博物館と聞いて、一般的にどのようなイメージを浮かべますか?
文化、歴史、動物、恐竜、宝石、ポップカルチャーなど、博物館ごとに異なるテーマや展示物がありますが、パースに位置する西オーストラリア州立博物館では環境に関する啓発や教育を行っています。
オーストラリア国内でも、特にエコ意識が高い公共施設である西オーストラリア州立博物館。
この記事では、西オーストラリア州立博物館が環境保全に着目する理由や、実際に行っている具体的な取り組みについて解説していきます。
生物多様性ホットスポット・西オーストラリア州
西オーストラリア州は、学者ノーマン・マイヤーズによって生物多様性ホットスポットに指定されています。
生物多様性ホットスポットとは、エコシステムを維持する上で重要な生物多様性を兼ね備えているにもかかわらず、人々の活動により環境破壊の危機に瀕している地域のことです。
維管束植物のうち1,500種が固有種であると同時に、原生的植生の70%以上が破壊されているという条件を満たした地域のみが指定され、2023年時点で日本を含む36エリアが該当しています。
さまざまな野生動物の生息地である湿地帯や湖が多い西オーストラリア州も、生物多様性ホットスポットのひとつです。
そのため、西オーストラリア州では環境保全への取り組みとエコシステムの改善に力を入れています。
特に、西オーストラリア州の州都であるパースは、人口は約250万人を抱える国内第4の都市です。
黒鳥をはじめとする数多くの野生動物が生息しており、大都市としての機能を保ちながら環境に配慮した活動を推進することが必要不可欠となっています。
西オーストラリア州立博物館について
生物多様性ホットスポットに指定される西オーストラリア州では、州運営の博物館にてエコを意識した展示を行っています。
パースの中心部に位置する西オーストラリア州立博物館(Western Australian Museum)は、別名「Boola Bardip」とも呼ばれています。
「Boola Bardip」とは、西オーストラリア州で暮らすアボリジニの人々・Noongar(ヌーンガー)の言葉で「多くのストーリー」という意味です。
西オーストラリア州の歴史や文化を展示していることから、原住民であるNoongarの伝統的な言語を博物館の通称としています。
西オーストラリア州立博物館は5階建てで、1階に案内センターとミュージアムショップ、2階に技術革新ゾーン、3階に特別展フロアと人文学、4階に環境と地形、5階には野生動物を展示しています。
2020年11月にリニューアルオープンを迎え、2021年には年間70万人の入場者数を記録した注目度の高い博物館です。
西オーストラリア州立博物館が行う環境保全
パースの観光名所のひとつでもある西オーストラリア州立博物館。
ここでは、実際に行われているエコ活動の詳細を説明していきます。
気候変動の展示
西オーストラリア州立博物館では、テクノロジーを使った気候変動の展示を実施しています。
気候変動の大きな原因のひとつが、二酸化炭素の排出量増加による地球温暖化です。
特に、石炭、石油、天然ガスを燃やす電力発電による影響が大きく、館内ではパネルを使ってエネルギー供給に関する教育を行っています。
パネルをタッチすると、過去と現在で実際に使用されてきたエネルギー供給がイラスト付きで表示されます。
石炭、石油、天然ガスに加えて再生可能エネルギーの割合も記載されており、環境を守るために未来ではどのようなエネルギーを選択すべきかについても解説されているのが特徴です。
気候変動やエネルギー供給という難しい環境問題をテーマにしているものの、パネルを使うことで子どもの興味を引きながら理解を促すことに成功しています。
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ロードキルへの注意喚起
オーストラリアでは、年間1,000万頭の野生動物がロードキルの被害に遭っています。
特にカンガルー、ワラビー、コアラ、ヒクイドリ、ウォンバット、ハリモグラなどの被害率が高く、西オーストラリア州立博物館ではロードキルに対する注意喚起を行うと同時に、万が一ケガをしている動物を見つけた場合の連絡先の案内も行っています。
人間が発明・利用している自動車で命を落とす野生動物が少しでも減るように、西オーストラリア州立博物館は一般市民のロードキルに対する意識向上を目指しているのです。
エコアクティビティやワークショップの受け入れ
小中学生を対象に、環境保全関連のエコアクティビティやワークショップを開催しています。
学年やテーマごとに異なるレベルがあり、主に以下のようなコースが用意されています。
- 環境問題に関するデータ分析と解決策の提案
- 科学を活用した環境保護プロジェクトの開発
- 環境保全キャンペーンの企画とデザイニング
- 気候変動や生物多様性の損失への理解と解決策の提案
各エコアクティビティやワークショップは、西オーストラリア州立博物館の学芸員や専門スタッフが引率します。
いずれも実践的な内容となっており、子どもたちが自ら分析して環境について考える形式のプログラムが豊富です。
子どもを対象としたエコアクティビティやワークショップはオーストラリア国内のさまざまな博物館で行われているものの、西オーストラリア州立博物館では他の施設よりも多くのプログラムを取り揃えています。
未来の地球を守る第一歩として、次世代を担う子どもたちへのエコ意識向上に力を入れているのです。
絶滅危惧種の紹介
西オーストラリア州立博物館の5階・野生動物エリアで展示されているのが、過去200年以内に絶滅した動物です。
絶滅した動物たちの詳細はもちろん、絶滅した主な原因も記されており、人間が野生動物に与えてきた悪影響を説明しています。
また、既に絶滅した動物以外に、現時点で個体数が大幅に減少している野生動物の詳細についても紹介しています。
これ以上地球から消滅する野生動物を増やさないようにという願いから、訪れた利用者一人ひとりが自身のライフスタイルや環境への意識を改善するよう促しているのです。
ゲーム形式での教育
西オーストラリア州立博物館の展示エリアでは、至るところにタブレット端末が設置されています。
野生動物の生息地に関するクイズや個体数を増やすためのコツをゲーム形式で学べる仕組みになっており、子どもたちの興味を刺激しながら環境問題について解説しています。
ゲームを通して正しい知識を身につけられるのはもちろん、次世代を担う子どもたちが自発的に環境に優しい行動を取れるようになるところもメリットです。
生息地減少に関する解説
西オーストラリア州立博物館では、さまざまな動植物の過去と現在の生息地の比較を展示しています。
地図を使うことにより、どのくらいの生息地が奪われてきたのかを一目で理解できる点が特徴です。
また、その動植物にとっての脅威なども紹介し、一般市民がどのような点に気を付けるべきかを学べる仕組みになっています。
絶滅危惧種を使った公共彫刻プロジェクト
西オーストラリア州立博物館では、「WILD ABOUT BABIES」という彫刻プロジェクトを実施しています。
絶滅が危ぶまれる動物の赤ちゃんの彫刻を博物館周辺に展示し、野生動物の個体数減少を啓発しています。
通りすがりの一般人も見られるのがポイントで、展示されている野生動物はゴリラ、ロックワラビー、アフリカゾウ、リクガメ、ホッキョクギツネなど合計20種類です。
各動物たちの彫刻の隣には小さなプレートが設置されており、動物名や生態と共に、それぞれの動物達の個体数がなぜ減少しているのかといった脅威の存在についても説明しています。
尚、「WILD ABOUT BABIES」はパース動物園やパース文/化センターと協力して行われているプロジェクトで、2023年5月19日から2023年9月3日まで展示されています。
まとめ
生物多様性ホットスポットでもある西オーストラリア州の州都パースは、環境への意識が高い地域です。
特に一般市民や子どもたちへの啓発・教育に力を注いでおり、西オーストラリア州立博物館では動植物の個体数減少や気候変動への意識改善を目指しています。
多くの生物多様性が失われても、環境問題と向き合うことにより着実に状況を改善できます。
今はまだ危機に晒されている西オーストラリア州の環境ですが、エコ活動を進めることで生物多様性ホットスポットのリストから除外される日も近いのかもしれません。