2022年2月24日未明、ロシアのプーチン政権によるウクライナ侵攻が始まってから、早くも1年10か月が経とうとしています。
現在も1,770万人を超える人々が支援を必要としているといわれ、多くの人々がウクライナを逃れて難民となっている中、私たちには一体何ができるのでしょうか。
今回は、ウクライナの難民事情について、歴史的な背景や現状、日本での難民をめぐる問題についてご紹介します。
これを機に、改めてウクライナの現実を知り、個人として、あるいは同じ地球に住む一員としてできるアクションを起こしましょう。
ウクライナの難民問題の背景
現在起きているウクライナの難民問題を知るには、まず歴史の背景を理解する必要があります。
ここでは、今回のウクライナ侵攻と深く関わりのある2014年の出来事にさかのぼって、簡単におさらいしておきましょう。
2014年からの紛争で150万人以上が避難民に
2014年2月、ウクライナ領・クリミア半島が、ロシア軍によって占拠されました。同年3月にはロシアが一方的にクリミアを領土の一部とする「クリミア併合」が行われましたが、ウクライナの法律および国際法では認められていません。それでも現在に至るまで、クリミアはロシアによって占領されています。
クリミアが不当に併合された後も、ウクライナ本土ではロシアの国境に近い東部・南部を中心に、親ロシア派の武装軍とウクライナ政府軍がぶつかり合っていました。数度にわたる停戦合意があったにも関わらず紛争は収まらず、多くの死傷者や避難民を生んできたのです。
この一連の出来事によって、身の安全を確保するため多くのクリミア住民がウクライナ本土へ避難をしました。2015年のウクライナ当局の発表によると、その合計は150万人にも登ります。
中には先住民であるトルコ系クリミア・タタール人も含まれ、今も故郷を追われたままの人が少なくありません。
2022年2月の軍事行動により難民が増加
以前から「ロシアがウクライナ国境付近での軍配備を強化している」と言われていましたが、2022年2月24日、ロシアによるウクライナ東部への軍事侵攻が本格的に始まりました。
この侵攻以来、より安全な場所を求めて国内外へ退避するウクライナ国民が増加。UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)によると、2023年1月現在のウクライナ国内避難民は600万人、EUの国々へ逃れた難民の数は800万人と、非常に多くの人々が住む場所を追われてしまいました。
ウクライナ本土の人口が4,159万人となるので、国内避難民と難民の数を合わせると、全人口のおよそ35%になり、かなり大きな割合であることがうかがえます。
このように、ウクライナでは2022年だけで大変多くの難民が出ていることが分かりました。
では次に、ウクライナ難民がどこへ・どれくらい逃れているのかを見てみましょう。
2023年1月時点のウクライナ難民の受け入れ国・人数一覧
ウクライナは欧州の中に位置していることもあり、難民の多くはEU諸国へ逃れています。
UNHCRによると、近隣国に渡ったウクライナの難民は約800万人で、ポーランド、ハンガリー、モルドバ、ルーマニア、ドイツ、チェコ共和国などが受け入れています。(2023年1月時点)
このような状況の中、受け入れる側の国の政府や自治体・非営利団体などがウクライナの方々に向けてサイトを開設し、必要な支援を受けられるように体制を整えているケースが増えてきました。加えて、各国では法整備も進められています。
ここではその一例として、もっとも多くのウクライナ難民を受け入れている国、ポーランドの法律をご紹介します。
ポーランドではウクライナからの避難民支援の包括的な法律を施行
ウクライナの西部に位置するポーランドでは、プーチン政権によるウクライナ侵攻の開始からおよそ2週間後の3月12日、逃れてきたウクライナ難民への支援に関する法律を制定・施行しました。
主な内容は、ポーランド市民に与えられる国民識別番号(PESEL番号)をウクライナ難民が取得できるようにし、これにより、例えば以下のようなサービスを受けられます。
- ポーランドに滞在する意思の表明により、18か月間の滞在許可を取得(延長可能)
- 公的医療サービス、社会援助プログラムへのアクセス
- ポーランド労働局に求職者としてアクセスでき、労働手続きの緩和も可能に
ポーランドはウクライナと隣接していること、同じ旧ソ連圏で現在はNATOに加盟しているといった事情もあり、ウクライナから逃れてくる難民が後を絶ちません。
さまざまな困難を抱えるウクライナの人たちが少しでも安心して暮らせるよう、包括的なサポートとアクセスしやすい状況を迅速に作り出したポーランドのような施策は、難民支援をする上で今後さらに多くの国・地域で求められるかもしれません。
長期化する争いで支援疲れが指摘されている
しかし、長期化する争いに加えて世界的な物価高によって、受け入れ国の支援疲れが指摘されるようになっています。支援の削減を求めるデモも見られるようになるなど、受け入れ国の国民に対するケアも必要になりつつあります。
ウクライナ難民が抱える避難先での問題や課題
さまざまな国・地域が難民を受け入れているとはいえ、やはり当事者にとって他国で生きることは、とても難しいものです。
ここでは、ウクライナ難民が抱える避難先での問題・課題について、3つ挙げてご紹介します。
長期で住める環境の確保
どの国・地域に住むにしても、安定した住環境は重要なポイントです。難民として他国へ逃れてきた人々にとって、長期的に住めるような、インフラの整ったアパートや一軒家に落ち着くことが難しいという問題があります。
筆者の周りでも、「〇日間だけ難民の子どもを預かる」「休暇でアパートを空けている間だけ難民の方に泊まってもらうことにした」といった話を聞きますが、決して長く住めるわけではないため、住居を転々としなければならない難民は今も少なくありません。
政府や自治体・非営利団体などが一時的に住める住居を提供したり、長く住める賃貸アパートを探すサポートをしたりと、さまざまな対策が取られていますが、その国・地域全体で深刻な住居不足が起こる場合もあります。難民の人々が安心して暮らせる環境を整えるためにも、住居の確保は早急に解決すべき課題のひとつです。
仕事探しに苦労する難民も
いくら母国で学歴・仕事のキャリアがあっても、他国で仕事を探すことはとても大変なことです。特に言語と文化の違いが大きいために、なかなか仕事を得られないという難民は多くいます。
避難先の国や団体などが仕事探しをサポートしている例は多くありますが、それでも見つからないという人は少なくありません。中には、「せっかく逃れてきたけど仕事が見つからないので、危険なのは承知だけどウクライナへ戻ることにした」という難民もいるほどです。長期的に安定した暮らしを営むうえで、資金を確保するための仕事探しは深刻な課題となっています。
避難先での差別
他にも深刻な問題のひとつとして、難民への差別的な言動が挙げられます。
逃れてくる難民の中には、ウクライナ人だけでなくウクライナで就労・勉強をしていた別の国々の人も含まれます。彼らも同じく「難民」であるにも関わらず、見た目が違うからと差別的な発言を浴びせる人や、あからさまな行動を示す人が後を絶ちません。UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)はこの事態を懸念し、「差別は許されない」と声明を発表しています。
どのような場合でも差別は決して許容されてはなりませんし、差別的な言動は既に深い心の傷を負っている難民へ更なるダメージを与えてしまいます。まずは私たちひとりひとりがウクライナの状況を理解し、どのような人でも難民になり得ることを知っておくことが必要です。
ウクライナ難民の日本の受け入れ状況
では次に、日本におけるウクライナ難民の受け入れ状況について見ていきましょう。
入官庁によると、3月2日から10月5日までに受け入れたウクライナの避難民数は1,983人です。EUの国々に比べて距離の遠さなどもあり、かなり少数ではあるものの、着実に増えています。
日本政府は、ウクライナから逃れてきた人々に対し、1年の在留許可を付与するほか、一時滞在先での生活費の支給といった施策が発表されています。
ただし、ここで注意したいのは、日本が受け入れているのは「難民」ではなく「避難民」であるという点です。一体このふたつの言葉は何が違うのか、次で簡単に解説します。
日本では難民ではなく避難民扱い
難民の定義は、国連で1951年に採択された「難民条約」に基づいています。日本は1981年に加入しました。
日本では、法務省が管轄する出入国在留管理庁(入官庁)に難民申請を行い、認められると、
- 永住権申請時の条件緩和
- 年金や健康保険への加入が可能になる
などの扱いを受けられます。
しかし現在の日本では、国際条約の中で定められた「難民」の定義が非常に狭い点が問題となっています。したがって、今回のような紛争による退避の場合、「難民」として認められません。
そのため日本に逃れてきたウクライナの方々は、国際法に準じない「避難民」扱いとなり、健康保険や年金などを受ける資格がない状態なのです。
日本におけるウクライナ難民に対する課題や問題
ここまで、日本では難民の定義が非常に狭く、紛争で逃れてきたウクライナの人々を「難民」ではなく「避難民」として扱っている現状が分かりました。
そのうえで、日本ではウクライナ難民に対してどのような課題・問題があるのかを見ていきましょう。
「難民」として受け入れ態勢の強化が必須
まずは、日本に逃れてきた人々を適切に保護するための体制強化が必須です。
現在、日本にはウクライナをはじめさまざま国・地域での紛争を理由に母国を逃れてきた人がたくさんいます。
彼らのほとんどは母国へ帰れない状況にあるため、避難先の日本で安全に長く暮らせる在留資格が求められますが、入官庁は難民申請の理由として「紛争」を認めていません。
「難民」の定義を見直し、国際条約と同じように扱うことで、ウクライナの人々を難民として認定でき、適切なサービスを提供できるようになるのです。
長く、安心して暮らせるためのサポート
侵攻によるウクライナの状況が長期化するにつれ、より長く、安心して日本で暮らせるためのサポートは必須です。
すでに日本政府からの生活費をはじめとした支援は行われていますが、金額が十分ではないうえ、一時滞在先を出た後の住居・就労といった暮らしの基盤となる部分へのサポートが足りていないのが現状です。
結局、非営利団体の支援や民間からの寄付を頼りにせざるを得ないケースもあり、人によっては必要なサポートにアクセスできない事態が起きかねません。
言語も文化も違う環境で暮らさなければならないウクライナの人々の不安に寄り添い、ひとりひとりに合った適切なサービスを、政府と自治体・民間組織が連携して行えるように仕組みを整える必要があります。
ウクライナ難民支援で私たちができること
最後に、これまでに学んできた問題を解決するために、私たち個人ができるアクションについてまとめました。
寄付で応援
必要な支援について分かったら、次は寄付を通じて応援しましょう。
現地へ直接物資を届けることは難しくても、信頼できる団体へお金を寄付することで、サポートに必要な資金を送ることが可能です。
食料や日用品の寄付のほか、ウクライナ国土に埋められた地雷の除去・現地に残された高齢者や障がい者への支援など、用途はさまざまです。
自分が特に応援したいと思う団体を見つけ、小額からでも寄付をすることで、必ず誰かの力になれます。
ウクライナを支援する企業・アイテムを購入してサポート
非営利団体などへの寄付はもちろんですが、ウクライナを応援する企業や団体の商品・サービスを利用するといった方法も有効です。
筆者が住むリトアニアでは、オンラインショップをのぞくと「ウクライナ産」のマークがついた商品を探せたり、店頭でウクライナ支援のグッズが並んでいたりと、さまざまな場面でウクライナのサポートを呼びかける商品に出会います。
お店によっては売り上げの一部をNGO団体へ寄付する、といったパターンもありますので、お買物の際はぜひチェックしてみて下さい。
署名を通じて紛争へのアクションもできる
今回のウクライナに限った話ではありませんが、難民が多く出ている原因のひとつは紛争です。これ以上多くの犠牲を出さないためにも、争いを起こしている当事者たちに署名で呼びかけるのもひとつの手段といえます。
インターネットで「ウクライナ 署名」または「sign petition ukraine」のように検索すると、国際人権NGO団体・アムネスティをはじめ数々の団体やプラットフォームでの署名を見つけることができます。
署名をする意義は、問題だと思うことに大してひとりでも多くの人が声をあげ、当事者に届けること。まずは信頼できそうなプラットフォームを見つけ、署名してみましょう。多くの声が集まれば、少しでも現状を変えることができるはずです。
まとめ
今回は、ウクライナの難民事情について、現状やその背景・日本と海外での問題についてご紹介しました。
ウクライナに限らず、母国を逃れてきた人々にはさまざまな事情や理由があります。
私たちひとりひとりが難民について理解し、出来ることを考えて実践するだけでなく、政府や自治体に必要な支援を働きかけることも大切です。
【参考】
Ukraine | Situation Reports
ロシア軍がウクライナに侵攻するまでに、世界で何があったのか?(解説)【再掲】 | Business Insider Japan
Article: Years After Crimea’s Annexation, Integr.. | migrationpolicy.org
ウクライナ基礎データ|外務省
Situation Ukraine Refugee Situation
ポーランドでウクライナからの避難民支援の包括的な法律施行(ポーランド、ウクライナ、ロシア) | ビジネス短信|ジェトロ
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