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昆虫が食品ロスを減らす!?飲食店が軒を連ねるオーストラリアのハワード・スミス・ワーブスが行う廃棄物管理

昆虫が食品ロスを減らす!?飲食店が軒を連ねるオーストラリアのハワード・スミス・ワーブスが行う廃棄物管理

食品ロスは、地球温暖化の原因のひとつとされている環境問題です。

食品廃棄物の処理に伴って温室効果ガスが発生することから、環境保全のためにも食品ロスへの対策を徹底する必要があります。

そんな食品ロスの問題に新たな風を吹き起こしたのが、オーストラリアのクイーンズランド州に位置するハワード・スミス・ワーブスです。

昆虫を活用した画期的な技術を導入し、食品ロスの直接的な解決を目指してきました。

この記事では、ハワード・スミス・ワーブスの概要、食品ロスと環境破壊の関係性、昆虫を使った食品廃棄物の処理、その他のエコ活動を詳しく解説していきます。

他国の外食産業が行う環境保全に興味がある方はもちろん、食品廃棄物が環境に与える影響について知りたい方もぜひ参考にしてくださいね。

ハワード・スミス・ワーブスってどんな施設?

ハワード・スミス・ワーブスってどんな施設?
出典:SpaceshipEarth

ハワード・スミス・ワーブス(Howard Smith Wharves)は、クイーンズランド州の州都・ブリスベンの市街地にある波止場です。

ブリスベンリバー(Brisbane River)の川沿いにあるハワード・スミス・ワーブスは、1997年にクイーンズランド州遺産登録簿に登録された歴史的価値の高いエリアとして知られています。

2018年には複数の飲食店が営業する観光地として再開発され、3万5000㎡の広い敷地内に大型のホスピタリティ施設が建設されました。

中華、イタリアン、ギリシャ、和食などの多国籍なレストランはもちろん、ジェラートショップ、バー、醸造所、ホテルといったバリエーション豊富なホスピタリティ関連の店舗が軒を連ねています。

また、ブリスベンを代表する観光地のひとつ・ストーリーブリッジの真下に位置していることもあり、多くの地元住民や観光客が集まる人気の飲食エリアとなっています。

ハワード・スミス・ワーブスの再開発に伴う懸念とは?

ハワード・スミス・ワーブスの再開発に伴う懸念とは?
出典:SpaceshipEarth

ハワード・スミス・ワーブスの再開発に伴って、懸念されていたのが食品廃棄物の問題です。

ハワード・スミス・ワーブスは、飲食店などのホスピタリティ産業をメインとした施設です。

レストランだけでも13店舗あり、カフェやバーなども含めると膨大な数の飲食物が提供されています。

ハワード・スミス・ワーブスから排出される廃棄物の実に50%が食品由来であると想定されていたため、営業開始後に大量の食品ロスが発生すると言われていました。

 世界が抱える食品ロスの問題

国際連合食糧農業機関によると、世界で年間約13億トンの食品ロスが発生しています。

生産される食糧は年間で40億トン前後となっているため、生産数の3分の1近い食糧が廃棄されている計算になります。

オーストラリアのみに限定すると、食品サプライチェーン全体で排出される食品廃棄量は約760万トンです。

1人当たり約312kgの廃棄量とされており、膨大な量の食品が無駄になっていることがわかります。

食品廃棄物は、自然環境に大きな影響を与える問題です。

食品廃棄物の運搬や焼却に伴って二酸化炭素が排出されるため、地球温暖化の促進に繋がります。

世界中で排出される温室効果ガスの約10%が食品廃棄物を原因としており、環境問題緩和のためにも食品廃棄物の量を減らすことが必要不可欠です。

注目したのは昆虫!

廃棄物の約半分が食品由来と予想されていたハワード・スミス・ワーブスでは、廃棄物削減のためにクロソルジャーバエ(Hermetia illucens)と呼ばれる昆虫を導入しました。

クロソルジャーバエの幼虫は、生ゴミや農業廃棄物といった有機廃棄物を堆肥として処理するという特性を持っています。

生物変換の自然なプロセスに貢献するオーガニック生物として知られており、有機廃棄物を堆肥化する上で非常に効率の良い動物です。

幼虫は非常に食欲旺盛で、1mm~2.5cm程度まで成長します。

メスは1度に200~600個の卵を産むので、処理する幼虫の個体数を維持しやすいという特徴があります。

堆肥化に要する日数は廃棄物の量や季節によっても異なりますが、最短で21日ほどです。

個体数を増やすことで処理できる廃棄物の量も増えるため、食品ロスの画期的な解決策としてハワード・スミス・ワーブスが注目しました。

ハワード・スミス・ワーブスの廃棄物と昆虫技術

ハワード・スミス・ワーブスの廃棄物と昆虫技術
出典:SpaceshipEarth

ハワード・スミス・ワーブスの再開発が終了した時点で、クイーンズランド州内にクロソルジャーバエを導入している施設はありませんでした。

ハワード・スミス・ワーブスは州内初の取り組みとしてクロソルジャーバエの有効活用を決定し、技術企業であるGoterraとの提携を結びました。

施設内にMIB(Modular Infrastructure for Biological Services)と呼ばれるGoterraの施設を設置し、発生した食品廃棄物を速やかに運搬・処理しています。

食品廃棄物への対策システムを構築したハワード・スミス・ワーブスは、クロソルジャーバエによって1日あたり1.7トンの生ゴミを分解し続けています。

現場で堆肥化された食品廃棄物は地元の農家に送られ、有機質肥料として役立てられているのです。

昆虫技術以外にも取り組んでいるエコ活動

昆虫技術以外にも取り組んでいるエコ活動
出典:SpaceshipEarth

クロソルジャーバエの導入で高い評価を得ているハワード・スミス・ワーブスですが、昆虫技術以外にもさまざまな環境保全活動に力を入れています。

以下では、ハワード・スミス・ワーブスが海の生態系維持と食品以外の廃棄物処理促進のために行っているエコ活動をチェックしていきましょう。

  牡蠣の殻の再利用

①   牡蠣の殻の再利用
出典:SpaceshipEarth

食品廃棄物削減の一環として、牡蠣の殻の再利用を行っています。

生牡蠣の料理などを提供しているレストランが多いハワード・スミス・ワーブスでは、牡蠣の殻を有効活用する道を模索していました。

解決策として選ばれたのが、モートン湾への牡蠣の殻の輸送です。

モートン湾はブリスベンから1時間半程度の場所にある砂の島で、サンゴ礁、熱帯魚、イルカをはじめとするさまざまな海洋生物が見られる観光地として知られています。

しかし、モートン湾の実に96%のサンゴ礁が既に消失しており、サンゴ礁を生息地としている多くの海洋生物にも影響を及ぼすとされています。

そんな中で注目を集めているのが、牡蠣の殻を使った人工サンゴ礁の形成です。

牡蠣は水をろ過する浄化装置として機能する性質を持ち、ほかの貝殻や岩と融合することで新たなサンゴ礁を作り出します。

ハワード・スミス・ワーブスは施設内で出た牡蠣の殻をモートン湾に送っており、2022年には3トン以上の牡蠣の殻を寄付しました。

現地で人工サンゴ礁を形成するための材料として役立てられるため、間接的な海の生態系維持に貢献しています。

  廃棄物の分別

ハワード・スミス・ワーブスで発生する廃棄物は、食品だけではありません。

ガラス、段ボール、アイスクリームのカップ、食品の缶、発泡スチロール、電子機器廃棄物なども施設内で処理する必要があるため、17種類の分別によるリサイクルを進めています。

誤った分別を行うと、本来リサイクル可能な素材が汚染される恐れがあります。

汚染物質はリサイクルすることが困難なので、ハワード・スミス・ワーブスでは汚染を防ぎながらリサイクルできる環境を整えているのです。

施設内の公共エリアはもちろん、各店舗のバックグラウンドにもリサイクル、堆肥物、一般のゴミ箱を複数設置したことで、廃棄処理のトラックを1週間あたり124台、年間では6,448台も減らすことに成功しています。 

ハワード・スミス・ワーブスの評価

ハワード・スミス・ワーブスの評価
出典:SpaceshipEarth

クロソルジャーバエの活用を含むさまざまな取り組みによって、ハワード・スミス・ワーブスでは廃棄物の96%をリサイクルとして転用しています。

2020年7月から2023年にかけて4.5トンもの廃棄物が再利用されており、シロナガスクジラ 23 頭分に相当する廃棄物を削減しました。

州内でも画期的な廃棄物マネジメントを導入したハワード・スミス・ワーブスは、廃棄物、サスティナビリティ、エネルギー効率に関するさまざまな賞を受賞するなど、オーストラリア国内でもSDGsに配慮した企業として認識されています。

まとめ

まとめ
出典:SpaceshipEarth

地球温暖化に歯止めをかけるためにも、食品廃棄物の削減に力を入れることが必要不可欠です。

外食産業が盛んな日本にとっても、食品ロスの問題は他人事ではありません。

州内で初の画期的な技術を導入したハワード・スミス・ワーブスのように、従来とは違った新しい環境保全のやり方に目を向けてみることも大切ですね。