日本の都市の多くがスマートシティ構築に取り組んでいます。しかし、最先端の技術に囲まれて暮らしているように思える日本ですが、実はスマートシティの構築については遅れていると評価されることがあります。
スマートシティの新しいサービスや技術を理解し適切に活用できれば、あなた自身もより快適で持続可能な生活を送ることができます。まちのスマートシティ化に乗り遅れないように、スマートシティについてのメリット・デメリット、成功事例の紹介などから知識を深めておきましょう!
スマートシティとは
スマートシティとは、情報通信技術(ICT)を活用して、都市のさまざまなサービスやインフラを効率化し、持続可能で快適な都市環境の実現を目指した都市のことです。 ICTによるデータ収集・分析・活用により、
- 交通渋滞の緩和
- エネルギーの効率的な使用
- 安全・安心な暮らしの実現
などが期待されています。
Society 5.0でも重要な位置付けに
【Society 5.0までの歴史】
Society 5.0とは、サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する、人間中心の社会です。 スマートシティは、
- デジタル技術を活用することで、社会課題の解決や持続可能な社会の実現を目指す。
- 人々の生活やビジネスの生産性を向上させることを目的としている。
- IoT、AI、ビッグデータなどの技術を活用することで、効率的で持続可能な社会を実現することを目指す。
といった特徴から、Society 5.0の先行的な実現の場と定義されています。このように、スマートシティはSociety 5.0が実現される上で重要な位置付けになっています。
【Society 4.0からSociety 5.0へ】
スマートシティとSociety 5.0は、
スマートシティ | Society 5.0 | |
相違点 | 都市の持続性を高めること | 社会全体の持続可能性を高めること |
都市のインフラや公共サービスの効率化 | 産業やサービスのデジタル化や新しい価値創造 | |
都市の住民や企業の利益追求 | 社会課題の解決や持続可能な社会の実現 |
といったように相違点を挙げることはできますが、目指している方向性は同じと考えて問題ありません。
スマートシティ構想とは
【スマートシティとSociety 5.0の実現する社会】
スマートシティ構想とは、
- さまざまな種類の電子的手法
- 音声活性化方法
- センサー
などを使用して特定のデータを収集する、技術的に近代的な都市部の構想です。そのデータから得られる情報は、資産・資源・サービスを効率的に管理するために使用され、同時に都市全体の運用を改善するためにも使用されます。
先端技術で自然と共存する社会

スマートシティは、自然と共存することも目指しています。スマートシティでは、環境に優しい技術やデータ分析を活用して、
- エネルギー効率の向上
- 廃棄物の削減
- 公共交通の最適化
など、都市の持続可能性を向上させる取り組みが行われます。これらの取り組みは、生態系を保護し、循環型経済※や人間社会と自然が調和した持続可能な社会を実現することにも貢献します。
※循環型社会については以下の記事をご参照ください。
【関連記事】循環型社会とは?現状と日本・世界の取り組み事例・私たちにできること、SDGsとの関連性
【関連記事】サーキュラーエコノミー(循環型経済)とは?リサイクルとの関係・取組事例も
スマートシティ実現で私たちの生活が変わること
スマートシティが実現すると、私たちの生活は今よりも効率的で快適になります。具体的にどのように変わるのか、代表的な例を紹介します。
交通がスムーズになる
交通センサーやカメラを使って、渋滞や事故の情報をリアルタイムで把握し、適切なルート案内や交通制御を行うことができます。そのため、移動がスムーズになり、時間やエネルギーを節約することができます。
安心・安全な生活が送れる
防犯カメラや犯罪予測システムを使って、犯罪を未然に防ぐことができます。また、災害時には、地震や津波などの情報をリアルタイムで把握し、適切な避難案内を行うことができます。
環境にやさしい生活ができる
エネルギー需要予測システムを使って、電力のムダを減らすことができます。また、ごみ箱にセンサーをつけて、ごみの量や種類を把握し、適切に分別することができます。
快適な生活が送れる
家電製品や照明器具にセンサーをつけて、自動的に調節することができます。例えば、人がいない部屋では照明を自動的に消すことができます。また、スマートフォンやタブレットを使って、家の中の環境をコントロールすることもできます。
次の章では、スマートシティの欠かせない重要な技術について解説します。*1)
スマートシティに欠かせない技術

スマートシティに欠かせない技術として、以下のようなものが挙げられます。
- ネットワーク技術
- センシング技術
- 分析・予測技術
スマートシティではこれらの技術によって、都市全体をネットワークで接続し、センサーによって数値化したデータを収集して、分析・予測に活用することができます。
それぞれ詳しく見ていきましょう。
ネットワーク技術
【データ利活用型スマートシティ】
スマートシティを実現するには、さまざまなシステムをネットワークに接続する必要があります。例えば、行政機関のシステムと民間企業のシステムを連携させたり、センサーやカメラを接続してデータを収集したりします。
その際、さまざまなものをネットワークに接続するため、高速で安定したネットワーク環境が求められます。建物内に固定して設置するものであれば高速光回線が、屋外に設置するものであれば5G回線※が有力な選択肢になるでしょう。
スマートシティではこれらを活用した最新の通信システムを設計して運用します。
センシング技術
スマートシティにおいて、センシングシステム※は、都市の様々なデータを収集し、分析するための重要な役割を果たします。この技術により、都市の運営やサービスの提供がより効率的かつ効果的に行われるようになります。
【センシングと音声認証をキーテクノロジーに据えたスーパーシティ】
センシングシステム身近な例
- スマートフォンやタブレットの画面の向きが自動で切り替わる機能:加速度センサーというセンサーが内蔵されており、端末の傾きや振動を検知して自動的に画面の向きを変える仕組みがある。
- 温度計や湿度計:温度や湿度をセンサーで検知して、数字やグラフなどで表示する仕組み。
- 車の駐車場に設置されたセンサー:車が駐車したかどうかを検知して、空き状況を表示する仕組み。
分析・予測技術
スマートシティの構築において、分析・予測技術は都市の様々なデータを収集し、分析することで、都市の運営やサービスの提供がより効率的かつ効果的に行われるために重要な技術です。代表的な分析・予測システムは以下のようなものです。
気象予測システム
気象センサーから得られた気象データを分析し、天気予報を行うシステムです。例えば、雨が降るかどうか、風向きや風速、気温などを予測することができます。
交通流分析システム
交通センサーやカメラなどから得られた交通データを分析し、交通状況を把握するシステムです。例えば、渋滞している場所や時間帯、交通事故が起こりやすい場所などを把握することができます。
犯罪予測システム
警察や防犯カメラから得られた犯罪データを分析し、犯罪が起こりやすい場所や時間帯、犯罪の種類などを予測するシステムです。例えば、夜間や人通りの少ない場所、スリや置き引きなどの「犯罪が起こりやすい傾向がある場所」を知ることができます。
エネルギー需要予測システム
電力会社が持つ電力使用データを分析し、将来の電力需要を予測するシステムです。例えば、夏場のエアコン使用量が多くなる時間帯や、週末や祝日に電力需要が高まるタイミングなどを予測できます。
健康管理システム
スマートウォッチやフィットネスアプリから得られる健康データを分析し、健康状態を管理するシステムです。例えば、歩数や心拍数、睡眠時間などを記録し、健康状態を手軽に把握することができます。
スマートシティで鍵となる重要な技術は、
- ネットワーク技術
- センシング技術
- 分析・予測技術
の3つです。どの技術も世界中の企業が開発にしのぎを削っているものばかりですね!次の章では、なぜスマートシティが重要とされているのかに焦点を当ててみましょう。*2)
なぜスマートシティが重要とされているのか

ここでは、スマートシティ構築が重要とされている理由を様々な角度から確認していきます。
都市の機能やサービスを効率化・高度化
スマートシティは都市の機能やサービスを効率化・高度化し、各種の課題の解決を図るとともに、快適性や利便性を含めた新たな価値を創出することができます。
IoT(Internet of Things)で知識や情報の共有
スマートシティでは、IoT(Internet of Things)で全ての人とモノがつながり、さまざまな知識や情報が共有されます。これによって今までにない新たな価値を生み出すことが期待でき、少子高齢化や地方の過疎化などの課題や困難を克服することにつながると考えられます。
人工知能(AI)の活用
人工知能(AI)により、必要な情報が必要な時に提供されるようになり、ロボットや自動走行車などの技術で、少子高齢化・地方の過疎化・貧富の格差などの課題が克服できると期待されています。
【少子高齢化】
- AIを活用した介護ロボットや医療機器の開発・導入により、高齢者の医療・介護に対する負担を軽減できる。
- AIを活用した健康管理システムや予防医療の実現により、高齢者の健康維持に寄与できる。
- AIを活用した教育システムの実現により、高齢者の学び直しやスキルアップが可能になり、現役世代と同様の社会参加が可能になる。
【地方の過疎化】
- AIを活用したテレワークシステムやオンライン教育の実現により、地方に住む人々が都市圏と同様のサービスを受けられるようになり、地方での生活が魅力的になる。
- AIを活用した自動運転技術の実現により、交通の便が改善され、地方への移住が促進される。
【貧富の格差】
- AIを活用した教育システムの実現により、貧困層の子供たちにも高品質な教育を提供できるようになる。
- AIを活用した雇用システムの実現により、貧困層の人々にも働く機会を提供できるようになる。
- AIを活用した社会保障システムの実現により、貧困層の人々にも適切な社会保障を提供できるようになる。
社会の変革
社会の変革(イノベーション)を通じて、これまでの閉塞感を打破し、希望の持てる社会、世代を超えて互いに尊重し合える社会、一人一人が快適で活躍できる社会となる可能性があります。
日本社会の閉鎖感
現代の日本社会では、
- 若者の就職難
- 年功序列の強さ
- 長時間労働
- 非正規雇用の拡大
などにより、社会的地位や収入の向上が難しくなっているという深刻な問題があります。一方で、地方や農村地域では若者の流出や高齢化が進んでおり、人口減少による経済の停滞や社会的孤立も深刻化している状況です。
閉鎖感の原因
- 高度成長期の終焉やバブル崩壊、リーマンショックなどの経済的な変化により、社会的格差が拡大した。
- 長時間労働や年功序列の強さなど、既存の労働制度が働き方の多様化に対応しきれなくなっている。
- 大企業中心の産業構造や、地方と都市圏の格差が進む中で、地方における雇用や社会インフラの整備が不足している。
- 教育格差や地域格差により、社会的地位や収入の格差が生じている。
- 個人主義や閉鎖的な人間関係の強さが、社会の閉塞感を助長している。
【スマートシティに取り組む意義と必要性】
次の章では、スマートシティの現状について確認しましょう。*3)
スマートシティの現状

スマートシティは経済成長や社会課題の解決を通じて、市民の生活の質を向上させ、新たな価値を創造する方法として、世界中でますます普及しています。日本では、2016年から「第5期科学技術基本計画」が採択され、スマートシティの取り組みが推進されています。しかし、スマートシティ指数※によると、東京は62位から79位、84位と3年連続で順位が下がり、大阪も63位から80位、86位と3年連続で順位が下がっています。これは、日本が都市のスマートさの点で世界に遅れをとっていることを示しています。
日本のスマートシティが世界に遅れている理由は、
- 実用的な実装の欠如:社会実装に結び付かない実証実験が多く、日本のスマートシティの進捗を遅らせた 。
- 部分最適化:日本はエネルギーや交通などの分野で、組織の一部や個人にとって最適な状態を優先する取り組みが多い。
- 規制や法律の遅れ:日本ではスマートシティに必要な規制や法律の整備が遅れているため、新しい技術やサービスを導入することが難しい。
- 既存のインフラの更新が遅れている:日本では既存のインフラの更新が遅れているため、新しい技術を導入することが難しいとされている。
- 産業構造の変化が遅れている:日本では産業構造の変化が遅れているため、新しい技術やサービスを開発することが難しい。
などが考えられます。
日本のスマートシティの今後
しかし、現在日本では、以下のような取り組みが進められています。
スマートシティの実証実験
日本では、スマートシティの実証実験が各地で行われています。これにより、新しい技術やサービスの導入、都市インフラの整備が進められています。
規制や法律の整備
日本では、スマートシティを実現するための規制や法律の整備が進められています。例えば、ドローンの飛行制限や、自動運転車の法整備などが行われています。
産業構造の変化への対応
日本では、新しい技術やサービスを開発するための支援策が進められています。例えば、スタートアップ企業の支援や、研究開発に対する支援などが行われています。
以上のような取り組みが進められていることから、日本のスマートシティが世界に追いつくことは不可能ではないでしょう。
次の章では日本のスマートシティ失敗例を紹介します。*4)
スマートシティの失敗事例
失敗と指摘されている事例は以下の通りです。
【日本】
- 大阪市:スマートシティ構想「OSAKA Smart City」において、自治体と民間企業の協力体制が整わず、事業の進展が遅れました。
- 神戸市:スマートシティ構想「KOBE Smart City」において、市民参加の促進が不十分で、市民のニーズに合わない事業が多くありました。
【海外】
- カナダ・トロント: グーグルの姉妹会社が鳴り物入りで始めたスマート・シティ事業にプライバシー侵害への懸念が生じ、突然の中止に至りました。
- オーストラリア・シドニー:スマートシティ構想「Smart Sydney」において、予算不足や市民のプライバシー保護問題などが原因で、事業が中止されました。
- スペイン・バルセロナ:スマートシティ構想「Smart City Barcelona」において、市民参加の不足や民間企業との協力体制の問題があり、事業の進展が遅れました。
- ブラジル・サンパウロ:スマートシティ構想「Smart City Sao Paulo」において、政治的な腐敗や予算不足などが原因で、事業が中止されました。
スマートシティの失敗原因は様々であり、上にあげた例以外にも多数存在します。成功事例からも学びを得つつ、失敗事例からも教訓を得て、より良いスマートシティの実現に向けて取り組むことが重要です。
続いて日本の成功例を紹介します。
日本におけるスマートシティの成功例
日本においても、スマートシティの成功例はいくつかあります。特に知られているスマートシティの例を紹介します。
横浜市
横浜市では「横浜スマートシティプロジェクト(YSCP)」を実施し、スマートグリッド※や次世代輸送システムなどの実証実験が行われています。
【横浜市の横浜スマートシティプロジェクト(YSCP)】
横浜スマートシティプロジェクト(YSCP)とは
横浜スマートシティプロジェクト(YSCP)では、
- エネルギーの効率化:太陽光発電や地熱発電などの再生可能エネルギーの導入や、省エネルギー化
- 交通のスマート化:自動運転車の実証実験や、交通情報の収集・提供
- 生活の利便性の向上:ICT技術を活用したスマートホームの導入や、スマートフォンアプリを活用した情報提供
- 災害対策の強化:地震や津波などの災害に備えた防災システムの導入や、避難所の情報提供
といった取り組みが進められています。
横浜市の現在の様子
現在の横浜市では横浜スマートシティプロジェクト(YSCP)をはじめとするスマートシティへの取り組みが進んでおり、生活や交通、防災などの分野で、ICT技術を活用した新しいサービスやシステムが次々と導入されています。
- 自動運転バスの実証実験:自動運転車の技術の進歩や、交通事故の減少などが期待されています。
- スマートホームの普及:ICT技術を活用したスマートホームの普及により、エネルギーの節約や、生活の利便性の向上などが期待されています。
- 防災システムの導入:地震や津波などの災害に備えた防災システムの導入により、災害時の情報提供や、避難所の情報提供などがスムーズに行われるようになります。
豊田市
豊田市は「豊田市スマートシティ創造プロジェクト」を実施し、住民参加型のエネルギー管理や次世代輸送システムなどの実証実験が行われています。このプロジェクトは、トヨタ自動車を中心に、自治体、企業、大学などが協力して、持続可能な社会を目指す取り組みです。
豊田市を「人と自然が調和する未来都市」にすることを目標に、エネルギー・交通・情報通信・健康などの分野で、さまざまな取り組みを行っています。
【豊田市の都市と山村をつなぐ連携のイメージ】
豊田市スマートシティ創造プロジェクトとは
豊田市スマートシティ創造プロジェクトでは、以下のような取り組みが進められています。
- エネルギー:太陽光発電システムの導入や、省エネルギー型の住宅の建設など、エネルギーの効率的な利用
- 交通:自転車や電気自動車の普及、交通システムのスマート化など、交通の利便性と環境負荷の低減
- 情報通信:スマートフォンアプリの開発や、インターネットを活用した情報提供など、情報通信技術を活用したサービスの提供
- 健康:健康管理システムの開発や、健康的な食生活の推進など、健康的な生活をサポート
【豊田市の公共施設及び利用者、活動団体等との連携】
トヨタ自動車との関係
トヨタ自動車は豊田市に本社を置く企業であり、このプロジェクトにおいて中心的な役割を担っています。トヨタ自動車は、自動車産業を通じて、積極的にエネルギー・環境問題の解決を目指す取り組みを推進しています。豊田市スマートシティ創造プロジェクトは、トヨタ自動車がその取り組みの一環として、地域社会と協力して持続可能な社会を実現することを目指しています。
このほかにも、京都市や福岡市のスマートシティの取り組みは成功例として挙げられます。次の章では海外のスマートシティに取り組む都市の例を紹介します。*5)
海外におけるスマートシティの事例
ここで紹介する海外のスマートシティ事例は、IoTやAIなどの技術を活用して、都市の課題解決に取り組んでいる先進的な取り組みです。
ヘルシンキ(フィンランド)

フィンランドはSDGsへの取り組みが進んでいる「SDGs先進国」です。フィンランドの首都、ヘルシンキも持続可能な社会を目指し、情報技術を活用したスマートシティの実現を目指しています。
ヘルシンキは2016年にMaaS(Mobility as a Service)を世界で初めて実用化しました。MaaSとは電車やバス、タクシーなどの交通手段を1つのシームレスなサービスとして捉え、情報の検索から予約、決済まで統合して行うシステムです。
【関連記事】【2023年最新】SDGsランキング1位フィンランドの取り組み
ヘルシンキのスマートシティへの取り組みの特徴
ヘルシンキは北欧の都市であり、厳しい冬が訪れるため、暖房や交通システムの効率化が求められます。そのため、エネルギー効率化や交通システムの改善が重視されています。
また、ヘルシンキはフィンランドの首都であり、国内外から多くの人々が訪れます。スマートシティの取り組みにおいても、観光客向けのサービスや多言語対応が重視されています。
そして、ヘルシンキのバルト海に面しているという位置的な特徴から、海洋資源や海洋環境にも注目が集まっています。スマートシティの取り組みの一環として、海洋環境の保護や、海洋資源の持続的な活用も重視されています。
他にもヘルシンキは、フィンランドの中でも最大の都市であり、人口密度が高いため、都市の持続可能性が重要な課題となっています。このため、再生可能エネルギーの利用や、公共交通機関の充実などが重視されています。
ヘルシンキのスマートシティの取り組み事例
ヘルシンキで実際に行われているスマートシティの取り組みは以下のようなものがあります。
- スマートフォンアプリを活用した公共交通機関の利用促進
- 自転車レンタルシステムの導入
- エネルギーの効率的な利用を目指した建物の設計や、再生可能エネルギーの導入
- 健康管理アプリの提供や、健康的な食生活の推進
- 防災システムの整備や、治安の維持
ニューヨーク(アメリカ)

ニューヨークのスマートシティの取り組みは、都市の持続可能性、効率性、そして市民の生活の質を向上させることを目的としています。 2016年にはベスト・スマートシティ※に選ばれた実績があります。
ニューヨークのスマートシティへの取り組みの特徴
ニューヨークのスマートシティの取り組みは、
- 都市の多様性
- 人口密度
- 交通網の発達
といったニューヨークの都市としての特徴に関連しています。また、アメリカの他の都市と比較して、ニューヨークは国際都市であるため、多言語対応や国際的な視野に配慮したプログラムが多く存在しています。
ニューヨークのスマートシティの取り組み事例
ニューヨークで実際に行われているスマートシティの取り組みには以下のようなものがあります。
- LinkNYC:市内の公共スペースに設置された無料Wi-Fiホットスポット。また、USB充電ポートや無料の国際電話サービスも提供する。
- NYC Open Data:市が公開するデータポータルで、市民や企業がニューヨーク市のデータにアクセスし、利用することができる。
- NYCx:市民が提案したアイデアをもとに、市が実験的なスマートシティプロジェクトを実施するプログラム。
- Bigbelly:太陽光発電で動くごみ箱。ゴミの量をモニタリングし、必要に応じてゴミ収集を行う。
このほかにも、アムステルダム(オランダ)やバルセロナ(スペイン)もスマートシティ化が進んでいる都市として有名です。
次の章ではスマートシティのメリットについて確認していきましょう。*6)
スマートシティのメリット
スマートシティのメリットを行政側からと市民側から見ていきましょう。
スマートシティの行政側のメリット
まずは行政側のメリットを確認します。
メリット①持続可能な都市の実現
スマートシティ化によって、将来の世代にとって暮らしやすい都市を実現できます。ICTの活用を通して、さまざまな社会課題が解決され、生活の質が向上するためです 。
メリット②防災や減災
自然災害のリスクがある地域では、スマートシティ化による防災や減災が期待できます。地域の特定箇所にIoTのセンサーやカメラを設置することで、河川の氾濫や土砂崩れなどの危険性を早期にキャッチし、住人への的確な避難の促進が可能になります 。
メリット③ビジネスチャンスの創出
スマートシティ化により自治体や教育機関、そして民間企業の連携が進み、新たなビジネスが生まれる可能性が期待されています 。
スマートシティの市民側のメリット
続いては、市民側のメリットを見ていきましょう。
メリット①交通状況の改善
スマートシティでは、交通情報をリアルタイムで提供することができるため、渋滞状況や公共交通機関の運行状況を把握しやすくなります。また、自動運転車の普及によって、運転手がいなくても移動できるようになるため、交通の負担が軽減されます
メリット②環境への負担が軽減
スマートシティでは、建物や街路灯などの設備が省エネ化され、CO2の排出量が削減されます。また、ゴミの収集やリサイクルなども効率的に行われるため、環境への負荷が軽減されます。
メリット③より健康な生活
スマートシティでは、健康管理や医療に関するデータを収集・分析することができるため、個人に合わせたアドバイスを提供することができます。また、運動や食事などの健康習慣をサポートするアプリやサービスも提供されます。
メリット④生活サービスの向上
スマートシティでは、スマートホームの設定や操作を行うことができるため、家事の負担が軽減されます。また、スマートファクトリーの遠隔監視や制御を行うことで、生活に必要な製品やサービスの供給がよりスムーズに行われます。
メリット⑤自分の価値観にマッチした生活
スマートシティはそれぞれの人がより自分の価値観にマッチした生活を送ることができるとされています。
メリット⑥安全性の向上
スマートシティにより、防災や治安の面でも安全性が向上します。
スマートシティが社会問題解決につながる例
- 人口減少: 時代とともに変化する人口増減やエネルギー消費などの社会問題、住民の価値観やニーズに合わせて、最適な都市運営の継続を目指しています。
- 高齢化: ICTの利活用によって、子どもや高齢者の見守りが実現されます。
- 災害対策: ICTの利活用によって、災害対策が実現されます。
スマートシティにはさまざまなメリットがあることがわかりますね!
スマートシティのデメリット・課題
ここでは、スマートシティのデメリットや課題について考えます。
デメリット①プライバシー侵害の問題
スマートシティを構築する過程で、市民のデータ収集などの面でプライバシー侵害に関する問題が起こる場合があります 。
デメリット②サイバーセキュリティリスクの増大
スマートシティでは、最新のデジタル技術を導入したり、ネットワーク網を強化したりして、都市のデジタル化を促進します。しかし、システムトラブルやサイバー攻撃を受けた際に、都市機能そのものが停止してしまうおそれがあります。
デメリット③管理組織によるデータ独占
スマートシティにおいては、都市や人、モノに関する多種多様な情報が集まってきます。管理組織が単一・少数になる場合には、外部からの監視体制が内容や意義を失って、形だけが残った状態になるおそれが生じます。
デメリット④インフラ構築コスト
スマートシティ構想は、短期的に利潤が上がるというものではありません。技術の進展は目覚ましいスピードのため、現在、研究開発に投じた費用が成果となって表れる保証がないのが実情です。
デメリット⑤人の能力の弱体化
スマートシティにおいて、先進的な技術や自動化が進むことで、人間が行っていた作業が機械に置き換えられる可能性があります。これにより、人間がその作業を行う機会が減り、その能力が弱体化することも考えられるのです。
ただし、スマートシティは、人間の生活の質を向上させることを目的としているので、新しい技術やサービスを適切に活用することで、人間がより創造的な活動に集中することができるようになる可能性もあります。
スマートシティに関するよくある疑問

まだまだ発展の余地が多いスマートシティですから、これからも革新的な技術やサービスが開発される可能性があります。現時点で予想できるスマートシティについて、よくある疑問に答えます。
企業ができる取り組みは?
スマートシティは自治体・企業・市民が協力して作るものです。スマートシティに関わる企業ができる取り組みは多くあります。
技術開発の加速
スマートシティ構築には、最新のデジタル技術が必要です。一般企業は、技術開発を加速させることで、スマートシティ構築を推進することができます 。
新しいサービス提供
一般企業は、スマートシティに適応した新しいサービスを提供することができます。例えば、以下のようなサービスが考えられます。
- 駐車場の空き情報を提供するサービス
- 電気自動車の充電ステーションの予約・利用状況を提供するサービス
- 公共交通機関の遅延情報や混雑状況を提供するサービス
- 建物のエネルギー使用量やCO2排出量を分析し、省エネや環境対策のアドバイスを提供するサービス
- スマートホームの設定や操作を行うサービス
- スマートファクトリーの遠隔監視や制御を行うサービス
- 健康管理や医療に関するデータを収集・分析し、個人に合わせたアドバイスを提供するサービス
- 観光客向けの案内やサポートを提供するサービス
- 防災・減災に関する情報を提供するサービス
- セキュリティカメラの映像解析や犯罪予防に関するサービス
データ連携基盤上でのサービスやサービス間連携の開発・実証・実装
一般企業でも、今よりも簡単にデータ連携基盤上でのサービスやサービス間連携の開発・実証・実装を行うことができます。
産官学が連携したエコシステムによる持続可能な仕組みづくり
スマートシティの持続可能性を高めるため、行政、大学、企業等が相互に連携したエコシステムの形成によって、地域にとって費用対効果の高い事業モデルの構築を支援する仕組みをつくることができます。
取り組んでいる特別区はある?
「スーパーシティ特別区」という、住民が参画し住民目線で、2030年頃に実現される未来社会を先行実現することを目指すという特別区があります。
スーパーシティ型国家戦略特別区域の指定に関する公募が行われ、地方公共団体が応募することができます。応募した地方公共団体は、特区として指定される区域、実施する先端的サービス、規制改革等に関する提案を行います。
【スーパーシティの構成】
取り組んでいる自治体一覧は?
スマートシティに取り組んでいる自治体一覧として、国土交通省が作成する「スマートシティプロジェクト箇所図」が公開されています。
【先行モデルプロジェクト】

【重点事業化促進プロジェクト】
スマートシティとSDGs
スマートシティとSDGs(持続可能な開発目標)の関係として、
- 都市が抱える課題を解決し、持続可能な社会を実現する。
- エネルギー効率化、温室効果ガス削減、交通渋滞緩和など、SDGsの目標に貢献する技術を活用する。
- 医療、教育、防災などの分野においても、SDGsの目標達成に向けた取り組みを推進する。
などの共通点が挙げられます。スマートシティは、SDGsの多くの目標とも深く関係しています。特に、
- 目標7:エネルギーをみんなに そしてクリーンに(持続可能なエネルギーの利用を促進することができる都市)
- 目標9:産業と技術革新の基盤をつくろう(ICT等の新技術を活用し産業と技術革新の基盤を構築する都市)
- 目標11:住み続けられるまちづくりを(都市や地域の抱える諸課題の解決し住み続けられる都市とコミュニティを実現)
- 目標13:気候変動に具体的な対策を(効率的で温室効果ガスの排出量や環境への負荷が少ない都市)
などの目標は、スマートシティが直接的に貢献できるSDGs目標と言えます。*8)
まとめ:スマートシティのために私たちができること
私たちがスマートシティについての知識を深めることは重要です。スマートシティの構想は、市民が積極的に参加し、自分たちのニーズや意見を反映させることでより効果的に実現されるからです。
私たちにもスマートシティのためにできることがあります。例えば、
- スマートシティの構想や計画について、自治体からの情報を積極的に収集し、理解する。
- スマートシティにおける個人データの取り扱いやプライバシー保護について、注意深く確認する。
- スマートシティの構想や計画に対して、自分の意見や提案を自治体に伝える。
- スマートシティにおける新しいサービスや技術を積極的に利用し、フィードバックを提供する。
などのアクションです。また、ITの知識やスキルを身につけることも、スマートシティのシステムを最大限に活用するためには大切です。
スマートシティは、交通渋滞の解消、エネルギー効率の向上、公共サービスの最適化など、私たちが直面する都市問題を解決すると期待されています。つまり、スマートシティは私たちの未来を変える可能性を秘めているのです。
スマートシティの主役はまちの住人である私たちです!スマートシティについて学び参加することで、あなた自身の手でより良い未来のまちを築きましょう!
〈参考・引用文献〉
*1)スマートシティとは
国土交通省『スマートシティ官民連携プラットホーム』
内閣府『スマートシティ』
内閣府『Society 5.0』
経済産業省『Society 5.0 -ともに創造する未来-」』(2019年1月)
首相官邸『日本のスマートシティSDGsなど世界が抱える課題を 日本のSociety5.0で解決』p.4
内閣府『スマートシティ・ガイドブック(第1版)の公開~Society 5.0の社会実装に向けた一体的推進~』(2021年4月)
*2)スマートシティに欠かせない技術
内閣府『スマートシティ』
総務省『第2部 基本データと政策動向 第6節 ICT利活用の推進 2情報通信基盤を活用した地域振興等』
内閣府『政府による令和2年度のスマートシティ関連事業~共通リファレンスアーキテクチャを踏まえた一体的推進~』(2020年3月)
首相官邸『日本の提供できるソリューション (個別事例集)』
内閣府『スマートシティ・ガイドブック(第1版)の公開~Society 5.0の社会実装に向けた一体的推進~』(2021年4月)
内閣府『スマートシティの推進に向けて』(2020年10月)
内閣府『令和2年度の政府スマートシティ関連事業について』(2020年3月)
内閣府『令和4年度のスマートシティ関連事業の選定結果』(2022年7月)
*3)なぜスマートシティが重要とされているのか
内閣府『スマートシティガイドブック(概要版)内閣府・総務省・経済産業省・国土交通省 スマートシティ官民連携プラットフォーム』p.1(2021年4月)
*4)スマートシティの現状
EIU『Global insights and market intelligence』
EIU『Digitalisation surges in Europe during the pandemic』
東洋経済ONLINE『日本が「都市のIT化」で世界に遅れた苦い事情』(2020年10月)
日経XTEC『日本のスマートシティーは間違いだらけ、デンマークの事例に学べ』
日経BP『世界デジタル・スマートシティ総覧』
*5)日本におけるスマートシティの成功例
横浜市『次世代エネルギー・社会システム実証 横浜スマートシティプロジェクト Yokohama Smart City Project(YSCP)マスタープラン』表紙(2010年8月)
日経ビジネス『スマートグリッドとは? 電力供給、EV、スマートシティに大きな影響』(2022年3月)
横浜市『次世代エネルギー・社会システム実証 横浜スマートシティプロジェクト Yokohama Smart City Project(YSCP)マスタープラン』p.7(2010年8月)
豊田市『こんなまち とよた(市の概要)』
豊田市『豊田市 SDGs未来都市計画』p.16
豊田市『豊田市 SDGs未来都市計画』p.17
豊田市『豊田市 SDGs未来都市計画 (2021~2023)みんながつながる ミライにつながるスマートシティ』
内閣府『スマートシティ・ガイドブック(第1版)の公開~Society 5.0の社会実装に向けた一体的推進~』(2021年4月)
総務省『第2部 基本データと政策動向 第6節 ICT利活用の推進 2情報通信基盤を活用した地域振興等』
デジタル庁『デジタル社会の実現に向けた重点計画』
*6)海外におけるスマートシティの事例
JETRO『欧州主要国のスマート・グリッドへの取り組み 2』
NEDO『 アムステルダムの「スマートシティ」プログラム』
内閣府『欧州のスマートシティ戦略 ーフィンランドのスマートシティを中心に-』
Smart Cities Council『Action and Impact for People • Place • Planet』
Smart Cities Council『The Smart Cities Council Story』
国土交通省『スマートシティの海外展開推進』
*7)スマートシティに関するよくある疑問
内閣府『スマートシティが目指す姿と直近の課題』(2021年4月)
内閣府『スーパーシティ・デジタル田園健康特区について(国家戦略特区制度を活用したデジタル田園都市国家構想の推進)』P.1(2023年5月)
内閣府『スーパーシティ型国家戦略特別区域の指定に関する公募の応募状況について』
内閣府『スーパーシティ・デジタル田園健康特区』
国土交通省『スマートシティプロジェクト箇所図』
*8)スマートシティとSDGs
環境省『平成29年版環境・循環型社会・生物多様性白書 第2節SDGsの各ゴールの関係と世界の現状 1SDGsの各ゴールの関係』