#インタビュー

株式会社エスプールプラス|農園を通じて障がい者と企業雇用の架け橋に

株式会社エスプールプラス 長澤さん インタビュー

長澤 真珠

1996年6月22日、東京都新宿区生まれ練馬区で育つ。2019年3月、青山学院大学卒業。

学生時代に留学を含む14カ国に行き、新卒で株式会社エスプールに入社。法人営業を経験したのち株式会社エスプールプラスに出向。新卒3年目で東海エリアの営業責任者となる。

Introduction

株式会社エスプールプラスは、農業を活用した障がい者の雇用創出を目的とした企業向け貸し農園「わーくはぴねす農園」の運営を中心に、一人でも多くの障がい者雇用の創出を目指しています。

今回は障がい者雇用支援グループチーフ長澤さんに、「わーくはぴねす農園」で実現しているサステナブルな取り組み、社会貢献への思い、今後の展望についてお伺いしました。

障がいを持った人々と企業、どちらにも嬉しい「貸し農園」

-まずは事業内容について教えてください。

長澤さん:

弊社グループは、ノーマライゼーション※社会の実現や、福祉、雇用などの人に関わる社会的な課題を解決していくことをミッションに活動しています。その中でもエスプールプラスは障がいのある方の就労促進を目的に、企業向け貸し農園「わーくはぴねす農園」の運営を10年以上行っています。

ノーマライゼーション

高齢者や障害の有無に関係なく誰もが平等な生活を実現させる考え方

参考:ノーマライゼーションから考える共生社会

-企業向けの貸し農園というのは、どのような仕組みですか?

長澤さん:

ご存知かとは思いますが、現在、従業員が一定数以上の事業者は、決められた割合で障がいのある方を雇用する義務※があります。

長澤さん:

そこで、企業が障がいのある方を雇用する手段の1つとして、私たちが運営している水耕栽培の農園を貸し出しています。農園は屋内・屋外から選ぶことができ、いずれも障がいのある方が働きやすい仕様になっています。

-雇用のチャンスや選択肢が増えることは、働く側にとっても、企業側にとっても、嬉しいことですよね。

長澤さん:

そうですね。働きたいという思いを持っている障がいのある方と、従業員が生き生きと活躍できる場を提供したい企業の橋渡しになれば嬉しいです。弊社では、労働者の募集から雇用継続まで、一環してサポートしているんですよ。

-それは心強いですね。
農園で作られた野菜はどのように活用されるのでしょうか?

長澤さん:

収穫した野菜は社員食堂や社員寮で提供することで、社員の健康度を促進することに繋がります。また、子ども食堂に寄付することで社会貢献活動(CSR)を推進したり、農園現地をノーマライゼーションを学ぶ研修の場として活用したりもできます。使い方は各企業によって様々です。

-なるほど。ただ雇用の機会を提供しているのではなく、企業の考え方に応じて様々な方面で社会に貢献できる仕組みになっているのですね。

長澤さん:

社会も会社も従業員も、みんなが心身ともに健康になればいいですよね。
ありがたいことに、業界・会社規模問わず多くの企業にご利用いただいておりまして、自治体と連携している地域もあります。各地域で働く方が増えて、地域の活性化にもつながっていると思います。

-それは素晴らしいですね。ぜひ詳しく教えてください!

生き生きと働けるよう、細かな配慮が行き届いた農園

-現在、農園は何か所くらいあるのですか?

長澤さん:

はい。2022年5月末時点で関東圏や大阪、愛知に全部で32箇所ございます。現在2,500名以上の障がいのある方が働いているんですよ。

-とても多くの方が働かれているのですね!一般的な農園との違いはあるのでしょうか。

長澤さん:

農園の特徴として、土を使わない水耕栽培を採用しています。土を使ってしまうと、どうしても鍬やトラクターなど鋭利な道具や重機を必要としてしまうためです。他にも、屋外農園と屋内農園でそれぞれ異なる特徴があるので、働く方の特性に合わせて選べるようになっています。

-屋内と屋外でメリットが異なるのですね。

長澤さん:

「屋外農園」は、自然と触れ合うことで生活リズムが整いやすく、都会の喧騒からも距離をおけるので、狭い場所や人の多さが苦手な方も利用しやすいですね。また通路が広く重度障がいのある方でも作業しやすいと思います。

長澤さん:

「屋内農園」は、体温調節が難しい方でも勤務しやすいのがいい所ですね。また、交通の便が良い場所にあるため、通勤が困難な方にも利用しやすくなっています。

-選択肢が複数あるのもいいですね。
使っている器具などにも、何か工夫があるのでしょうか?

長澤さん:

もちろん、配慮しています。栽培装置は、誤って右側だけにお水をあげてしまった場合でも、水が全体に行き渡る仕掛けになっているんですよ。装置の素材は発泡スチロールに近いクッション性のある素材でできているので、ぶつかってしまっても安心です。

長澤さん:

さらに栽培装置は高さが低く死角が少ないため、農園全体が見渡せる作りになっています。農園で働いている人の中には、てんかんなどの発作を持ってる方がいらっしゃるので、そういった方が仮に発作で倒れてしまっても、すぐにわかるよう工夫もされています。

-一般的な農場よりも、様々な配慮や工夫がされているのですね。
農園ではどんな野菜を育てているのですか。

長澤さん:

季節によりますが、40種類ほどの野菜を育てることができます。なすやトマト、枝豆、ほうれん草などさまざまです。育てる野菜は企業が決めるのですが、方針によっては、全部の区画でケールを育てて青汁として社員に還元する会社もありますよ(笑)

-良いですね。とても健康的になりそうです!

雇用の機会が自立に繋がり、貢献の輪が広がっていく

-実際に働いていらっしゃる方の様子はいかがですか?

長澤さん:

農園で働いている方から、「本当にこの農園をつくってくれてありがとう。自分の居場所ができました。」と言っていただけたときは感激しました。
コミュニケーションが苦手だった方が、作業や農園の雰囲気に慣れるにつれて、明るく話しかけてくれるようになったこともありますよ。

-農園という居場所が、従業員の方を良い方向に変化させていくんですね。

長澤さん:

他にも、「姪っ子にお年玉をあげてます。」みたいな話を聞いたときは本当に良いなと思いました。やはり自分で稼げなかったときは、周りの人にプレゼントを贈ることもなかったと思うんです。それが、自分で働いたお金で周りに還元できるようになった、そんなエピソードを聞くと嬉しいですね。

-障がいをお持ちの方にとって、お金を稼ぐということは大変なことなんですね。

長澤さん:

そうですね。実は、就職を目指すための訓練を行う就労継続支援B型という施設で得る月額の平均工賃は約1万6千円ほどです。最低賃金で働けているのは20人に1人しかいないとも言われています。

-月の収入が1万6千円ですか…。とても衝撃的な数字ですね。

長澤さん:

その点、「わーくはぴねす農園」では企業に就職するので、最低賃金が保証され、安定的な収入につながるというメリットがあります。手取りで月10万円前後の収入が得られるようになるケースが多いですね。
自立のために一人暮らしができたり、親御さんをレストランに連れていってあげたりと、自分で稼いだお金でやりたいことをできるようになるんです。

-障がい者の方が自ら稼いだお金で自立ができるようになることは、SDGsで掲げられる目標の一つ「貧困をなくそう」にも繋がっていますね。

長澤さん:

そうですね。私たちの仕事は、単に雇用を生み出すだけではなくて、働く方の自立を支援することで、本人だけでなく、親御さんなど周りの人々に対しても貢献の輪を広げられていると感じています。自分の提案が誰かの人生を良くしていると思うと、やりがいも大きいですね。

定着率92%という驚くべき実績から、企業が学ぶべきこと

-働く方にとっても、その人を支える方々にとっても、農園は大切な役割をになっているのですね。
農園を借りる企業にとっては、どのようなメリットがありますか?

長澤さん:

企業にとっては、障がいのある方と働き方のミスマッチを防ぐことで、安定して長く働いてもらえるという利点があります。現状では、清掃やシュレッダー業務、名刺や郵便物の仕分けなど、一般的に雑務と呼ばれる仕事に終始してしまうケースも少なくないですから、どうしても定着率に課題が出てきてしまうんです。

-適性にあった働き方をしてほしいと願う企業にとって、農園という選択肢が増えることがメリットになるのですね。通常の場合、障がいのある方の定着率はどのくらいなのでしょうか?

長澤さん:

一般企業におけるオフィス勤務の障がい者の定着率は62%ほどで、さらに精神障がいの方にフォーカスすると50%にもなるんです。それぐらい、受け入れる側と続ける側の双方の一致がなかなか難しい。
そのような状況下で、弊社の農園は定着率92%とかなり高い数値が担保できています。

-定着率92%!素晴らしい数値ですね。この高い定着率の理由は何なのでしょうか。

長澤さん:

従業員の方と働き方のアンマッチが無いこと、そしてコミュニティの関係性の良さの2点があると思います。特性は違っても、似た悩みをもった仲間と一緒に働けるからこそ、続けたくなるのかな、と。

この2点は、障がいの有無に関係なく企業にとって重要な課題だと感じています。「働きがいも経済成長も」というSDGsの目標にも繋がっていく、大切な視点ですからね。

-確かにそうですね。障がい者雇用から、私たちが学ぶべきことも多いのかもしれません。
冒頭でおっしゃっていた企業研修なども、SDGsに関する相互理解に役立ちそうですよね。

長澤さん:

そうですね。最近はノーマライゼーションの理解や従業員の研修会場として、農園を活用してくださる企業も増えていますね。私たちから「雇用促進法」などについて座学研修を行った後に、実際に農園でお野菜作りを体験したり、従業員の方とコミュニケーションを取ったりして、知識と経験の両方の側面から学んでもらうんです。

-実際に会って話すほうが、お互いの理解が深まりますもんね。

長澤さん:

そうですね。日本の教育現場では、学校自体が別だったり、同じ学校内でもクラスが分かれていたりと、触れ合う機会が限定されてしまっていますよね。身近に当事者がいない限り、なかなか生活実態を知ることも難しい。

企業とともに、障がいのある方への理解を深めていくことで、「質の高い教育をみんなに」というSDGsの目標にも貢献したいなと考えています。

障がいの種別に関わらず、自分らしく働ける未来を創りたい

-「わーくはぴねす農園」は、様々なSDGsの目標に貢献できる活動であることがよく理解できました。最後に、今後の展望を聞かせてください。

長澤さん:

より多くの障がいのある方が、自分らしく働ける選択肢を増やしていくことが目標です。

私たちは、「障がいのある方の就職支援がしたい」という想いから始まって、これまで10年以上農園事業を行ってきました。農園の作業がしやすい方は良いのですが、農園以外でのお仕事を希望されている方もいらっしゃるのではと考えています。
働き方の選択肢を増やすことで、誰しもが就職しやすい社会になるように、もっと成長していきたいなと思います。

-障がいの有無に関わらず、自分の得意なことを生かして働ける社会になるといいですよね。
本日はありがとうございました!

関連リンク

>>株式会社エスプールプラスHP