環境ホルモンという言葉を覚えていますか?一時期テレビや新聞で取り上げられていましたが、「何だか良く分からなかった」という人も少なくないでしょう。
この記事では、環境ホルモンへの理解を深めるために、環境ホルモンの概要から人体への影響、そして政府が実施している対策について紹介します。
目次
環境ホルモンとは
環境ホルモンとは、正式には「内分泌かく乱化学物質(endocrine disruptors)」と呼ばれるもので、世界保健機関(WHO)は以下のように定義しています。
”内分泌系の機能に変化をもたらし、その結果として未処置生物、子孫、(準)個体群に有害な健康影響をもたらす外因性の物質または混合物”
引用元:環境省「保健・化学物質対策」
つまり、環境ホルモンは、動物や人間の生体内に入った場合、生体内で営まれている正常なホルモン作用に影響をもたらす化学物質の総称です。
環境ホルモンは1950年頃から問題になった
環境ホルモンが問題視され始めたのは、1950年頃でした。環境庁のまとめた「内分泌攪乱化学物質問題への環境庁の対応方針について」には、
- 1930年代に作られた合成エストロジェンが、米国において1950年代に医療目的で妊婦に使用された結果、胎児期に曝露された女性の生殖器に、遅発性のがん等が発生した
- DDTをはじめとする有機塩素系化合物等による環境汚染が発生している地域の野生生物に関して、生殖行動や生殖器の異常が見られるようになった
といった、当時の医学や生物学では説明が困難な現象が起こったと記載されています。これらの現象の解明を理由に研究が進み、環境ホルモンが疑われ始めました。
そして、環境ホルモンが社会的関心を大きく集めるようになったきっかけは、1996年に米国で出版された「Our Stolen Future(奪われし未来)」です。環境ホルモンの危険性を訴えた本で、野生生物だけでなく、人間の生殖機能障害を引き起こしている可能性に言及したため、注目を集めました。
奪われし未来は日本国内でも1997年に翻訳出版されています。
環境ホルモンが与える影響
それでは、環境ホルモンは具体的にどのような影響をもたらすのかを見ていきましょう。ここでは動物への影響と、人体への影響に分けて解説します。
環境ホルモンが動物に与える影響|メス化とオス化
動物への主な影響は、「メス化」や「オス化」です。
NPO法人ダイオキシン・環境ホルモン対策国民会議のまとめた調査によると、過去に北米五大湖では鳥のメス化、逆に日本の海岸ではイボニシのメスに輸精管・ペニスが形成されるオス化が現れたと記録されています。また、米国フロリダではピューマのオスに停留精巣が増加していると研究で証明されました。
このように、環境ホルモンは動物の生体に入ると、内分泌系をかく乱すると指摘されています。
これらの現象に関して研究の結果疑われたのが、殺虫剤やダイオキシン、船底塗料によって引き起こされる環境ホルモンです。
人体への影響は?女性化するって本当?
環境ホルモンに関しては、人間の男性生殖能力に影響を及ぼしている可能性も指摘されています。
それが、「女性化」と呼ばれる現象です。スカケベク博士がデンマークで実施した調査によると、1938年から1992年の50年間で、デンマーク男性の精子が半減していることが明らかになりました。さらにパリの精子バンクの調査で、20年間で精子の4割が減少し、奇形の精子や睾丸ガンの増加が見られました。
また、NPO法人ダイオキシン・環境ホルモン対策国民会議は、環境ホルモンの人体への影響は、女性化に止まらないと指摘しています。これまで集めた科学的証拠から、内分泌系の影響だけでなく、脳神経の発達障害やアレルギー、喘息といった免疫疾患を引き起こす可能性があるとしています。環境ホルモンが人体へ及ぼす影響は、決して軽視することはできないと訴えています。
次の章では、具体的にどのような種類の環境ホルモンが存在するのかを紹介します。
環境ホルモンの種類|食べ物やプラスチックに含まれている?
影響を及ぼす環境ホルモンは、主に人間が作り出した化学製品や農薬に含まれますが、その種類は多数あり、環境省の報告書によると、65の物質が挙げられています。
そして、これらの物質は、主に7つのグループに分けられます。
環境ホルモンの7つのグループ
- 農薬
- 工業化学品
- ダイオキシン類
- 動物由来の天然の性ホルモン
- 合成エストロゲン
- 植物エストロゲン
- その他の化合物
7つの中でも、環境ホルモンの大部分は農薬と言われており、普段口にしている野菜や果物にも環境ホルモンが付着している可能性が指摘されています。農薬や工業化学品などの化学物質の多くは、それぞれ定められた毒性試験により安全性が確認されていますが、ホルモンかく乱作用の観点からは評価されていません。また、種類も多く、全てを廃止することが困難とされています。
また、環境ホルモンと認定されているポリカーボビネートは食品を個包装するプラスチックの原材料にも使われています。
プラスチックごみの問題は深刻であり、海にはマイクロプラスチックが多く流出し海洋プラスチック汚染が世界規模で拡大していると言われています。
そのため、マイクロプラスチックを体内に蓄積した魚などを口にすることで意図せずに環境ホルモンを摂取する恐れがあります。
環境ホルモンは、影響がすぐには見られないという問題点がある
上で紹介したような環境ホルモンには、微量でも作用を発揮する一方で、すぐに影響が見られないという問題点があります。
例えば、環境ホルモンを体内に入れた本人には影響が見られず、その子供に生殖障害や健康被害が発生したりする恐れがあります。そのため、研究に時間がかかるだけでなく、「確実に環境ホルモンによって引き起こされた影響だ」と明確に証明することが困難となってしまいます。
環境ホルモンの全体像を把握したところで、現状を見ていきましょう。
環境ホルモンの現状
環境ホルモンは、主に1990年代ごろに社会的注目を集めましたが、それ以来ニュースや新聞で見ることも減ってきました。しかし、環境ホルモンへの研究は現在でも続いています。
ここでは、環境ホルモンの現状について解説します。
2002年にWHOが報告書を発表
環境ホルモンが問題視されて以来、さまざまな研究が行われてきましたが、2002年にWHOが発表した「内分泌かく乱化学物質の科学的現状に関する全地球規模での評価」は大きく注目を集めました。
WHOは報告書の中で環境ホルモンについて、「疑いなく国際的優先取組事項である。」と明言し、研究を進めていく重要性を謳っています。
2005年に「内分泌かく乱に関するプラハ宣言」を発表
2002年にWHOの報告書が発表された後、2005年には「内分泌かく乱に関するプラハ宣言」が発表されました。プラハ宣言は、欧米を中心とした13カ国の専門家や科学者127名が署名した宣言で、下のように明記されています。
“内分泌かく乱物質による潜在的なリスクの大きさを考えると、科学的な不確実さを理由に、それらの暴露やリスクを削減するための予防的な行動を遅らせるべきではないことを強く信ずる。”
引用元:化学物質問題市民研究会
これらの宣言を受けて、一部の国では危険とされる農薬の使用が禁止されるなどの対策がとられてきました。
環境ホルモンは実態が明らかになっていない部分も多い
とはいえ環境ホルモンの現状として、実態が明らかになっていない部分が多いのも事実です。
そのため、環境ホルモンが含まれているとされる物質を禁止することも難しいのが現状です。その例に、フランスの食品環境労働衛生安全庁がビスフェノール A の低用量影響を認めて規制強化を勧告した一方で、EUの欧州食品安全機関は信頼性が低いとし、使用禁止を却下した過去があります。
参考:特定非営利活動(NPO)法人 ダイオキシン・環境ホルモン対策国民会議
このように、環境ホルモンに関する評価が分かれる場合もあるのです。
環境ホルモンの対策
まだまだ明らかにならない部分が多い環境ホルモンですが、対策も行われています。ここでは、政府レベルで行われている対策に加え、個人でできることも紹介します。
危険性が高いとされる物質の使用禁止
過去には、環境ホルモンに関する研究が進み、人体に影響がある危険性が高いとされる物質の使用が禁止されてきました。例えば、近海に棲む巻き貝のメスがオス化した要因となった有機スズ化合物は、1990年に国内で船舶に使用することが禁止されています。これにより、近海汚染レベルが減少しました。
また、切迫早産の治療薬として1940年頃から使われていた人口ホルモン薬のDESは、服用した母体から生まれてきた子供の膣に癌や子宮機能不全、卵管・卵巣に異常を引き起こすことが調査で明らかになったため、使用が禁止されました。
このように、政府レベルで徐々に危険とされる環境ホルモンを含む物質の使用禁止を進めています。
参考:北海道立衛生研究所「環境ホルモン問題の現状とこれから,
個人でできる環境ホルモンへの対策
第一に、生体に影響をもたらす可能性がある環境ホルモンを「体内に入れないこと」が大切です。例えば、農薬を大量に使った野菜を食べないことで環境ホルモンへの対策になります。特に妊産婦や子どもは、できるだけ農薬が使われていない農作物を食べると良いでしょう。
購入した農作物に付着している農薬が気になる場合、ホタテパウダーやベジセーフなどで野菜を洗うのがおすすめです。ホタテパウダーは表面に付着している菌やウイルスを取り除く効果があり、100%天然成分でできていることも安心材料です。ベジセーフはアルカリ電解水のイオンの働きを利用し農薬や汚れを落とす効果があります。こちらも化学物質が一切入っていないので、安心して食材に使用することができます。
また、日常生活の中でガーデニング農薬や殺虫剤などの使用を可能な限り避けることも、環境ホルモンへの対策につながります。農作物の栽培方法について理解を深めたい場合は、下記の関連記事をご参照ください。
【関連記事】
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まとめ
環境ホルモンは長期的に生体に影響を及ぼす可能性が指摘されていますが、明確なメカニズムまでは証明されていません。そのため一瞬話題になって消えてしまった存在になりつつありますが、決して「仮説だった」「もう大丈夫」と言い切ることもできないのも事実です。
記事の中で紹介したように、環境ホルモンの体内への影響を裏付ける研究も出てきており、実際に廃止された農薬やホルモン剤もあります。環境ホルモンは、これまでさまざまな種類の化学物質を生み出し依存してきた社会が、そのあり方を再確認するための警告とも言えるかもしれません。
〈参考・引用文献〉
*1)環境ホルモンとは
環境省「保健・化学物質対策」
内分泌攪乱化学物質問題への環境庁の対応方針について
*2)環境ホルモンの影響
NPO法人ダイオキシン・環境ホルモン対策国民会議
調査
*3)環境ホルモンの種類|食べ物やプラスチックに含まれている?
環境省の報告書
*4)環境ホルモンの現状
内分泌かく乱化学物質の科学的現状に関する全地球規模での評価
内分泌かく乱に関するプラハ宣言
化学物質問題市民研究会
特定非営利活動(NPO)法人 ダイオキシン・環境ホルモン対策国民会議
*5)環境ホルモンの対策
北海道立衛生研究所「環境ホルモン問題の現状とこれから,
ホタテパウダー
ベジセーフ