私たちが使う電力の7〜8割は火力発電によって生み出されています。発電の仕組みはシンプルで化石燃料を燃やしたときにでる燃焼ガスや、蒸気の力で発電タービンを回すだけです。
燃料さえあればいつでも発電できることや天候・時間帯に関わらず発電できること、必要な時に必要な量の電力を得られるなど利便性が高い発電方法ですが、二酸化炭素を大量に排出するというデメリットもあります。
地球温暖化が進む中、私たちは火力発電とどのように付き合えばよいのでしょうか。今回は火力発電の仕組みやメリット・デメリット、世界や日本の火力発電の現状、火力発電の今後、SDGsとの関わりについてまとめます。
目次
火力発電とは
火力発電とは、燃料を燃やすことで得られる火の力で発電する方法です。発電には水力・風力・原子力・太陽光などさまざまなものがありますが、火力発電にはどのような特徴があるのでしょうか。
火力発電の特徴
火力発電は主に、
- 発電量を調節しやすい
- 建設コストが安く、短期間で建設できる
- 燃料価格の変動が激しい
- 二酸化炭素や窒素酸化物(NOX)、硫黄酸化物(SOX)の排出対策が必要
*1)
といった特徴を持ちます。
火力発電は、必要に応じて発電量を増減させられるので、他の電力とのバランスがとりやすく、水力発電や原子力発電と比べると建設コストが安いため、比較的短期間で建設できるのが大きな特徴と言えるでしょう。こうした便利な面があるため、日本は火力発電に大きく依存してきました。
しかし、燃料の多くを海外に依存しているため、ウクライナ戦争後のような天然ガス価格の急騰といった事態に直面すると、電力価格の高騰につながるなどの課題も露呈しました。
火力発電の燃料
火力発電の燃料は、石炭・天然ガス・石油などの化石燃料です。
【電源別発電電力量構成比】
上のグラフからは、石炭・天然ガス・石油を合わせると、日本のエネルギーの約76%が火力発電によってまかなわれていることがわかります。
火力発電の仕組み
火力発電は火の力で発電すると説明しましたが、実際にはどのようにして電気を生み出すのでしょうか。火力発電の仕組みについて解説します。
火力発電の原理
火力発電は、燃料を燃やして水を沸騰させ、蒸気の力で「蒸気タービン」を回転させて電気を生み出す発電方法です。
【火力発電の基本原理】
やかんと風車を思い浮かべると、火力発電の仕組みが理解しやすくなります。燃料を燃やし、水を沸騰させるのは火力発電もやかんも同じです。蒸気が風車に当たると、くるくる周りますが、その回転の力が電気を生み出す力となるのです。蒸気タービンの仕組みも、蒸気で羽根車を回転させるものですので、風車と同じです。*4)
火力発電の仕組み
とはいえ実際の火力発電の仕組みは、やかんと風車よりもやや複雑です。
【火力発電の仕組み】
続いては、火力発電の種類と特徴を見ていきましょう。
火力発電の3つの種類と特徴
火力発電は3つの種類に分類できます。それぞれ詳しく確認します。
汽力発電
汽力発電は、石炭やLMG(液化天然ガス)、重油などを燃やして熱を発生させ、高温・高圧の蒸気を発生させます。そして、この蒸気を使ってタービンを回転させ、発電機を動かします。こうした蒸気タービンの仕組みは古代ギリシア時代から存在し、産業革命時代に本格的に使われるようになりました。蒸気の力を使う汽力発電は火力発電の基本です。*6)
ガスタービン発電
ガスタービンは飛行機のジェットエンジンと同じ内燃機関の一種です。化石燃料を燃やした際に発生する燃焼ガスの力でタービンを回転させ、発電機を動かします。高出力で始動時間が短いという特徴があり、電力需要のピーク時に使用されます。*6)
コンバインドサイクル発電
ガスタービンと蒸気タービンを組み合わせた発電方式をコンバインドサイクル発電といいます。ガスタービンと同じく燃焼ガスで発電しますが、発電に使われた燃焼ガスの余熱を使い、水を沸騰させて蒸気タービンを回します。
コンバインドサイクル発電では、1度の燃焼で2回発電できるため発電効率が良く、CO2の発生量を抑えることが可能です。*6)
続いては、火力発電のメリットを確認します。
火力発電のメリット
火力発電には発電量が安定していることや発電効率が高いこと、出力調整がしやすいことなどのメリットがあります。それぞれ内容を見ていきましょう。
火力発電のメリット①発電量が安定している
火力発電は化石燃料を燃焼させて発電するため、天候に左右されることがありません。再生可能エネルギーは水力・風力・太陽光のいずれも天候によって発電量が大きく変化するため、発電量が安定しないという弱点があります。
それに対し、火力発電は燃料さえあれば発電できるため、常に一定量の電力を確保できるのです。
火力発電のメリット②発電効率が高い
火力発電は発電効率が高いこともメリットとして挙げられます。発電効率は、発電方式のエネルギー変換率から判断することができます。
エネルギー変換率(変換効率)とは、光や熱などの各種エネルギーが他の形に変換できるエネルギーの割合のことです。つまり、エネルギー変換効率が高いほど、発電効率が高いといえます。
【各種発電方式別にみたエネルギー変換効率】
近年、風力発電や太陽光発電の発電効率が上昇しています。風力発電で30〜40%、太陽光発電で20%前後まで上昇しました。それでも、火力発電のLNG複合や蒸気タービンの変換効率よりも低い状況です。火力発電の効率の良さがわかります。
火力発電のメリット③出力調整がしやすい
火力発電には、需要の増減に応じて発電量を調整する出力調整がしやすいというメリットもあります。
【電力需要と発電量のイメージ】
太陽光発電や風力発電の発電量には波があります。そのため、実際の電力需要に発電量が満たないことが起こります。火力発電は天候に関わらず稼働させられるため、再生可能エネルギーの発電量と実際の電力需要のギャップを埋めることができるのです。
今後、再生可能エネルギーの割合が増加しても、天候による発電量の増減を完全にコントロールすることは困難です。原子力発電も出力調整がしやすいとはいえ、現在のところ、全面再稼働まで時間がかかる状況です。
つまり、今後も火力発電による出力調整は発電全体を支える重要な要素として機能し続けるといえます。
火力発電のデメリット
火力発電には、安定して発電でき、発電効率が高く出力調整がしやすいというメリットがあるとわかりました。その反面、無視できないデメリットも存在します。
火力発電のデメリット①温室効果ガスを排出する
1つ目のデメリットは、温室効果ガスを排出し、地球温暖化を加速させることです。
【日本の温室効果ガス排出量(2020年度)】
日本の温室効果ガス排出量のおよそ84%をエネルギー起源CO2が占めています。エネルギー起源CO2とは、火力発電によって生み出される二酸化炭素にほかなりません。温室効果ガスは地表から出る熱を吸収してしまうため、地球の平均気温をあげてしまいます。
地球全体の平均気温が上昇することを地球温暖化といいますが、産業革命前に比べると地球気温は約1.09℃も上昇しています。工業化など人間による活動が原因で、火力発電もその一つと考えられています。*10)
気温の上昇は降水量の増加や海面水位の上昇、北極や南極周辺の海氷の減少等を引き起こしています。このほかにも、温暖化は極端な高温や異常気象をもたらすと予測されています。
火力発電のデメリット②自給が困難で燃料の国際価格の影響を強く受ける
2つ目のデメリットは、燃料が自給困難であるため、国際価格の影響を強く受けることです。
【主要国の一次エネルギー自給率比較(2020年)】
ノルウェーやオーストラリア、カナダ、アメリカは自国で使うエネルギーを自給できる状況です。それに対し、日本のエネルギー自給率はわずか11.3%とかなり低い状態です。残りの約89%のエネルギー資源は外国からの輸入に頼っています。
【日本の化石燃料輸入先(2021年)】
原油の約91.9%は中東地域に依存し、LNG(液化天然ガス)はオーストラリア、東南アジア、中東、アメリカ、ロシアから輸入しています。石炭についてはオーストラリアからの輸入が3分の2を占めている状況です。
中東地域は石油資源が豊富なことから、しばしば紛争が引き起こされてきました。2003年のイラク戦争、2011年から現在まで継続しているシリア内戦、イスラエルとパレスチナ人の紛争、イランとサウジアラビアの対立など紛争の火種がくすぶっている地域であり、常に供給不安にさらされています。
また、2022年に始まったロシアとウクライナの戦争は、天然ガス価格の高騰を招きました。
【天然ガス・LNG価格の推移】
新型コロナウイルスによる混乱から世界経済が回復の兆しを見せると、天然ガスの需要が増大し価格が一気に上昇しました。それに拍車をかけたのがロシアとウクライナの戦争です。
2023年5月現在では、価格がある程度落ち着きを取り戻しているものの、2020年以前と比べると明らかに高止まりしています。そのため、火力発電のコストが増大し、電力各社は政府に値上げを申請しています。*13)
加えて石炭価格も上昇しています。
【日本の一般炭輸入価格(CIF価格)】
経済の回復で需要が増加したことに加え、対露制裁の一環としてロシア産石炭の輸入が禁止されたほか、ヨーロッパ諸国がアジアから石炭を輸入する動きがあったため、価格が高騰しているのです。*15)
このように、火力発電の燃料である化石燃料は国際情勢により価格が乱高下するため、不安定であるというデメリットがあるのです。
世界の火力発電の現状
世界の電力消費量は拡大の一途をたどっています。近年急速に増加しているのは開発途上国を多く含むアジア、中東、中南米です。
【世界の電力消費量の推移(地域別)】
特に増加が著しいのは中国を含むアジア地域です。1994年以降は、消費電力量で西欧地域を上回っています。*14)
世界の火力発電の詳細
次に、電源構成と発電量をみてみましょう。
【世界の電源設備構成と発電電力量】
これをみると、石炭・石油・ガスといった化石燃料の割合が3分の2前後を占めていることがわかり、世界的に見ても火力発電は重要な発電手段であることがわかります。
石炭火力発電は2010年代後半から廃止圧力が強まりましたが、依然として最大のエネルギー供給源となっています。その一方で天然ガスを利用した火力発電の割合は増加傾向にあります。*14)
日本の火力発電の現状と今後の動向
日本では東日本大震災の前後で発電量の割合が大きく異なります。
【発電量割合の推移】
東日本大震災前は、LNG・原子力・石炭の割合がそれぞれ3割前後でした。しかし、震災後は原子力発電の割合が急減し、LNGと石炭の比率が大きく増加し、火力発電による発電量は全体の7〜8割を占めるに至りました。
このように、私たちの生活に火力発電は欠かせないものです。だからといって火力発電を無制限に続けていれば、温室効果ガスの排出が抑制できず、地球温暖化阻止の流れに逆行してしまいます。
今後、火力発電をどのように扱うべきなのでしょうか。日本におけるこれからの方向性についてまとめます。
火力発電の割合引き下げ
2021年10月、政府は第6次エネルギー基本計画を策定しました。
【新たなエネルギーミックス】
再生可能エネルギーや原子力発電の割合を増加させる一方、石炭火力発電は約19%に、LNG火力発電は約20%に減少させます。これにより、化石燃料の使用割合を現在の76%程度から41%程度まで減らすことを目指します。
新技術の実用化
政府は火力発電における新技術の実用化を急ピッチで進めています。特に力を入れている技術の一つがアンモニアを燃料とする火力発電です。現在、石炭火力発電所でアンモニアを20%混焼する実験が進められています。
【アンモニア混焼実験に関するデータ】
実験データによれば、石炭火力発電所の燃料としてアンモニアを20%混ぜると約4,000万トンの二酸化炭素排出量を削減でき、50%なら約1億トン、アンモニアのみを燃料とする専焼では約2億トンもの二酸化炭素削減が可能としています。*16)
電力会社の環境への取り組み
火力発電を行うにあたって、電力会社は国が進める技術革新以外にも、様々な活動を行っています。そのうち、今回はバイオマス燃料の使用と大気汚染防止の2点について解説します。
バイオマス燃料の使用
バイオマス燃料を石炭と一緒に燃焼させることで、石炭の使用量を減らし、二酸化炭素排出量を減らす試みが行われています。
2020年6月から運転を開始した広島県竹原市の竹原火力発電所新1号機は、出力が60万キロワットで、石炭を主燃料としています。この発電所は、世界最高水準の約48%の熱効率を達成するだけではなく、バイオマス燃料も使用しています。*18)
大気汚染の防止
火力発電は、二酸化炭素以外にも硫黄酸化物(SOX)や窒素酸化物(NOX)、ばいじんなどを排出するため大気汚染の原因ともなってきました。
電力会社では硫黄分を取り除く脱硫装置や窒素酸化物を取り除く脱硝装置、ばいじんの排出を防ぐ電気集塵機を導入することで、周辺環境の悪化を防いでいます。加えて、ボイラーやガスタービンの燃焼方法を改善させ、これらの大気汚染物質の発生を抑えています。*19)
火力発電とSDGs目標13「気候変動に具体的な対策を」との関わり
最後に、火力発電とSDGsの関わりについてまとめます。
火力発電は二酸化炭素の排出量と大きな関わりを持っているため、SDGsを考える意味でも非常に重要なテーマです。
目標13「気候変動に具体的な対策を」では、気候変動の大きな要因とされる二酸化炭素などの温室効果ガスの削減が重要テーマとなっています。
火力発電は上記5つのポイントのうち、③や④と密接にかかわってきます。世界的に見ると、ウクライナ戦争により、石炭火力発電に再び注目が集まるなど、火力発電をめぐる情勢は刻一刻と変化しています。
その一方で、地球温暖化対策も待ったなしの状況です。IPCCの第6次報告書において、産業革命後の気温上昇は、人類活動の結果であることは「疑う余地がない」としています。
SDGsの掲げる「誰一人取り残さない」持続的な成長を達成するためには、立場の弱い人に悪影響をもたらす急速な気候変動に歯止めをかけなければなりません。そのためには火力発電の割合を引き下げ、二酸化炭素排出量を削減して地球温暖化を止める必要があります。
まとめ
今回は「火力発電」について取り上げました。火力発電は経済効率が良く、発電量の調整が容易であることから世界や日本の経済発展に大きく貢献してきました。その反面、石炭や天然ガスといった化石燃料を大量に燃やすため、二酸化炭素を発生させてしまい、地球温暖化を進めてしまうといった悪影響もでています。
地球温暖化をストップさせるには火力発電割合を引き下げなければなりませんが、一朝一夕にできることではありません。再生可能エネルギーなどの割合を増やすまでの間、火力発電の技術革新を進め、すこしでも二酸化炭素排出量を削減しつつ、経済活動を維持・発展させる方策を探らなければならないのではないでしょうか。
参考
*1)中国電力「火力発電の特徴」
*2)デジタル大辞泉「化石燃料(かせきねんりょう)とは?」
*3)資源エネルギー庁「今後の火力政策について」
*4)電気事業連合会「火力発電 - 発電のしくみ」
*5)資源エネルギー庁「電気をつくる方法 その❶ 火力発電・水力発電 | マンガでわかる 電気はあってあたりまえ?」
*6)電気事業連合会「汽力発電 - 火力発電」
*7)関西電力「水力発電の概要 役割・特徴」
*8)資源エネルギー庁「再生可能エネルギー拡大に欠かせないのは「火力発電」!?」
*9)資源エネルギー庁「環境 | 日本のエネルギー 2022年度版 「エネルギーの今を知る10の質問」」
*10)全国地球温暖化防止活動推進センター「WG1 第1作業部会(自然科学的根拠)」
*11)資源エネルギー庁「安定供給 | 日本のエネルギー 2022年度版 「エネルギーの今を知る10の質問」」
*12)資源エネルギー庁「第2節 世界的なエネルギー価格の高騰とロシアのウクライナ侵略」
*13)NHK「大手電力7社 6月の使用分から電気料金値上げの見通し | NHK | 物価高騰」
*14)資源エネルギー庁「第3節 二次エネルギーの動向」
*15)資源エネルギー庁「今後の火力政策について」
*16)資源エネルギー庁「アンモニアが“燃料”になる?!(前編)~身近だけど実は知らないアンモニアの利用先」
*17)資源エネルギー庁「バイオマス燃料製造|再エネとは|なっとく!再生可能エネルギー」
*18)電源開発株式会社「竹原火力発電所新1号機の営業運転開始について~世界最高水準の熱効率及びバイオマス燃料混焼によるCO 2 排出量削減と高い運用性の実現」
*19)株式会社JERA「大気を汚さないために | 環境 | JERA」
*20)スペースシップアース「SDGs13「気候変動に具体的な対策を」の現状と私たちにできること、日本の取り組み事例」