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30by30とは?メリットや日本の現状、30by30ロードマップについても

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近年、地球温暖化生物多様性喪失といった深刻な環境問題が次々と起こっています。そこで、国際社会全体で取り組んでいるのが、2030年までに陸と海の30%を生物多様性保全地域とすることを目指す「30by30」です。

しかし、30by30がどのような取り組みなのか、知っている人はまだ多くないのが現状です。世界が取り組む30by30について、メリットや日本の現状、30by30ロードマップについてもわかりやすく解説します。

目次

30by30とは

30by30とは、 2021年のG7サミットで世界の主要国が合意した、2030年までに陸と海の少なくとも30%以上を健全な生態系として効果的に保全することを目指す目標です。

具体的には、2030年までに生物多様性の損失を食い止め、回復させることを目標としています。単に自然環境を保護するだけでなく、人間活動と自然環境の調和を図り、持続可能な循環型社会の実現につなげることを目指しています。

【関連記事】生物多様性とは?世界・日本の現状と問題点から考える危機、保全の取り組み具体例

OECMとの関係

OECM(Other Effective area-based Conservation Measures)とは、国立公園などの正式な保護地域ではないものの、地域や企業、団体などのさまざまな取り組みによって生物多様性が効果的に保全されている土地のことを指します。例えば、

  • 里地里山
  • 企業の社有林
  • 神社仏閣の境内

などがOECMに該当します。

【保護地域とOECMのイメージ】

このOECMという概念は、2030年までに自然環境の30%を保全する30by30の達成に向けて重要な役割を果たします。国立公園などの正式な保護地域だけでなく、地域の人々や企業、団体の地道な努力によって守られている自然環境も、30by30の目標達成に大きく貢献するからです。

自然共生サイトとOECMの違い

自然共生サイトとは、企業の社有林や里地里山、神社仏閣の境内地など、本来の目的とは関係なく生物多様性の保全が図られている区域のことです。つまり、民間の取り組みによって、自然環境が守られている場所のことで、OECMの一種とも言えます。

自然共生サイトとOECMの違いは、

  • 自然共生サイト:国(環境省)が認定する制度
  • OECM:国際的な概念

という点です。自然共生サイトとして日本国内で認められた場所は、OECMとして国際データベースに登録されることになります。

30by30は、地球の未来を守るための重要な挑戦です。この目標達成には、国立公園などの公的な保護区だけでなく、OECMと自然共生サイトのような多様な保全活動の推進が重要となります。*1)

30by30はなぜ必要?

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私たちは、衣食住はもちろん、私たちの社会経済活動も、自然環境から得られる「生態系サービス」に依存しています。主な生態系サービスには以下のようなものがあります。

  • 供給サービス:食料、淡水、木材、燃料などの生物資源の提供
  • 調整サービス: 気候の調整、洪水の防止、大気の浄化などの生態系プロセスの調整
  • 文化的サービス: レクリエーション、美的体験、精神的な恵みなどの無形の便益
  • 基盤サービス:土壌形成、光合成、栄養循環などの生態系の基盤となるプロセス

【生態系サービスと人間の福利の関係】

しかし、近年、人間活動による自然環境の破壊が深刻化し、生物多様性が急速に失われています。この生物多様性の損失は、以下のような深刻な影響をもたらします。

生態系サービスの劣化

生物多様性は、さまざまな生物の相互作用によって成り立つ健全な生態系を支えています。生物多様性が失われると、生態系が劣化し、私たちが自然から受けている「生態系サービス」が低下してしまいます。

例えば、

  • 食料供給の減少
  • 水の供給不足
  • 気候調整機能の喪失
  • 精神的・文化的な恩恵の喪失

などを引き起こし、私たちの生活を支えている自然の恵みが失われてしまいます。

経済への影響

生態系サービスの劣化は、農林水産業などの第一次産業、さらには製造業や流通業などの経済活動全体に大きな影響を及ぼします。自然の恵みが減少すれば、食料や原材料の供給が滞り、経済活動が阻害されてしまうのです。

生物多様性の損失は、長期的に見れば、私たちの経済的な繁栄にも深刻な打撃となる可能性が大きいのです。

人々の健康への影響

生物多様性の喪失は、感染症リスクの増大にもつながります。さまざまな生物が共生するバランスが崩れると、病原体の宿主となる生物が増え、人間への感染が広がる可能性があるのです。

さらに、精神的な豊かさを育む自然との触れ合いの機会が失われれば、人々の心身の健康にも悪影響が及ぶことが懸念されます。

このように、生物多様性の損失は、私たちの生活基盤を脅かす深刻な問題なのです。持続可能な社会を実現するためには、生物多様性の保全が不可欠です。*2)

30by30のもたらすメリット

【OECM認定により期待される効果】

このような背景の中、30by30目標の達成により、私たちの暮らしや社会全体に大きなメリットが期待されています。具体的には、自然環境の保全を通じて、

  • 気候変動への対策
  • 循環型経済の実現
  • 地域の活性化

など、さまざまな効果が見込まれているのです。主なメリットを確認していきましょう。

脱炭素・適応策:CO2の吸収・固定、防災・減災に寄与する自然の再生

地球温暖化は、人類にとって最大の脅威の一つです。30by30は、森林や湿地などの自然生態系を保全することで、CO2の吸収・固定を促進し、気候変動対策に貢献します。

さらに、30by30は、

  • 森林による斜面崩壊の防止
  • 遊水地による洪水調整機能

など、自然災害に対する防災・減災効果も期待できます。

循環経済:プラスチック代替のバイオマス資源の持続的な生産

プラスチック問題は、環境汚染の深刻な問題の一つです。30by30は、国内の里地里山の管理を推進し、木材竹製品セルロースナノファイバーなどのバイオマス資源の持続的な生産を促進します。

これにより、プラスチックを含む化石資源由来素材の代替を図り、循環経済の実現に貢献します。

【関連記事】プラスチックゴミ問題とは?現状の排出量と環境への影響、私たちにできる対策

農山村:鳥獣被害の防止、感染症対策と豊かな恵み

近年、里地里山の管理が適切に行われていないことで、野生鳥獣による農作物被害やマダニ媒介感染症の拡大が問題となっています。これは、里地里山の環境が自然に近い状態に維持されなくなり、野生動物の生息環境が変化したことが主な原因です。

30by30は、このような里地里山の適切な管理を目指すアプローチです。

  • 里地里山の適切な管理により、鳥獣の生息環境が整備される
  • 自然の食物連鎖が維持されることで、野生動物の個体数が適切なバランスになる
  • 里地里山の緩衝帯が維持されることで、農地への野生動物の侵入が抑制される
  • 野生動物の個体数が適切に保たれることで、マダニの宿主となる動物の密度が抑えられる
  • 里地里山の植生が豊かに維持されることで、マダニの活動や繁殖が抑制される

といった効果が期待できます。

食:環境に配慮した持続可能な農業の推進

30by30は、

  • 病害虫被害の軽減による生産力の向上
  • 化学肥料・農薬の使用量削減
  • 地域資源の活用

など、生物多様性を活かした環境に優しい循環型農業の推進を促進します。また、自然と共生する地域づくりは、地域活性化にもつながります。

【関連記事】循環型農業とは?メリット・デメリット、実践事例やSDGsとの関係も

健康・観光・いやし・ときめき・感動・地域活性化

30by30は、国立公園などの豊かな自然環境を保全することで、観光やレクリエーションの活性化に貢献します。さらに、自然とのふれあいは、疲れを癒し、免疫力を高め、心身の健康増進や免疫力向上にも効果があり、私たちの健康増進にもつながります。

このように、30by30目標の実現は、私たちの生活や社会、経済に幅広い恩恵をもたらすことが期待されています。*3)

30by30に関するこれまでの議論

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30by30に関する、これまでの議論での重要なポイントを確認しておきましょう。

保護地域の拡張と管理の質の向上

現在、陸域の20.5%海域の13.3%が保護地域に指定されていますが、さらなる拡大が必要だと言われています。具体的には、国立・国定公園の新規指定や大規模な拡張、既存の保護地域についても再検討を行い、必要に応じて周辺エリアの編入を進めていくことが計画されています。

特に海域については、国立公園の海域公園地区の面積を2030年までに倍増させることが目標とされています。このような取り組みにより、さらに広範囲の自然環境を保護し、質の高い管理体制を整備していくことを目指す方針です。

保護地域以外での生物多様性保全地域(OECM)の設定・管理

30by30の目標達成には、既存の保護地域以外の場所でも生物多様性の保全が図られている地域をOECMとして認定・管理していくことが重要です。具体的には、民間団体による保全活動の場などさまざまな場所をOECMとして認定する仕組みづくりが進められており、2023年までに全国で100か所以上のOECMを先行的に認定することを目指しています。

生物多様性の価値や保全活動の「見える化」

生物多様性の重要性や保全活動の効果を可視化するため、数年以内にマクロ生態学※やデジタル技術を活用したマップの提供が計画されています。さらに、このマップを更新可能なシステムとして開発し、保全活動の効果を適時把握できるようにすることも検討されています。

このようなシステムにより、生物多様性の価値を明確にし、保全活動の成果を一目で確認できるようになることが期待されます。

マクロ生態学

広域の地域や生態系、長期的な時間スケールで、生物と環境の相互作用を研究する学問分野。

以上のように、30by30に向けては、保護地域の拡充、保護地域以外での生物多様性保全、そして生物多様性の価値の「見える化」といった、多角的な取り組みが議論されてきました。*4)

30by30ロードマップとは

【30by30ロードマップ】

その中で、30by30を実現するための具体的な道筋を示したのが、「30by30ロードマップ」です。これは、日本が30by30目標の達成に向けて、2023年までに必要とされる取り組みと施策をまとめたものです。

30by30ロードマップの内容から、特に重要なポイントをまとめます。

30by30目標の達成

2030年までに、陸と海の30%を生物多様性保全地域とする目標を達成するために、先ほどの章で紹介した以下の施策を推進します。

  1. 国立公園等の保護地域の拡張と管理の質の向上
  2. 保護地域以外で生物多様性保全に資する地域(OECM)の設定・管理
  3. 生物多様性の重要性や保全活動の効果の「見える化」

地域の課題解決

30by30目標達成は、生物多様性保全だけでなく、地域経済の活性化や災害リスクの軽減など、様々な地域課題の解決に貢献することが期待されています。このロードマップでは、生物多様性保全と地域課題解決を両立させるため、

  • 生物多様性保全と地域経済の活性化
  • 生物多様性保全と災害リスクの軽減

などを目指した施策を推進します。具体的には、

  • 里地里山の適切な管理により、山菜やきのこ、薬用植物などの自然資源の持続可能な利用を促進する
  • 地域の伝統的な農林業の実践を支援し、自然とのつながりを持続させる
  • エコツーリズムやグリーンツーリズムなど、自然を活かした地域産業を育成する
  • 地域の生物多様性を活かした特産品開発や地域ブランド化を支援する
  • 森林や湿地の保全により、洪水や土砂災害の防止機能を高める
  • 緑地の創出や里地里山の管理により、ヒートアイランド現象の緩和や気温上昇の抑制に貢献する
  • 生態系ネットワークの形成により、生物の移動経路を確保し、気候変動への適応力を高める
  • 自然災害に強い地域づくりのため、地域の生態系の特性に応じた対策を講じる

など、さまざまな取り組みが推進されます。

多様な主体による連携

30by30目標達成には、国、地方公共団体、事業者、市民など、様々な主体の連携が不可欠です。このロードマップでは、多様な主体が協働して生物多様性保全に取り組めるよう、以下の施策を推進します。

30by30アライアンス

生物多様性保全に関わる多様な主体が参画する「30by30アライアンス」を設立し、情報共有や連携を促進します。30by30アライアンスは、企業、自治体、団体の有志が集まり、30by30の目標達成に向けて取り組む新たな枠組みです。

30by30の目標を達成するため、オールジャパンで取り組みを推進することを目的とし、30by30の取り組みに賛同する組織が参加します。

【30by30アライアンスの仕組み】

経済的手法

生物多様性保全に貢献する企業活動を支援するための経済的手法を導入します。

  • 生物多様性保全に貢献する企業活動への補助金・助成金
  • 生物多様性保全に貢献する企業製品・サービスに対する優遇措置
  • 生物多様性保全に貢献する企業へのESG投資※の促進
  • サステナブルファイナンス※
  • 生物多様性に関する認証制度の導入
  • 生物多様性に関する情報開示制度の強化

などが、これにあたります。

ESG投資

企業の環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)の取り組みを評価し、投資判断に活用する投資手法。

【関連記事】ESG投資とは?メリット・デメリット・問題点、企業の取り組み事例や銘柄の選び方を紹介

サステナブルファイナンス

環境・社会・ガバナンス(ESG)の要素を考慮した金融の取り組み。

【関連記事】サステナブルファイナンスとは?ESGとの違いやメリット・デメリットと事例を解説

30by30ロードマップは、日本が生物多様性保全を推進し、持続可能な社会を実現するための重要な指針です。このロードマップに基づき、国、地方公共団体、事業者、市民など、様々な主体が連携して取り組むことで、30by30目標の達成を目指していきます。次の章では、30by30に関する日本の現状を見ていきましょう。*5)

30by30に関する日本の現状

【豊かな生物多様性を育む里地里山】

日本の自然環境は、世界でも類を見ない特徴を持っており、これらを踏まえた上で30by30の目標達成に取り組むことが大切です。

日本は大陸縁辺に位置する島国なので、南北に長い国土を有しています。この特徴を生かし、地域ごとに異なる自然環境に合わせた30by30目標達成の取り組みを進めています。

多様な生物が生息する森林の保全

日本は、国土の約7割を森林が占める森林大国です。特に、奥地脊梁山地は生物多様性保全上重要な要素であり、国立・国定公園などに指定されています。

政府は、これらの森林の保全を推進するため、国立公園等の拡張や、森林の適切な管理を行うための施策を進めています。

里地里山の保全

【里地里山】

里地里山は、

  • 農地
  • ため池
  • 水路
  • 樹林地(二次林、人口林)
  • 草原

などを含む多様な生態系のモザイクです。近年、人口減少や高齢化により、里地里山の維持管理が課題となっています。

政府は、里地里山の保全を推進するため、地域住民による里地里山の管理を支援する制度や、里地里山を活用した新たな産業の育成などに取り組んでいます。

水系の保全

  • 河川
  • 湖沼
  • 湿原
  • 干潟
  • 湧水池

など、日本の水系は生態系ネットワークの重要な基軸となっています。これらの水辺環境を保全し、水生生物の生息地を確保することは、30by30目標達成に向けた重要な鍵となります。

特に、都市部に残された貴重な水辺環境の保護にも注目が集まっています。

【関連記事】干潟とは?仕組みや役割、生息する生き物、守るための取り組みも

海域の保全

日本の沿岸域には、

  • 干潟
  • サンゴ礁
  • マングローブ林

など、多様な海洋生態系が広がっています。黒潮や親潮などの海流に沿って、多様性あふれた豊かな海洋生物相が形成されています。

30by30では、特に国立公園の海域公園地区の拡大が目標とされており、沿岸域の生物多様性保全が重要な課題となっています。

都市域の生物多様性の保全

人口が集中する都市部においても、緑地や水辺など、貴重な自然環境が残されている場所もあります。これらの自然環境を守り、都市の生物多様性を維持していくことは、30by30の観点からも重要な取り組みです。

そのため都市部でも、人と自然が共生する持続可能な環境づくりが求められています。

これらの取り組みを通じて、日本ならではの多様な自然環境を保全し、30by30目標の達成につなげていくことが重要です。各地域の実情に応じた保全策を講じていくことが、今後の課題となっています。*6)

30by30の達成に向けた企業の取り組み

それでは、実際に30by30に取り組む企業の例を見てみましょう。

清水建設の取り組み

【貴重な地域資源を再生し生物多様性回復に貢献】

清水建設株式会社は、日本を代表する総合建設会社です。長年にわたり社会基盤を支える多種多様な建築・土木プロジェクトを手がけてきました。

清水建設は、30by30アライアンスにも参加しています。その中から取り組みの例を紹介します。

グリーンインフラ+(PLUS)

清水建設は、「グリーンインフラ+(PLUS)」のコンセプトに基づいて、人と生き物が共生する持続可能な地域づくりを推進しています。この取り組みは、自然の持つ機能を活かしながらインフラを整備し、それに清水建設独自の技術やソフトを「+(プラス)」することで、地域全体に自然の恵みを還元しようとするものです。

  • 環境保全
    「グリーンインフラ+(PLUS)」の一環として、清水建設は干潟や藻場の再生を支援し、生物多様性の保全に努めています。また、都市部の緑地化プロジェクトを通じて、ヒートアイランド現象の緩和や都市生態系の保全にも取り組んでいます。

アニマルパスウェイの設置

  • 小動物移動路の確保
    清水建設は、道路建設などで分断された森林を再びつなぐための「アニマルパスウェイ」を設置することで、動物たちを交通事故から守り、生態系ネットワークの形成・維持にも貢献しています。具体的には、道路上に樹上性の小動物移動用の吊り橋を設け、リスやヤマネなどの移動を支援しています。
  • ロードキルの防止
    「ロードキル」とは、道路で動物が車に轢かれて死亡する現象を指します。清水建設のアニマルパスウェイは、このロードキルを防ぐだけでなく、動物たちが安全に移動し、繁殖のための適切な環境を確保できるようにする効果もあります。
  • 生態系ネットワークの修復
    現在、清水建設はアニマルパスウェイの研究・普及に努めており、これにより地域生態系のネットワークの修復に貢献しています。アニマルパスウェイの導入により、分断された生息地が再びつながることで、動物たちの健康な生息環境が保たれ、生物多様性が向上します。

清水建設は、持続可能な地域づくりを支援するために、さまざまな技術とノウハウを駆使しています。これらの取り組みは、「30by30」の目標達成に向けて大きな役割を果たすと期待されています。

マルハニチロ

【東京湾UMIプロジェクトの様子】

マルハニチロ株式会社は、日本を代表する食品メーカーです。マルハニチロは水産業に強みを持つ企業の特徴を活かして、海洋資源の持続可能な利用を目指し、環境保全活動に積極的に取り組んでいます。

マルハニチロの取り組みの一例として、東京湾の環境改善と生物多様性の保全を通じて30by30アライアンスの達成に向けて尽力しています。

東京湾 UMI プロジェクト

  • アマモ場再生活動
    マルハニチロは、東京湾の水質改善と海洋生物の生息場所の提供を目的に、2014年からアマモ場の再生活動を実施しています。この活動は、アマモという海草の種子を集め、植栽することで沿岸の環境を整えることを目的としています。アマモは光合成によってCO₂を吸収し、地球温暖化の抑制に役立ちます。
  • 花枝採取イベントの実施
    2022年6月4日、マルハニチロは千葉県木更津市にてアマモの種子を集める「花枝(はなえだ)」の採取イベントを主催しました。このイベントには、社員とその家族、NPO法人海辺つくり研究会のスタッフ、国土交通省関東地方整備局のメンバーなどが参加し、約2,000本の花枝を採取しました。これにより約4万粒の種子が集められ、秋には横浜港での種まきに使用されます。

生物調査の実施

花枝採取と同時に実施された曳網(えいあみ)による生物調査では、アマモ場に棲む多様な生物を観察しました。NPO法人海辺つくり研究会の指導のもと、参加者たちはアマモ場に生息する生物について学び、その重要性を認識しました。

曳網(えいあみ)

河川や沿岸域で用いられる伝統的な漁労方法のひとつ。網を水中に投入し、両端から引っ張って移動させることで、魚を捕獲する。

ブルーカーボン活動への貢献

近年、アマモ場などの海藻・海草が吸収・固定するCO₂、「ブルーカーボン」※の重要性が注目されています。アマモ場は、光合成によりCO₂を吸収し、その炭素が海底の堆積物に取り込まれることで、数千年にわたって貯留されるため、地球温暖化対策としても期待されています。マルハニチロはこの活動を通じて、ブルーカーボンの普及と活用を推進しています。

ブルーカーボン

海洋・沿岸域の生態系が吸収・貯蔵する炭素のこと。気候変動対策において重要な役割を果たす一方で、沿岸域の生態系保全にも寄与する。

【関連記事】ブルーカーボンとは?地球温暖化対策としてのメリット・デメリットと企業の取り組み事例

マルハニチロは、持続可能な海洋環境を創造し、生物多様性を保全するために、今後も積極的に活動を続ける方針です。これらの取り組みは、30by30の目標達成に向けて大きな一歩を踏み出しています。*7)

30by30の達成に向けて私たちができること

30by30の達成には、政府や企業の取り組みだけでなく、自然の恩恵に大きく依存している私たち個人の行動も非常に重要です。

例えば、食べ物や飲み水、エネルギー源、さらにはレクリエーションの場まで、その多くが自然からの恵みによって得られています。自然が豊かであればあるほど、私たちの生活も豊かになります。

しかし、森林伐採や海洋汚染、生息地の破壊などが進むと、生物多様性が失われ、自然が持つ機能も低下してしまいます。

環境保全のための活動は、大規模なプロジェクトだけではありません。日常生活の中で一人ひとりが少しずつ取り組むことが、積み重なることで大きな成果を生むのです。

ゴミの削減とリサイクル

個人の普段の生活での取り組みが特に重要となるのが、ゴミの削減とリサイクルです。家庭から出るゴミを減らすことで、廃棄物処理による環境負荷を軽減できます。

  • エコバッグの使用
  • リサイクルへの協力
  • 食品ロスの削減
  • 清掃活動への参加

など、できることから習慣にしていきましょう。

エネルギーの節約

エネルギーの消費を抑えることも重要な取り組みの一つです。省エネを心がけることで、地球温暖化の原因となるCO₂排出量を減らせます。

例えば以下のような取り組みが挙げられます。

  • 節電・節水
  • 省エネ家電の利用
  • エコカーや公共交通機関の利用
  • 再生可能エネルギーの導入による自家発電
  • 再生可能エネルギー由来の電力を提供している電力会社を選ぶ

持続可能な消費

消費行動も環境保全に影響を与えます。持続可能な商品を選ぶことで、環境への負担を軽減できます。

  • 地産地消
  • 環境に優しい商品・サービスを選ぶ
  • エシカル消費※
  • 本当に必要なものだけを購入する

など、個人にできる持続可能な消費の例はたくさんあります。また、持続可能な消費は、環境だけでなく、経済や社会にも良い影響を与えます。

エシカル消費

環境や社会への影響を考慮して行う消費行動のこと。単に価格や品質だけでなく、製品の背景にある企業の姿勢を重視し、自分の消費が社会や環境に与える影響を意識して選択する。

ボランティア活動や寄付

直接的な環境保全活動に参加することも有効です。例えば、

  • 地元の清掃活動
  • 植樹活動
  • アマモ場※再生プロジェクト

などに参加することで、具体的な環境改善に貢献できます。

また、NPOやNGOなどの環境保護団体に寄付を通じて支援することで、専門家による継続的な保全活動をサポートできます。

アマモ場

アマモは海草の一種で、海底に根を張って生育する水中植物で、アマモの群落が作り出す沿岸域の生態系を「アマモ場」と呼ぶ。洋生物の生息場所や産卵場所を提供するだけでなく、波浪の緩和や海底の安定化など、沿岸域の環境保全に重要な役割を果たす。

個人の力は小さいように見えるかもしれませんが、それが集まることで大きな変化をもたらすことができます。「30by30」の達成には、私たち一人ひとりの行動が欠かせません。未来の世代に豊かな自然を残すために、今日からできることを少しずつ取り組んでいきましょう。

30by30に関してよくある疑問

30by30という目標について、まだよく理解できていないという方も多いかもしれません。30by30についてよくある疑問に回答します。

30by30アライアンスとは?

30by30アライアンスは、2022年4月に発足した、産官学17団体が連携して30by30目標の達成を目指す協働体です。環境省を事務局とし、企業、自治体、NPOなどが参加し、情報共有や連携強化、啓蒙活動などに取り組んでいます。

30by30の参加企業はどこから分かる?

30by30アライアンスのウェブサイトでは、参加企業の一覧を確認することができます。また、多くの企業は、自社のウェブサイトやプレスリリースなどで30by30への取り組みを発表しています。

詳しくは→環境省30by30「参加団体一覧 / 活動事例』

30by30保護地域とは?

30by30の目標では、陸域と海域の合計で30%を保護地域に指定することを目指しています。具体的には、国立公園や自然保護区、OECM(その他の効果的な地域ベースの保全措置)などが該当します。これらの地域では、生物多様性の保全が重点的に行われています。

30by30とSDGs

30by30は、SDGs(持続可能な開発目標)の目標達成においても重要な取り組みです。特に30by30が貢献するSDGs目標を確認していきましょう。

SDGs目標13:気候変動に具体的な対策を

生物多様性の保護は、地球温暖化対策にも重要な役割を果たします。森林やアマモ場といったブルーカーボンと呼ばれる海洋生態系が、大量のCO2を吸収・固定することが知られています。これらの保護・再生は、気候変動の緩和にも効果的なのです。

SDGs目標14:海の豊かさを守ろう

30by30は海洋保護地域の設定を通じて、海洋生物資源の保全持続可能な利用に貢献しています。海洋の生態系を守ることで、水産資源の枯渇や海洋汚染といった問題を軽減し、海洋の豊かな生態系を未来に残す効果が期待されます。

SDGs目標15:陸の豊かさも守ろう

30by30は、生物多様性の保護と回復を目指しており、陸上の生態系の維持に大きな効果をもたらします。森林、湿地、草原など、様々な陸上の生息地を保護することで、希少種の保護生態系ネットワークの形成にもつながります。*8)

>>各目標に関する詳しい記事はこちらから

まとめ

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30by30は、2030年までに地球の陸地と海の30%を保護することで生物多様性を維持し、持続可能な未来を築く取り組みです。この目標は、海洋保護地域や陸域の自然保護区を設定し、

  • 気候変動
  • 環境汚染
  • 生態系の破壊

といった問題に対処するための、具体的なアクションです。30by30は、SDGsの海洋生物資源や陸域生態系の保全、気候変動対策といった目標に深く関連し、これらの目標達成に向けて重要な役割を果たしています。

今後、世界の環境問題への意識はますます高まり、持続可能な社会の実現に向けた取り組みが加速していくことが予想されます。30by30もその中心的な役割を果たすと考えられます。

日本でも、環境省が中心となり企業や自治体が参加する「30by30アライアンス」が立ち上がるなど、オールジャパンでの取り組みが広がっています。こうした取り組みに関心を持つことは、政府や大企業だけでなく、中小企業や一般個人にとっても重要です。

はじめは無理なく、環境配慮の製品・サービスの選択や、地域の保全活動への参加など、企業の特徴に合わせた取り組みや、ひとりひとりができることから始めるとよいでしょう。一方で、環境問題への無関心は、この時代の流れの中では企業の事業リスクにもなりかねません。

30by30は、人類が持続可能な未来を築くために取り組むべき課題です。政府や企業、市民社会のすべてが連携し、一人ひとりができることから行動していくことが重要です。あなたも無理なくできることからはじめ、地球環境の保護だけでなく、経済発展や社会福祉の向上にも貢献しましょう。

<参考・引用文献>
*1)30by30とは
環境省『30by30ロードマップ』
環境省『30by30とは』
日経BP『「30 by 30」が、都市の緑も豊かにする⁉』(2023年3月)
環境省『OECMの概要及び検討状況』(2022年1月)
環境省『身近な自然も対象に「自然共生サイト」』
生物多様性とは?世界・日本の現状と問題点から考える危機、保全の取り組み具体例
*2)30by30はなぜ必要?
環境省『30by30基本コンセプト』
日本経済新聞『企業と森林 共創急務に 脱炭素・生態系の両立追求を』
日本経済新聞『陸・海の3割保護へ産官連携 生物多様性国家戦略決定』(2023年3月)
日経ESG『陸と海の30%を守る連合発足』(2022年5月)
環境省『第2章 地球温暖化と生物多様性 第1節 地球の営みと生物多様性 1 生態系サービス』
*3)30by30のもたらすメリット
環境省『30by30基本コンセプト』
日本経済新聞『生物多様性は経営基盤 情報開示へ今から準備』(2022年8月)
環境省『30by30目標が目指すもの』
プラスチックゴミ問題とは?現状の排出量と環境への影響、私たちにできる対策
循環型農業とは?メリット・デメリット、実践事例やSDGsとの関係も
*4)30by30に関するこれまでの議論
環境省『30by30ロードマップ』
環境省『OECMの概要及び検討状況』(2022年1月)
日本生態学会『生物の空間分布・動態と生態的特性との関係:マクロエコロジーからの視点』
文部科学省『生物系』
*5)30by30ロードマップとは
環境省『30by30基本コンセプト』
環境省『30by30ロードマップ』
ESG投資とは?メリット・デメリット・問題点、企業の取り組み事例や銘柄の選び方を紹介
サステナブルファイナンスとは?ESGとの違いやメリット・デメリットと事例を解説
環境省『生物多様性のための30by30アライアンスの発足について』
*6)30by30に関する日本の現状
環境省『30by30ロードマップ』
環境省『自然共生サイトってなんだろう?』
環境省『里ナビ』
干潟とは?仕組みや役割、生息する生き物、守るための取り組みも
*7)30by30の達成に向けた企業の取り組み
素水建設『「生物多様性のための30by30アライアンス」に参加』(2022年4月)
環境省『参加団体一覧 / 活動事例』
清水建設『「グリーンインフラ」とは?』
清水建設『アニマルパスウェイ』
MARUHA NICHIRO『「東京湾 UMI プロジェクト」アマモ場再生活動を実施しました』(2022年6月)
MARUHA NICHIRO『イニシアチブへの参画』
ブルーカーボンとは?地球温暖化対策としてのメリット・デメリットと企業の取り組み事例
*8)30by30とSDGs
国際連合広報センター『SDGsのポスター・ロゴ・アイコンおよびガイドライン』