2019年から約1年間に渡って続いたオーストラリア大規模森林火災。
多くの森林や野生動物が消失した裏では、野生動物の保護活動に全精力を注いだケアラーの存在がありました。
日本ではあまり馴染みのない存在・ケアラーですが、環境保全に大きく貢献する彼らの活動について知り、自分たちにできるエコ活動について考えてみましょう。
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野生動物ケアラーって?
野生動物ケアラーとは、ケガや病気をしている野生動物の保護とリハビリを行っている人たちのことを指します。
ケガや病気が治っても、野生動物には自然界に還るまでの準備が必要です。
いきなり自然界に戻すと生き残れない可能性があるため、少しずつ自然の環境に慣らすためのリハビリをケアラーが行っています。
また、ロードキルによって亡くなった野生動物のお腹の袋に、赤ちゃんが生き残っているケースも多々あります。
乳離れしていない赤ちゃんを自然界に戻すわけにはいかないので、独り立ちできる月齢になるまでケアラーがお世話をするのです。
オーストラリアには、2万人以上のケアラーがいると言われています。
しかし、そのほとんどが無償ボランティアです。
ケアラー活動をしても報酬は発生しないことから、「野生動物たちの命を守りたい」「森林のエコシステムを維持するためにも動物を救いたい」という想いから奉仕活動として野生動物の保護やリハビリをしていることが分かります。
オーストラリア大規模森林火災への貢献
ケガをした野生動物は、野生動物専門の病院に搬送されます。
しかし、野生動物病院の数には限りがあるため、治療が終わった野生動物はケアラーの元で世話やリハビリを受けるのが一般的です。
2019年の大規模森林火災では、数多くの野生動物が火傷などのケガを負いました。
そのため、野生動物病院とケアラーはタッグを組み、治療後にリハビリを要する野生動物をケアラーが積極的に引き取るなどの対策を取ることで、医療現場を機能させていたのです。
野生動物ケアラーはどうやって生計を立てているの?
ボランティアであるケアラーの中には、本職で動物関連の仕事をしている人もいます。
獣医師、動物看護師、飼育員、動物学部の教授といった仕事の給料をケアラー活動の資金に充てている場合も多く、足りない分は一般市民からの寄付金でまかなわれるケースが一般的です。
保護する野生動物の種類や頭数は、ケアラーによってさまざまです。
カンガルー、コアラ、ウォンバット、ポッサム、コウモリを含む哺乳類、エミュー、フクロウ、インコといった鳥類、単孔類のハリモグラなどの中から2~3種類だけを世話するケアラーもいれば、20種類以上の野生動物を広い土地の中で管理するケアラーも存在します。
それぞれの野生動物に合う食事、飼育部屋、屋外施設、体温調節機能が付いた野生動物専用の保育器、シリンジを用意する必要があり、大規模な施設を持つケアラーは経済的な負担を感じやすいのが実情です。
そのため、政府への登録を済ませているケアラーについては、国から一部補助金が支給されるという仕組みになっています。
野生動物ケアラーの主な活動
ケアラーの活動は、多岐に渡ります。
ここでは、主なケアラーが行っている8つの活動についてご紹介します。
①食事・排せつの世話
ケアラーは、野生動物の月齢や栄養状態に応じて食事を作り分けます。
乳離れしていない野生動物にはミルク、ケガ・病気の成獣には専用フードなど、野生動物の種類によってさまざまな食事を与えるのが仕事です。
また、野生動物の赤ちゃんの場合は、自分で排せつできないことも多々あります。
カンガルーやコアラは母親にお尻を舐めてもらうことで排せつするため、ケアラーは濡れたティッシュで優しく赤ちゃんのお尻を刺激することで排せつを促します。
②栄養管理
ケアラーの元には、さまざまな月齢や栄養状態の野生動物がやって来ます。
そのため、それぞれの成長具合やケガ・病気の状態に応じて栄養管理をしなければなりません。
成長に合わせて栄養管理する場合、ミルクの濃度の調整が必須です。
ミルクからしっかりと栄養を摂る必要がある一方で、極端に濃いミルクでは野生動物がお腹を壊してしまうリスクもあります。
ケアラーは、ベストなバランスを見極めて、それぞれの野生動物に最適な濃度のミルクを調合するのです。
また、野生動物専用のサプリメント入りパウダーを使うこともあり、野生動物が十分な栄養を摂取できるように気にかけています。
③リハビリテーション
野生動物を自然に戻す前に、リハビリをする必要があります。
野生動物に対するリハビリとは、より自然界に近い環境で人間に依存しない生き方を覚えさせることです。
そのため、ある程度の月齢に達した野生動物やケガ・病気が治った野生動物は、広い屋外の敷地で人間抜きの暮らしをスタートさせます。
食事の提供や糞の掃除などは人間が行うものの、自由な環境で野生動物だけの世界に身を置かせることで、少しずつ自然界での生き方を覚えさせていくのです。
④記録
ケアラーは、自分自身が世話をしている野生動物の健康記録をつけています。
食事の内容と量、排せつの回数と状態、リハビリ内容、体重、運動量などを細かく記録し、今後のリハビリ計画を練るための参考にします。
また、複数のケアラーが在籍する施設では、情報共有が非常に重要です。
スタッフ間での情報共有をしっかりと行うことで、野生動物の異変やリハビリの進歩を正しく把握することができるのです。
⑤リリース
野生動物がひとり立ちできる年齢に達した場合や、ケガや病気の状態が回復すると、ケアラーは野生動物を自然に還します。
レスキューされた場所にできるだけ近い立地に戻すという決まりがあるものの、森林火災のように生息地が壊滅しているケースでは別の場所を探す必要があります。
個体数が密になり過ぎると縄張り争いや食糧不足などの問題が発生するため、ケアラーはさまざまな場所を調査して最適なリリース地を見つけなければなりません。
⑥次世代の育成
ケアラーの多くは、次世代への教育活動を熱心に行っています。
野生動物保護に興味があるボランティアへの指導はもちろん、小中学校のスタディツアーを引き受けたり、医学部をはじめとする動物関連学部の学生実習を受け入れたりと、さまざまな方面における次世代教育に貢献しています。
培った知識の共有やリアルな現場での活動を見せることで、野生動物保護が長期的に行われる環境づくりに努めているのです。
⑦レスキュー
ケアラーの中には、レスキュー活動を行っている人も少なくありません。
一般市民や自治体からレスキュー要請を受けると、ケアラーはケガ・病気で苦しんでいる野生動物の保護に駆けつけます。
救急車代わりのバンや自家用車に応急処置セット、タオル、捕獲器、水などを乗せて、ケガや病気の具合によっては野生動物病院に搬送します。
入院の必要がないと見なされた野生動物に対しては、そのままケアラーが引き取って世話をするケースが一般的です。
⑧広報活動
無償で野生動物の世話をしているケアラーにとって、広報活動はとても大切な仕事です。
環境保全や野生動物保護への意識が高いオーストラリアでは、さまざまな環境団体に対して一般市民が寄付を行っています。
寄付金=ケアラーの重要な活動資金となるため、野生動物の様子や回復記録を写真・動画付きでSNSに投稿するケアラーもたくさんいます。
野生動物ケアラーが気を付けていること
ケアラーたちの中では、徹底して守られているルールが存在します。
それは、世話をしている野生動物を不必要に触らないことです。
ケアラーの目的は、保護した野生動物を自然界に還すことです。
人間に慣れすぎた野生動物は自然界で生き抜けなくなる可能性が高いため、ケアラーは食事や排せつの世話、触診による健康チェック、リハビリ以外で野生動物に触りません。
ケアラーの中には動物好きな人も多いものの、ぬいぐるみのように可愛い野生動物を抱っこしたり撫でたりすることはタブーとされているのです。
まとめ
2019年のオーストラリア大規模森林火災でも活躍した野生動物ケアラー。
しかし、その多くはボランティアとして活動しています。
報酬が生まれないというデメリットが着目されやすいボランティアですが、誰でも気軽に参加しやすいという門戸の広さも兼ね備えています。
地球の環境を良くしたいという想いから活動しているケアラーのように、私たちも身近なボランティア活動で環境保全を始めてみましょう。
著:Mahogany_socks
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