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慣行栽培とは?メリット・デメリットと特別栽培との違い、農薬使用回数の基準の有無を解説

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農業について調べていくと必ず一度は出てくる「慣行栽培」という言葉。普段の暮らしの中ではあまり耳慣れないかもしれませんが、実は食糧問題や環境について学ぶうえで、とても重要なキーワードです。

今回は慣行栽培とは何か?にはじまり、よく比較される特別栽培と有機栽培との違いや、慣行栽培のメリット・デメリットについてご紹介します。

慣行栽培とは

慣行栽培とは、各地域で農家の多くが実践する農作物の栽培方法です。古くからの習慣を意味する「慣行」という言葉が使われているように、現代においては日本を含む世界中で一般的な作物の育て方だといえます。

特に野菜や果実・穀物類を育てる際の、農薬と肥料の使用回数などにおいて、多くの生産者が行っている農法を指します※。
参考:
https://kotobank.jp/word/%E6%85%A3%E8%A1%8C%E8%BE%B2%E6%B3%95-809083
https://www.maff.go.jp/j/jas/jas_kikaku/tokusai_a.html

そのため、私たちが普段スーパーで見かける農産物の多くは、慣行栽培によってつくられています。

慣行栽培は日本で最も多い栽培方法

では実際に、日本ではどれくらいの農家が慣行栽培を行っているのでしょうか。

農林水産省が2018年に行った調査「1年間の農業経営で行っているすべての栽培方法」の結果を見てみましょう。

さまざまな栽培方法がある中で、日本の農家の半数以上が慣行栽培を選択しています。

また同じ資料の中では、「過去3年間で最も売り上げが大きい栽培方法はどれか」という質問に対し、50%以上の農家が慣行栽培だったと回答しました※。
参考:https://www.maff.go.jp/j/finding/mind/attach/pdf/index-13.pdf3

私たち消費者にとってはあまり馴染みのない言葉かもしれませんが、実は日本で作られている作物の多くが、慣行栽培によって出来ているのです。

慣行栽培に明確な定義はない

慣行栽培という言葉について、農林水産省による明確な定義はありません。しかし、特に農薬と肥料の観点から、特別栽培や有機栽培といった別の農法と区別をするため、「慣行」という言葉が用いられるようになったと考えられます。

では、明確な定義がないということは、農薬の使用回数などの制限はないのでしょうか。

慣行栽培の農薬の使用回数の制限は、品目によって異なる

慣行栽培に必要な農薬・肥料の使用回数は、育てる作物の種類によって異なります。日本の農薬の管理や流通・使用方法を定めた「農薬取締法」によって、農林水産省の認可を受けた農薬と肥料だけが流通できる仕組みです。

それぞれの農薬と肥料には、対象となる農産物や使用回数が厳しく定められており、農家は購入した農薬・肥料の商品説明に沿って散布しています。

それ以外にも、都道府県ごとに農薬・肥料の散布時期や量の目安を示す資料がありますが、あくまでも使用回数の制限を決めているのは農薬と肥料の製造企業です。そうした情報をもとに、農家は自身の農産物を観察しながら、適切なタイミングで農薬・肥料を撒いているのです。

しかし、それだけでは生産者がきちんと使用回数と量を守っているかどうかまでは判断できません。そこで、農産物に含まれる農薬の残留量について基準を定めているのが、「食品衛生法」です。第十三条三項では、基準を超える農薬残留量が検出された食品の輸入や流通・販売を禁じています。

農家が農産物を出荷した後、流通している食品の中から、自治体や国がランダムに検査を行い、残留農薬の数値を計っています。

このルールによって、消費者にとって安全な農産物の生産が守られているのです。

このように、慣行栽培による生産には明確な定義がないものの、法律によって農薬・肥料の使用回数が制限されていることが分かります。

では次に、慣行栽培と比較されることの多い「特別栽培」「有機栽培」との違いについて見ていきましょう。

慣行栽培と特別栽培との違い

まずは、慣行栽培と特別栽培との違いについて確認します。

ポイントは「農薬と肥料の使用回数」です。

特別栽培とは、慣行栽培と比較して、栽培期間中の

  1. 節減対象農薬の使用回数が50%以下
  2. 化学肥料の窒素成分が50%以下 ※

※参考:https://www.maff.go.jp/j/jas/jas_kikaku/attach/pdf/tokusai_a-5.pdf

両方の条件を満たした栽培法を指します。

つまり、一般的に行われている慣行栽培の農法に比べ、農薬と肥料どちらも5割以上の削減を達成している農産物に対して「特別栽培」の表示が認められる、ということです。

慣行栽培で使われる農薬・化学肥料との比較は、地方自治体が決めた基準※を目安にします。
参考:https://www.maff.go.jp/j/jas/jas_kikaku/attach/pdf/tokusai_a-2.pdf

農林水産省の「特別栽培農産物 表示ガイドライン」では、以下の図のように定めています。

あくまでも節減の対象となっているのは、慣行栽培で一般的に用いられる化学合成農薬のみです。有機栽培で使われるような農薬は、対象外であることを知っておきましょう。

また5割以上の節減が「特別栽培農産物」の対象となりますが、農薬・肥料をまったく使わなかった場合は「不使用」と記載するのがルールです。これは、「無農薬」「無化学肥料」では、残留農薬も一切含まないという、間違った認識を消費者へ与えてしまう可能性※があるからです。これと同じ理由で「減農薬」「減化学肥料」の表記も禁止されています。
参考:https://www.maff.go.jp/j/jas/jas_kikaku/attach/pdf/tokusai_a-2.pdf

特別栽培の目的は、農薬や化学肥料による土壌汚染を少しでも減らし、環境にやさしい農法を促進することです。

また特別栽培によって、生産地が本来持つ土壌の性質を利用し、生産能力を最大限に発揮する目的も含まれます。

慣行栽培と有機栽培との違い

有機栽培は、日本の法律「有機農業の推進に関する法律」で、以下のように定められています。

  1. 化学的に合成された肥料及び農薬を使用しない
  2. 遺伝子組換え技術を利用しない
  3. 農業生産に由来する環境への負荷をできる限り低減する

    引用:https://www.maff.go.jp/j/seisan/kankyo/yuuki/

有機栽培によってつくられた有機農産物は、JASをはじめ第三者機関による厳しいチェックを経て市場に出回ります。そのため、栽培期間中の管理に手間がかかりますが、生産する土地と人の健康に配慮した、環境にやさしい農法として注目を浴びているのが有機栽培なのです。

ただし、ここで注意したいのは、「有機栽培=農薬・肥料を一切使用していない」ということではないということです。日本の場合、有機JAS農林水産省が定めた農薬や肥料・土壌改良資材※であれば、回数に制限なく使用できます。
※参考:https://www.maff.go.jp/j/jas/jas_kikaku/attach/pdf/yuuki-226.pdf

とはいえ、有機栽培で使用する農薬や肥料は、「天然物質」か、「化学処理を施さない天然由来の成分」が基本です。そのため、化学成分を含む農薬・肥料に比べると効果は穏やかなものばかりです

栽培方法によって品質に違いはある?

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ここまで、慣行栽培と特別栽培・有機栽培の特徴について紹介しました。

では実際に、それぞれの栽培方法による品質の違いは見られるのでしょうか。

栽培方法よりも、品種や条件による差が大きい

これまでに、品質の違いを検証する実験は数多く行なわれてきました。しかし、研究の条件や種類によって結果が異なるのが現状です。

北海道の農政部が掲載している複数の研究例「有機栽培と観光栽培の品質の違い」では、以下のような結果※が認められています。
※参考:https://www.pref.hokkaido.lg.jp/ns/shs/yuki/technology1.html

  • 外見(色や形)や栄養価について、有機栽培のほうが慣行栽培よりも「良い」もしくは「差がない」とする結果が多い。しかし「良い」場合でも、慣行栽培との差はあまり大きくない。
  • 農産物の日持ちについて、有機栽培のほうが慣行栽培よりも「優れている」か「差がない」場合が多い。ただし大きな差はない。
  • 栄養成分について、全体的にビタミンCが高く、鉄分の吸収を阻害するシュウ酸の含有量が低い傾向にあるが、品種による。
  • どの品種についても、使用する肥料の量・タイミングや、栽培地の土壌状態によって結果が異なる。

全体を通して、やや有機栽培のほうがポジティブな結果が出ているものの、育てる種類や土地の条件によって品質が異なるといえます。

栽培方法だけでなく、どこでどのように育てるかも大切なポイントなのかもしれません。

次章では、慣行栽培のメリットとデメリットを見ていきましょう!

慣行栽培の2つのメリット

まずは慣行栽培のメリットとして、2つのポイントを挙げています。

メリット①品質・価格面で安定する

慣行栽培では、土壌の様子を見ながら品目ごとに指定された農薬・肥料を使用します。

そのため、毎年収量に大きな差がなく、品質の変わらない農産物を栽培することが可能です。

品質が安定すれば、市場に出荷する際の価格も安定します。これにより、農家の収入はもちろん、消費者にとっても品質と価格に急激な変動がないことが、大きなメリットといえます。

メリット②従来必要だった農家の作業が減らせる

2つ目が、農家にとって負担の大きい作業を減らせることです。農薬・肥料を使うことで、従来は手作業だった除草や防虫作業の手間が省けます。

特に近年の日本では農家の人口減少・高齢化が問題となる中、慣行栽培は比較的手がかからず、最低限の人数でも出来る農法として、現在も続ける人が多い傾向にあるのです。

慣行栽培のデメリット・課題・問題点

次に、慣行栽培のデメリットや課題・問題点を確認します。

課題①気候変動への影響

慣行栽培に使用される農薬・肥料には、多くの化学成分が含まれ、すでに自然環境へ多くのネガティブな影響を与えています。

例えば、

  • 自然界の生態系の維持に重要な役割を果たすミツバチの減少
  • 土壌汚染による微生物と昆虫類の死滅
  • 化学成分が水で流れて水辺に住む生態系の破壊

などの影響をもたらしています。

こうした生態系の破壊は、自然のサイクルを乱すため、環境破壊による気候変動への影響にも繋がります。将来の暮らしを守るためにも、私たちは慣行栽培による農薬・肥料の使用を今一度見つめ直す必要があるのです。

課題②健康面の懸念

慣行栽培で使用する農薬と肥料の影響は、環境だけではありません。近年、世界では強い農薬によって健康被害を受けた農家が裁判を起こし、農薬の製造会社に大して勝訴するケース※が相次いでいます。
※参考:https://www.afpbb.com/articles/-/3185756

また消費者にとっても、慣行栽培によってつくられた農作物のほとんどは残留農薬がゼロではないという点で、自分自身や子どもへの健康の影響※を心配する声が少なくありません。
参考:https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjrm/52/6/52_6_909/_pdf

このように、慣行栽培で用いられる農薬・肥料は、健康面への懸念が拭いきれないのが現状です。

また、日本は特に農薬使用率の高い国となっています。以下は、OECDによる「国別 農耕地1ヘクタールごとの農薬使用量(1990年〜2017年)」のグラフです。

グラフから分かるように、日本はトップ3に入るほど農薬使用率の高い国です。2006年までで見ると、使用率は世界でトップとなっていました。

原因として温暖多湿な気候による害虫・病気の発生率の高さが挙げられますが、化学農薬や肥料が本当に健康への影響がないのか、今後も研究・調査を継続し、検証を重ねる必要があります。また、消費者である私たちも、食べ物への認識を今一度考える必要がありそうです。

慣行栽培・特別栽培・有機栽培の作物の見分け方

ここまで、慣行栽培について詳しく解説してきました。では慣行栽培と特別栽培・有機栽培を見分けるにはどうしたらよいでしょうか。

慣行栽培は一般的に広く行われている農法ということもあり、特に決まった認証やラベルはありません。

一方、特別栽培と有機栽培の場合は、それぞれ見分けるポイントがあります。

特別栽培なら、ラベルの情報をチェック!

特別栽培は、都道府県や地域によって認証機関が存在する場合が多くあります。そうでない場合は、農林水産省の定める表示ガイドラインに沿って、生産者名や農薬・化学肥料の削減度合いといった情報を、商品およびホームページに記載することが可能です。

なお、節減対象農薬の使用状況については、商品パッケージの都合で記載できないことも。その場合、ホームページなどの消費者がアクセスしやすい場所へ情報を掲載しています。

もし買い物中に分からないことがあれば、その場で生産者情報を調べるのもひとつの手です。

有機栽培なら、認証マーク!

有機栽培の場合、日本をはじめ世界のさまざまな国・地域で認証機関が発行するマークがあります。消費者である私たちは、認証マークを判断基準とした買い物が可能です。

先ほど挙げた日本の有機JAS認証のほか、EUのオーガニックロゴや米国のUSDAといったマークが有名です。

買い物の際は、こうした情報を目安に選択してみるとよいでしょう。

農家が栽培方法を選ぶ時のポイントは?

では、実際に農家が慣行栽培、特別栽培、有機栽培の内どの栽培方法が適しているか見極めるためには何に気をつければ良いでしょうか。

農業に参入を考えている場合、自身が失敗しないための栽培方法をチョイスしたいと考えます。
慣行栽培は、安定した収穫が見込めるため多くの農家が選択しています。

一方特別栽培、有機栽培はサステナブルな農法である点が強みではありますが農家の技術や経験が確立されていない場合やサポートが手薄な場合、収穫量を確保することが難しい側面も否定できません。

個々の置かれた状況により選び方が変わるとともに、各栽培法のメリットとデメリットを把握した上で選択することが望ましいでしょう。

まとめ

今回は「慣行栽培」について、基本の情報やメリット・デメリットについてご紹介しました。

たくさんの人が暮らす社会において、安定した品質と量を提供できる慣行栽培は、とても重大な役割を担っています。しかし一方で、環境や健康面については懸念が残るのも事実です。

今回の記事で学んだポイントを抑えつつ、毎日口にする食べものを購入する際は、自分が今できる中でベストな選択をしていくことが大切でしょう。

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