株式会社サンゲツ 保田貴博さん 井上隼輝さん インタビュー
保田 貴博
大学卒業後、株式会社サンゲツに入社。営業・総務・人事を経て、2006年から11年間マーケティングを担当、このタイミングでISO事務局となったことをきっかけに、品質とともに環境についての学習と取り組みをスタート。2018年からは、現在の所属部署であるESG推進課(18年時点ではCSR推進課)に着任し、現在に至る。ESG推進課では、サンゲツグループのE(環境)、S(社会)、G(ガバナンス)の取り組みを体系化し、ESG委員会および各分野の分科会を中心として、グループ全体での社会価値向上を目指し、ESG活動を推進している。経営との意思疎通、各部門との連携が重要な業務であり、関係者の多大なる協力を得ながら取り組みを進めている。プライベートでは、自然保護やボランティアをライフワークとして活動中。
井上 隼輝
大学を卒業後、株式会社サンゲツに入社。入社以来、最初の6年間は営業部署で勤務。高校時代から献血などの活動に関心があり、2020年に社内の社会貢献活動を推進するESG推進課(当時はCSR推進課)を希望し配属される。ESG推進課で環境関連の業務を経験する中で、環境問題への関心が一層深まり、現在は環境に関する取り組みやSDGs、ESGの社内外への浸透を主な業務としている。具体的には、環境面ではGHG排出量の削減計画の立案・実行、資源循環の面では「見本帳リサイクルセンター」の管理者として、見本帳の分解・リサイクルの推進に取り組んでいる。また、生物多様性の保護にも焦点を当て、社内での認識向上に努めている。持続可能な社会の実現に向けて、企業単位で積極的に取り組む仕組みを目指している。
目次
introduction
株式会社サンゲツは、スペースクリエーション(空間創造)を通じて、社会課題の解決、社会価値の創出を目指す企業です。
早い時期から環境・社会への貢献活動に取り組んでいた同社は、インテリア・建築業界のサステナビリティを牽引し、サプライチェーン全体での取り組みを目指し、社内向けの施策の実行だけでなく積極的に外部への情報発信もしています。
今回は、ESG推進課の保田貴博さんと、井上隼輝さんにSDGsの取り組みや、ESG活動についてお話をお聞きしました。
2030年に目指す姿「スペースクリエーション企業」とは
–最初に株式会社サンゲツのご紹介をお願いいたします。
井上さん:
サンゲツグループは、壁紙・床材・カーテンなどのインテリア商品、カーポート・門扉や門柱といったエクステリア商品を主軸に事業展開をしている会社です。国内だけでなく北米・東南アジア・中国・香港等の海外にも事業を拡大しています。
また、2030年に目指すべき姿を「スペースクリエーション企業」とし、内装材だけでなく空間を構成する照明器具や家具なども含めた、空間全体の提案にも注力しています。具体的には「その空間でどう過ごすか」というコンセプトの提案、空間の実現に必要な商品・物流・施工の各機能を組み合わせて提供する事業を強化しています。
–御社が「スペースクリエーション企業」として目指していることは、どのようなことでしょうか。
井上さん:
スペースクリエーションを通じて社会課題の解決、社会価値の創出につなげていくことを目指しています。
弊社は、2024年1月に企業理念を刷新しました。
Dream(実現する未来像)を「誰もが明日の夢を語れる世界」とし、それを実現するためのPurpose(存在意義)「すべての人と共に、やすらぎと希望にみちた空間を創造する。」を最上位の概念としています。Purpose を形づくる企業の信念を Belief、社員の姿勢を Way として定めています。
サンゲツ単体だけでなく、グループ企業として事業を拡大していくうえで、目指すべき姿を社員と経営陣とで作り上げました。サンゲツグループが取り組むべき社会問題とは何か、解決のためにどのような貢献が必要かということを議論し、一人ひとりが社会問題解決へ意識を高めることで、長期的な価値の提供を目指します。
また、弊社ではサステナビリティを事業と一体としてとらえ、持続可能な社会実現のために長期ビジョン「DESIGN 2030」を定め、SDGsへの取り組み、ESG「Environment(環境)・Social(社会)・Governance(ガバナンス)」活動にも力を入れています。
「インテリア業界のSDGsはサンゲツに聞こう!」サスティナビリティで業界を牽引する
–では、御社のSDGsの取り組みへの考え方を教えてください。
井上さん:
弊社は長期ビジョンにて、実現を目指す社会価値として「みんなで(Inclusive)・いつまでも(Sustainable)・楽しさあふれる(Enjoyable)社会の実現」を掲げています。そしてこの社会価値の実現のための取り組みをSDGsの目標と紐づけして実践しています。
特に「スペースクリエーション企業」として事業展開するうえで、「目標11 住み続けられるまちづくりを」は大きな関連があり、重点目標として取り組んでいます。
–御社がSDGsに取り組むようになった背景をお聞かせいただけますか。
保田さん:
環境や社会への取り組みは以前より行なっており、2014年に創業家から前社長の安田にバトンが引き継がれたタイミングで、社会にも投資家にもその活動を理解していただきたいとESG活動を拡充しました。
そんな中、2015年にSDGsが採択されました。これを機に、今まで弊社がやってきたことと、SDGsの目標を紐づけして整理し、対外的にアクションを起こしてきたというのが背景です。
2020年頃に、社会でもSDGsが認知されるようになった時には、弊社のSDGsの取り組みは整理され、より積極的な発信を行っていましたので、「インテリア業界のSDGsはサンゲツに聞こう!」と言われるようになり、顧客からの問い合わせも非常に多くなっていました。
過去から活動してきたことが明確になってくると、もっとやらなければならないことが見えてくるんです。そしてより広く、深く求められることで、取り組みがどんどん拡大していると感じています。
–では、インテリア業界・建設業界で、SDGsの取り組みに関しての課題はどのようなことだと思われますか。
保田さん:
業界全体で言えば、SDGsの取り組みがうわべだけのもので終わってしまうことのないように、確実に実践していく必要があると考えています。
インテリアや建設業界では、意思決定が値段によってある程度制限されてしまうことがあります。環境に配慮した資材や商品を使った方が良いことはわかっていても、コストが上がってしまうために、最終的には低環境負荷商品が使われないんですね。
この課題を解決するためには、社会的な認識を変える必要があるのではないでしょうか。
また、社内においては、社員の社会に対する認識やSDGsに対する意識を高めていく必要があると感じています。高い意識と知識を持った社員が、しっかりお客様にSDGsの意義や取り組みを理解していただけるように説明をし、通常の購買活動で低環境負荷商品が選ばれるようにしていくことが、弊社が担ってゆくべき役割だと考えています。
《低環境負荷商品》
–環境・社会・ガバナンス(ESG)の活動は早い時期から取り組まれているとのことですが、具体的にどのような取り組みをされているのでしょうか。
保田さん:
ESGの活動でも、長期ビジョンにおける社会価値の向上を掲げ、「みんなで いつまでも 楽しさあふれる」社会の実現を目標に取り組んでいます。
具体的には、社会価値の向上を中期経営計画に加え、ESG委員会を設けて各部門の部門長を中心に5つの分科会「ガバナンス・人的資本・社会資本・社会参画・環境」を構成しています。この分科会では、課題・問題を設定し、それに対する目標を定め活動しています。
《ESG推進体制》
「環境」の分野では、気候変動・GHG(グリーンハウスガス:CO2)の削減、資源循環に対する取り組みに力を入れています。
環境への取り組みを考えるにあたり、まずは自分達が環境へどのような負荷を与えているのかをしっかり把握することが必要だと考え「環境影響図」を作りました。
この中には、弊社グループだけでなく、多くの仕入れ先や顧客といったプレーヤーが含まれており、サプライチェーン全体での取り組みが不可欠です。
《環境影響図》
弊社では、単体で2029年度にカーボンニュートラル達成を表明しています。
グループ全体では、既存の国内外の製造工場のGHGをどう減らすのかが大きな課題になりますし、工場の新設等によるGHG排出増の要因もありますが、それも踏まえたうえで、55%のGHG削減を目標としています。
また、資源循環の面では、販売ツールである商品の見本帳や商品端材のリサイクルに注力しています。
弊社の商品自体は15年〜20年という長期間使われるロングライフなものですが、壁紙、床材、ファブリックなどの見本帳は有効期間が3年ほどで、毎年約150万冊が発行されます。
《見本帳》
この見本帳は、台紙(紙)や、サンプルチップ(塩化ビニル樹脂・化学繊維など)など、複数の素材が使われているので、リサイクルして単一素材に戻し、純粋な資源として再生することが難しいんです。
弊社がリサイクルを手がける前は、産業廃棄物として業者に引き取ってもらい、焼却されたり、埋め立てられたりしていました。現在は営業担当者が新しい見本帳と引き換えに古いものを回収し、2021年に立ち上げたリサイクルセンターで処理しています。
出展:株式会社サンゲツ
そのほかにも、カーテンやカーペットなどの商品のリサイクルや、廃材のアップサイクルなども積極的に手掛けています。
今後も、リサイクル事業者等、他業種の方々とも協力して、高い水準の資源循環ができるように努力を続けることが重要だと考えています。
—御社では太陽光自己託送システムを導入されているとのことですが、どのようなシステムなのでしょうか。
保田さん:
弊社では、愛知県の中部ロジスティクスセンターⅡに太陽光発電設備を設置し、そこでの自家消費と余剰電力を名古屋市の本社屋に送り利用するといった、創エネ+再生可能エネルギーの効率的な活用を進めています。
《中部ロジスティクスセンターⅡ》
電力会社の送配電網を使用する自己託送は、簡単に実現できる案件ではありませんが、投資回収率が非常に良く、積極的に使っていきたいシステムです。
2024年秋には、東広島にグループ会社の製造工場が立ち上がりますが、その屋根にも太陽光発電設備を設置する予定です。
今後もこのように具体策を実行し、環境負荷低減への取り組みを推進していきたいと考えています。
次世代によりよい環境の社会を引き継ぐための社会貢献活動
–では、「社会」の活動は主にどのようなことをされていますか。
保田さん:
社会に関する取り組みでは、次世代支援を重要テーマとして掲げています。
私達は、将来の世代にこの社会を今より良い状態で引き継ぐことが大切だと考えています。
その中で、次世代への支援が社会貢献活動には欠かせないというのが基本的な考え方です。
具体的な例では、児童養護施設のリフォーム支援があります。
いろいろな事情があり、親元を離れ児童養護施設で暮らす子ども達に、きれいな空間で過ごしてもらいたいと、無償でリフォーム支援を行っています。
現在日本には約600箇所の児童養護施設があり、今までそのうちの200箇所以上を手掛けてきました。
《児童養護施設リフォームの様子》
出展:株式会社サンゲツ
このリフォーム作業は、施工事業者にお願いするだけでなく、弊社の社員も出来るだけ関わり、実際に現場に出向き作業をします。普段は、カタログや施工前の商品しか目にしない社員も多いので、実際に現場で子ども達に喜んでもらい、笑顔を見ることで仕事へのモチベーションも上がりますし、社員自身の仕事の再認識にもつながっています。
その他にも、ダイバーシティの推進や、障がい者雇用、ステークホルダーの方々との取り組みなど、幅広く、着実に実行しています。
–-最後に、今後どのようにサステナビリティの取り組みを進めるのか、展望をお聞かせください。
保田さん:
ESGやSDGsの取り組みは、広く長期に渡りますが、計画した内容を着実に実行していきたいと思っています。
弊社では、サステナビリティに積極的に取り組んではいますが、できていないことも多くあります。
また、サンゲツ単体ではできていても、グループ会社に目を向けると実行が難しいことや、サプライヤーでは、意識変革が必要なことも多々あります。
特に人権に関することなどは、まだまだ遠い世界のように受け止められている節もあります。
そんな中での弊社の役割は、顧客やサプライヤーと密にコミュニケーションを取り、サステナビリティに関する活動を広げ、積極的に情報発信していくことだと考えています。
これからも、弊社の取り組みによってより良い社会となるような、前向きな取り組みを推進していきたいと思います。
–本日は、貴重なお話をありがとうございました。
株式会社サンゲツ:https://www.sangetsu.co.jp/
株式会社サンゲツ サステナビリティ:https://www.sangetsu.co.jp/company/sustainability/