#インタビュー

株式会社トラーナ|「乳幼児向け知育玩具のサブスクリプション・レンタルサービス」で「幸せな親子時間を増やす」

株式会社トラーナ 代表 志田さん インタビュー

志田 典道
1983年生まれ、4児の父。大学在学中にWeb制作会社を創業。事業譲渡後、複数の外資系IT企業でエンジニア、プロダクトマネージャ等の事業経験を経て2015年に株式会社トラーナを設立。

introduction:

二か月に一度届く「知育玩具の詰め合わせ箱」。玩具は、その子の成長段階や個性に寄り添って選定されています。トラーナが目指すのは、玩具を介して親子のふれあい時間を増やすことです。同時に、レンタル化によって、玩具やパッケージの廃棄の削減にも大きく貢献しています。

今回は、志田典道代表に「適切な玩具」を介して親子がふれあう大切さや、玩具廃棄の現状などについて伺いました。

「あればいいな」と玩具のサブスクリプションを自ら起業

–まずは、御社の業務の概要をご紹介ください。

志田さん:

弊社は、お子さんの成長に合わせた知育玩具のサブスクリプション・レンタルサービスを展開しています。親御さんにお願いするアンケートをベースに、お子さんが好きなこと、できることなどに基づいて、弊社が「一人一人に選定した知育玩具」を届ける点が大きな特徴です。

二か月に一度お届けする玩具の数は、0~4歳未満は6点、4歳~6歳未満は5点(定価総額1,5000円以上)となっています。ユーザー様には、二か月経った時点で交換、買い取り、継続のいずれかを選んでいただきます。全点数交換の場合は、次の玩具を選定してお届けし、ユーザー様からはお手元にある前号の玩具を返却いただきます。弊社はその玩具をクリーニングし、メンテナンスしたのちに次のユーザー様に届ける、というサイクルを構築しています。継続や買い取りは一点からもお受けしています。

ユーザー数は現時点で二万世帯を越え、取り扱い玩具の種類は1,800種以上、10万点以上の在庫を有しています。

–「トラーナ」起業にいたったきっかけや背景を教えてください。

志田さん:

二人目の子どもが生まれたあと、初めて自分で「子ども向け玩具」を買おうと思い、玩具コーナーがある家電量販店に行ったんです。その時、おもちゃの売り場が昔と変わっていないことに気づきました。昭和の頃に流行っていたような、キャラクター中心の玩具が多数前面に並んでいたんです。

ここから選ぶのもなあ…と、気が乗らずにあたりを見回すと、奥の方にこじんまりと知育玩具コーナーがありました。ただ、パッケージを見ても自分の子どもが遊んでいるイメージが浮かばず、どういうタイプのものがいいのか判らなくて、結局なにも買わずに帰りました。

実はこの頃に勤めていた会社で、カナダ在勤の同僚から「アメリカは決済システムが進んでいる。その理由はサブスクリプションというビジネスモデルで柔軟な課金システムが求められるようになったからだ」と興味深い話を聞いていました。

調べてみると、アメリカでは、サブスクリプションモデルによって顧客に継続的に利用してもらいながら関係を作っていくことが主流になりつつあり、洋服、化粧品、食品分野で非常に進んでいることがわかりました。

当時は、Hulu(オンライン動画配信サブスクリプションサービス)さんなどが日本に入ってきたあたりでしたから、玩具選びで困惑した体験が、そこに重なったんです。知育玩具についても、同じようなサブスクリプションサービスがあればいいな、と思いました。

自分の子どもが好きそうな玩具を誰かが選んで届けてくれて、ある程度遊んで満足した頃に返せて、また新しいものが届く。サブスクなら、増える玩具の置き場所に困ることもないし、捨てずに済みます。そんなシステムがまだないなら、自分でやってみよう!と決意して起業しました。

二か月に一度ユーザーに届ける「幸せな親子時間」

–ご自身が「あれば助かる」と思うシステムを作られたわけですね。御社のビジョンとミッションをご紹介ください。

志田さん:

「幸せな親子時間を増やそうぜ」をビジョンとして掲げています。親が子どもの遊びに一緒に関われる時間は乳幼児期が最も長いのではないかと考えています。その時期に、玩具を通して親子がふれあう、素敵な時間を多く持っていただきたいと願っています。

そのために我々は、玩具と親子を結ぶお手伝いをすることをミッションとしています。これにより、玩具サービスが発展して、幸せな親子関係が社会の隅々に広がっていくと考えています。

親御さんのためのサービスなのか、子ども向けなのか、など議論ポイントにもなることもありますが、「家族は社会の最小構成単位」と考えていて、そこがより良くなるようなサービスを提供したいんです。

起業する前のことですが、飲食店で見た、とある家族の食事風景が忘れられません。両親と5歳くらいの息子さんが食事をしていたんですが、その子はヘッドフォンをつけて、食べながらアイパッドを観ていました。大きな違和感を覚えましたが、今の親御さん自身、どうやって子どもと触れ合えばいいのか、会話したらいいのか判らないのかもしれませんね。

学生・社会人の時に子育てに関する教育があるわけでもなく、ある日突然親になる、という感じであれば、致し方ない状況なのかな、とも思います。オンライン化、デジタル化という名の動画コンテンツゲームなど、0歳児から「スクリーンタイム」と呼ばれる「画面を見る」時間が多く、親御さんと相互的な関係を築く機会が減っています。

この状況については、将来子どもたちのコミュニケーション能力に影響が出るんじゃないかと懸念していて、それを少しでも良い方向に向けることができれば、と願っているんです。弊社の知育玩具のカテゴリーには、デジタルツールの玩具をラインアップしていませんし、今後その予定もありません。そこに一定の意義があるかな、と考えています。

–サブスクリプションレンタルの対象年齢が0歳3か月から6歳未満となっているのも、そこまでを「親子で遊べるよい時期」とみなしてのことですか?

志田さん:

そうです。6歳は小学校入学のタイミングですが、このあたりから自宅で遊ぶ知育玩具の役割は変わり、子どもたちは親から離れて、交友関係や習い事など家の外で親とは別の時間を過ごすことが増えていきます。

乳幼児期における親御さんとのふれあいが、子どもたちのその後に大きく影響するということが心理学的にも言われています。応用行動分析学と呼ばれたりしますが、そのような研究も学んでいる最中です。

知育玩具で遊ぶ効能についても、慶應義塾大学の中室牧子先生の研究室と、子育て支援サービス事業のライクキッズ株式会社様と共に、「知育玩具の適時適切な利用による成長発達の効果」に関する共同研究を2023年7月からスタートさせました。両者の協力を得ながら、子どもが知育玩具で遊ぶことの知見を一歩前進させたいと思っています。

起業時の困難な風向きを変えた「共有」意識の芽生え

–それでは、御社のサブスクリプションのシステムを具体的に教えてください。

志田さん:

「トイサブ!」が、弊社のサブスクリプションのプラットフォーム名です。登録は、WEBサイト上でお申込みののち、アンケートに記入していただきます。アンケートでは、主に利用なさるお子さんの情報などをお聞きしています。これで登録は完了です。

後日、その情報をもとに、知育のプロであるおもちゃプランナーが、世界中から集められた1,800種類以上の中から完全個別に知育玩具を選定し、それらを詰め合わせた箱が、初回のお届け便となります。ご利用料金は、月額3,674円(税・送料・返送料込)です。

その後の流れは、冒頭でご紹介した通りです。二か月を経て、返却、買い取り、継続をお選びいただく際に、買い取りをご希望の場合は、中古価格にてご提供いたします。ご使用中の破損、パーツ品の紛失については、本来とは異なる使い方(水に入れてはならないものを水中で遊ぶなど)や故意の結果でない限り、原則、弁償の要求はいたしません。

また、到着から二か月後に、ユーザー様から一つ一つの玩具について五段階の評価とコメントをいただきます。一回につき5~6個の玩具を送付しますので、おもちゃ評価のデータも概算ですでに100万件を超えて蓄積しています。何歳何か月のお子さんがどのような玩具をどのように評価しているか、また、この玩具はこういう遊び方で楽しんでもらえた、あるいは逆に危ない遊び方にも繋がった、など様々なフィードバックの声がデータとして保存されており、それらを今後に生かしていくことができるのも強味だと感じています。

–「知育玩具のサブスクリプション」という新しいシステムを立ち上げられたプロセスで、困難なこともあったのではないでしょうか?

志田さん:

「トラーナ」設立の2015年当初は、メーカーさん、卸売会社さんに肝心の玩具を売っていただけないことが多く、そこが最も大きな困難でしたね。「レンタルでは数が売れない」と取り合ってもらえなかったんです。また、EC販売が主流になり、誰もが商品の値段を広く目にする環境になったことで、小売店舗さんが値段設定をしづらくなってきた時期でもありました。新しい事業体は警戒されていたんです。メーカーさんから、「我々の商売を潰す気か?」と言われたこともありました。

その中で、2016年以降「民泊」が知られるようになったり、シェアリングエコノミーやサブスクリプションという形態が次第に日本にも広まったり、さらにはSDGsも浸透し始め、少しずつ風向きが変わってきました。

とはいえ2019年くらいまでは、メーカーさんからも、「店舗を持たないインターネットさんには売れない」ともよく言われ、私自身が「インターネットさん」と呼ばれたりしていました。しかし、オンライン販売もどんどん進化してきたこと、対話の努力も重ねたことで、ようやく2020年ころから、メーカーさん、卸売会社さんとのよい関係を築けるようになりました。

玩具を「耐久消費財」とするレンタルで廃棄削減に貢献

–生産、販売、購入、廃棄、という従来の流れに比べ、サブスクリプション・レンタルは玩具の廃棄を削減していると推察されます。SDGsの観点から、御社が貢献なさっている部分をお聞かせください。

志田さん:

弊社は、京都市の調査データを基に、日本の子ども向け玩具の廃棄量を年間約6万トン※と試算しています。食品、衣類などの廃棄量に比べればそれほど多いといえませんが、子どもの玩具の場合、廃棄内容の質が異なってきます。電気的な部品、金属、プラスチックなども入っているので、粉砕するしかないんです。その意味からも、廃棄量を少しでも削減することは重要だと考えています。(※ 試算方法:子ども一人当たりの年間廃棄量4.7㎏×0~12歳未満1200万人=56,400トン)

大量生産、大量廃棄ということがどうしても前提となってしまう玩具ですが、「トイサブ!」では、これまで「消費財」とみなされていた玩具を「耐久消費財」ととらえています。「資産を回転させていくビジネス」として「トイサブ!」を位置づけているんです。

弊社の試算ではありますが、現在の約二万世帯のユーザー様が、玩具を「所有(購入)」から「利用(サブスクリプション)」に変えていただくことにより、年間20トンほどの廃棄削減に繋がっています。

2021年に、一般を対象とした弊社のアンケートで、0歳~満6歳の子どもがいる20代~40代の男女に、2020年の一年間で処分した知育玩具の数を尋ねたところ、「0個」の回答は45%で、半数以上の回答者が1個以上の玩具を処分していました。最も多い処分方法は「捨てた」の62%で、一人当たりの廃棄量は推計1.82個となりました。

一方、「トイサブ!」ユーザー様に同じ質問をした結果は、「0個」の回答者は67%と、ノンユーザーを22%も上回り、一人当たりの廃棄量の推計も僅か0.27個となりました。

もう一点、弊社が目指していることがあります。「トイサブ!」で「玩具のレンタル」という体験をしたお子さんたちが、小学校に入学してSDGsの授業を受けた時に、レンタルのおもちゃには廃棄の削減という意味もあったんだ、と思い起こしてくれたら嬉しい、ということです。長期的に見て、我々のサービスで育ったお子さんが、「買って捨てる」のではなく、「シェアして廃棄を避ける」という意識と理解をもつ人材に成長してくれれば嬉しいですね。

「トイサブ!」は、玩具だけではなく、実は玩具のパッケージ削減にも貢献しています。玩具のパッケージは、外箱、緩衝材も含め、かなり大きくかさばるものが多いんです。弊社のユーザー様がレンタル玩具を利用してくださることで、玩具の購入に伴うパッケージの廃棄もかなり削減できています。

また、弊社はプライベートブランドの玩具も作っているのですが、こちらに関してはレンタル主流のため、そもそもパッケージが不要です。環境負荷の削減にもなりますし、パッケージの生産はかなりコストがかかるため、その意味でも無駄が省けています。

–ユーザーさんからはどのような感想が寄せられますか?

志田さん:

「子どもができる意外なことに気づいた」「子どもの関心がどこにあるのか分かるようになった」「知育玩具を気軽に試せて、子どもにできることが増えた」「プランナーさんが、子どもの成長に寄り添ってぴったりのおもちゃを選んでくれること、遊び方のアドバイスもしてくれることが心強い」「子どもの指先が器用になった」「おもちゃの置き場所が少なくて助かる」などの感想を多くいただき、嬉しく思っています。

–今後の展望をお聞かせください。

志田さん:

将来的には、海外進出も視野に入れつつ、ユーザー10万世帯くらいのサービスに発展させていきたいです。SDGsにも繋がっていくことと考えますが、我々のサイクルをより多く使っていただけることで、より環境意識の高いお子さんが増えていくことも願っています。

また、弊社には親御さん、お子さん双方における、玩具をめぐるたくさんのデータが蓄積されています。そのような情報を生かし、お子さんの成長発達にさらに貢献し、同時に、お子さんとのかかわりを重視する親御さんが増えていくようなメニューを今後も開発していきたいと思っています。

–親子で遊べる時期は短く貴重と改めて感じました。今日はありがとうございました。

関連リンク

株式会社トラーナ公式㏋:https://torana.co.jp/

トイサブ!HP:https://toysub.net/