#インタビュー

WABI WORLD|日本の眠れる文化的資産を世界へ

WABI WORLD

WABI WORLD 新村牧子さん インタビュー

新村 牧子

元々CCC(カルチュア・コンビニエンス・クラブというTSUTAYAを持つ企業)で映画プロデューサーや関連企業で幹部を努めたWABIクリエイティブディレクターMakikoは、映画のプロデューサーや買付で海外の3大映画祭に行き、海外の外国人と接すると日本文化へのレスペクトが非常に高い事に気づく一方、これだけ豊富な日本文化が海外にアピールしきれていない事にも気付きました。

映画を作るのも、いいモノづくりをするのも、光る才能(素材)を掛け合わせて編集するという本質は同じではないでしょうか。伝統と革新規律とクリエイティブ、相反するものをこれだけ兼ね備えている魅力溢れる日本。その日本文化からのインスピレーションを元に、世界中のクリエイティブとのコラボや、職人の知恵、開発力の高い工場と共に、海外と日本を拠点に、モノづくりを通して世界中の人と話が弾むようなモノづくりを発信してきます。

introduction:

日本に点在する優れた技術や感性を発掘・編集し世界へ発信するブランド「WABI WORLD」。代表を務める新村さんは、元は映画プロデューサーとして活躍していたという異才の持ち主です。そんな彼女をものづくりの世界へと動かしたのは「日本の文化資産は国境を越えるポテンシャルがある」という強い想いでした。

今や海外からも高い評価を受け、人気のブランドとなったWABI WORLD。

今回は代表の新村さんに事業を始められた背景をはじめ、日本文化がもつポテンシャル、ものづくりをする側としての責任とサステナブルな取り組みについて伺いました。

”日本の宝箱”を発信するため生まれたWABI WORLD

ーはじめに事業内容や「WABI WORLD」というネーミングに込めた想いについて教えてください。

 新村さん:

WABI WORLDは「日本の良いもの」や「日本の文化的な要素」を取りこんだ服飾雑貨ブランドです。上位概念にTreasureNippon(日本の宝箱)をやりたいという想いがあり、WABIはその中のシグネチャープロダクトブランドであり、取り組みになります。

私はもともと映画プロデューサーをしていたのですが、海外の映画祭などで外に出るたびにあらためて日本の魅力やすごさに気づかされ続けてきました。一方で、日本人でさえ、本当のポテンシャルに気づいておらず、活かしきれていないのではとも感じました。人間はその場所にいたら物事を客観的に見られないので、それはしょうがないのかなとも思うんですけど。

ですが、私は外に出たからこそ「日本文化にはもっと国境を越えるポテンシャルがある」と感じることができました。

そこで日本文化を”発掘”し、そこに新しい命を吹き込んで、「日本の文化資産をもっとライフスタイルに取り入れられるように昇華させよう」、そして「商品を通して日本の技術、文化を世界へ発信しよう」とWABI WORLDを立ち上げました。特に際限の無い色と柄を持つ着物には力を注力しています。

WABI WORLDの”WABI”は和のWAでもあり、技のWAでもあります。

和の美しさと職人の献身による技の美しさ、WABI WORLDのネーミングにはそういった意味が込められています。

ー具体的にどんな商品を販売しているのでしょうか?
新村さん:

主に着物の帯を使用したバックなどを展開しています。

代表作であるランタンバッグは日本、アメリカ、中国、ヨーロッパで国際意匠に登録されたり、世界最高峰の皮革見本市のイタリアのMIPEL展で『TREND』に選出されたりなど世界的評価をいただきました。

また、和紙や着物から取り入れたデザインを少しデフォルメし、データ化した後、それを刺繍、プリントできる技術力の高い、香川県の工場で生地にしてもらい縫製をするというような流れで作られたバッグもあります。

それからこれも革製品になるのですが、サステナブルレザーというオリジナルレザーを使用した「江戸網-リュックサック」というランドセルリュックサック型の商品も作っています。

日本の伝統色、例えば古代紫っぽい色などを参考にしたオリジナルの染色を施し、「サステナブルな工場」で生産しているのが特徴です。

世界に発信するブランドとしての「つくる責任 つかう責任」

ー「サステナブルな工場」、「サステナブルなレザー」とはどういうことでしょうか?

新村さん:

サステナブルレザーというのは革(レザー)がサステナブルというよりも、革(レザー)を作る環境がサステナブルであるということなんです。

工場によっては大気汚染や土壌、汚水処理などが適切になされていない工場も少なくありません。

例えば革を作るとき土や水をたくさん使用します。原材料の皮を洗う工程などでは、ドラム缶にとにかくたくさんの水を入れて洗うんです。そうすると水が汚染されますよね。

また、革を蒸す工程もあるのですが、蒸した空気は大気中に放出されるので大気汚染にもつながります。

そういった、革を加工する際にでてくる問題を極力少なくしようと取り組んでいる工場がつまりは「サステナブルな工場」、そこからでき上がったものが「サステナブルレザー」ということです。これは何か廃材的なものをサステナブルとしたサステナブルレザーよりも大変なことなんです。

現在タッグを組んでいる工場は有限会社繁栄皮革工業所という兵庫県にある工場なのですが、日本で唯一、国際的なレザー監査団体LWG(LEATHER WORKING GROUP)からサステナブル認証を取得している会社さんです。

2代目副社長夫妻が工場を引き継いだ際に「これからはサステナブルのことを考えてやっていかなければいけない。先行投資をしてでもサステナブルの工場としての環境を整えなければ」ということで、費用をかけて工場を改修されました。

その結果、厳重な基準に基づく審査を経て、LWCからサステナブル認証を取得することができたんです。

WABI WORLDでも、商品を作る立場として、また世界に発信するブランドとして地球環境の保護に取り組んでいきたいと思ったので、一緒にタッグを組む工場についてはサステナブルな取り組みをしている工場をかなり探して選びました。

ーそこまでして作る過程を意識しこだわるようになったきっかけ、理由は何ですか?

新村さん:

2020年、ちょうどコロナが騒がれ出したあたりに、イタリアのミラノで開催された展示会に出展したことがきっかけでした。この展示会には、日本皮革産業協会が日本で6社だけ選出してジャパンブースを設けるのですが、私たちもその1社として選んで頂いたんです。この時、欧州ではもうその時すでにサステナビリティに配慮した商品がたくさんあり、日本よりもかなり進んでいると感じました。

また、同期間に開催されていた革素材の見本市にも行ったのですが、ほとんどがサステナブルレザーで、さらに「どの観点がサステナブルなのか」をきちんとうたっているんですよ。

その時に「もう私たちもサステナブルについて考えていかないといけないな」と感じましたね。

作り手として一番意識しているのはSDGsでいう目標12「つくる責任、つかう責任」です。やっぱりものづくりをしている立場なので、そこに責任を持って取り組んでいます。

WABI WORLD

着物が持つポテンシャルを信じて。日本文化の風化に抗う

ー商品の材料となる着物はどうやって集めていますか?

新村さん:

ビンテージ着物は主に京都と東京から集めています。でも京都の方が多いですね。私が映画業界にいる時代から集めていました。稼いではそういうものに費やしていて。

当時はビンテージといっても結構状態の良い柄のものがありましたが、今は品物が少なくなってきています。ビンテージの着物を着る人たちが増えてきたのかなと感じるところですね。

一方で、時の流れとともに、別の形で活かせる可能性のあるものが捨てられていくというか、救えなくなってきている現状があるのも目の当たりにしてきました。

例えば最近の話でいうと、高校時代の友人と話をしていた際に「こんな絵柄の着物が欲しいんだけどないか」とたずねたら「着物はもう捨てたよ」と返ってきて少しショックを受けました。

他にも、創業当初のお話になりますが、京都にある織物の機屋さんから「廃業するから」と本来であれば10倍くらいの値がするような、ラメがはいったものすごく綺麗な帯を、リーズナブルな価格で買い取らせていただいたことがあります。

当然廃業する機屋さんが一番悲しかったと思うんですけど…何だか去るような、寂しそうな感じで、発する言葉もないという感じでしたね。そのときにやっぱり私も悲しいというか…、「こうやって時がたつにつれて、救えなくなっていくんだな、これを何とかしていかなければいけないな」と感じた出来事でした。

こういうことがあまり起きないようにすることがベターだし、受け取ったものを生かして、「こういう形にもできるんだ」っていうふうに見せていくのがいいのだろうと思いました。

その生地はある種「資産」というか、作りたいものの構想はあるのですがまだ具体的な形にはせずに残しています。

ー材料となる着物が時代の流れとともに身近なものではなくなっていく、そんな現状を間近で見たときに「着物を使った事業を進めていく」ということ自体に対して不安や悩みを感じたことはありませんでしたか?

新村さん:

そもそも、「こんなに美しいものが分からないわけがない。むしろもっと機会(ポテンシャル)がある」と思っていたので不安や悩みは全くなかったですね。

私はもともとものづくりの人ではなくて映画プロデューサーでしたのでいろんな海外の映画祭に行く機会があったこともあり、日本を外から見てるところが結構あって。

海外に行くと日本文化へのリスペクトがすごいんですよね。海外の友人でもやっぱり評価してくれる人がすごく多かったから着物を使った事業を進めることに対して何の迷いもなくて。それとこれはまた後ほどお話しますが、着物そのものを使うか否かという観点と着物をコンテンツ資産的に活用する視点も同時に構想出来ましたから。

実際に、WABI WORLDのランタン型バックなどをイタリアに持っていくじゃないですか。するとそれを見たイタリア人は素晴らしい!って言ってくださるんです。ああいう美的感覚が優れている方々に褒められると、大丈夫なんだな、わかるんだなって自信につながりますよね。

また個人的な感性として「着物は美しい、素晴らしい」という想いがあります。

着物というよりも「日本の柄」ですよね。柄と色。コンビネーションが美しいと思うし、これはテキスタイル化できるなと思ったんです。もともとコンテンツビジネスをやっていたのでコンテンツ化できるというところで可能性を感じたのも大きいポイントですね。

柄・色を「無形コンテンツ化」。新たな視点で着物を進化させる

ー着物をコンテンツ化することに対してどんな可能性を感じてらっしゃったのでしょうか?

新村さん:

着物の柄と色を無形コンテンツ化」する、つまり着物から柄、色の要素を咀嚼してコンテンツバンク(二次利用、三次利用できるようなデジタルコンテンツとして集積・公開すること)のようなものを作ることにものすごく可能性を感じているんです。

例えばテキスタイルのデザイナーとして有名なウィリアムモリス、テキスタイルの会社として有名なリバティプリントが取り扱っているのは基本は「無形コンテンツ」です。単純にファブリック繊維の柄にもあるし、ガジェットのスマホケースの様なものの柄にもなるし、例えばナイキとコラボレーションしスニーカーの柄になったりもしますよね。どんなプロダクトにも派生できるんです。

私は着物の柄と色にも同じようなすごいポテンシャルが詰まっていると確信しています。

なので、着物を素材として新たな商品に蘇らせるサステナブルな取り組みと同時に、着物を「無形コンテンツ化」してライセンスビジネスとしても発展させていけたらと思っています。

ー最後に今後の展望を教えてください。

新村さん:

かなり壮大な話にはなってしまいますが、Web3.0の世界がきている中で、デジタルテクノロジーの力を使って日本文化/着物を通したコミュニティビジネスを作っていけたら良いなと考えています。

日本には、着物が眠っているご家庭がまだまだたくさんありますよね。着物を持っている人たちが、例えば自分の着物の柄をAIアートツールに読み込み、柄の説明や連想するキーワード(=想い思いの言葉)と組み合わせて新しい柄やデザインを生成し、公開します。コミュニティに属する他の人たちの手も加わって次々に新しいAIアートが生まれ、それが人気デザインとなり、ロングセラー商品になる可能性も出てきます。このときに、初めに着物の柄を公開した人にトークン(デジタル通貨)でロイヤリティを支払うような仕組みができれば、コミュニティに参加する楽しさを感じながら、ベネフィットを得ることもできると思うんです。つまり、Web3.0の技術を使って、誰がその柄の所有者なのかを客観的にわかるようにし、透明性を持ってその保有者クリエイターに還元できるようになるということです。

みんなが少しずつ主役になれるWebコミュニティの世界で、日本人が、「自分の持っている着物の柄が、何か楽しいことになっているぞ」と、そう感じてもらえるところまでいくのが理想だと思っています。

よく私は”温故知進化”という造語を使っているのですが、サステナブルな活動をするためには”温故知新”で終わらず、そこからさらに”進化”することが必要です。

WABI WORLDの取り組みに置き換えると、日本独自の技術や素材、よきモノを組み合わせることによって新しい命を吹き込む。これに加えて、日々進化するデジタルテクノロジーの力を自分達の事業に組み込んでいくことで、さらに活動を持続させていくことができると考えています。

ー貴重なお話をありがとうございました。日本の技と美の融合でできたWABI WARLDの作品が、外見だけでなく作る過程にまでこだわって製作されていることに、今回特に感銘を受けました。これからもっともっと世界に羽ばたいていくWABI WORLDさんが楽しみです。