問題への関心が高まっており、持続可能な素材としてのPLA樹脂は注目を集めています。
【PLAの輸入量、輸入単価の推移】
出典:環境省『令和3年度バイオプラスチック及び再生材利用の促進に向けた調査・検討委託業務 報告書』(2022年3月)
多様な製品への応用可能性
PLA樹脂は、その特性から多様な製品への応用が期待されています。まず、食品との接触が許可されているため、食品包装材として広く利用されています。さらに、農業分野においては、植物を育てるための保護ネットや苗床ポット、マルチシートとしても活用されています。
また、PLA樹脂は3Dプリンターのフィラメントとしても人気があり、さまざまな形状の製品を製造することが可能です。最近では、PLA樹脂の強度や耐熱性が向上しており、家電製品の外装部分などにも使用されるようになってきました。
このように、PLA樹脂は幅広い分野での利用が進んでいます。
法規制の強化
経済産業省は、再生プラスチックの使用量を義務付ける法改正を進めています。これにより、企業は環境負荷の少ない素材を使用する必要が高まっており、PLA樹脂の利用が促進される見込みです。
法規制の強化は、企業にとっても競争力を高める要因となります。経済産業省は、バイオプラスチックを「バイオマス由来製品」として捉え、その普及を促進するために以下の様な取り組みを行っています。
- バイオマス由来製品の認証制度の推進:「バイオマスプラマーク」や「バイオマスマーク」といった認証制度を設け、バイオマス由来製品の正しい理解と普及を促進しています。
- 技術開発支援:バイオプラスチックの製造技術やリサイクル技術の開発を支援する様々な事業を行っています。
- 国際的な連携:国際的な枠組みの中で、バイオプラスチックに関する情報交換や技術協力を行っています。
PLA樹脂は、環境問題解決の鍵を握る、非常に注目されている素材です。しかし、まだまだ課題も多く、今後の研究開発が求められます。
次の章からは、もう少し踏み込んでPLA樹脂のメリットなどを確認していきましょう。*2)
PLA樹脂のメリット
PLA樹脂の主なメリットを、従来のプラスチックや他の樹脂との比較を交えながら見て行きましょう。
環境への配慮
PLA樹脂の最大の特徴は、その環境への優しさです。従来の石油由来のプラスチックは分解に数百年かかることがありますが、PLA樹脂は適切な条件下で数ヶ月から数年で生分解します。
この特徴によって、プラスチックごみによる環境汚染の軽減が期待されています。
再生可能資源からの製造
PLA樹脂は、トウモロコシやサトウキビなどの再生可能なバイオマス資源から製造されます。つまり、持続可能な原料調達が期待できるので、石油資源の枯渇問題に対する解決策の1つとされています。
これに対して、従来のプラスチックは化石燃料に依存しており、限りある資源を消費することになります。
安全性
PLA樹脂は、安全性が高く、食品包装などの用途にも使用されています。従来のプラスチックには有害物質が含まれることもありますが、PLA樹脂はその成分が比較的安全であるため、安心して使用できます。
成形性と加工性
PLA樹脂は、成形性や加工性が良好で、さまざまな形状に容易に成形できます。繰り返しになりますが、3Dプリンティングの材料としても広く利用されており、精密な部品や複雑なデザインの製作が可能です。
この特性から、デザインの自由度が高まり、製品開発の幅が広がります。
物理的特性
PLA樹脂は、強度や剛性が優れています。これにより、日常生活で使用される製品や工業用途においても十分な性能を発揮します。
例えば、食品容器や玩具、医療機器など、幅広い分野での利用が進んでいます。
経済性
初期コストは従来のプラスチックよりも高い場合がありますが、環境保護の観点からは長期的なコスト削減につながる可能性があります。また、政府や国際機関が環境に配慮した材料の使用を促進する政策を進めているため、PLA樹脂の需要は今後さらに増加する見込みです。
このように、PLA樹脂は多くのメリットを持っています。これらの特性により、従来のプラスチックや他の樹脂と比較して、持続可能な社会の実現に向けた重要な材料として位置づけられています。*3)
PLA樹脂のデメリット・欠点
PLA樹脂は多くの利点を持つ一方で、いくつかのデメリットや課題も存在します。現状で一般的に言われているPLA樹脂のデメリットや課題を見ていきましょう。
耐熱性の不足
PLA樹脂は熱に対する耐性が低く、約60℃以上で変形してしまうことがあります。この特性は、熱い飲み物を入れる容器や高温の環境下で使用する製品には不向きです。
例えば、食品容器や高熱になる電子機器の部品として使用する場合、熱による変形が問題となります。現在、添加剤を使用したり、他の樹脂とのブレンド技術を用いることで、耐熱性を改善する試みが行われています。
湿気に弱い
PLA樹脂は湿気に対して敏感で、環境中の水分を吸収しやすい性質があります。このため、長期間の保存や湿潤な環境下での使用には注意が必要です。
湿気を吸収すると、物理的特性が劣化し、強度が低下する可能性があります。この点の解決方法として、PLA樹脂を使用する製品には防湿性のあるコーティングを施すことが考えられます。
生分解性の条件
PLA樹脂は生分解性があるものの、特定の条件下でのみ分解が進みます。例えば、工業的な堆肥化施設での高温環境が必要であり、家庭での堆肥化では分解が進みにくい場合があります。
うまく分解が進まなければ、一般的なプラスチックと同様に廃棄されてしまうこともあります。この問題を解決するため、生分解性を向上させるための新しい配合技術や、より低温で分解が進むPLA樹脂の開発が進められています。
コストの問題
PLA樹脂は、従来の石油由来プラスチックに比べて製造コストが高いことがあります。特に、バイオマス原料の価格が変動するため、安定した供給が難しいことも影響しています。
この対策として、大規模な生産体制の確立や、原料の効率的な利用方法の開発が求められています。政府や企業が協力して、バイオプラスチックの普及を促進する政策を進めることも重要です。
衝撃への耐性
PLA樹脂は、強度や剛性に優れている一方で、衝撃に対する耐性が低いとされています。特に、衝撃を受ける可能性のある用途には不向きです。これにより、特定の製品においては他の樹脂に劣る場合があります。
現在では、他の樹脂とのブレンドや、ナノ材料の添加によって特性を向上させる研究が行われています。
リサイクルの難しさ
PLA樹脂は、通常のプラスチックリサイクルシステムでは適切に処理されないことがあります。これは、PLAが他のプラスチックと異なる特性を持っているため、混合されるとリサイクルプロセスに悪影響を与える可能性があるからです。
特に、PETやPPなどの一般的なプラスチックと混合されると、品質が劣化することがあります。
リサイクルインフラの整備
他の樹脂やプラスチックのリサイクルを促進するためには、適切なインフラが必要です。現在、多くの地域ではPLA樹脂のリサイクルが行われていないため、廃棄物として処理されることが多いのが現状です。
また、消費者や企業がPLA樹脂を他の素材から正しく分別するための啓発活動も重要です。
PLA樹脂の課題に対しては、さまざまな技術開発や工夫が進められており、将来的にはこれらの問題が解決される可能性があります。また、 PLA樹脂を効率的に回収・リサイクルするためのシステム構築が急がれています。*4)
PLA樹脂が使われている製品事例
経済産業省は、プラスチックごみ問題への対策の一環として、バイオプラスチックの導入を促進するためのロードマップを策定しています。このロードマップでは、バイオプラスチックの国内生産体制の強化や、製品への導入拡大に向けた具体的な施策が示されています。
【バイオプラスチック製品の導入イメージ】
【国内におけるバイオ由来製品の認証制度】
日本国内では、バイオ由来製品の信頼性向上と、消費者の正しい選択を促すために、いくつかの認証制度が設けられています。これらの認証制度は、製品に含まれるバイオマスの割合や、生分解性といった特性を評価し、一定の基準を満たす製品に認証マークを付与するものです。
このような政府の取り組みもあり、PLA樹脂は、近年、環境意識の高まりとともに社会に浸透しています。具体的なPLA樹脂が使われている製品事例を紹介します。
花王「ECOLA(エコラ)」シリーズ
花王が開発した「ECOLA(エコラ)」シリーズは、従来のPLA樹脂の課題を解決し、石油由来のプラスチックと遜色ない性能を実現した、改質ポリ乳酸樹脂です。
高い耐熱性と透明性
花王独自の結晶制御技術により、PLA樹脂の結晶化速度を向上させ、耐熱性と透明性を両立しました。これにより、従来のPLA樹脂では難しかった、高温での使用や透明な製品への応用が可能になりました。
また、花王独自の結晶化促進剤の添加により、PLA樹脂の成形時間を大幅に短縮し、生産性を向上させました。
「ECOLA(エコラ)」の活用例
【PLAを使った押出シートグレードの採用例】
「ECOLA(エコラ)」は、文具や包装材など、日常的に使用される製品に幅広く活用されています。その他にも、パソコンの筐体やプロジェクターのケーブルカバーなど、電子機器の部品としても採用されています。
XYZプリンティング「PLAフィラメント」
【XYZプリンティングのPLAフィラメント】
XYZプリンティングが提供するPLAフィラメントは、環境に優しい特性を持ち、さまざまな用途に適した素材です。PLAフィラメントは、3Dプリンティングにおいて非常に人気があります。
優れた印刷特性
この樹脂は、比較的低い温度で印刷できるため、造形物のゆがみを抑えることが可能です。これにより、精度の高い作品を作成することができ、ユーザーは美しい仕上がりを楽しむことができます。また、PLAは扱いやすく、初心者でも簡単に使用できるため、3Dプリンティングを始めたばかりの人にも適しています。
多様な用途・安全性
PLAフィラメントは、さまざまな製品に応用されています。例えば、教育現場では3Dプリンターを使って模型やプロトタイプを作成する際に利用され、実際の製品開発に役立っています。
また、趣味としての3Dプリンティングでも、オリジナルのフィギュアやアクセサリーを制作することが可能です。さらに、XYZプリンティングのPLAフィラメントは、SGSの厳しい検査をクリアしており、有害物質を含まないことが保証されています。
富士ケミカル「生分解性ストロー」
富士ケミカルは、PLA樹脂を使用した、生分解性ストローや植生ピンなどを生産しています。これらの製品は、PLA樹脂の特徴を活かして、環境負荷を軽減しつつ、実用性を兼ね備えています。
生分解性ストロー
【生分解性ストロー】
PLA樹脂から作られたストローは、従来のプラスチックストローと異なり、長期間環境に残ることがありません。さらに、PLA樹脂は、食品に接触しても安全な素材です。
化学物質を含まないため、飲み物に対する影響が少なく、安心して使用できます。また、近年、従来のプラスチック製ストローからの代替が進んでいる紙製ストローのように使用している間に柔らかくなってしまうなどの問題はなく、従来のプラスチックストローと同様の使用感を提供します。
飲み物を吸う際の強度や柔軟性があり、快適に使用できます。
植生ピン
【植生ピン】
植生ピンは、主に植栽や緑化に使用される固定具の一種です。これらは、土壌や植物をしっかりと固定するために用いられ、特に斜面や不安定な地形での植生保護に役立ちます。
植生ピンは、植物の根が成長するのを助け、土壌の侵食を防ぐために重要な役割を果たします。PLA樹脂は生分解性が高く、使用後に自然に分解されるため、環境への負担が少なくなります。
この特性により、植生ピンが土壌に残ることなく、自然なサイクルに戻すことが可能です。
また、PLA樹脂は有害物質を含まないため、植物や土壌に対して安全です。特に農業や園芸において、化学物質を避けたい場合に適しています。*5)
PLA樹脂に関してよくある疑問
PLA樹脂についてまだ、「一体どんな素材なの?」「他の素材と何が違うの?」といった疑問を抱いている人も多いのではないでしょうか?PLA樹脂に関するよくある疑問を、最新の情報に基づいてわかりやすく解説します。
強度は?
PLA樹脂は、一般的なプラスチックと比較すると強度が低いという特徴があります。特に衝撃に対して弱く、折れやすい傾向があります。
そのため、構造物のように高い強度が求められる用途には不向きです。しかし、3Dプリンティングで作成するような小物やプロトタイプなど、強度がそれほど求められない用途には十分な強度を発揮します。
耐久性は?
PLA樹脂の耐久性は、環境条件によって大きく左右されます。
- 耐熱性:熱に弱く、高温環境下では変形や溶融する可能性があります。一般的に、60℃を超える高温環境での使用は避けるべきです。
- 耐寒性:寒さには比較的強いですが、極端な低温下では脆くなる可能性があります。
- 耐水性:水に強い素材ではありません。長時間水に浸けると、変形や劣化の原因となることがあります。
- 耐光性:紫外線に弱く、長時間日光に当たると黄変したり、脆くなったりすることがあります。
水中で分解する?
PLA樹脂は生分解性プラスチックですが、条件次第では水中でも短時間で完全に分解されるわけではありません。土中や産業用コンポスト施設のような特定の環境下で、微生物の働きによってゆっくりと分解されていきます。
材料は具体的に何?
PLA樹脂の主な原料は、トウモロコシ、サトウキビ、テンサイなどの植物由来のデンプンです。これらの植物から糖分を抽出し、発酵させて乳酸を作り、乳酸を重合させることでPLA樹脂が生成されます。
どのくらいの期間で分解されるの?
PLA樹脂は、環境条件によって異なりますが、一般的には数ヶ月から数年で分解されると言われています。特に、堆肥化条件下では、より早く分解が進むことが知られています。
ただし、通常の埋立地では分解が遅くなるため、適切な処理が必要です。
食料になるもの材料にするの?
PLA樹脂は、トウモロコシやサトウキビなどの植物を原料として作られます。これらの植物は、私たちが普段食べている食品の原料でもあります。
しかし、PLA樹脂の原料となるのは、食品として利用できない部分や、食品加工の際に発生する副産物であることがほとんどです。例えば、トウモロコシの場合は、デンプンを抽出した後の残りカスなどが原料となります。
つまり、PLA樹脂の製造は、食料生産と競合するものではなく、むしろ食料生産の副産物を有効活用することで、資源の無駄をなくすことにつながっています。
材料の循環的な調達は可能なの?
PLA樹脂の原料となる植物は、毎年再生可能な資源です。そのため、理論的には、原料の循環的な調達が可能と言えます。
しかし、実際には、以下の点に注意する必要があります。
- 土地利用:植物を栽培するためには、土地が必要です。PLA樹脂の生産が拡大すると、食料生産のための土地と競合する可能性があります。
- 水資源:植物を栽培するためには、大量の水が必要です。水不足が深刻な地域では、PLA樹脂の生産が水資源の不足を招く可能性があります。
- エネルギー消費:植物を栽培し、PLA樹脂を製造する過程で、多くのエネルギーが消費されます。再生可能エネルギーの活用など、持続可能なエネルギー源の確保が重要です。
これらの課題を解決するために、廃棄物を減らし、資源を循環させる農業方法を導入したり、再生可能エネルギーを積極的に活用することで、エネルギー消費を抑制したりすることが重要です。また、農作物はその年その年の天候により収穫量が左右される点にも注意が必要です。
PLA樹脂とSDGs
PLA樹脂は、その特性により、SDGs(持続可能な開発目標)の達成に貢献できる可能性が高いとされています。PLA樹脂が特に影響を与えると考えられるSDGs目標を確認していきましょう。
SDGs目標12:つくる責任 つかう責任
PLA樹脂は生分解性があるため、使い捨て製品や包装材として利用する際に、環境への影響を最小限に抑えることができます。また、植物由来の原料を使用するため、化石燃料への依存度を下げ、資源の有効活用につながります。
SDGs目標13:気候変動に具体的な対策を
PLA樹脂の製造過程では、石油由来プラスチックに比べて温室効果ガスの排出が少ないため、気候変動への影響を軽減します。また、PLA樹脂は再生可能な資源から作られているため、持続可能な資源管理にもつながります。
さらなる技術革新により、PLA樹脂の生産効率を高め、コストを削減することができれば、より広範な分野での利用が進むでしょう。ただし、原料となる農作物の生産に伴う環境負荷についても考慮する必要があります。
SDGs目標14:海の豊かさを守ろう
プラスチック汚染は海洋生態系に深刻な影響を及ぼしています。PLA樹脂は生分解性があるため、適切に処理されれば海洋環境への影響を軽減できます。
しかし現状では、まだPLA樹脂が海洋で分解される速度や条件についての研究が不足しているため、実際の効果を確認するためにはさらなる調査が必要です。
このように、PLA樹脂は、SDGsの達成に向けて大きな可能性を秘めていますが、利用にあたってはその特性や課題を理解し、適切に活用することが重要です。持続可能な社会の実現に向けて、PLA樹脂のさらなる研究と技術革新が期待されます。*6)
>>SDGsに関する詳しい記事はこちらから
まとめ
PLA樹脂(ポリ乳酸)は、トウモロコシやサトウキビなどの再生可能な植物資源から作られる生分解性プラスチックです。条件が整えば土壌や微生物によって分解され、二酸化炭素と水に戻ることができます。
PLA樹脂は全ての環境で短時間で分解されるわけではありませんが、自然の環境下では分解されずに長期間とどまり続ける従来の石油由来プラスチックに比べて、持続可能な素材としての評価が高まっています。また、近年問題になっているマイクロプラスチック問題においても、PLA樹脂は従来のプラスチックよりも生分解性が高いため、リスクが低いとされています。
PLA樹脂の利用は、3Dプリンティング、食品容器、繊維、農業資材など多岐にわたります。今後も技術革新が進むことで、耐熱性や衝撃耐性の向上、リサイクルインフラの整備が期待されています。
また、政府の政策や企業の取り組みが進む中で、PLA樹脂の需要は増加傾向にあり、さらなる普及が見込まれています。
しかし、PLA樹脂がいくら環境に優しい素材でも、過剰な使用や使い捨てを続けてしまっては意味がありません。私たち一人ひとりが、PLA樹脂製品などの環境負荷の低い製品を選ぶだけでなく、リユースやリサイクルを意識し、持続可能な消費行動を実践することが重要です。
環境を守るためには、まずは製品の適切な処理や資源の無駄遣いを避けることが大切なのです。持続可能な社会の実現に向けて、あなたも意識を持ち続け、できることから行動しましょう。
<参考文献・引用文献>
*1)PLA樹脂とは
WIKIMEDIA COMMONS『Polylactides Formulae V.1』
経済産業省『バイオプラスチック導入ロードマップ』(2021年1月)
生分解性プラスチックとは?種類や原料、問題点から使用例、企業の取り組みを解説
環境省『プラスチック資源循環 バイオプラスチックとは?』
経済産業省『プラスチックを取り巻く国内外の状況』(2020年6月)
経済産業省『化学産業のカーボンニュートラルに向けた国内外の動向』(2023年1月)
経済産業省『化学産業のカーボンニュートラルに向けた国内外の動向』(2024年6月)
経済産業省 環境省『プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律について』(2022年2月)
安藤 義人『バイオマスから作られるポリ乳酸の基礎知識』(2022年)
NEDO『非可食性バイオマスを原料とした海洋分解可能なマルチロック型バイオポリマーの研究開発』(2021年)
環境省『バイオプラスチック概況』(2018年9月)
*2)なぜ今PLA樹脂が注目されているのか
環境省『プラスチック資源循環 バイオプラスチックとは?』
環境省『令和3年度バイオプラスチック及び再生材利用の促進に向けた調査・検討委託業務 報告書』(2022年3月)
経済産業省 環境省『プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律について』(2022年2月)
日経XTECH『地球温暖化と海洋ごみに二刀流、日本の生分解プラに世界が注目』(2022年7月)
日経XTECH『日本企業からバイオプラ製品が続々誕生、PLAの成形と金型技術で世界をリード』(2024年7月)
日本政府投資銀行『資源循環型社会で注目される生分解性プラスチック』
環境省『令和2年度 <脱炭素社会を支えるプラスチック等資源循環システム構築実証事業>(オールバイオマスプラからなる耐衝撃性樹脂の開発と用途展開)』(2021年3月)
日本経済新聞『旭化成や住友化学、植物由来のプラスチック原料量産へ』(2023年6月)
日本経済新聞『再生プラ使用量、事業者に目標設定を義務化へ 経産省』(2024年6月)
NEDO『バイオプラスチック分野の技術戦略策定に向けて』(2019年11月)
*3)PLA樹脂のメリット
日本経済新聞『帝人フロンティア、分解しやすいポリ乳酸樹脂』(2022年12月)
日経XTECH『日本は「本物志向」を歩むべし 成形技術で先駆けるPLA製品群』(2021年11月)
日本経済新聞『海水で分解しやすい樹脂、強度も高く 産総研とカネカ」(2024年4月)
近畿経済産業局『軽く・薄く・美しい『耐熱性生分解性プラスチック』の射出成形技術』
島津製作所『生分解性プラスチック』
産総研『微生物が作り出すプラスチックでポリ乳酸の生分解性と伸びを改善』
*4)PLA樹脂のデメリット・欠点
MRI『生分解性プラスチックの課題と将来展望』(2019年4月)
経済産業省『資源循環経済政策の現状と課題について』(2023年9月)
経済産業省『METI Journal 【親子で学ぼう時事問題】プラスチック削減と資源循環社会』(2023年8月)
資源エネルギー庁『カーボンニュートラルで環境にやさしいプラスチックを目指して(前編)』(2022年1月)
資源エネルギー庁『カーボンニュートラルで環境にやさしいプラスチックを目指して(後編)』(2022年1月)
*5)PLA樹脂が使われている製品事例
環境省『バイオプラスチック導入ロードマップ【概要】』(2021年1月)
経済産業省『バイオ製品の普及に向けた取り組み』
経済産業省『特定プラスチック使用製品の使用の合理化に係る実証等事業』(2023年3月)
内閣府『戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)サーキュラーエコノミーシステムの構築 社会実装に向けた戦略及び研究開発計画』(2024年5月)
神戸精化株式会社『生分解性バイオマスプラスチック ポリ乳酸って何だろう?』
KAO『花王ケミカルだよりNo.68』(2012年)
XYZプリンティング『PLA』
XYZプリンティング『抗菌性PLA』
XYZプリンティング『カーボンPLA』
XYZプリンティング『タフPLA』
富士ケミカル株式会社『ラクリエ ポリ乳酸(樹脂)とは』
*6)PLA樹脂とSDGs
国際連合広報センター『SDGsのポスター・ロゴ・アイコンおよびガイドライン』