#SDGsを知る

スペシャルティコーヒーとは?基準や特徴、SDGsとの関わりを簡単に解説

スペシャルティコーヒーとは?簡単に特徴やSDGsとの関わりを解説

皆さんはコーヒーを飲むとき、何を基準に選んでいますか。

農産物であるコーヒー豆は、他の作物と同じように、世界のどこかで多くの人の手を介して、私たち消費者の元へやってきます。

近年、世界で注目を浴びている「スペシャルティコーヒー」は、生産から消費までの情報を明らかにし、高品質を誇るコーヒーとして、SDGsの観点からも知られるべき言葉です。

そこで今回は、スペシャルティコーヒーの基本知識から評価基準、そしてSDGsとの関連性についてご紹介します。

目次

スペシャルティコーヒーとは?

スペシャルティコーヒー(Specialty Coffee)とは、生産から消費の過程において厳正な管理が行き届いた、高品質なコーヒーを指します。

その中でも、何度もカッピング(試飲)をして高評価を得た豆だけが「スペシャルティコーヒー」と呼ばれるのです。

通常、コーヒー豆は販売までにさまざまな産地の豆が混ざった状態になります。その結果、各農家に渡る報酬はごくわずか。これが農家の貧困を生む大きな原因となってしまうのです。

その状況を打開すべく生まれたスペシャルティコーヒーは、消費者が購入することで適正な価値を生産者へ支払うことができる点も特徴です。生産地で丹念に栽培され、収穫・処理を経た豆は、基本的にほかの国や地域の豆と混ざることはありません。

そのため、スペシャルティーコーヒーの産地や豆の種類によって香り・味わいが異なる点が魅力です。

スペシャルティコーヒーとスペシャリティコーヒーの違いは?

結論から言うと、スペシャリティコーヒースペシャルティコーヒーは同義語です。イギリス読みを意識すると「スペシャルティ」となり、アメリカ読みを意識すると「スペシャリティ」になります。

スペシャルティコーヒーを英語表記にすると「Specialty Coffee」です。

日本語読みに直すと「スペシャ”ル”ティコーヒー」のほうが近いため、協会をはじめ多くの機関では「スペシャルティコーヒー」の表記を採用しています。

つまり、どちらの表記にしても指している対象は同じ「Specialty Coffee」です。

スペシャルティコーヒーの特徴

イメージ画像

では、具体的に「スペシャルティコーヒーの特徴」について見ていきましょう。

大きく分けると、以下のようなポイントに分けられます。

  1. サスティナビリティ
  2. トレーサビリティ

ひとつずつ見ていきましょう。

特徴①味

飲み物として親しまれるコーヒーにおいて、最も重視されるのは「味」です。

スペシャルティコーヒーと呼ばれる豆は、輸出前に資格者たちによる品評会・審査が開催され、そこで一定の評価を得たものだけが選ばれます。

これだけでもすごいことですが、実は一口にコーヒーといっても、樹木の品種選定から栽培方法・収穫後の処理方法によって味わいは随分と変わってくるのです。

もととなる樹木・コーヒーノキは、大まかに分けると3つ。

  1. アラビカ種
  2. ロブスタ種
  3. リベリカ種

上から順に味の質が落ち、その代わり病気に強い品種といわれています。スペシャルティコーヒーとして高品質のコーヒー豆を目指すには、アラビカ種を用いることがほとんどです。

栽培地の気候条件や収穫のタイミングも大切ですが、もう1つ、味の特徴を分けるポイントとして、収穫後のコーヒーチェリー(果実)からコーヒー豆を取り出す際の処理方法が挙げられます。

代表的なのは、チェリーを水に浸けて発酵させる「ウォッシュド」と、天日干しで乾燥させる「ナチュラル」の2つ。同じ豆でも処理方法が違えば味に大きく影響するため、生産者はよりよい品質を求めて処理方法にまで気を遣っているのです。

このように、生産の品種や気候・収穫後の処理方法がスペシャルティコーヒーの味の基礎を決めますが、その後コーヒー豆を焙煎する度合いや淹れ方によっても変わります。

たくさんの人が関わっているからこそ、スペシャルティコーヒーを高品質のまま消費者へ提供するには大変な努力が必要なのです。

特徴②サスティナビリティ

コーヒー豆の生産において重視されるポイントの1つに「サスティナビリティ」があります。

サスティナビリティ(Sustainability)とは、持続可能性のこと。無理なく続けられる形で生産を行い、生産者の暮らしと消費者への供給の安定を目指しています。

WorldAtlasの調査によれば、2020年度のコーヒー豆生産国トップ10は以下のとおり。

(左から国名、生産量(単位:トン)、生産量(単位:ポンド))

コーヒー豆の生産地は「コーヒーベルト」と呼ばれる赤道席導線周辺地帯に多く見られ、ほとんどが南米かアジア・アフリカに位置する国々です。そして多くが貧困を抱える途上国です。

2008年に公開された映画『おいしいコーヒーの真実』で鮮明に描かれているように、農家のほとんどは、実際に消費者がどのくらいの値段でコーヒーを飲んでいるのかを知りません。

重労働を強いられる生産農家の中には、生活費に困窮した挙句、タバコや違法薬物の栽培に手を出す人もいるほど、コーヒー豆農家の収入は低く、暮らしが厳しいのです。

スペシャルティコーヒーのシステムでは、ほとんどが1つの農園、もしくは小規模農家の共同コミュニティ単位で豆を購入しています。

生産者が特定できる状態で公正な取引を行うことで、農家は生産のためによりよい設備投資ができ、結果的に収入が増えて暮らしの向上につながるのです。

消費者の立場としても、スペシャルティコーヒーを購入することで、生産者の支援に大きく貢献することができます。

気候変動の観点からもサスティナビリティは重要!

サスティナビリティにおいて特筆すべき点は「気候変動」です。

コーヒーを生産するための気候条件として、

  • 昼夜の寒暖差が大きい
  • 適切な雨量がある

が挙げられます。

そのため、標高の高い高冷地で栽培されることが多いのです。しかし近年、気候変動の影響で異常気象の発生が続き、コーヒー豆の収量が激減しています。豪雨や干ばつ・寒暖差の減少が原因で、思うように生産量が上がらないのです。

気候変動の影響で、このままでは2050年までに、スペシャルティコーヒー生産の大半を占めるアラビカ種に適した土地が50%減少するとの指摘もあります。

サスティナビリティは、生産者の暮らしをサポートするだけでなく、気候変動の観点から生産地の環境を考えるためにも重要なポイントです。

特徴③トレーサビリティ

最後のポイントは、トレーサビリティ(Tracability)です。

トレーサビリティ「追跡可能性」と訳され、商品の移動を追跡・把握できる状態のこと。購入するコーヒー豆がどこでどのように栽培・管理されてきたのか?を知るための情報を指します。

コーヒー豆づくりには、非常に多くの人が関わっています。

  • 生産農家
  • 輸入業者
  • 流通業者
  • 焙煎業者
  • バリスタ(コーヒードリンクを提供する人
  • 販売業者

ざっくりと分けても、これだけの人たちから消費者の手に渡っています。

そのためスペシャルティコーヒーの品質を保つには、輸送や保管の段階も含め、常に細心の注意が必要です。

1つ1つの工程に関わる人たちには、スペシャルティコーヒーを扱うための正しい知識やルール順守が求められます。

また最終的に消費者の手に渡る際は、

  • 生産国・地域
  • 農園名
  • 収穫後の処理方法

といった情報が明確に示され、その豆がどこで・どのようにつくられたのかが分かる仕組みとなっています。

トレーサビリティは、スペシャルティコーヒーの品質管理において重要な役割を担っているのです。

普通のコーヒーとスペシャルティコーヒーの違いは?

スペシャルティコーヒーと普通のコーヒーの違いは、品質と流通です。

スペシャルティコーヒーは徹底した品質管理のもと作られるため、普通のコーヒーに比べると高価になりますが、品質もよく環境や生産者にやさしいコーヒーになっています。

スペシャルティコーヒーの歴史

イメージ画像

では次に、スペシャルティコーヒーの歴史について、簡単に振り返ってみましょう。

19世紀までのコーヒー

もともとコーヒーは薬として飲まれていました。しかし19世紀にはいると、市場に出回るコーヒーといえば「安くて苦い飲み物」として、欧米を中心に世界中で親しまれるようになります。

当時、コーヒー豆の評価基準とは「欠点豆がないこと」に限り、味のよさと価格が一致していませんでした。

欠点豆とは

形状の悪いもの・カビているものなど、状態のよくない豆のこと。味に大きく影響するため、現在スペシャルティコーヒーの評価基準においても、欠点豆が少なければ少ないほど高品質とされます。

1970年代スペシャルティコーヒーの誕生

はじめて「スペシャルティコーヒー」という言葉ができたのは、1978年のこと。Kunutsen Coffeeの代表であるErna Knusten(エルナ・クヌーステン)が「特別な気候条件・地理環境のもとで栽培され、特徴のある風味・香りを持つ新しいカテゴリーのコーヒー」として、スペシャルティコーヒーの提唱をはじめました。

スペシャルティコーヒーは、それまでのアメリカを中心とした「大量消費の安価なコーヒー豆」から、プレミアムな価値を付け、ワインのように味や香りを評価する方向を新たに見出しました。

同時に味や品質を重視し、正当な賃金を農家へ支払うことで生産のモチベーションを挙げるよいきっかけともなっています。

1980年以降、スペシャルティコーヒーの発展

1982年には、アメリカをはじめ世界各地でスペシャルティコーヒー協会が誕生しました。

その後さまざまな機関やNGOが連携し、1999年にはコーヒーの品評会「カップオブエクセレンス(Cup of Exellence)」が発足。厳正な審査に基づいて、今日までスペシャルティコーヒーの品質が保たれています。

スペシャルティコーヒーの評価基準

イメージ画像

現在、世界でもっともメジャーな評価の仕方はSCA方式と呼ばれます。

日本スペシャルティコーヒー協会(SCAJ)ではCoffee Quality Institute(CQI)が定める資格を取得後、国内および国際審査員として評価に参加することが可能です。

生豆に含まれる欠点豆の割合や全体の状態を確認し、その後サンプルを焙煎してカッピング(試飲)が行われます。

次は、カッピングの評価基準について見ていきましょう。

評価のポイント

カッピングの評価は100点満点で採点し、総合得点が80点以上であれば「スペシャルティコーヒー」として認められます。

評価項目は各機関が定める評価シートによって多少異なりますが、日本スペシャルティーコーヒー協会が採用している評価基準は、以下のとおりです。

  • AROMA(アロマ・香り)
  • DEFECTS(欠点)
  • CLEAN CUP(カップのクオリティ)
  • SWEET(甘さ)
  • ACIDITY(酸味の特徴)
  • MOUTH FEEL(口に含んだ質感)
  • FLAVOR(風味)
  • AFTERTASTE(後味)
  • BALANCE(バランス)
  • OVERALL(総合評価)

評価はカッピングを3回以上繰り返し、総合得点を決めています。

空気を含ませて勢いよくすするようにして飲み、上の10項目を厳しく審査。点数だけでなくメモを記すことで、具体的にどのような性質を持ったコーヒー豆なのかを具体的に評価します。

スペシャルティコーヒーとして認められる80点以上を得るには、どれか1つが突出していればいいのではなく、全体のバランスを踏まえて審査されています。

このように評価基準は多岐に分かれており、正確な知識と経験を持った人の手によって厳正に行われているのです。

【補足】カップオブエクセレンス(COE)について

カップオブエクセレンス(COE)
引用元:Cup of Exellence

コーヒー豆の品質を決める品評会・審査は世界中で開催されていますが、中でも大きな影響力を持っているのが、カップオブエクセレンス(Cup of Exellence)です。

1999年、アメリカスペシャルティーコーヒー協会(SCA)の傘下で発足し、いち早くスペシャルティコーヒーの品質・評価の基礎を構築しました。

COEはコーヒー豆生産大国のブラジルをはじめ、各国で品評会を開催。高品質のコーヒー豆を評価し正当な価格で取引を成立させることで、現地のコーヒー生産者のモチベーションと、コーヒー豆の品質向上に貢献しています。

なお現在、日本スペシャルティコーヒー協会ではCOEの評価シートを採用しています。

中でも、総合得点88点以上の評価を得たコーヒー豆は「トップオブトップ」と称され、最高品質の豆として高値で取引されます。そのため、多くの生産者がこの称号を目指して生産を行なっているのです。

保管や輸送方法も大切

コーヒー豆の品質には鮮度が問われます。

そのため、コーヒー豆がどのように輸送・保管されるのかによって、全体の状態や味の評価にも関わってくるのです。

一般的なコーヒー豆は麻袋に入れて保管され、ドライコンテナで輸送されています。しかし麻袋の場合、湿度や温度の変化による影響を受けやすく、コーヒー豆の品質が下がってしまいます。そこで近年は、麻袋に代わって真空パックや、内面がビニール製の穀物用袋に保管するケースが増えています。

輸送の際は、コンテナ内を15℃にキープできる装備を使い、焙煎・販売の前の過程も品質維持に配慮されるようになっています。。

スペシャルティコーヒーの大事なポイントのひとつ「トレーサビリティ」のためにも、保管・輸送方法は時代に合わせて変化しているのです。

フェアトレードコーヒーとの違いは?

フェアトレード認証
出典元:フェアトレード・ジャパン

ここまでスペシャルティコーヒーについて見てきましたが、中には「フェアトレードと何が違うの?」と思った人もいるかもしれません。

そこで「スペシャルティコーヒー」と「フェアトレードコーヒー」の違いについて解説していきます。

フェアトレードコーヒーとは?

フェアトレードコーヒーとは、主に開発途上国で暮らす生産者の暮らしを守るため、生産商品を正当な価格で取引する仕組みフェアトレード(Fair Trade)」であることが認証されたコーヒーのことです

国際NGO機関であるフェアトレード協会は、貧困に陥りやすい途上国の人々の人権と雇用を守り安定した生活の保証を目指しています。

フェアトレードコーヒーとスペシャルティコーヒーの違い

イメージ画像

フェアトレードの最大の目的は「公正な取引によって生産者の安定した暮らしを支えること」にあります。

コーヒー生産者だけでなく、カカオや砂糖、ゴムなど多岐にわたる発展途上国の生産者を支援し、企業との平等かつ公正な関係を保っているのです。

消費者の私たちがフェアトレードマークの付いたコーヒーを購入すれば、一定の価格が生産者のもとへ還元され、安定した生活をサポートできます。

対するスペシャルティコーヒーは、フェアトレードのような「公正な取引」の面を持ちつつ、もうひとつ「高品質なコーヒー豆を生産し、消費者へ届ける」という目的があります。

フェアトレードコーヒーにはない品評会・審査会を経て、限られたコーヒー豆にだけ「スペシャルティコーヒー」の価値が認められる点も大きな違いです。

とはいえ、どちらも「コーヒー豆にプレミアムな価値を付け、作り手に還元して安定した生産・暮らしを支える」という点が共通していると言えます。

サードウェーブコーヒーとの違いは?

イメージ画像

もう1つ、スペシャルティコーヒーと混同しやすいのが「サードウェーブコーヒー」です。

どちらも同時代にできた概念のため、違いがよく分からないという人も多いのではないでしょうか。

ここでは、サードウェーブコーヒーの歴史と、スペシャルティコーヒーとの関係性を解説します。

サードウェーブコーヒーとは

サードウェーブコーヒー(3rd Wave Coffee)とは「第3コーヒーブーム」ともいわれる、コーヒー生産と消費を巡るムーブメントです。

アメリカ発祥のこの動きは、やがて世界中に広がっていきました。

第1コーヒーブーム(ファーストウェーブ)

第1の波は、19世紀にさかのぼります。当時はコーヒーの品質を問われることはありませんでした。喫茶店やレストラン・ガソリンスタンドのようなあらゆる場所で提供され、おかわり無料が当たり前の時代。その裏では生産農家が買いたたかれ、労働や収穫量に見合わないほど低い賃金しか受け取れなかったのです。

第2コーヒーブーム(セカンドウェーブ)の到来

1960年代に入ると、米国シアトルを中心にコーヒーチェーン店が次々と誕生。イタリア式の濃いエスプレッソをベースとした、バリエーション豊かなコーヒードリンクが発売されるようになり、第2コーヒーブームの波が到来します。

そして大量消費の時代がやってきて、すでに安価だったコーヒーはますます市場価格が下がっていきました。コーヒー生産者が一生懸命に収穫しても正当な報酬が得られず、貧困に陥るケースが急増。さらに農薬の大量使用で農地周辺の環境破壊も進んでしまい、持続可能なコーヒー生産が難しくなってしまったのです。

2000年代からサードウェーブコーヒーがスタート

そこで2000年代からはじまったのが、サードウェーブコーヒーの動きです。すでに北欧ノルウェーのコーヒー業界の間で始まっていた動きを、アメリカのTrish Rothgeb(トリシュ・ロスギブ)が「サードウェーブ」と表現したことに由来しています。

「コーヒーの種子からカップまで(Bean to Cup)」を意識し、生産から消費までの工程に透明性・トレーサビリティを追求する動きが、欧米を中心に広まっていきました。

このサードウェーブの動きの中には、スペシャルティコーヒーが含まれています。産地によって味わいが異なるコーヒー豆の新しい楽しみ方と、生産者をサポートする仕組みが築かれていきました。

つまり、サードウェーブが「第3波のムーブメント」を指すことから、サードウェーブコーヒーは2000年代以降から続くコーヒーブームのこと。スペシャルティコーヒーは、この流れの中で同時期に誕生した、高品質なコーヒー豆を指す言葉です。

世界でのスペシャルティコーヒーの扱われ方

イメージ画像

日本で「スペシャルティーコーヒー」が扱われ出したのは、2010年代ごろから。一方で、欧米では日本に比べてコーヒーに関心が高く、スペシャルティコーヒーを当たり前のように飲む人も多くいます。

ここでは、日本と海外でコーヒーの仕事に従事した経験のある筆者が、海外ではスペシャルティーコーヒーがどのような位置づけにあるのか、実際のノルウェー滞在を通して経験したことをお話しします。

ノルウェーでの経験から

筆者は、学生時代に日本でバリスタ業を数年経験し、2017年に北欧ノルウェーへ滞在しました。

ノルウェーは、欧州の中でもコーヒー消費量が多い国(2021年は世界2位)。加えて、世界バリスタチャンピオンシップの覇者を多数輩出してきた国でもあります。

1900年代後半から、小規模なコーヒー焙煎職人やバリスタたちが、こぞっておいしいコーヒーを追究してきました。特に首都オスロは「コーヒーの聖地」とよばれるほど、コーヒー好きにとってすでに憧れの町だったのです。

今でこそ、日本でも一部のコーヒーショップへ行けば、生産国や農園・処理法が記載されたスペシャルティーコーヒーが手に入ります。しかしノルウェーではもっと前から、多くのコーヒーショップでスペシャルティーコーヒーを購入できました。

ノルウェーでコーヒー文化を体験したいと思った筆者が、実際に現地で暮らしてみて気が付いたことは、以下の点です。

  • コーヒー業界の交流が密にあり、定期的に情報交換・共有をしている
  • コーヒー関連の仕事をしている人たちだけでなく、一般の人も無料で参加できるカッピングイベントが多数ある
  • コーヒーに対する好みは人それぞれ。店によってはやや苦いコーヒーもあるが、どこに行ってもかなりの確率で、焙煎度合いの浅いスペシャルティコーヒーを扱っている
  • いち早く気候変動との関連性に着眼し、勉強会やカンファレンスを通して課題の共有を行なっている

筆者はオスロにいた頃、コーヒーが専門ではないカフェに勤めていましたが、コーヒー豆はすべて市内の有名な焙煎所から仕入れていました。お客さんからは「今日のコーヒーはどこ産の豆?」と聞かれることがしばしばあり、ノルウェー人のコーヒーに対するこだわりを感じたものです。

ほかの飲食店を訪れた際や、コンビニのコーヒーですらも日本より苦味が少なく、とても飲みやすかったのを覚えています。

また多くのコーヒーショップは、無料のテイスティングイベントや、毎月コーヒー豆を消費者へ届けるサブスクリプションにも積極的。旬のスペシャルティコーヒーを気軽に楽しめる仕組みが充実していました。

気候変動の観点からコーヒーを見つめる人も

イメージ画像

全体的にノルウェーは、環境への意識が高い人の割合が多いと感じます。

また、コーヒー業界に従事する人たちは横のつながりが強く、定期的にイベントやカンファレンスを開催しているため、コーヒーと気候変動の関連性について共通意識を持っているのです。

例えば、ノルウェーでスペシャルティコーヒーの先駆者の1人・Tim Wendelboe(ティム・ウェンデルボー)は、気候変動の観点から発信を続ける人物です。誰にでも気さくで謙虚なティム氏は、実は2004年の世界バリスタチャンピオンであり、世界各地の生産者を訪ねてコーヒー豆の買い付けを行なっています。

彼は、ある年にコロンビアの農地を購入し、自分でもコーヒー栽培を実践するように。その経験から、高品質なコーヒーづくりの大変さや気候変動の影響による栽培の厳しい現状を、身をもって体感してきたそうです。

ショップでの仕事だけでなく、現地での生産状況を長年見てきた彼だからこそ「このままでは気候変動の影響でコーヒーが飲めなくなる」という危機感に気が付いたのです。

現在、ティム氏は業界向けの勉強会だけでなく、ポッドキャストやインタビューなどを通じて多くの人へ、コーヒー生産の様子・現状について発信しています。

業界の中から声を上げることで、同業者はもちろん一般の人にも現場を知らせ、スペシャルティコーヒーの購入が今後の支援につながることを呼びかけているのです。

このように、現地で暮らした筆者が体験したノルウェーのコーヒー文化は、予想以上に身近で奥深い存在でした。

単純に「高品質でおいしいコーヒーを求める」だけでなく、「スペシャルティコーヒーの購入=生産者と、持続可能なコーヒー生産・提供を目指す業界全体をサポートするための消費行動」という意識を強く感じたのです。

日本でもスペシャルティコーヒーは飲める?

先ほどは北欧ノルウェーの話をお伝えしましたが、近年は日本でも気軽にスペシャルティコーヒーを楽しめる機会が増えてきました。

ここでは、オススメのコーヒーショップやサイト・サービスについてご紹介します。

店舗

Good Coffee
引用元:Good Coffee

日本において、いち早く北欧のスペシャルティコーヒー文化を広めたのは、都内に数店舗を構えるFuglen(フグレン)です。

1963年からオスロで続くフグレンですが、2021年に初の海外店舗となる東京店をオープン。厳選されたスペシャルティコーヒーを買い付け、ノルディックローストのフルーティーなコーヒーが味わえます。

ほかにも、現在は全国各地に品質の良いスペシャルティコーヒーを扱う店舗があります。住んでいる場所から一番近いショップを探すには、Good Coffeeでチェックするのがおすすめです。

また、同じコーヒー豆でも店舗によって焙煎の度合いが違ったり、抽出方法を変えたりとバリエーションが豊富。ぜひ自分の好みにあった1杯を探してみてください。

通販サイト

現在、多くのコーヒーショップがオンラインでコーヒー豆の販売を行なっています。

近所のお気に入りカフェはもちろん、普段はなかなか行けないようなお店のコーヒーを味わうには、通販サイトが便利です。

先ほどのGood Coffeeから探すもよし、もし初めてで何を選んだらいいのかわからない場合は、堀口珈琲丸山珈琲のような、長年の歴史を持つコーヒーショップで買い求めるのも良いでしょう。

なお注文の際は、豆のままか、挽いた粉の状態かを選択できる場合がほとんどです。

粉を希望する場合は、使用する道具に応じて挽き具合を指定しましょう。

<粉の挽き具合 目安>

  • エスプレッソメーカー 細挽き
  • 一般的なドリッパー 中挽き
  • コーヒーメーカー 中挽き
  • フレンチプレス 粗挽き

よくわからない時は、備考欄に使用器具を書き、オススメの挽き具合にしてもらうのも良いアイディアです。

サブスクリプション

ポストコーヒー
引用元:Post Coffee

毎日のように自宅でコーヒーを楽しんでいる人や、初心者でどれを選んだらいいのかわからないのでおすすめしてほしいという人は、定期便のサブスクリプションサービスを取り入れてみましょう。

例えば、Post Coffeeというサービスでは、AIが無料でユーザーの好みを診断。数個の質問に答えるだけで最適なコーヒーを教えてくれます。

コーヒーを入れる道具がない人向けに、有料オプションでパック仕様にしてくれるのもうれしいポイントです。

サブスクリプションで飲んだコーヒー豆が美味しかったら、次は同じ店の違う種類を試してみるのも良いでしょう。

美味しいスペシャルティコーヒーの淹れ方

スペシャルティコーヒーを気軽に楽しむには、自宅で淹れてみるのが一番です。

ここでは、国内外でバリスタ経験のある筆者が、誰でも簡単においしいコーヒーを淹れるためのヒントをお届けします。

おすすめはフレンチプレス!

Bodums社のフレンチプレス
(写真中央・Bodums社のフレンチプレス。筆者提供)

風味・香りに特徴があるスペシャルティコーヒーを存分に楽しむなら、まずはフレンチプレスをおすすめします。

アロマをたっぷり含むコーヒー豆のオイルを抽出できるため、おいしさを余すことなす引き出せるのが魅力です。

手順はとてもシンプル。

  1. ふたを外し、粗めに挽いたコーヒー豆を容器に入れる。
  2. お湯を適量淹れる
  3. ふたのレバーを上まで引っ張って容器にセットし、3~4分待つ
  4. レバーを下まで降ろしたら完成

フレンチプレスは、豆とお湯さえあれば誰でも簡単においしいコーヒーを淹れられるので、初心者や時間がない人にもぴったりのアイテムです。

筆者はデンマーク発メーカー・Bodum(ボダム)のプレスを長らく愛用しています。ガラス製ですが意外と丈夫な作りで、長期間の滞在先には必ず持参するほど手放せません。

気分にあわせてドリップも

フレンチプレス以外にも、スペシャルティコーヒーを楽しむ方法はたくさんあります。

特に日本でもポピュラーなのは、ドリップ式ではないでしょうか。じょうごのような形の内側にフィルターをセットし、手動もしくは機械で淹れる方法です。

多くのコーヒーショップでは紙フィルターを使用していますが、本来スペシャルティコーヒーを楽しむのに、紙を使うのは個人的にあまりおすすめしません。

紙を使うとせっかくのオイルが吸収されてしまい、コーヒーが持つ本来のおいしさを十分に楽しめないためです。

また、せっかく環境に配慮したコーヒー豆を購入しても、毎回紙ごみを出してしまってはあまり意味がありません

しかし酸味の強いコーヒーを淹れる場合や、さっぱりした味わいを楽しみたいときには、紙フィルターのほうが適切なこともあります。

そのような場合は、近年よく見かけるようになった金属製や布製のフィルターをおすすめします。

紙製のフィルターで淹れたコーヒーと比べるとややまろやかな味わいになり、基本どの種類でもおいしく飲むことができます。

補足すると筆者はゴールド製のCoresと、木製ドリッパーにリネンのフィルターをセットしたリトアニア発のアイテム・Broを愛用中です。

右がCoresの金属製フィルター、左がBroの木+リネン製フィルター
(右がCoresの金属製フィルター、左がBroの木+リネン製フィルター。筆者提供)

どちらも機能性が高いだけでなくスタイリッシュなデザインのため、キッチンに置いておくだけで気分が上がりますよ。

SDGsとスペシャルティコーヒーの関係

圧縮済みSDGs画像

最後に、スペシャルティコーヒーとSDGsの関わりについて紹介します。

SDGs(Sustainable Development Goals)とは「持続可能な開発目標」のこと。

2015年に国連で採択され、17つの目標が設定されました。

SDGsは

  • 環境
  • 社会
  • 経済

の3つを軸とし、世界全体で取り組むべき目標として、2030年までの達成を目指しています。

では具体的に、スペシャルティコーヒーはSDGsとどのような関係があるのでしょうか。

SDGs目標12「つくる責任、つかう責任」と関係

SDGs目標12「つくる責任、つかう責任」は、ものづくりにおいて生産から消費、廃棄までのすべての過程において、環境と人権に配慮した仕組みづくりを掲げる目標です。

また、限られた資源を有効に活用し、持続可能な形でのものづくりを目指しています。

コーヒーの産地は、ほとんどが開発途上国貧困に悩む生産者の労働環境や暮らしを守り、気候変動の影響を最小限に抑えるための活動サポートには、私たち消費者の購買意識と行動が大きなカギとなります。

スペシャルティコーヒーを選ぶことで生産者の暮らしを支援し、無駄なく大切にいただくことは、目標12の達成につながるでしょう。

ほかにも、スペシャルティコーヒーの生産を通じた、貧困をなくす取り組みへのサポートとしてSDGs目標1「貧困をなくそう」にも貢献できます。

まとめ

今回はスペシャルティコーヒーについて、基本的な知識から国内外での認識、誰でも楽しめるヒントをお届けしました。

コーヒーは時代の変遷を経て「安くて苦い飲み物」から「気候特性や生産方法によって独自の特徴を持つ魅力的な飲み物」に変わっています。

同時に、生産者の実態や環境問題などのバックグラウンドにも注目が集まり、持続可能なコーヒー生産のために、消費者が行動を問われるようになりました。

ぜひ皆さんもコーヒーを飲む際は、1杯に払ったお金がどこへ流れるのか今後のコーヒー業界や地球環境にどのような影響を及ぼすのか考えてみてくださいね。

<参考文献>
スペシャルティコーヒーの定義 « SCAJについて | 一般社団法人 日本スペシャルティコーヒー協会
What is Specialty Coffee?|Specialty Coffee Association
スペシャルティコーヒーとは | SPECIALTY COFFEE WATARU
Top Coffee Producing Countries|WorldAtlas
ーヒーの価格高騰が止まらない!?「コーヒーの2050年問題」スタバの取り組みとは(食品産業新聞社ニュースWEB)| Yahoo!ニュース
コーヒーの2050年問題|FOR SUSTAINABLE COFFEE PRODUCTION|キーコーヒー株式会社
トレーサビリティ関係|農林水産省
Specialty coffee| Wikipedia
About SCA| Specialty Coffee Association
COE Rules/Protocols|Cup of Excellence
スペシャルティコーヒーのテイスティング(カッピング)1 2003年頃からSCA方式がスタート  | パパ日記 | HORIGUCHI COFFEEチャンネル | 堀口珈琲 HORIGUCHI COFFEE
概要 « Qグレーダーコース « Qグレーダー « 活動内容活動内容 | 一般社団法人 日本スペシャルティコーヒー協会
Q Processing|Coffee Quality Institute
スペシャルティコーヒーのテイスティング(カッピング)2 新しい官能評価方式へ  | パパ日記 | HORIGUCHI COFFEEチャンネル | 堀口珈琲 HORIGUCHI COFFEE
CoE Cupping Form (Digital)|Alliance for Coffee Excellence
Competition Process|Alliance For Coffee Excellence
カップ・オブ・エクセレンス|Wikipedia
Cup of Excellence
コーヒー生豆の流通過程における梱包,輸送,保管方法の違 いが品質変化に及ぼす影響|日本食品保蔵科学会誌 45巻3号
なぜフェアトレード?|フェアトレードとは?|fairtrade japan
サードウェーブコーヒーとは?成り立ちや特徴をご紹介 | INIC coffee〔イニック・コーヒー〕
Coffee Consumption By Country 2021
Tim Wendelboe | Coffee Subscriptions, Light Roast Coffees, Roastery & Café
北欧の浅煎りコーヒーの世界は、何がすごいのか?|朝日新聞GLOBE+
北欧コーヒー界の伝説の人、ティム・ウェンデルボー「気候変動でコーヒーが飲めなくなる」 現地レポ(3)(鐙麻樹)|Yahoo!ニュース
おいしいコーヒーをいれるコツ|スターバックス コーヒー ジャパン