「Society 5.0」は、サイバー空間とフィジカル空間が融合した社会を意味します。
より豊かで暮らしやすい社会実現のために重要なキーワードですが「正直意味が良く分からない」「サイバー空間?フィジカル空間?」と疑問に感じる方も少なくないでしょう。
そこでこの記事では、Society 5.0の意味や必要性、具体的にどのような社会を目指すのかを解説します!
Society 5.0とは
「Society 5.0」とは、サイバー空間とフィジカル空間が融合した社会を意味します。
2016年1月に政府が策定した「第5期科学技術基本計画」によると、
サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する、人間中心の社会(Society)
内閣府「Society 5.0」
と定義されています。
Society 5.0の読み方や言葉の意味は?
読み方はソサイエティ5.0です。とはいえ、どういう意味なのかはイメージしにくいと思います。
分かりやすく言い換えると、Society 5.0とは、“日本が希望の持てる社会、世代を超えて互いに尊重し合あえる社会、一人一人が快適で活躍できる社会”を実現するために、経済発展や社会問題の解決に向けてテクノロジーを最大限に活用していこうということです。
ここで言う暮らしやすい社会のために利用するテクノロジーには、後に説明する、
- IoT(=Internet of Things:モノのインターネット)
- AI(Artificial Intelligence:人工知能)
- ロボット
などが挙げられます。
Society 5.0は、なぜ5.0なの?
ではなぜ「5.0」となっているのでしょうか。
これは、人間が誕生してからの社会のステップを「1.0、2.0、3.0、4.0、5.0」と表しており、「5.0」とは5番目の段階に進むことを意味しています。
ではこれまでどのようなステップを踏んできたのか、簡単におさらいしましょう。
Society 1.0

私たちが暮らす社会は、「Society 1.0」から始まりました。Society 1.0は「狩猟社会」と呼ばれ、人々は狩りや採集をし生活。これが人類の第一段階です。
Society 2.0
狩猟生活から進化すると、農耕が始まり小麦や米などの作物を育て生活する「農耕社会」がスタートします。これが「Society 2.0」です。
食料生産という能力を獲得したことにより、飢餓からの自由を手にした時代でもあります。
Society 3.0
農耕によって人々は一定の地域に定住するようになり、協力して生活する共同体として、規範などが生まれました。これにより産業が発達するようになります。
そして産業革命を経て人々が迎えた社会が「Society 3.0」の「工業社会」です。蒸気機関の発明や機械の発展により、人力だけでは不可能に近かった大量生産が可能に。
生産能力と移動能力が拡大し、農業中心の社会から、製造業が重要産業として栄えるようになりました。資本主義社会が到来したのもこの頃です。
Society 4.0
その後、コンピューターやインターネットの普及によって、世界のどこにいてもあらゆる情報を手に入れることができる「情報社会」が訪れます。これは私たちが今生活している社会を指し、「Society 4.0」となります。
世界がネットワークでつながり、どこにいてもインターネットにアクセスして情報を得られるようになりました。Society 4.0では、情報が重要資源のひとつとなっています。
そしてこれからの社会がSociety 5.0となるのです。
Society 4.0の課題
とはいえ、情報社会のSociety 4.0と、Society 5.0の違いが良く分からないと疑問に感じる人もいると思います。
その違いを理解するために、ここでは現在のSociety 4.0社会における課題を見ていきます。
①情報の探索・分析の負担
Society 4.0の情報社会では、あらゆる場所に情報が分散しています。そのため、肝心な情報を見つけるまでに、膨大な労力と時間がかかります。
例えば、災害発生時。被災者やインフラ、避難所の情報などが分散されているために情報収集に時間がかかり、対応に手間取ったというニュースを目にしたこともあるのではないでしょうか。
これは情報が分散していることが原因です。
②年齢や障がいなどによる行動の制約
日本の現在の情報社会は、あらゆる場面で人による操作が求められてきました。カーナビを例に挙げると、目的地までの道のりは検索できますが、実際に車を運転するのは人。
人による操作が必要であることで、
- 高齢になるほど判断力が低下し運転時の危険が高まる。
- 障がいにより運転できない
など、行動の制約が発生します。
また、最近では高齢者が免許を返納するケースも増えていますが、その結果買い物や病院に行きにくいなど、日常生活に支障をきたすことも。情報と人間生活がうまく融合していないこともSociety 4.0の大きな課題です。
③地域のニーズへの対応ができていない
現代社会では、都会に人口が集中し、地方が過疎化する一極集中が課題に挙がっています。総務省が発表した「令和元年度版 過疎対策の現況」によると、人口の少ない地域では、自主財源が乏しく財政難に陥り、十分なインフラ整備などが進まないなど、居住者のニーズに十分に対応ができていません。加えて雇用機会も少ないため、仕事を求めて若者が都会に出るという悪循環に陥ってしまうことが懸念されています。
このようなSociety 4.0で抱えている課題を解決するために、Society 5.0では、さらに人が生活しやすい世界にしていくことが掲げられているのです。
では、Society 5.0はどのような世界を目指しているのでしょうか。
Society 5.0が目指すのは超スマート社会
AIやロボットが今まで人が行っていた情報分析や操作を代行し、Society 4.0まで克服できなかった制約から解放。人間の可能性を広げ、誰もが質の高い生活を送れる世界を目指します。
AIやロボットという言葉が出てくると、テクノロジーに支配される社会のように聞こえてしまうかもしれません。しかしSociety 5.0はあくまで「人間中心の社会」です。
人間中心の社会を形成するために、まずは人と物が繋がる社会を目指します。
Society 5.0は、人と物が繋がる社会の実現を目指す
Society 4.0では、
- 情報の検索
- 分析
- 運用
はあくまで人の手によって行われてきました。つまり、現実の空間にいる私たちがサイバー空間にアクセスし、情報を取捨選択しなければなりません。
これに対してSociety 5.0では、テクノロジーを活用し、仮想空間と現実空間を融合させます。膨大なデータを人間の代わりにAIが処理し、現実空間に必要なときに必要な情報を瞬時に届けることができるようになるのです。
とはいえ、「情報を重要資源として活用する」という意味ではSociety 4.0とSociety 5.0は似ています。大きく異なる点が「情報をどのように分析し活用するか」です。
これはどのような意味なのか、Society 5.0の仕組みを見ていきましょう。
Society 5.0の仕組み
以下は、内閣府がまとめたSociety 4.0とSociety 5.0それぞれの仕組みです。
これまでの情報社会では、私たちが仮想空間に存在するクラウドにアクセスをすることで、情報の取得、分析・提案をしてきました。
カーナビを例に4.0との違いを確認
例えばカーナビで目的地までの行き方を検索し、2~3通りオプションが表示された場合、人がどの行き方が最も良いか分析して決定。その後、運転して目的地まで到達します。
つまり、
- 情報を取りに行く
- その情報を人が分析して決定
- 人の手によって実行
となり、どの過程でも人による作業を必要とするため、ミスが発生するリスクもあるのです。
対してSociety 5.0では、現実空間と仮想空間を融合。現実空間の情報が仮想空間に集積されるようになります。そして集まった広大な情報(ビッグデータ)をAIが分析し、最適化されたものが私たち人間に届きます。
先ほどの例で言うと、カーナビで目的地を入力するだけで、AIがベストな道のりを選んで提案して、さらには自動走行車で移動が可能になります。
この場合
- 情報を入力
- AIが分析し最適化した情報を提供
- 機械によって実行
と、人が作業する割合が減ることでミスの発生を防ぐことも期待できるのです。
このように、テクノロジーによって、これまでにはできなかった新たな価値を日々の生活や産業全体にもたらすことが、Society 5.0が目指す社会です。
このような世界を実現するには、「IoT(Internet of Things=物のインターネット)」が大きな鍵を握っています。
Society 5.0のキーワードは「IoT」
IoTとは、従来インターネットに接続されていなかったモノが、ネットワーク経由で通信を行い情報交換をすることです。
これまで、インターネットといえばパソコンと接続するモノでした。それが技術が発達することで、
- 車
- 家具
- 建物
- 電化製品
など、これまでインターネットと接続していなかったものがつながるようになります。これがIoTです。
例えば、汚れを感知し掃除をするお掃除ロボットや、今の気分を伝えるとその場面に合った音楽を流してくれるスピーカーも、IoTを代表するモノと言えます。IoT化が進むことで、より多くのモノが仮想空間に繋がるようになり、さまざまな課題の解決が期待でき、人間の生活をより豊かなものにするのです。
では、どのような課題の解決が期待されているのでしょうか。
Society 5.0の実現でさまざまな課題の解決を目指す
現代社会では、環境や貧困、医療格差など、様々な問題に直面しています。ここでは、特に日本が抱える
- 食料
- 貧困
- 医療格差
- 環境
- 自然災害
- 少子高齢化
- 地域間格差
の7つの問題と、Society 5.0がどのように解決に関係するのかを見ていきます。
Society 5.0と食料問題
近年、農業分野の人手不足や高齢化が問題視されています。
「基幹的農業従事者」とは、自営農業に主として従事した世帯員のうち、ふだん仕事として主に自営農業に従事している者をいう。
農林水産省「農業労働力に関する統計」
現状では農業従事者の劇的な増加は現実的でないため、少ない人数で効率よく生産を行う必要があります。そこでSociety 5.0では、育てる農作物の情報や地域の気象条件などのビッグデータをAIが解析し、より生産性の高い、スマート農業を実現します。
また、食糧難への対応として、食品製造量の調整や食品ロスの削減も、Society 5.0で解決する大きな課題です。消費者庁によると、2018年の日本の食品ロス量は600万トン。そのうちの約半分は家庭から出る食品ロスでした。
一方で世界では、全人口の約1割にあたる8憶1,100人が飢餓に苦しんでいると国連世界食糧計画が発表しています。
このような課題を解決するため、情報通信技術やロボット技術を活用し、消費者のニーズを分析し収穫量を調整することで、必要な量を必要なときに供給できるようになります。他にも食料が不足している地域へどのような対応を行えばいいかの判断が的確にできるようになるのです。
▶︎関連記事:「食料問題とは?今日本・世界で起きていることや私たちにできること」
Society 5.0と教育・貧困問題
Society 4.0では、富や情報は社会の一部に集中し、格差が拡大してきました。これにより裕福な生活を送る人が増える一方で、貧しい生活から抜け出せない人も多数います。
厚生労働省によると、日本では、
- 7人に1人の子どもが貧困状態
- 生活習慣病や読み書きの難
などの問題を抱えています。
また、日本財団が2015年に公開した「子どもの貧困の社会的損失推計」レポートによると、子ども時代の経済格差は教育格差を生み、改善されなかった場合は将来の所得格差につながると発表しています。
Society 5.0では、貧困家庭や僻地に生まれた子供も、教育の場が保障され、誰がいつでもどこでも活躍できる社会を目指します。
例えば、人口動向やその他のデータを分析し、今まで貧困家庭やいじめを理由に学校に通えなかった子どもを含め教育の需要を的確に予想し、適時適切なサービスを整えられるようになるのです。適切なサービスを提供することで、誰もが安心して活躍できる場が生まれます。
Society 5.0と医療格差問題
65歳以上の高齢者の割合が全人口の21%を超える「超高齢社会」の日本は、
- 医療格差
- 介護負担
が社会問題になっています。
総務省は高齢者の割合は今後さらに増加すると予想しており、国民医療費が腫れ上がるだろうと試算しています。また、地方に住んでいて医療や介護が行き届かないケースも少なくありません。
これらの課題を解決するために、IoTやAIを活用した「遠隔治療」が注目されています。Society 5.0では、実際に病院まで行って診断を受けなくても、パソコンや専用端末でオンライン診察を受けられる社会を目指します。これにより、山間部に住んでいても定期的な診察を受けることができ、負担も減り、健康維持に繋がります。
さらに医療を提供する側も、電子カルテなどを活用すれば情報の共有が手間が省け、より効率的な診療が可能になります。また、介護面でもAIロボットがお手伝いすることで、介護する側の負担も減り、効率よく行えるようになるでしょう。
Society 5.0と環境問題
私たちが暮らす地球は、さまざまな種類の環境問題を抱えています。
このような環境問題を解決するために、Society5.0では、最新技術を駆使し、持続的で無駄のないエネルギー供給を行います。
例えば、気象情報や発電所の稼働状況、各家庭での電力の使用状況などの情報をAIで解析し、効率よくエネルギーを供給することで、環境負荷の軽減を図ることが可能になります。
また、エネルギー使用による温暖化防止のために、AIが各家庭で使用する電力の量をコントロールするようになります。
例えばエアコンを付けたまま外出してしまったときには、センサーが誰も家にいないということを感知しエアコンを自動で消します。また、AIが電力や水道料の使用量をデータ化し、使いすぎなどを教えてくれるため、省エネ意識が高まることも期待されるでしょう。
Society 5.0と自然災害問題
自然災害の多い日本では、
- 地震
- 台風
- 洪水
などの被害が深刻です。
Society 4.0では自然災害が起きたときに、まとまっていない情報を集め、解析し、対応しなければならず、復興までに時間がかかっていました。
総務省によると、2018年7月の豪雨では、自治体が必要物資の手配を行う際、電話やFAXを使用していたため人手が割かれ、さらにタブレットを活用しSNSによるニーズの発信を行ったところ、必要以上の物資が届き保管場所がなくなるなどの問題が発生しました。また、地震や津波による被害には、もう少し早く被害を予知できていれば助かったというケースも少なくありません。
Society 5.0では、
- 人工衛星やドローンによる被災地観測
- 建物についているセンサーからの被害情報
などを収集しAIで素早く解析することで、迅速な救助に繋げます。また、個人のスマホなどを通して一人ひとりに避難警告などが提供されることで、事前の避難を促進できます。
Society 5.0と少子高齢化による人手不足
少子高齢化の日本では、あらゆる産業で人手不足が発生しています。2019年に日本商工会議所と東京商工会議所が全国の中小企業4,125社を対象に行ったアンケートでは、66.4%の企業が人員不足だと回答しました。今まで会社を支えていた従業員が定年を迎え退職し、新たな人員が見つからないといった悩みを抱えています。
Society 5.0ではロボットの導入が進められ、人手不足を解消します。工場や工事現場などでロボットが作業をするのはもちろん、さらに接客まで担当する、無人店舗や無人レストランなども増えていくでしょう。
Society 5.0と地域間格差
先述したように日本では、首都圏への一極集中により、地域間で
- 人口
- 財政力
- 所得
に格差が生まれています。現在地方創生などの取り組みなどにより、地方の活性化を目指してはいるものの、まだまだ道半ばといった状況です。
そこでSociety 5.0ではテクノロジーを活用し、ドローンによる配達や自動運転列車などを導入を目指しています。地域住民が快適な暮らしを送ることができる社会が現実化し、地域間格差を無くすことを可能にします。
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Society 5.0にはDX(デジタルトランスフォーメーション)が重要
ここまでSociety 5.0によって解決が期待される問題を取り上げてきました。これらの問題は多岐に渡るため、ひとつの技術では実現できません。そこで社会のDX化や、あらゆるテクノロジーを結集させ、人と物をつなげる必要があります。そこでここでは、特に注目したい技術について見ていきましょう。
【関連記事】デジタルトランスフォーメーション(DX)とは?SDGsとの関係・事例をわかりやすく解説
IoT
先ほど紹介したIoT(Internet of Things)は、あらゆる物に通信機能を搭載し、インターネットと連携させる技術です。今までインターネットと繋がっていなかった家具や衣服なども、IoTの対象となっていきます。
まだまだ未来の話と感じる人もいるかもしれませんが、IoTはすでに周りに溢れています。
「Apple社」が販売するApple Watchもその一例です。腕時計に通信機能をつけることで、メッセージを受け取ったときに腕時計に通知がくる他、睡眠の質の分析などもしてくれます。
IoTの技術がさらに普及することで、離れた場所にある物の動きを監視したり、遠隔操作をすることが可能になります。日常の生活が便利になるのはもちろん、あらゆる産業で効率が上がり経済成長も見込めるでしょう。
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AI
AI(Artificial Intelligence=人工知能)とは、人間の知能をコンピューターが模倣し、システム化することです。つまり、IoTが集めた膨大な情報を解析して、最適な情報を探し出すのがAIの役割です。
現状では決して万能ではないものの、適切に設計し運用させることで、
- 分析
- 予測
- ベストな判断をする
能力を発揮します。これにより非常に複雑な問題なども解決できるようになるでしょう。
身近なところで例を挙げると、冷蔵庫からIoTが在庫情報を集め、AIが最近食べた食事をもとに、今日のおすすめメニューを教えてくれる。これにより、栄養バランスの良い食事を摂れるようになり、健康維持に繋がります。
ビッグデータ
ビッグデータとは、さまざまな形をした、さまざまな種類・形式のデータのことです。IT用語集では、
従来のデータベース管理システムなどでは記録や保管、解析が難しいような巨大なデータ群
IT用語集「ビッグデータ」
と定義されており、
- データの量(Volume)
- データの種類(Variety)
- データの発生頻度・更新頻度(Velocity)
の3つのVから成ります。
IoTが収集したビッグデータをリアルタイムに更新、記録、解析することで、新たな価値を生み出すことが期待できます。ビッグデータの活用例には、下が挙げられます。
- お店で顧客の目の動きや買い物動向情報を集め、売上解析と在庫管理
- 自動車に通信機能を持たせ、道路状況をリアルタイムで把握・予測
- 需要変動を把握し仕入れ量の調整や商品開発
- 流行病の発生を予測し、影響を最小限に抑える
- 学校で学習履歴のデータを使用し、個々の学生にピッタリの授業や課題をカスタマイズする
5G
5Gは、「第5世代移動通信システム」と呼ばれる通信手段です。5Gが始まると、今よりタイムラグがなくなり、多くの通信をより速いスピードで行えるようになります。遠く離れた場所でもリアルタイムに通信が行えたり、複数デバイスと接続できるようになるとされています。
例えば、遠く離れた人同士で行うゲームの遅延を解消したり、さらには医療現場におけるロボットによる遠隔手術なども可能になるでしょう。
自動運転・ADAS
自動運転・ADAS(先進運転支援システム)も、Society 5.0実現のために期待される大きなテクノロジーのひとつです。
ドライバーによる操作を必要としない自動運転では、
- 車の位置を確認する技術
- 障害物を避けるためのセンサー
- 予測技術
- プランニング技術
など、さまざまな技術の融合が求められます。
自動運転が実現すれば、高齢者や障がい者も外出がしやすくなり、交通事故の抑制も期待できます。
リアルタイム翻訳
リアルタイム翻訳は、外国語の文字や音声をリアルタイムに翻訳する技術です。
Society 4.0では翻訳機能を利用することはできますが、まだまだタイムラグがあったり、正確な翻訳を引き出せないなどの問題があります。会社の会議でも今だに通訳者が求められるのも、自動翻訳機能が充分に機能していないのが要因でしょう。
リアルタイム翻訳が実現化すると、誰もが言語の通じない相手と意思疎通が可能になり、ビジネスシーンではもちろん、医療の発展や発展途上国の国際支援などもよりスムーズに行われるようになるでしょう。
【分野別】Society 5.0の取り組み事例
ではこれらの技術を踏まえて、Society 5.0の実現に向けて、すでに行われている政府や企業による事例を紹介します。
農業
株式会社セキドは、「農薬散布ドローン」を農業者向けに販売しています。
パワフルな性能と噴霧性能を兼ね備えており、広大な土地でも効率よく農薬散布が行えるようになりました。
- AIにより飛行経路が生成
- 自動航行
- 高精度即位などのインテリジェント機能
により、飛行の安全性が高く使いやすいのが特徴です。
また、ベンチャー企業のAGRIST株式会社は、AIを搭載した自動収穫ロボットの開発に取り組んでいます。カメラ画像から、野菜のサイズや色を認識し、収穫できる大きさになっている物だけを収穫。野菜の確認から収穫までをロボットが行うので、農業作業の大幅な省力化、時間短縮が可能になります。
また、ハウス内の収量分布のデータ化ができ、病気の早期発見も可能になります。これらの取り組みにより、人員や後継者不足に悩む農業従事者の負担を減らすことができます。
医療
現在、医療の場面でもロボットが活躍し始めています。
アメリカで開発された「ダヴィンチ」もそのひとつで、手術を支援する腹腔鏡手術支援ロボットです。3Dハイビジョンシステムの手術画像のもと、ダヴィンチの大きなアームが人間の手の動きを再現します。手術中の衛生面が確保され、術後の回復が早くなるなどの効果があります。
また、国内でもデンソーが手術支援ロボット「iArmS」を開発しました。脳神経外科手術などにおいて、ロボットアームが腕を支持することで、高い安全性を確保できるようになりました。
Society 5.0では、ネットワークで情報を瞬時に処理・判断できるようになり、AIとロボットの両方を活用する、より安全で正確な医療が実用化するようになるでしょう。
金融
株式会社イオン銀行は、AIとRPAを導入することにより、月200時間もの工数削減に成功しています。
今まで人が行っていた、
- 銘柄の選定理由の記載や投資初心者説明などの有無のチェック
- 書類の不備
をみつける作業をAIとRPAによって行うようにしたことで、作業の効率化を図ることに成功しました。
また、オリックス株式会社は、AIによって分析されたデータを活用し、資産形成サポートを行っています。一般に不動産投資は、ローンの返済などの不安を持つ顧客が多くいると言います。しかし、5,800万件を超える物件データをAIが分析することで、より正確なキャッシュフローを試算できるようになり、不安の解消に繋がっています。
工業・製造業
ものづくりの場面でも、AIやIoTを積極的に取り入れている企業が増えてきています。
株式会社デンソーでは、世界の工場をITとIoTで繋ぐ「FactoryーIoTプラットフォーム」を開発。世界のあらゆる工場から広大な情報を収集し、1つのクラウドに集積させることで、生産状況や各地の需要などを把握できます。これにより、改善が必要な箇所がすぐに把握でき、作業の効率化を図っています。
商業
AIは商業の人手不足を解消します。
スーパーマーケットなどで無人レジを設置することで、1人監視スタッフを設けるだけで良くなります。これにより、今までレジの数だけ必要だった従業員が一切必要なくなり、他の業務に当たれるようになります。
また、回転寿司チェーン店「スシロー」ではAIを導入し、1分後と15分後の需要を予測。店舗の混み具合などの情報を元に分析し、高い精度を誇るようです。これにより従業員の作業の効率化に成功し、食品廃棄量の削減にも貢献しています。
エネルギー
エネルギーは、Society 5.0の実現のために政府が積極的に取り組んでいる分野でもあります。すでに、各家庭・地域の電力使用量などのデータに基づいて、効率的に電力を供給できるように調整されています。また、
といった再生可能エネルギーを積極的に取り入れています。
大崎電気工業株式会社は、エネルギーマネジメントシステムに搭載できる独自のAI技術を開発しました。AIが過去の使用電力量や外気温などのデータを解析し、環境に適した電力目標値を設定。これにより、快適な室温を自動で保ちながら、電気の使用量を抑え、料金の削減が可能になります。
私たちにとってより快適かつエネルギーの有効活用の両立ができます。
公共サービス
公共サービスに関しても、最先端技術が導入され始めています。
秋田県大館市や新潟県妙高市は、移住希望者からの問い合わせにAIが自動対応しています。
問い合わせ対応の自動化により、職員の負担を減らせるだけでなく24時間自動対応のため、利用者の満足度も高くなります。さらにはログ情報を集積することにより、移住希望者の求める内容を把握できるのも大きなメリットです。
また、熊本県高森町は、富士通株式会社による「広域鳥獣クラウドサービス」を導入。
広域鳥獣クラウドサービスは、設置されたエリアで赤外線センサーで鳥獣を検知し、監視カメラを作動、そしてAIにより成獣かどうかを識別し、箱罠を自動で作動するシステムです。イノシシによる農作物の被害の低減を目指しています。
防災
Society 4.0の問題で紹介したように、自然災害は日本にとって大きな問題です。自然災害を完全に止めることはできませんが、Society 5.0では、より安心して暮らせる未来を目指します。
「富士通研究所」では、津波被害軽減のための予測プロジェクトにAIを活用しています。
地域によって異なる地形条件などの情報を解析し、それぞれの地域にとって最も適切な対策を提示。より最適な災害対策を進められるようになるでしょう。また、AIによる判定結果を各個人のスマートフォン画面に表示することで、それぞれが危険を知れるアプリ開発も行われています。
Society 5.0とSDGsの関係
最後にSDGsと「Society 5.0」の関係を見ていきましょう。
SDGsとは、「Sustainable Development Goals」の略称で、日本語では「持続可能な開発目標」と表現されます。SDGsは、2030年までに誰ひとり取り残さない持続可能で多様性のある社会を実現を目指すための国際目標です。
日本ではSDGs達成に向けてアクションプランをまとめており、そのなかでSociety 5.0が取り上げられています。
アクションプランとは
アクションプランとは、SDGs目標達成を実現するために日本が独自に定める実施指針です。2021年のアクションプランには、8つの優先すべき課題が提示されています。
- あらゆる人々が活躍する社会・ジェンダー平等の実現
- 健康・長寿の達成
- 成長市場の創出、地域活性化、科学技術イノベーション
- 持続可能で強靱な国土と質の高いインフラの整備
- 省・再生可能エネルギー、防災・気候変動対策、循環型社会
- 生物多様性、森林、海洋等の環境の保全
- 平和と安全・安心社会の実現
- SDGs 実施推進の体制と手段
この8つの課題の中でも課題3の「成長市場の創出、地域活性化、科学技術イノベーション」はSociety 5.0と関わりが深く、Society 5.0の実現を目指し取り組みを更に進めると宣言されています。
SDGs達成のためのイノベーション
貧困問題や教育格差など、さまざまな問題を解決しSDGs目標を達成するためには、最新のテクノロジーの活用が不可欠です。例えば、
- スマート農業の推進
- 医療サービスの向上
など、人の力では解決できなかった部分や不便だった部分を、Society 5.0では解決に導きます。
SDGs目標達成のために必要なイノベーションについて、アクションプランに掲げられている具体的なアクション「Connected Industries」を見ていきましょう。
ここでは、大量のデータがつながり、AIによって新たな付加価値を創出することを目指し、結果的に高齢化やエネルギー制約などの社会課題の解決、SDGs達成を推進します。
また、同じくアクションプランに定められている「ナノテクノロジーの基礎的・基盤的な研究開発の推進」では、SDGsの達成を推進するため、未来社会を見据えたナノテクノロジー・材料分野の研究開発戦略を着実に推進すると唱えられています。
日本の優れた科学技術イノベーションを活用し、省エネルギー社会・循環型社会の実現ができれば、環境に関わる取り組みが加速します。これにより、SDGsのさまざまな目標の達成が近づくでしょう。
既に日本各地でSDGsとSociety 5.0を融合させた取り組みは進んでいます。その例として、目標14「海の豊かさを守ろう」の達成に向けて、IoTとAIを活用した取り組みを展開している企業事例を紹介します。
SDGs目標14×Society 5.0 の事例
双日株式会社は、IoTとAIを活用し、水産養殖業の高度化・水産資源の確保に取り組んでいます。
近年、世界的に魚の需要が増えるなかで、魚介類などの水産資源が減少傾向にあります。これらの課題を解決するために養殖業への期待が高まっていますが、過剰な給餌による水質汚染問題が発生しました。
この原因のひとつに、魚の個体数の確認を目視に頼っていたため、正確な数を把握できていないことが挙げられたのです。
そこでIoT技術によりセンサーで水温やマグロの養育個体数などの情報を集め、その情報をAIが分析。作業の効率化と正確性を向上させることで、マグロ生育における給餌量やタイミングなど、養育方法を最適化することを目指します。
これにより、適切な量の餌を与えられるとともに、出荷量の調整も可能になり、持続可能な養殖産業の確立を目指す「海の豊かさを守ろう」の達成に近づきます。
まさに、Society 5.0とSDGsを関連させた企業の取り組みです。
Society 5.0 for SDGsの登場も
このような流れを受けて、経団連では「Society 5.0 for SDGs」を提唱しています。イノベーションを最大限に活用することで、経済発展と社会的な課題の解決を両立することを目指しています。専用のサイトでは、Society 5.0に関する情報に加え、具体的な取組事例も掲載されています。
【関連記事】SDGsとは|17の目標の意味や達成状況、日本の取組も
まとめ
Society 5.0は、AIやロボットの技術を最大限に活用しながら、より安心して暮らせる価値のある社会です。
決して遠い未来の話ではなく、Society 4.0の延長線上にあり、実現は決して不可能ではありません。記事の中で紹介したように、実際にSociety 5.0に取り組んでいる企業や行政は既に存在します。
また、SDGs目標達成のためにも、Society 5.0の現実化は欠かせません。私たちは、
- AI
- IoT
- ビッグデータ
などの技術革新に感度高く反応し、社会に転用してくスキルが求められます。日本政府や企業は今まさに、SDGsとSociety 5.0を連携させた、日本独自のプランを元に、経済成長と社会課題の解決の両立に取り組んでいるのです。
参考文献
国土交通省「第2節 人口減少が地方のまち・生活に与える影響」
消費者庁「食品ロス量(平成 30 年度推計値)の公表」について
ユニセフ「世界の飢餓、新型コロナウイルスで悪化アフリカ人口の2割以上が栄養不足
食料と栄養に関する国連合同報告書」
厚生労働省「Approaching the essence─「社会のリアル」に学ぶ─」
総務省「第1部 特集 「スマートICT」の戦略的活用でいかに日本に元気と成長をもたらすか」
総務省「第1部 特集 進化するデジタル経済とその先にあるSociety 5.0」
内閣府「Society 5.0」