現代の私たちの生活において、もはやエアコンは必要不可欠な家電です。しかし、昨今の燃料代高騰による電気料金の値上げは、エアコンの利用にも影響を与えています。またエネルギーの過剰な消費は、CO2排出量の増加という面でも見過ごすことはできません。家計にも、環境にも負担をかけないために必要な、効率的なエアコンの節電方法について見ていきましょう。
目次
エアコンの節電はなぜ重要か
家電製品の中でもエアコンの節電が重視される理由は、それだけ家庭で多くの電力を消費しているからです。特に夏の日中には消費電力の約6割をエアコンが占めると試算されており、その分の電気代も大きなものになります。
電気代が高騰している
節電が特に重要視されている背景には、ここ2〜3年の電気料金の高騰があります。コロナ禍による輸送コストの上昇に加え、ロシアによるウクライナ侵攻の影響は原油や天然ガスの価格にも大きな影響を与えました。現在でも化石燃料を燃やす火力発電に全発電量の約8割を依存している日本では、化石燃料価格の上昇がそのまま電気料金の価格上昇に反映されています。
環境負荷が高い
電力の多くを化石燃料に依存しているということは、電気を使えば使うほど化石燃料を燃やしてしまうことになり、当然、CO2排出量の増加にもつながります。
エアコンの製造から廃棄までのCO2排出量を見ると、最も多くCO2を排出しているのは使用時です。つまりエアコンによる環境負荷を抑えるためには、使用時の節電が有効となります。
節電効果が高い
エアコンは電力消費に占める割合が大きい反面、使い方によっては高い節電効果が得られます。冷蔵庫や洗濯機、照明器具などの家電製品は、節電のために使用を減らすのにも限界がありますが、エアコンは上手に使えば電気料金を大幅に削減する余地が残されています。
エアコンについてのポイント
節電についてお話しする前に、エアコンについて理解しておきたい基本的なポイントがあります。
夏=28℃/冬=20℃の本当の意味は?
冷暖房を使う際の温度として「夏は28℃、冬は20℃が推奨」とされていることはよく知られています。しかしこの「夏28℃、冬20℃」というのは、環境省が定めている「適正な室温」のことであり、エアコンの「設定温度」のことではありません。
この「適正な室温」とは、平成17年の「クールビズ」策定にあたり「建築物における衛生的環境の確保に関する法律施行令」と労働安全衛生法の「事務所衛生基準規則」に基づいた結果、「17℃以上28℃以下が適正」とされたものです。ただしこれは厳密な科学的知見によるものではないため、あくまでも目安とされています。
そのため、夏にエアコンを28℃に設定しても不快に感じたり、冬に20℃に設定しても寒く感じるケースは出てきます。快適と感じる基準は人によって異なるため、この「適正な室温」は厳格に守らなければならないというわけではありません。
大事なのは、個々の体感温度に応じた対策をとりつつ、冷暖房に頼りすぎない快適な環境をつくることです。
暖房と冷房の電気代の違い
エアコンでは、夏の冷房と冬の暖房とでは消費電力や電気料金に大きな差が生じます。これはなぜかというと、外の気温と推奨される室内温度との差が、夏と冬とでは大きく違うからです。
- 夏:外が気温35℃でエアコンの室内温度が28℃の場合=温度差は7℃
- 冬:外の気温が6℃でエアコンの室内温度が19℃の場合=温度差は13℃
となり、冬のほうが温度差が大きいことがわかります。温度差が大きくなれば、その分だけ稼働から室内温度になるまでに時間がかかり、必然的に消費電力も大きくなります。
そのため冬は夏に比べ、エアコンの電気代が高くなるのです。
つけっぱなしの方がお得?
家電製品では、使っていない時にはマメに電源を切るのが基本ですが、エアコンの場合これは逆効果になる場合があります。というのも、エアコンで一番電力を使うのは、電源を入れてから室温が設定温度になるまでの間であるからです。そのため、一度電源を切るとまた室温が戻ってしまい、再び設定した温度にするまでに余分な電力を使ってしまいます。
部屋を空けるのが30分〜1時間程度なら、電源はつけたままのほうがいいでしょう。
エアコンの電気代の計算方法
では実際にエアコンを使うと、どのくらいの電気代がかかるのでしょうか。
ここでは、エアコンの大手メーカー、ダイキンが示している計算方法に基づいて見ていきたいと思います。
1時間あたりの電気代
まずエアコンを1時間使うとかかる電気代は、
1時間あたりの電気代=消費電力(kW)×電力料金単価(円)×1(時間)
の計算式で求められます。消費電力はその電化製品が稼働するのに使う電力のことで、電力料金単価は2023年5月時点で全国平均35円/kWhとなっています。
各製品の消費電力はカタログなどで調べることができ、冷房/暖房時それぞれに最小〜最大、平均の電力が記載されています。
例として、あるメーカーの6畳用のエアコンをあげると
- 冷房時消費電力:580W(最小125W〜最大840W)
- 暖房時消費電力:470W(最小130W〜最大1280W)
となっています。これを上記の式に当てはめて計算すると
- 冷房時平均:0.58(kW)×35×1=20.3円
- 暖房時平均:0.47(kW)×35×1=16.45円
となります。
1年間あたりの電気代
1年間あたりの電気代も、同様の方法で求めることができます。こちらの計算式は
1年間の電気代の目安=消費電力量(期間合計:kWh)×電力料金単価(円)
となっています。
期間合計の消費電力量とは、年間を通じてエアコンを使った場合、1年間で必要な消費電力量の目安です。この数字は、
- 東京を基準にした外気温度
- 冷房27℃/暖房20℃設定
- 冷房期間(5月23日〜10月4日)+暖房期間(11月8日〜4月16日)
- 6:00~24:00の18時間
- JIS C9612による平均的な木造住宅(南向)
- 機種ごとの部屋の広さ
によって算出され、各製品のカタログやスペック表に記載されています。
先ほど1時間あたりの例であげたエアコンでは、期間消費電力量が717kWhと算出されています。
ここから計算すると、このエアコンが1年で使う目安の電気代は
717(kWh)×35=25,095円
となります。
エアコンを節電する際に押さえておくべきポイント
これらの点を踏まえて、エアコンを節電する場合に押さえておくポイントを説明していきます。
設定を考える
エアコンの運転設定をどうするかは、節電の際にとても重要になってきます。
環境省の調査では、エアコンの設定温度を1℃緩和した場合、つまり冷房なら1℃上げると約13%、暖房なら1℃下げれば約10%の消費電力を削減できると見込まれています。
そのためエアコンで節電する場合には、いかに設定温度より高く/低く保ちながら快適な体感温度を実現させるか、ということが基本的なポイントといえるでしょう。
空気の流れを考える
エアコンを使ううえでは、空気が室内でうまく循環するように工夫することが重要です。
よく知られているように、空気は
- 冷たい空気は下の方に沈んでいく
- 暖かい空気は上の方に逃げていく
性質があります。このため、室内の空気が動かないといくら暖房を強くしても部屋の下の方は暖まらず、冷房を強くしても足先ばかり冷えて頭の方は暑い状態が続きます。
また日本の住宅は一般的に断熱性が高くない家が多く、外気が入りやすいため空調効率もよくありません。エアコンを使う前に、こうした空気や熱の流れをよく理解しておきましょう。
体調と体感温度を見極めて使う
エアコンを節電する際、気をつけておきたいのは、決して無理をしてはいけないということです。
特に夏場においては、エアコンを使わない、または使用を控えることで、熱中症のリスクが高まります。前述の通り設定温度を緩和すると消費電力は削減できますが、そのために健康を損なっては何にもなりません。
外気温や体感温度は、人間の健康状態を左右します。暑い寒いを問わず、体の調子に合わせたエアコンの使い方を心がけましょう。
エアコン節電方法10選
ではここからは、これまでにお話しした前提やポイントをもとに、効果的なエアコンの節電方法を紹介していきましょう。
節電方法(夏冬共通)
まずは夏冬共通で行える節電方法を確認します。
自動運転モードにする
ほとんどのエアコンには自動運転モードがあり、室内が設定温度に到達すると自動的に風量を調節してくれます。風量を手動で変えるように設定すると、設定温度になっても同じ出力で稼働し続けるため、かえって多くの電力を消費します。このため、自動運転を使うほうが節電になります。
扇風機やサーキュレーターを併用する
部屋の空気を循環させて室内温度のムラをなくし、冷暖房の効率を上げる方法として扇風機やサーキュレーターの併用は有効です。夏の場合は風が当たると体感温度が下がるため、設定温度が高くても快適さが得られます。
風向きを調整する
同様の考え方として、最初からエアコンの風向きを調整しておくことも効果的です。
冷房の場合は水平にして上から下へと冷たい空気を降ろし、暖房の場合は下向きにして床から上へと暖気が行き渡るようにしましょう。この場合も扇風機やサーキュレーターをうまく併用すると効果的です。
エアコンを定期的に掃除する
エアコンは、フィルターや室外機に埃がたまると運転効率が悪くなり、そのぶん余計な電力を消費してしまいます。常に良好な状態で稼働させるために、2週間に一度を目安に定期的に掃除を行うとよいでしょう。ただし、分解が必要な掃除は専門の業者に依頼してください。
夏季の節電方法
続いては、夏季に有効な節電方法を見ていきましょう。
室内外とも直射日光を避ける
夏に余分な冷房を使わないためには、直射日光が当たらないようにすることが大事です。
具体的な方法として
- 薄手のカーテンやすだれなどで日が入らないようにする
- 室外機にも日差しが当たらないようにする
などの対策があります。
先に換気をして熱を逃がす
冷房をかける前に、窓を開けて室内にこもった熱を逃がしておけば、そのぶん部屋を冷やすのに使う電力も減らせます。窓が2カ所あれば、より空気が通りやすく効果的です。
湿度を下げる
同じ気温でも、湿度が高いと体感温度は暑く感じます。そのため、除湿にして湿度を下げれば、設定温度が同じでもより過ごしやすくなります。
冬季の節電方法
次に、冬季の節電方法を確認しましょう。
窓からの熱を遮断する
暖房の効果を上げるためには、外からの冷気を遮り、中から熱が逃げないようにすることが重要です。対策としては、床まで届く厚手の長いカーテンを使う、窓に断熱シートを貼るなどの工夫をすれば、室内の空気が逃げにくくなります。
湿度を上げる
湿度が上がると体感温度が高く感じるため、湿度を上げると同じ温度でもより暖かく感じられます。加湿機などを使い、結露に注意しながら室内湿度を50〜60%くらいに保つと良いでしょう。
他の方法でも暖をとる
冬の場合、エアコン以外でも暖かくする方法はあります。ガスファンヒーターや灯油ストーブなど、他の暖房設備を使う方法もありますが、新たな燃料代や環境負荷といったデメリットもあります。それ以外では
- 厚手のじゅうたんを敷く
- 室内でも重ね着をする
- 湯たんぽや膝掛け用の毛布を使う
などの方法を併用すれば、エアコンの設定温度を上げすぎずに快適に過ごせます。
節電効果はどのくらい?
これらの節電に取り組むことで、具体的にどのくらいの省エネ効果が得られるのでしょうか。ここでは、冷房、暖房それぞれのケースで、
- 設定温度を1℃緩和した場合
- 一日の使用時間を1時間減らした場合
- エアコンのフィルターを掃除する前と後
での電力量、削減した燃料の量、削減できるCO2排出量と、年間で節約できた電気料金を比較していきます。
冷房の場合
外気温度31℃で冷房設定温度を27℃から1℃上げた場合(9時間/日使用)
- 年間で電気30.24kWh
- 原油換算7.62L
- CO2削減量14.8kg
- 約940円の節約
冷房を1日1時間短縮した場合(設定温度:28℃)
- 年間で電気18.78kWh
- 原油換算4.73L
- CO2削減量9.2kg
- 約580円の節約
暖房の場合
外気温度6℃で暖房設定温度を21℃から1℃下げた場合(9時間/日使用)
- 年間で電気53.08kWh
- 原油換算13.38L
- CO2削減量25.9kg
- 約1,650円の節約
暖房を1日1時間短縮した場合(設定温度:20℃)
- 年間で電気40.73kWh
- 原油換算10.26L
- CO2削減量19.9kg
- 約1,260円の節約
エアコンのフィルターを掃除する前後での比較
- 年間で電気31.95kWh
- 原油換算8.05L
- CO2削減量15.6kg
- 約990円の節約
買う節電 選ぶ節電
節電は使う時だけではありません。もし自宅のエアコンが古くなり買い替える時期に来ているのであれば、省エネタイプのエアコンに買い替えるというのも有効な節電の方法です。
近年日本の家電製品は省エネ性能が飛躍的に向上しており、エアコンに関しても
- 再熱除湿熱リサイクル方式
- ヒートポンプ式
- フィルター自動洗浄
- エリア空調機能
などの省エネ技術が採用されたことで、10年前の製品に比べ、15%もの期間電力消費量の削減を達成しています。
省エネモデルのエアコンを使うことで、長期的に見ればさらなる節電が期待でき、それだけCO2排出量の削減にもつながります。
エアコンを選ぶ際には、上記の省エネ技術が使われていることの他にも
- 省エネルギーラベル/統一省エネラベルをチェックする
- 設置する部屋の広さ(畳数)に合った製品を選ぶ
といったポイントを確認することが重要です。
エアコンの節電とSDGs
エアコンの節電は、電力や電気料金、化石燃料やCO2排出量の削減に大きな効果を発揮します。一人ひとりのレベルでは微々たるものでも、多くの家庭での成果を積み上げることで、以下のようなSDGsの目標達成にもつながっていきます。
目標11「住み続けられるまちづくりを」
エアコンを効果的に使うことは、過ごしやすく快適で持続可能な住環境をつくることです。それはこの目標で掲げる「包摂的で安全かつ強靭(レジリエント)で持続可能な都市及び人間居住」の実現にもつながっていきます。
目標12「 つくる責任 つかう責任」
この目標では「より少ないもので、より大きく上手に効果をあげる」生産と消費のあり方を目指しています。今回紹介してきたエアコンの節電方法は、まさにこの目標と合致するものと言っていいでしょう。
目標13「気候変動に具体的な対策を」
エアコンの節電が、化石燃料をどれほど削減でき、どれほどCO2の排出削減につながるかは前述した通りです。地球温暖化と気候変動の原因がCO2の増加であることを考えると、エアコンの節電はその緩和に向けた具体的な対策のひとつとなります。
>>各目標に関する詳しい記事はこちらから
まとめ
エアコンの節電は単に家計を助けるだけではなく、化石燃料の使用とそれによるCO2の排出を減らすことにもなります。当然ながら、私たちがエアコンを使うのは自らの居住環境や体調を最適な状態に整えるためです。無理をせず、できる範囲でエアコンをうまく活用し、電気料金の高騰や年々厳しくなる夏の暑さに備えるために、より効果的な節電対策を実践していきましょう。
参考資料
エアコンの使い方について | 家庭部門のCO2排出実態統計調査 (env.go.jp)
エアコンの電気代の節約方法9選!暖房・冷房・除湿の消費電力の違いも解説 – 大阪ガスの電気/大阪ガス (osakagas.co.jp)
講座1 エアコンの消費電力と地球温暖化 エアコンと温暖化の関係 | 楽しく学ぼう!「エアコンと環境」 | CSR・環境 | ダイキン工業株式会社 (daikin.co.jp)
エアコンの電気代を節約する方法 | 空気とくらし | 空気で答えを出す会社 | ダイキン工業株式会社 (daikin.co.jp)
Eシリーズ 仕様(スペック) | 壁掛形エアコン | ダイキン工業株式会社
適切なエアコンの設定温度とは?室温と勘違いしている人もいる?|ダイキンHVACソリューション東京株式会社
適正な室温とは/COOLBIZ|COOL CHOICE 未来のために – デコ活
空調 | 無理のない省エネ節約 | 家庭向け省エネ関連情報 | 省エネポータルサイト (meti.go.jp)
2023年6月の電気料金、なぜ値上がりするの?いくらになるの?|資源エネルギー庁
節電のポイント エアコンの上手な使い方 – 富士通ゼネラル JP (fujitsu-general.com)
期間消費電力量を省エネ性の目安にお選びください|家庭用エアコン|一般社団法人 日本冷凍空調工業会
エアコンの節電方法10選|エアコンを効果的に効かせて冬でも快適に節電しよう (life-techs.jp)
エアコンの進化した省エネ技術と技術トレンド|一般財団法人家電製品協会 省エネ家電 de スマートライフ
期間消費電力量の調べ方と計算方法 – エアコン総本舗コラム