年間800万トン以上。(※1)
毎年、東京スカイツリー222基分の重量に相当するプラスチックが海へ流れ込んでいます。
便利で汎用性のあるプラスチックは、おもちゃ、医療機器、コンピューターや保存容器などあらゆる場面で私たちの生活に貢献しており、今や欠かせない存在です。
その一方で、廃棄方法や大量生産によって、地球温暖化、資源問題、海洋プラスチックゴミ問題に発展しており、早急な解決が求められているのも事実です。
ただ、この課題をプラスに考えると、プラスチックは私たちの生活に深く関わっている分、扱い方や向き合い方を変えることで改善に向かいます!
そこで本記事では、
- 世界で起きているプラスチックゴミの現状と問題点
- 人や環境へ与える影響
- 汚染拡大に歯止めをかけるために今すぐできるアクション方法
を紹介します。
はじめに、そもそもなぜプラスチックゴミがクローズアップされているのか、その背景に迫りましょう。
目次
なぜ今プラスチックゴミ問題が注目されているのか
プラスチックゴミ問題は、1960年代に既に一部の研究者の間で注目され、議論が重ねられてきました。
そして近年になって、
- プラスチックゴミが海洋汚染を深刻化していること
- 海の生態系が受けていること
などが明らかになり、関心が高まってきたのです。
詳しい説明に入る前に、まずは私たち個人のプラスチックゴミについての問題意識について確認しましょう。
内閣府が発表した環境問題の世論調査(2019年8月)の調べでは、約9割の人々がプラスチックゴミ問題に関心があると答えています。(※2)
もう少し踏み込んで、いつ頃からプラスチックゴミが意識されるようになったのか、Googleトレンドで推移を見てみましょう。
過去5年間で変化した人々の関心度
Googleトレンドの推移を見てみると、プラスチックゴミへの関心の変化は過去5年間で徐々に右肩あがり。(2021年9月時点)
特に2019年ごろから一気に関心度が高まっていることが分かります。
この理由として、レジ袋の有料化が挙げられます。
レジ袋有料化

日本では2020年7月からレジ袋の有料化が義務化されました。(※3)
それ以前から有料化の議論が進んでいたため、なぜプラスチック製のレジ袋が無料配布されなくなったのか?という疑問から関心を持ち始めた人が多かったことが、最近注目を集めている理由のひとつだと考えられます。
では、レジ袋が有料化になるまでの経緯を整理してみましょう。
最初にプラスチックを削減するきっかけとなった出来事が、2018年に採択された「海洋プラスチック憲章」です。
この憲章では、
- 2030年までに、プラスチック包装、容器などを55%をリサイクルおよびリユースする
- 2040年までにすべてのプラスチックを産業界および中央政府、地方自治体の協力のもと100%回収する
など具体的な数値目標が提示されました。(※4)
これに対して日本は、プラスチック憲章の具体的な数値目標が現状に合わないことを理由に署名を見送りました。
とはいえ、使い捨てプラスチック消費量はアメリカに次いで2番目に多く、何かしらの対策が必要となります。
そこで日本は、2019年5月31日に「プラスチック資源循環戦略」を策定しました。
この内容は、
・2030年までにワンウェイプラスチックを累積25%排出抑制
・2025年までにリユース・リサイクル可能なデザインに
・2030年までに容器包装の6割をリユース・リサイクル
・2030年までに再生利用を倍増
・2030年までにバイオマスプラスチックを約200万トン導入
環境省 プラスチック資源循環戦略
というものです。
これを総合的に推進するための重点戦略として掲げられたのが、「レジ袋有料化義務化」です。
この政策を全国民に広めるため、義務化に合わせて2020年6月25日に環境省と経済産業省は「みんなで減らそうレジ袋チャレンジ」のキャンペーンを開始しました。
みんなで減らそうレジ袋チャレンジ
キャンペーンでは、1週間、レジ袋をつかわない人を6割にすることを目標にし、プラスチックの消費を見直すことを掲げています。(※5)
では、有料化になることでどのような変化があるのでしょうか。
レジ袋チャレンジによって訪れたレジ袋辞退率
チャレンジ開始後、レジ袋使用状況に関するWEB調査(2020年11月)によると、1週間レジ袋をつかわない人は、3割から7割に増加したことが分かり、4ヶ月で目標を達成することができました。(※6)
このように、レジ袋の有料化がきっかけとなり、急速に関心度が高まってきましたが、もう一つの理由として、近年私たちの周りで浸透してきているSDGsの影響も大きく関係しています。
SDGsの認知度の高まり

まずはSDGsについて簡単に説明します。
SDGsとは
SDGsとは、2015年の国連サミットで採択された、持続可能な地球を実現するための目標です。
達成期限を2030年とし、世界が抱える社会問題や環境問題を解決するために、17の目標と169のターゲットが掲げられています。
日本でも目標達成に向けて取り組む企業が増え、ニュースやメディアでも取り上げられているため、耳にしたことがあるという方も多いのではないでしょうか。
目標14「海の豊かさを守ろう」

プラスチックゴミ問題は、17の目標のなかでも、特に14「海の豊かさを守ろう」の達成に関わります。
海や海の資源を守り、豊かな海を次世代につなぐことを目指す目標14。具体的にプラスチックには言及していないものの、人間が出した大量のゴミや排水が海を汚すことについての解決が求められています。
今後さらにSDGsの認知が高まれば、さらにプラスチックゴミ問題 への関心も寄せられるでしょう。
ここまで、プラスチックゴミの関心が高まった背景について見てきました。次からはより具体的にプラスチックゴミの現状ついて確認しましょう。

プラスチックゴミの現状
プラスチックゴミは想像よりもはるかに深刻な事態を招いています。
海に突如現れる「プラスチックゴミの大陸」
私たちは学校で、世界には6つの大陸があると学びました。
ところが、最近世界の海には7番目、8番目と大陸ができているのです。
その正体は、海面を覆い尽くすプラスチックゴミ。
世界中の海洋プラスチックゴミが、海流によって流されてできてしまったゴミの集合体が、まるで陸のようになっていることから、7番目の大陸、8番目の大陸と呼ばれています。
発見されたのは1997年。海洋研究家のチャールズ・ムーアがハワイからカリフォルニア州までヨットで航海していたところ、太平洋中間地点でおびただしい量のプラスチックゴミが浮遊しているのを目の当たりにしたのです。
ムーア氏はこの現状をプラスチック・スープと名付け、深刻な国際問題として提起しました。
ではなぜこのように1箇所にプラスチックゴミが集まるのでしょうか。
プラスチックゴミが集合体となって浮遊する理由
世界の海には還流と呼ばれる海流が大きく輪を描く場所が5つ(インド洋に1つ、大西洋に2、太平洋に2つ)あり、大きな渦潮を形成します。
海流によって流されてきたプラスチックゴミは還流に集まり、まるで大陸のように海面を覆うのです。(※7)
4,000km離れた海域で見つかった日本製のプラスチック
海は地球の自転と風の影響で常に動き、太陽の熱を受け海流を作ります。そのため、一度海へ投げ出されたプラスチックは海流にのって世界中を旅し続け、回収が非常に困難となります。(※8)
実際、日本から4,000km離れた太平洋の中央に位置するミッドウェー諸島のビーチで、大量の日本製ライターが見つかっています。(※9)
では、このままだと将来海はどうなってしまうのでしょうか。
2050年には魚の需要を上回るプラスチックゴミが海に

環境省の調べによると、2010年の統計では世界192カ国から毎年約800万トンのプラスチックゴミが海へ流れていることが分かっています。
また、2016年に行われたダボス会議では、このままのペースでゴミが増え続ければ、2050年には世界の海に暮らす魚の数よりも、海洋プラスチックゴミのほうが多くなると報告されました。(※10)
蓄積され続けるプラスチック
その理由として、プラスチックは分解されないため、自然に還ることなく残り続けることが挙げられます。
つまり、毎年800万トンずつ流れ出るプラスチックは永遠に海を漂い続け、やがて魚の量を上回ってしまうのです。
ここまでプラスチックゴミの事態の大きさがわかったところで、つぎではこの問題によってどのような影響を招くのかを見ていきましょう。
プラスチックゴミはさまざまな面で悪影響を及ぼす
プラスチックゴミは、既に地球環境や生態系に悪影響をもたらしていることが報告されています。
地球環境への影響
地球環境への影響から見ていきましょう。
地球温暖化の原因となるメタンガス発生
プラスチックゴミは、地球温暖化と直接関係のないように見えます。しかし、ハワイ大学マノア校海洋地球科学技術学部のデービッド・カール教授は、プラスチックが劣化する過程で、温室効果ガスの一部であるメタンやエチレンを放出すると論文で発表しています。

メタンとは、温室効果ガス総排出量16%を占めるガスで、CO2に比べて30倍以上の強力な濃度を持つとされています。
この研究の中ではポリエチレンが放出するメタンの数値は明確に推算されていないものの、太陽光によって劣化した海洋プラスチックゴミが、微量ながらも温室効果ガス発生源となっていると説明しています。 (※11)
生態系への影響
続いては生態系への影響についてです。
海に流れたプラスチックゴミは海洋生物と接触する機会が増えるため、多くの影響を及ぼしています。
動物に絡みつき身動きがとれなくなる

海で暮らす生き物の中でもアザラシやイルカ、クジラなど運動量の多い動物は、プラスチック製の漁網が体に絡みつきやすく、最悪の場合は身動きがとれなくなり、死に追いやられてしまいます。
そうした被害報告は3万件を超え、344種の動物が苦しんでいるのです。(※12)
海洋生物の誤飲
また、プラスチックゴミが増えれば増えるほど、動物の誤飲率が高くなります。
魚や鳥、海で暮らす哺乳類がプラスチック片をエサと間違えて飲み込んでしまい、窒息したり餓死したりする映像や写真を見て、胸を痛めた方も多いのではないでしょうか。
2016年、ドイツで死亡したクジラを解剖したところ、4頭の胃の中に大量のプラスチックが発見されたことが分かっています。(※13)
そのゴミは、
- 13mの漁網
- 自動車のエンジンカバー
- バケツの残骸
などさまざま。
コアホウドリの繁殖地となっているミッドウェー諸島では、親鳥が間違えてひなにプラスチックのかけらを与え続け、1万羽以上が死に至ったと報告されています。(※14)
また、このような誤飲以外にも、生態系への影響はすでにで始めています。
生息環境が失われ、生態系バランスが崩れる
プラスチックゴミは、生物の生息・生育場の減少をもたらし、生態系バランスを崩します。
アメリカの研究によると、プラスチックゴミがサンゴ礁に接触した場合、病気になる確率は4%から89%(※15)に増加することが分かっています。
もし、サンゴ礁が死んでしまった場合、
- 住処にしている魚が行き場をなくす
- さらにはその生物を捕食していた魚なども消えてしまう
など、生態系のバランスが崩れてゆきます。
この研究によると、サンゴ礁に影響を与えるプラスチックゴミはアジア太平洋地域全体で111億個あると推定され、この数は2025年には40%増加すると予測されており、生態系のバランスがさらに壊れてしまうことが懸念されています。
ここまでは、捨てられた際の形状を保ったままのプラスチックによるゴミによる影響を見てきました。
しかし、プラスチックゴミは永遠にそのままの形を保って海を漂い続けるわけではなく、時間とともに劣化して粉々になります。それが、海洋汚染にさらなる追い討ちをかけるマイクロプラスチックです。
マイクロプラスチックとは?

マイクロプラスチックとは5mmよりも小さな破片を指します。(※16)
マイクロプラスチックは、
- 製品から生まれる一次マイクロプラスチック
- 劣化によって細かくなる二次マイクロプラスチック
の2つに分類されます。(※17)
これらがどのようにして海へたどり着くのか、どのようにして出来上がるのか、そのメカニズムを詳しく見ていきましょう。
一次マイクロプラスチック

一次マイクロプラスチックとは、製造段階で微細片または微粒子として作られたものです。
例えば、
- スクラブ入り製品(化粧品・洗顔・研磨剤入り歯磨き粉・シャンプー等)
- マイクロファイバー(化学合成繊維の衣類・タオル等)
が当てはまります。
どのようにして海へたどり着くの?
生活の中で使われた一次マイクロプラスチックは、洗面所や排水溝から廃水として流れ海へたどり着きます。他にも、キッチンやお風呂のスポンジなどのプラスチック製品が擦り切れて流出するケースも見られるようです。
【補足】 最近では環境汚染の悪化により、使用制限や販売規制をしている国や地域、企業が増えてきています。
二次マイクロプラスチック

一方で、二次マイクロプラスチックは、先述したように大きなプラスチック製品が自然環境の中で徐々に砕け、細かくなったものを指します。
例えば洗濯物を干そうとした際に、プラスチック製の洗濯バサミをつまんだらパキッと割れて粉々になって細かい粉が舞ったという経験をした方も多いと思います。
これがプラスチックが劣化し、マイクロプラスチックとなった瞬間です。
では、海では一体どのようにマイクロ化するのでしょうか。
二次マイクロプラスチックが大量発生する理由
二次マイクロプラスチックを大量に生み出す理由は、紫外線が関係します。
- プラスチックゴミが海を漂い、やがて砂浜へ打ち上げられると、照りつける紫外線や日光を受け劣化が進みます。
- そして雨や風によって砂と擦れ合うことで細かく砕け、マイクロプラスチックとなります。
- その後は、再び波によって海へ戻ります。
こうして海面と海岸を移動しながら二次マイクロプラスチックが大量発生するのです。
では、マイクロプラスチックはどのような影響を与えるのでしょうか。
マイクロプラスチックの影響は?
環境省によると、マイクロプラスチックを生物が体内に取り込んだ場合、さまざまな影響を及ぼすことが懸念されています。(※18)
そのなかの1つにプラスチックを製造する際に添加される化学物質があります。
化学物質・環境ホルモンを吸着・含有するマイクロプラスチック

プラスチックには、難燃剤、帯電防止剤、透明化剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、防カビ剤などの添加剤が含まれています。(※19)
海へ流出したマイクロプラスチックにはこれらの添加剤が残留しているものが多く、漂流している間に海水に溶け出しているのです。
さらには、プラスチックは化学物質を吸着する性質を持つことが分かっています。そのため、漂流している間に海に広がった汚染物質を吸着したマイクロプラスチックを餌と間違えて食べてしまえば、生物の体内に侵入してしまうのです。(※20)
化学物質が与える生態系への影響
東京農工大学の研究チーム(※21)によると、海の生物が汚染物質を取り込んだ場合、胃液の脂成分によって溶け出し、腸で吸収された後、肝臓や脂肪組織に蓄積します。
これにより、血液異常や肝機能障害を引き起こすことが明らかとなりました。
では、汚染物質を取り込んだ魚類を人間が食べた場合、どのような影響があるのでしょうか。
人間への影響は?
人間が魚類を介してプラスチックを摂食した場合、汚染物質は人体に蓄積してしまいます。
化学物質の中でも人間の内分泌系の働きに影響を与えると懸念されているのが、ビスフェノールAやノニルフェノールと呼ばれる環境ホルモンです。
これらは下記のプラスチック製品に使われています。
- ビスフェノールA
ポリカーボネート、エポキシ樹脂 - ノニルフェノール
塩化ビニル製製品(プラスチック製器具、容器包装、乳幼児用玩具、ペットボトルの蓋)
EU法REACH規則により使用が規制されていましたが、2019年時点ではペットボトルの大半に含まれていることが分かっています。
これらを人間が取り込んだ場合、
- 生殖機能の異常
- ガン発生率の増加
- 神経系、免疫系の異常
を発生させると報告されています。(※22)
ただ、プラスチックは基本的に魚の内臓に蓄積されており、大半は食べる際に取り除くケースが多いため、そこまで心配する必要はないとのことです。とはいえ、小魚や貝など内臓を一緒に食べるものは摂取する可能性もあるのです。
なぜ海にプラスチックゴミが増えているの?
ここまででプラスチックゴミが与える影響を見てきました。これらの問題を解決するには海洋プラスチックゴミを減らさなければなりません。そのためにもまずは原因を突き止めることが重要です。
海洋プラスチックゴミの8割が陸由来

海に捨てられるプラスチックゴミは、漁師や海水浴に来た人がポイ捨てしているのでは?と想像する方も多いと思います。しかし、政府広報オンライン(※23)によると、海に浮遊するプラスチックゴミの80%は陸上由来のものであることが分かっており、ほとんどが街から流れ着いたものなのです。
では、どのようにして海にたどり着くのでしょうか。
街中のプラスチックが海にたどり着くまで
プラスチックゴミは、先進国・途上国問わず、世界中から発生して海に流れ出ています。
ポイ捨てが川から流出して海にたどり着く
先進国のケースとして、
- 街中、川沿い、遊歩道、公園でのポイ捨て
- 災害によって流れ出るゴミ
などのゴミが雨風にさらされ、側溝をつたって野川の支流にたどり着き、流れに沿って海まで運ばれます。
貧困地域からのゴミ流出の背景
回収設備やゴミ処理施設が整っている先進国ですらこのような状況であるため、貧しい途上国でのゴミの流出はさらに深刻です。
途上国で不法投棄される理由は、
- 環境教育が十分にされていない
- ポイ捨てが当たり前になっている
- 処理設備が不十分
など、が挙げられます。(※24)
このなかでもポイ捨てに関しては、人々の知識不足に加え、習慣から抜け出せないことも関係します。
これまで途上国では、食品を包む場合は葉っぱを使用したり、果物であればそのまま持ち運ぶことが当たり前でした。これらはポイ捨てしても自然に還る素材です。そのため、ポイ捨てが習慣化しており、プラスチックが普及してからもその意識のままの人が多くいるのです。
また、ゴミ箱が街中に設置されていない、収集する車が来ないという理由から、行き場のないゴミが増え、海に流れ出る確率が高くなってしまいます。
実際に海洋に流れ出るプラスチックゴミをランキング(※25)を見ると、
- 中国
- インドネシア
- フィリピン
と開発途上国が並んでいます。
そして途上国のゴミ問題は、生活圏でのポイ捨てに加えてリサイクル問題も絡んでいます。次の章で見ていきましょう。
もう1つの課題。リサイクルの裏側

プラスチックというとリサイクルされているイメージがある人も多いと思います。
しかし実は、ほとんどが燃料として再利用されているだけで、衣服や椅子などにリサイクルされているのはごくわずかです。具体的に日本を例に見ていきましょう。
「リサイクル=すべて元の形に戻る」だけではない
日本のペットボトルのリサイクル率は85.8%(2019年度)と言われています。
高い数値を誇ってはいるものの、一般的なイメージである「別のモノに生まれ変わるリサイクル」は、全体のわずか23%にすぎません。
もう少し踏み込んで、リサイクルの種類について説明します。
3種類のリサイクル。それぞれのメリットと問題点
ペットボトルのリサイクル方法は、
- マテリアル リサイクル
- ケミカル リサイクル
- サーマル リサイクル
の3つがあります。
それぞれのメリットと問題点を見てみましょう。(※26)
マテリアルリサイクル
マテリアルリサイクルは一般的にイメージされるプラスチック容器、食品用トレイ、衣類、洗剤ボトルに生まれ変わるリサイクル方法で、全体の23%を占めています。
<メリット>
耐久性が高い、軽量、加工しやすいという汎用性の高さ
<問題点>
何度も繰り返し再生されることで劣化が起き、品質が劣ってくる。また分別や異物除去に手間がかかる
ケミカルリサイクル
ケミカルリサイクルはガス化、ペットボトル、製鉄所の還元剤、燃料に使われるリサイクル方法で、全体の4%を占めています。
<メリット>
何度でも再生可能
<問題点>
加工時に莫大なエネルギーを放出
サーマルリサイクル
サーマルリサイクルは発電、暖房、温熱供給などに利用されるリサイクル方法で、全体の56%を占めています。
<メリット>
埋め立てが減る、エネルギー量が増える
<問題点>
燃やす際に発生するダイオキシン、燃焼後に残る鉛や水銀などの毒物の危険性。さらにはCO2の発生も。
リサイクルと聞くとエコな取り組みに感じますが、とりわけ温暖化の原因となる二酸化炭素の排出は削減できていないことが課題として挙げられているのです。
海外で再資源化?輸出される廃棄プラスチック

また、上記のリサイクル方法以外にも、廃棄プラスチックを海外に輸出する方法も取られています。
財務省の発表によると、2020年に輸出した廃プラ総量は82万1,000トン。
輸出先は、
- マレーシアに26万1,000トン
- ベトナムに17万4,000トン
- 台湾に14万1,000トン
でした。(※27)
廃プラを輸出する目的は海外でのリサイクルですが、そこには問題が隠されています。
廃プラ輸出の問題点
廃プラは、マテリアルリサイクルを前提として主に東南アジアの国々へ資源として輸出されます。
ところが、輸出先で再資源化の設備が整っているとは限らず、活用されるどころかゴミとなったり、汚れや異物混入などでリサイクルできないと判断された場合、そのまま海に廃棄されたりしているのです。(※28)
これを受け、2021年1月にバーゼル条約の改定付属書が発行され、リサイクルに適さないプラスチックは輸出の際にその旨を相手国に通告し、同意を得ることが条件となりました。(※29 )
ここまで見てきたように、プラスチックゴミはリサイクルにも課題を抱えており、対策が急務です。
そこで近年では、世界各国でプラスチックゴミを削減する取り組みが進められています。
【世界】プラスチックゴミを減らす取り組み
ここでは、EU、ドイツ・イギリス・アメリカの例をピックアップして紹介します。
廃棄物削減を目指した「プラスチック戦略」【EU】
欧州連合・EUでは廃棄物削減を目指して、使い捨てプラスチック製品の流通を禁止する「欧州プラスチック戦略」を2019年5月31日に策定し、2030年までに資源循環の徹底を目指す方針を掲げました。
さらに、2021年7月3日以降、プラスチック製や発泡スチロール製の使い捨て食品容器の市場流通を禁止する新規則が施行され、さらなる削減を目指しています。(※30)
これらを受け、欧州各国で積極的な取り組みを開始し、消費者の中でもプラスチックフリーへの関心が高まってきました。具体的に、ドイツの動きを見てみましょう。
使い捨てプラスチックの使用を全面禁止【ドイツ】
ドイツではEU新規則に向けて、2020年9月17日よりプラスチック製のストロー、カトラリー、容器、カップなどの使用を全面禁止にすると発表(※31)し、取り組みを開始しました。
その内容は、
- 綿棒の軸、カトラリーなどの使い捨てプラスチック全般の禁止
- ファストフードでのプラスチック製品禁止
- 化石燃料を原料とするプラスチック、植物由来や生分解性プラスチックの禁止
- リユース可能ボトルに判別用のラベリングを徹底
です。
プラスチックの代替品として採用されているのは木製のカトラリーや再生紙で作られた容器など自然由来のものです。
こうした取り組みから消費者の意識も年々高まり、プラスチックを使わないスーパーマーケットが注目を集めています。
プラスチックゼロ!ドイツのスーパーマーケット
ドイツベルリンにある「Original Unverpackt」は、プラスチック製の包装、容器を一切使用しないスーパーマーケットです。
店頭に並ぶドライフルーツなどのお菓子、小麦粉、お米、シリアル、ナッツ類、調味料、食用オイルは量り売りで販売され、持参した保存容器に入れて持ち帰ります。
地元から仕入れて新鮮な状態で販売されるため、賞味期限を保つための包装は必要ないのです。
ここまではEUでの取り組みでしたが、アメリカの取り組みもみていきましょう。
州、自治体ごとに規制実施【アメリカ】
アメリカ全体では州や自治体ごとに規制や開始年月が異なります。
カリフォルニア州では、2016年から小売店でのレジ袋配布を禁止し、生分解性のものや紙袋を有料化して提供しています。
さらに2022年1月からは、プラスチック飲料容器の提供を禁止する法律「AB-793」が施行されます。
この法律は、再生プラスチックの含有率を年間平均15%にすることを義務付け、その割合を2025年には25%、2030年には50%と引き上げながらリサイクルシステムの構築を目的に策定されました。
一方、ハワイ州では2020年にレジ袋を全面禁止、2022年からは飲食産業での使い捨てプラスチック製品と容器の提供を禁止する予定です。(※32)
これを受け、各企業も廃棄物流出削減に向けて製品開発を進めており、その中から一つ紹介します。
洗濯中のマイクロファイバーをキャッチ!アメリカの便利グッズ
マイクロプラスチックの章で少し触れましたが、衣類にもプラスチックが使われています。
そこで、アメリカではマイクロファイバーが流出することを防ぐために、洗濯機専用の「コラボール」という丸いサンゴの形をしたグッズを開発しました。
コラボールは洗濯中の細かいゴミや髪の毛、マイクロファイバーを絡みつけ洗濯機からのプラスチック流出を防ぎます。
【日本】プラスチックゴミを減らす取り組み
次に日本の取り組みも見ていきましょう。
循環型社会形成推進基本計画
日本では、天然資源の消費を抑え、循環型社会実現すべく「循環型社会形成推進基本計画」が策定されています。
この計画は、現在第四次循環基本計画まで進んでおり、
①経済的側面、社会的側面との統合を含めた「持続可能な社会づくりとの統合的取組」
②「多種多様な地域循環共生圏形成による地域活性化」
③「ライフサイクル全体での徹底的な資源循環」
④「適正処理の更なる推進と環境再生」
⑤「万全な災害廃棄物処理体制の構築」
⑥「適正な国際資源循環体制の構築と循環産業の海外展開の推進」を掲げ、これらを支える
⑦「循環分野の基盤整備」
環境省
の7つをメインにしています。
プラスチックに関する取り組みは、適正処理の推進と環境再生の項目で「マイクロプラスチックを含む海洋ゴミ対策」として掲げられており、レジ袋の有料化もこのなかの一環です。
海洋プラスチックごみ対策アクションプラン
政府は他にも、海洋プラスチックごみ対策アクションプランを策定しています。(※33)
このプランでは、プラスチックの有効利用を前提として、あらゆる技術を駆使して海洋プラスチックごみ問題に立ち向かい、これ以上悪化させないことを目指しています。
このように、政府もプラスチック削減に向けて取り組んでいる最中ですが、企業の協力もなければ達成は不可能です。そこで次では企業の取り組みを見ていきましょう。
プラスチックゴミを減らすための企業の取り組み
ここでは、プラスチックゴミの削減に向けた取り組みを展開する企業の事例を紹介します。
給水スポット設置でペットボトルを減らす「無印良品の水プロジェクト」
無印良品では、ペットボトルを減らす取り組みとして店舗内に給水スポットを設置し、マイボトルを持つ人を増やす取り組み「水プロジェクト」を開始しました。
フィルターで浄水された水道水を給水でき、マイボトルを持っている人なら誰でも利用することができます。
さらに専用アプリでは、無印店舗のほか、公共の給水スポットも知らせてくれるのでとても便利です。
2021年5月時点で利用者は67,924人、20万本のペットボトル削減に貢献しています。
使い捨てプラスチックの廃止「IKEA」
スウェーデンの大手家具メーカーIKEA(イケア)では、2020年1月より店舗内のレストランで使われる使い捨てプラスチックを全廃、製品に使用するプラスチック素材を2030年までに再生可能な素材かリサイクル素材にする計画を進めています。
代わりに店舗のカフェやレストランで採用されているカトラリーは木製と紙製。どちらも持続可能な管理がなされた森林由来の木材を使用しています。
洗剤の量り売りでプラスチック容器削減「エコストア」
ニュージーランド生まれのエコストアは自然環境に配慮した洗剤やボディケア用品を販売するサスティナブルブランドです。
プラスチック削減の取り組みとして100ml単位で量り売りをするリフィルサービスを順次スタート。日本では21店舗(2021年9月時点)で実施されています。
リフィルステーションの特徴は、
- ・エコでプラスチック容器の削減
- ・ボトル商品よりも安く買える
- ・100ml単位で欲しい分だけ買える
- ・どんな容器でもOK
環境に配慮される上にお財布にも優しいと、メリットがたくさんあります。
気になった方はぜひ下記のリンクから実施店舗を探してみてくださいね。
ここまで国や企業の取り組みを見てきましたが、プラスチックを削減するためには、個人でできることもたくさんあります。最後に個人でも取り組めるアクションを紹介します。
私たちにできること
私たちにできるアクションは、使い捨てプラスチックを繰り返し使える素材に変えてみましょう。
アクション1 お気に入りのマイ◯◯運動!
- マイ箸
- マイスプーン
- マイボトル
- マイストロー
- マイバッグ
など、今まで一度使ってすぐ捨てていたものをステンレスや天然の竹などに変えてみましょう。
マイバッグはプラスチックでできたものよりも、丈夫な布製を使うことをおすすめします。
アクション2 「自然に還る」をキーワードに選択してみよう
ものを購入する際、マイクロプラスチックが含まれているかどうか見た目ではわかりません。そこで、ポイントとなるのが自然に還る素材であると記載されている商品を意識して探すことです。
例えば洗濯洗剤。エコベールから発売されているベルギーの洗剤は、
- 原料調達から廃棄にいたるまで全ての段階で化学物質を徹底排除
- ボトルは再利用可能なサトウキビ由来のプランタスティックを採用
エコベールの魅力は、原材料の調達や、水の使用量、CO2排出量までこだわっており、環境と人に対する優しさと強い意志が商品に反映されていることです。
筆者も長年使っていますが、優しい成分なのに汚れがしっかりと落ち、洗い上がりのゴワつきがないので気に入っています。
他にも、最近注目を集めるヨガでも「自然に還る」を意識できます。
市販で売られている低価格のヨガマットには、化学物質であるビスフェノールAやノニルフェノールが添加されたポリ塩化ビニルというプラスチックが使われていることが多く、これらがマイクロプラスチックとなって海に流出した場合、生態系に影響を及ぼします。
筆者は毎日2時間、ヨガの時間を設けていますが、愛用しているのはmandukaジャパンのヨガマット。
- 100%天然ゴムで作られている
- 化学物質不使用
- 耐久性もある
- 廃棄の際は完全に土に還る
という性質を持っています。
このように、自然に還る、をキーワードにして選択することで、ゴミ自体を減らすことができます。
まとめ
今回は、プラスチックゴミ問題の現状と影響、リサイクル事情、海に蓄積する背景や理由をお伝えしました。
プラスチック製品自体は私たちの生活に欠かせないものであり、今後も必要とされるものです。とはいえ、プラスチックゴミに関する知識を理解しただけでは解決にはならず、ひとりひとりの行動がカギとなります。
できることは、プラスチック製品の付き合い方、向き合い方です。
解決の効果が大きい方法は、
- 使い捨てプラスチックを買わない
- プラスチック以外の素材を選ぶ
- マイボトルやマイ箸、マイバッグを持ち歩く
- プラスチックフリーの製品を意識する
- 長持ちする高品質の製品を選ぶ
などです。
冒頭でお伝えしたように、プラスチックが私たちの生活に根付いている分、上記のようにちょっと意識を変えるだけでも貢献できます。
時間はありません。
プラスチックゴミ問題をみなで解決するため、できることから始めてみませんか。
<参考文献>
※1:〔特集〕海洋物理学の今マイクロプラスチックの海洋物理学 磯辺 篤彦
※2:消費者庁「第1部 第2章 第3節 (3)プラスチックごみに対する消費者の意識」
※3:経済産業省
※4:EICネット環境用語 海洋プラスチック憲章
※5:環境省 経済産業省 レジ袋チャレンジとは
※6:環境省 経済産業省
※7:The NOAA Marine Debris Program Garbage Patches
※8:海と船なるほど豆事典
※9:環境省 平成22年度漂流・漂着ゴミ原因究明
※10:環境省 海洋ごみとマイクロプラスチックに 関する環境省の取組
※11 :AFP BB News プラスチック、劣化で温室効果ガス放出 米研究
※12 :Springer Link Deleterious Effects of Litter on Marine Life
※13 :神田外語大学外国語学部国際コミュニケーション学科(中国)海洋生物の涙 ―プラスチックの時代からの脱却を―
※14 :北海道大学大学院水産科学院 ミッドウェー島で海のプラスチック汚染を知る
※15 :Science Plastic waste associated with disease on coral reefs
※16 :東京環境経営研究所
※17 :環境省 海洋ごみとマイクロプラスチックに 関する環境省の取組
※18 :環境省 海洋ごみとマイクロプラスチックに 関する環境省の取組
※19 :株式会社ADEKAプラスチック用添加剤
※20 :東京農工大学 農学部 海洋プラスチック中の有害化学物質と その生物への移行
※21 :東京農工大学 マイクロプラスチックって何だ
※22:石本マオラン株式会社 環境ホルモンの基礎知識
※23 :政府広報オンライン 海のプラスチックごみはどこから来るの?
※24 :大阪教育大学附属高等学校 タイ王国におけるごみ問題に国民が向き合う方法とは ―絵本の制作によるリユース方法の考案―
※25 :環境省 海洋プラスチック問題について
※26 :プラスチック循環利用協会 プラスチックリサイクルの基礎知識2021
※27 :ジェトロ「2020年の日本の廃プラ輸出量、前年比8.6%減の82万トン」
※28 :環境省 廃プラスチックの輸出に係る バーゼル法該非判断基準について
※29 :ジェトロ 2020年の日本の廃プラ輸出量、前年比8.6%減の82万トン
※30 :経済産業省 欧州プラスチック戦略について
※31 :DW Germany bans single-use plastic products
※32 :株式会社サティスファクトリー ハワイの埋立問題と プラスチック利用
※33 :環境省「海洋プラスチックごみ対策アクションプラン」の策定について」