石田 陽佑
株式会社TOMUSHI代表取締役CEO
1997年 秋田県大館市生まれ
2011年 中学2年生 家出
2014年 木村タイル工業入社 17歳
2017年 青山学院大学経済学部 入学
2018年 起業するため中退
2018年 株式会社LaTier設立 Web・SNSマーケティング事業
2018年 事業がうまくいかず、同タイミングで祖父が体調を崩したことをきっかけに大館市に帰郷
2018年 カブトムシに熱中
2019年 株式会社TOMUSHI設立
introduction
ヘラクレスオオカブトムシのつがいを手に入れたカブトムシ好きの双子の若者、石田健佑さんと陽佑さん。飼育に熱中した二人は、繁殖したカブトムシを売る事業を始めました。やがて、それらのカブトムシがキノコ栽培のゴミ(廃菌床)を食べることがわかります。今では、様々な有機廃棄物を餌としてカブトムシを育てる事業のフランチャイズ化やその経済循環による地方創生、カブトムシの販売、イベント開催など、多彩な「カブトムシ事業」を展開しています。カブトムシ自体の資源化も実現が間近です。
今回は、石田陽佑代表取締役に、カブトムシ愛から始まった事業の歩みと、地球に優しい未来を目指す壮大なヴィジョンを語っていただきました。
カブトムシで有機産業廃棄物を燃やさず循環させ資源化
–まずは、事業内容の概要を教えてください。
石田さん:
ごくシンプルに言いますと、いろいろな地域で出る有機産業廃棄物、つまり動・植物に由来するゴミをカブトムシの餌とすることで分解し、燃やさずに循環させて処理・資源化するということをやっています。
事業としては、フランチャイズ化している「有機産業廃棄物を餌とするカブトムシの飼育事業者」へのコンサルティングや支援・それらのカブトムシを引き取っての販売、およびカブトムシ展などのイベント開催が大きな二本柱となっています。
また、カブトムシ自体を養殖魚や養鶏などの餌にしたり、薬品に用いるなどの「資源」とする事業も、さまざまなジャンルで実現間近というところです。
–御社の社名TOMUSHIには意味がありそうですね。由来はなんでしょう?
石田さん:
(株)TOMUSHIとすれば「カブトムシ」と読んでもらえるからなんです。またTOMUSHIは「~と虫」とも読めますよね。僕たち兄弟はカブトムシが好きでこの仕事を始めたんですが、虫全体の可能性も大事にしています。そのため、虫そのものもイメージしてこういう社名になっています。
—御社のビジョン、ミッションはどのようなものですか?
石田さん:
「ゴミをカブトムシで資源化して世界の資源不足を解消する」というのがもともとのビジョンでしたが、最近それをもう少し幅広く捉え、世界の環境を良くすることを目指す「地球に優しい未来、と虫」に変わりました。どれほど環境に貢献していけるか、に重点を置き、地球ファーストで取り組んでいきたいんです。
ミッションは、もとの「全世界の有機廃棄物の窓口に」が「全世界の廃棄物の窓口に」となりました。どんなゴミが入ってきても資源化することを目標にしています。燃やす処理でCO₂に変えるのではなく、生物によって分解して資源に変えるということです。
カブトムシが処理できないものはイエバエなどほかの生物が分解しますし、どれもだめなら微生物で分解したり、メタン発酵させてガスを採るなど、廃棄物は循環させられるはずなんです。全世界の生物の生態系を活用して循環する世の中を創る、ということが我々の大きな目標です。
35万円のヘラクレスオオカブトムシの落札から全ては始まった
–そもそも、なぜ「カブトムシ」だったのでしょう?そこへのプロセスを教えてください。
石田さん:
最初のきっかけは、子どもの頃に熱中したカードゲームの「ムシキング」です。僕らは「ムシキング」世代で、好きな虫のカードを夢中で集めては、本物のカブトムシを見たい、触ってみたい、と当時から思っていたんです。
現在のカブトムシ事業については、僕たち双子の複雑な経歴の先にきっかけがあります。僕は14才の時に家出して、結果として秋田の母方の祖父母の養子になりました。高校をやめてタイル職人になったんですが、原料アレルギーが発症して続けられませんでした。そこから一念発起して青山学院経済学部に入学したんですが、思い描いていた大学生活とは異なり、学ぶ意欲が失せ、単位もちゃんと取れませんでした。
兄・健佑も高校卒業時に家を出て祖父母の養子となったのち、東京に出ていました。学ぶ意欲が失せてもIT起業の勉強をしていた僕は、兄と起業することを決意し、大学を中退したんです。ただ、マーケティング事業の会社は結局は失敗し、お金もすべてなくしてしまいました。その頃、秋田の祖父が体調を崩したこともあり、二人で祖父母の家に戻りました。
とはいえ、いわゆるニートで、やることがありません。そこで近隣の林に二人でカブトムシを探しにいったんですが、一週間通っても採れませんでした。悔しくなってしまい、祖母に、憧れのヘラクレスオオカブトムシを買ってほしいとねだったんです。ネットオークションで見ているうちに気持ちが高まってきて、祖母のクレジットカードでなんと35万円の成虫を落札してしまいました。当然大騒ぎになりましたが、祖父が「孫が好きなんだから」と許してくれたんです。その後メスも買ってもらい、兄と飼育に熱中しました。交尾させると、幸いなことにたくさん卵を産み、どんどん繁殖していきました。
この時の最多産卵記録は一匹で280個です。幼虫があまりに増えたので売ってみたら、もとが高価格の上級ヘラクレスですから、幼虫も成虫も驚くほど高く売れました。売れば生活できるんだ、と気づき、兄弟で事業化を考えました。大好きなカブトムシで生活できるなんて、こんないいことないじゃないか!と。
祖父母に再び頭を下げて、カブトムシを育てて売る事業のために500万円ほど出資してほしいと頼みました。祖母は心配しましたが、祖父が「孫がやりたいというんだから、騙されたと思って出そう」と了解してくれました。僕の教育費とかで貯金は底をつきかけていたため、先祖から引き継いだ最後の土地を売って用意してくれたんです。その資本金でスタートし、今まで会社を成長させてきたのが、TOMUSHIの歴史です。
石田家は、初代が事業を起こして財をなし、それを政治家であった二代目から石田家初のサラリーマンとなった四代目の祖父まで脈々と受け継いでいました。その財産も土地も政治という地盤も我々が失わせたようなものなので、先祖に対しても、俺たちは頑張るよ、という気持ちがありますね。様々なチャレンジには、そんな背景もあります。実は、兄は現在弊社からはほぼ手を引き、今年の春に大館市の市議選に出馬して、トップ当選しました。この2023年は全国で25才の史上最年少市議会議員が数人誕生し、兄はその一人となりました。
–それぞれが好きなことに突き進む気持ちと、それを受け入れてくださったご祖父母の愛情が合わさっての、奇跡のような展開ですね!
石田さん:
本当に、祖父母の愛情なしにTOMUSIは生まれませんでした。販売事業が順調に進み始めた頃、地元の銀行からビジネスコンテストに出てほしいといわれ、出場したら優勝してしまいました。その結果、その銀行が支援で1,000万円以上を融資してくれたんです。そこからさらに事業拡大となるのですが、それゆえの困難もありました。生産量を増やしたデメリットとして雑虫が湧き、餌を食べ尽くしてしまったんです。資金不足に陥った時、担当の銀行員さんが、不法投棄された有機廃棄物を、餌にできないかと提案してくれました。
秋田県はキノコの産地でもあり、キノコ栽培に使う「菌床」という、オガクズに栄養物などを混ぜて固めたものが、廃材「廃菌床」として大量に発生します。これが不法投棄された山にカブトムシが多数いると知り、餌になるのでは?と思ったそうです。予想通り、カブトムシたちは「廃菌床」をよく食べました。そこで、近隣のキノコ農家さんに「廃菌床」を譲ってほしいと頼んだところ、ゴミだからいくらでも持って行って、となり、1トン2000円ほどの格安料金で引き取らせてもらいました。一箱の餌に数千円払ってきたので、ありがたすぎて気がひけましたが、あちらは、ゴミが収入になると喜んでくれました。ここから、廃棄物を燃やさずに減らすという環境意識が芽生え、また、新たなフランチャイズ事業への転換点ともなりました。
フランチャイズは農家を経て個人、福祉作業所、地方創生へ
–フランチャイズ事業は、どのような過程で現在のビジネスモデルに至ったのですか?
石田さん:
TOMUSHIのカブトムシが高額で販売されているのを知ったキノコ農家さんから、自分たちも飼育してみたい、という声が出てきたんです。この時点で、弊社は、有機廃棄物を大量に食べ、通常1年かかるところを4か月のスピードで成長する品種を研究開発していました。メディアでも取り上げられ、それを見た農家さんからも「どうやって飼育するの?」と聞かれたのがフランチャイズへの始まりでした。
システムとしては、カブトムシ版「農協」に近いですね。フランチャイズ先にはコンサルティングをしっかり施し、飼育場を建てる指導もします。種親を送り、卵を採って成虫にするところまでをやっていただきます。引き取ったカブトムシは、弊社の販売サイト「ビーラボ」が扱い、売れた時に30%の手数料をいただきます。
餌は、場所やフランチャイズ先の状況に合わせ、基本的に弊社が、廃菌床、畜産からの糞尿、特定の食品などの有機廃棄物をより適切なものに加工します。ですから廃棄物を持たない組織や個人も弊社の餌を購入していただけます。
フランチャイズ例では、福祉事業者さんの参入が続いています。作業所などでは単純作業が求められますが、そこで生き物との触れ合いを提供したい事業者さんが多いんです。カブトムシ事業を福祉に取り入れれば、就労支援の助成金にカブトムシの収益も加わります。現在5事業者さんと契約していますが、最近ではさらに問い合わせが増えています。福祉はSDGsとしても取り残せない部分ですから、貢献できるのは嬉しいですね。
サラリーマンなどの副業、退職後の仕事など、虫好きな個人が500匹くらいから挑戦する小規模なフランチャイズもあります。
–飼育場所さえあれば、都会でも個人がカブトムシ事業に参入できるわけですね。
石田さん:
そうです。コンテナ一個で1,000~2,000匹が有機廃棄物の餌を食べながら育ちます。ただ、基本的にフランチャイズの中心を占めるキノコ農家さんは、地方の山間部の過疎地に多いんです。そのため、最近は「地方創生」にも力を入れています。
カブトムシ好きは全国に沢山いますので、求人を出し、カブトムシと一緒に地方で暮らしたいという首都圏の方々を主に募集するんです。カブトムシを育てて給料をもらうのは、カブトムシファンにはたまらない生活です。行政と協力して、カブトムシ好きが集まった時にちゃんと生活できるように整備もして、地域起こしに繋げています。
地球のために、カブトムシの実力と魅力を世界に伝えてゆく
–生産者が増えた結果、過当競争で価格が下がることはありますか?
石田さん:
それは当然起こりますから、生産量を調整して、単価の高い個体を残す必要はあります。ただ、別の想いもありまして。ヘラクレスオオカブトムシはみんな憧れますが、弊社の販売価格は基本的にオスは1万円を軽く越えますので、子どもの小遣いでは買えません。
そこで、大量に生産することで価格を下げ、ホームセンターにいけばヘラクレスオオカブトムシがいて、子どもでも買える…まだ先になるでしょうが、そんな状況を目指したいと考えています。「ゴミを食べて育つカブトムシ」を知れば、子どもたちも環境にまで興味を広げてくれるんじゃないかと思うんです。
–冒頭で、カブトムシ展などのイベントを二本目の柱に挙げられましたが、子どもたちに環境問題なども伝えていらっしゃるのですか?
石田さん:
もちろんです。パネルなどで環境問題もしっかりとアピールしています。「ゴミを食べて育ったカブトムシ」を子どもたちが実際に見て触り、楽しんでくれることはとても嬉しいです。経済や資源が循環するだけでなく、そこに子どもたちの喜びを見るのは、我々の感動的な瞬間です。
今年(2023年)の夏は、フジテレビさんとのタイアップでお台場で昆虫展を開催しました。準備期間も少なかったのに、7万人ほどが来場してくれました。こんな小さな企業が企画した昆虫展にあれだけの人が来てくれるなんて、やはりカブトムシってすごいな!と思いましたね。他にもJRさんやマルイさんなどともイベントを実施しています。このイベント事業は、今後も規模を拡大していく予定です。
–カブトムシ自体の資源化も実現間近とのことですが、どのようなジャンルなのですか?
石田さん:
カブトムシって、見るからに「たんぱく質」ですよね。世界的にたんぱく質が不足している課題の解決という、新たな着眼点が生まれています。まずは魚の養殖や畜産での餌などに使っていく予定です。その場合、どんなに加工して安全であれ、畜産糞尿や生ごみ系の餌を食べるカブトムシを用いれば抵抗感を呼ぶでしょう。対して、キノコ栽培からの廃菌床は、最初から安全です。キノコは基本的にオーガニックな栽培で、菌床にも変なものは入りません。ですので、資源化するカブトムシは、すべて廃菌床を餌にして育ったもので統一しています。
餌化する製造過程で油を抜くのですが、この油にも様々な良い成分が入っています。大手企業さんや様々な組織との話し合いを重ねていて、サプリメントなどの資源に使う検討がされています。
カブトムシの死骸を放置していると、漢方などで有名な冬虫夏草が生えてくるんですが、薬になる様々な成分も含まれているんです。現在薬品メーカーともコラボしていて、将来的には創薬にも使う方向で研究を進めています。
また、人間が必要とするアミノ酸を取り出すとか、カブトムシエキスを精力剤に用いるなども、大手企業と開発中です。大学とも、分野ごとにいろいろな先生たちとコミュニケーションを取り、様々な研究を進めているところです。
創業当初は、カブトムシは愛好者以外には相手にされませんでした。今では昆虫の将来性が注目され、カブトムシの研究論文なども出て、資源化にも大きな関心が寄せられています。課題は大量生産です。ほとんどのジャンルが、原料さえ整えば商品化できるところまで来ているので、原料増産を急ピッチで進めているところです。
–未来への展望を教えてください。
石田さん:
「地球のために、地球に優しい未来をカブトムシで」という展望は、ぶれずに持ち続けています。来週、インドで商談してくるんですが、現在、東南アジアなど海外諸国から、政府を通じて「カブトムシに関心がある」とよく連絡がきます。実はカブトムシは日本でこそ人気がありますが、海外ではただの虫けら扱いです。それが、注目されだしたということです。
日本の次は海外に向けて、TOMUSHIのカブトムシはこれだけ経済を循環させ、廃棄物を食べて早く育ち、かつ資源化され、ペットとしてもこんなにかっこいい角がある!と、様々な魅力を伝えたいですね。世界にカブトムシの循環型の取り組みが広がっていけば、それがまさに地球のための活動となります。地球すべてでこの事業を展開したい、というのがTOMUSHIの展望です。
–ご祖父母のお孫さんへの愛とご兄弟のカブトムシ愛が、地球にまで注がれそうですね。今日はありがとうございました。
株式会社TOMUSHI公式HP:https://tomushi.com/