オーストラリア名物のひとつ・ベジマイトをご存知ですか?
世界一まずいジャムとも呼ばれる発酵食品ですが、実は環境に優しい製造過程や工場システムを構築しています。
また、環境問題への解決策を握る製品として持続可能性の高さも評価されるなど、未来の地球を守るエコフレンドリーな製品として認知されています。
この記事では、ベジマイトの基本情報やエコ活動の事例について詳しくチェックしていきましょう。
ベジマイトはオーストラリアの発酵食品
本社をメルボルンに置くベジマイト(Vegemite)は、1922年に生まれたオーストラリアの発酵食品です。
濃い茶色のペーストで、ジャムのようにトースト、クラッカー、サンドイッチなどに塗って食べるのが一般的です。
ベジマイトの主な成分にはビール酵母、タマネギ、セロリエキス、塩、スパイスなどが含まれ、ビタミンB類や葉酸などが豊富な食品として知られています。
オーストラリアの代表的な食品として挙げられることも多く、オーストラリア人は毎年約12億食分のベジマイトを食べているとされています。
悪名高いベジマイトの味
ジャムのように使用するベジマイトは、オーストラリア国内のスーパーはもちろん、カフェやホテルの朝食ビュッフェなどでも一般的に並べられています。
パンにたっぷりと塗って食べるオーストラリア人を多く目にするものの、発酵食品特有の強い香りや、一般的なジャムにはない塩辛さや薬のような味が特徴的です。
独特の風味から「世界一まずいジャム」と世界で評されることも多く、怖いもの見たさでベジマイトに挑戦する観光客やお土産として購入する外国人もいるほどです。
ベジマイトの歴史
ベジマイトの起源は、1922年です。オーストラリアのフレッド・ウォーカー社のシリル・キャスター博士が、バターやクリームなどを発明する際にビール酵母に着目しました。ビール酵母はビールが完成する際にできるもので、栄養が豊富な特徴があります。
ビール酵母を元にできたのかベジマイトであり、1923年から販売が開始されています。栄養価の高さから第二次世界大戦ではオーストラリアの携帯食として利用されていました。現在も、国防軍が携帯食として利用しているほどです。
ベジマイトの人気が特に出たのが、1956年のメルボルンオリンピックのタイミングです。テレビCMが流れたことで、オーストラリア中で愛用されるようになりました。
現在まで、ベジマイトは栄養価が高く環境によい食品として有名になっています。
ベジマイトの原料
ベジマイトは、塩とビール酵母から作られています。ビール酵母は以下の成分が含まれており、栄養価が高い点が特徴です。
- チアミンB1
- リボフラビンB2
- ナイアシンB3
- 葉酸
上記の栄養素はビタミンB群に分類され、人が食べたものをエネルギーに変換する作用を持っています。また肌や粘膜の健康を保つため、美容効果も期待できます。加えて酵母は腸の働きを整えるほか、糖分の吸収を抑制するため、便秘の解消やダイエットにもつながるでしょう。
ベジマイトは塩辛さがありマイナスなイメージもありますが、健康面で優れている食品です。
日本でも発酵食品は健康によいという理由で有名です。発酵食品や健康食品に興味がある方はベジマイトの摂取をおすすめします。
ベジマイトを使ったレシピ・料理
以下のように、ベジマイトを使った料理として様々なものがあります。
- ベジマイトの肉野菜炒め
- ベジマイト漬けの豚丼
- ハムオムレツのベジマイトサンド
- じゃがいもと青菜のベジマイト炒め
- ベジマイトチョコレート
オーストラリアやニュージーランドでは、ベジマイトをパンに塗って食べるのが一般的です。そのため、パンにハムやオムレツを挟み、ベジマイト塗れば多くの方に刺さるベジマイト料理ができます。
ベジマイト料理の特徴は、塩辛く発酵食品特有の強烈な匂いがある点です。一度癖になれば、ベジマイト料理に夢中になるでしょう。
料理だけでなく、チョコレートと組み合わせることでお菓子として食べることも可能です。ベジマイトは様々な料理で利用できるうえに、栄養価が高い料理に仕上がるためおすすめの食材です。
イギリス発のマーマイトとの違い
マーマイトとは、イギリス発祥の酵母エキスを主原料とした発酵食品のことを指します。こげ茶色のジャムのような見た目をしており、トーストに塗ったりスープや煮込み料理に加えたりして使用します。
マーマイトとベジマイトの主な違いは、以下の3つです。
- 発祥地
- 原材料
- 味
マーマイトはイギリス発祥ですが、ベジマイトはオーストラリアが発祥地になります。また、原材料もマーマイトは砂糖やハーブ・スパイスなどを使用しているのに対して、ベジマイトは塩やビール酵母から作られています。
原材料が違うため、足も多少異なるのが現状です。マーマイトのほうが「甘く柔らかい」と言われるのに対して、ベジマイトは「苦くコクがある」と言われることが多いです。
マーマイトとは上記のような違いがある点を把握しておきましょう。
ベジマイトはエコフレンドリーな製品
オーストラリア人から絶大な支持を受けるベジマイトは、2009年にオーストラリアを代表する環境賞・バンクシア賞を受賞しました。
ベジマイト製造のプロセス、工場設備に関する環境効果、持続可能性などが評価の理由とされており、具体的な取り組みは以下のようになっています。
副産物の有効利用
ベジマイトがエコフレンドリーと言われる理由に、廃棄物になる予定だった副産物を有効利用している点が挙げられます。
ベジマイトの主成分は、ビールを醸造する際に発生する残り物のビール酵母です。
ビール醸造に欠かせないプロセス・アルコール発酵のために微生物である酵母を利用しますが、発酵後の酵母は廃棄物として処理されるのが一般的です。
しかし、ベジマイトはクイーンズランド州のXXXX Breweryをはじめとするビール醸造所の酵母を有効活用しており、本来廃棄されるはずの酵母を新たな食品として生まれ変わらせています。
ベジマイトは年間2,200万瓶も販売されていることから、膨大な量の酵母のリサイクルに貢献している製品です。
電子廃棄物の分解
近年、ベジマイトは電子廃棄物の分解に役立つ製品として注目を集めています。
2022年のオーストラリア国民1人あたりの電子廃棄物の排出量は、約21.6kgにも及びます。
オーストラリア政府は2030年までに国内で65万7,000トンの電子廃棄物が発生すると予測しており、電子廃棄物のリサイクル化を促進中です。
しかし、金属と化学物質の混合物を分離させるのが難しいケースも多く、有害物質が混ざった金属はリサイクルできないという問題点があります。
そこで注目されたのが、ベジマイトを利用した電子廃棄物の分解です。
ベジマイトの主成分となるビール酵母は廃棄バイオマスであり、従来は廃水処理などに多く活用されていました。
バイオマスには廃水から重金属、染料、硫酸塩、窒素、リン酸塩などの汚染物質を除去する特性があり、廃水の最小化、回収、再利用に役立てられています。
オーストラリア政府はバイオマスであるビール酵母を廃水だけでなく、電子廃棄物に適用することを考えました。
ビール酵母20リットルを使った多種類の金属分解の実験を行ったところ、テスト金属溶液から50%以上のアルミニウム、40%以上の銅、70%以上の亜鉛が回収されました。
さまざまな金属類が使用されている電子廃棄物ですが、ビール酵母を使うことでよりスピーディーかつ安全に各金属の分解及び回収を進められることが示唆されています。
また、ビール酵母は最大5回までの再利用が可能であることが証明されており、ビール醸造から生まれる廃棄物ということもあって安価に調達できる点も魅力です。
ビール酵母がふんだんに使用されているベジマイトによる小型電子廃棄物への転用も検討されるなど、電子廃棄物の効率的なリサイクルに関して期待を寄せられています。
サスティナブルな電池への活用
セントラルクイーンズランド大学のマチルダ・ワトル博士は、酵母エキスを活用したナトリウムイオンゲル電池を開発しました。
ナトリウムイオンゲル電池は化石燃料発電の代替品として考案されており、二酸化炭素の排出量を削減しながら発電できます。
酵母エキスを使っているということもあって、ナトリウムイオンゲル電池は自然由来でエコな電池です。
充電式ではなく使い捨てタイプではあるものの、使用後のバッテリーセルは動物の飼料として再利用可能とされており、マチルダ・ワトル博士はゲル電解質にベジマイトを採用できないか現在研究を進めているところです。
バッテリーセル部分は無菌状態に保たれているため、使用後のベジマイト入りのナトリウムイオンゲル電池は食用として処理できる可能性が高くなっています。
実際にマチルダ・ワトル博士は試作用に作った使用済みナトリウムイオンゲル電池のベジマイトを食べて安全性の確認を行っており、将来的に実用化することで食糧危機の解決に貢献したいと考えています。
廃水の削減
ビクトリア州に位置するベジマイトの工場では、廃水の削減を目的に下水道の水から塩やその他の汚染物質を除去しています。
汚染物質を含む廃水は処理が難しいことから、ベジマイトでは工場から排出される廃水を再利用できないという点が長年問題になっていました。
そこで、ベジマイトは州政府と協力して、下水システムに廃水が入る前に汚染物質を除去するシステムを構築しました。
廃水は目的別に再利用できる仕組みで、灌漑施設、家庭用のガーデニング、トイレの洗浄といった幅広い用途で有効活用されています。
工場では以前と比較して65%以上の廃水が節約されており、廃水の削減はもちろん、水質汚染を防ぐシステムとしても高い評価を受けています。
プラスチックの削減
2021年、ベジマイトはプラスチックのひとつ・ポリ塩化ビニルをパッケージから完全に除去しました。
さらに、ボトルの下部分を開けて絞るスクイージー(Squeezy)と呼ばれる製品においては、容器の30%以上にリサイクル素材を使用しています。
ベジマイトでは自社製品以外にも、サプライヤーのモニタリングを徹底することによって、年間655トンの使い捨てプラスチックの削減に成功しています。
100%ヴィーガン
ベジマイトは、ビール酵母、野菜、スパイスなどを主に使用している100%ヴィーガンの製品です。
オーストラリアではバターはもちろん、ジャムなどにも牛乳などの乳製品が使われているケースが多くなっているものの、近年では牛乳除去タイプのジャムなどを開発・販売するメーカも増えてきました。
牛乳の生産に必要不可欠な乳牛が発するメタンガスは、温室効果ガスの排出量増加に直結しています。
畜産業=環境負荷の大きな分野として認識されていますが、ベジマイトは1922年の販売当初から100%ヴィーガンにこだわり続けることで環境に優しい製品づくりを心掛けています。
ベジマイトは輸入禁止?日本でも買える?
2024年5月時点において、ベジマイトは日本でも購入可能です。
カルディコーヒーのほか、楽天やAmazonをはじめとする通販サイトでも取り扱いがあるので、「健康的で環境にも優しいベジマイトを食べてみたい」「環境メリットが多いベジマイトを食べて環境保全に貢献したい」という方はぜひ挑戦してみましょう。
まとめ
独特の香りと風味を持つベジマイトですが、環境負荷低減に繋がるさまざまな取り組みに力を入れています。
電子廃棄物の分解やナトリウムイオンゲル電池への採用による食糧問題の解決の糸口としても期待されており、サスティナブルな未来をつくる上でも注目度の高い製品です。
現在は世界一まずいジャムと呼ばれるベジマイトですが、環境メリットの多いオーストラリア食品として汚名返上する日もそう遠くないかもしれません。