スウェーデンは隣接するほかのスカンディナビアの国々と同じく、森と水源資源の豊富な国です。地図を見ても分かるとおりですが、緯度が高く寒い国というイメージがあるのではないでしょうか。
そんなスウェーデンの主要産業は、林業や機械工業です。森林資源を生かしたパルプや製紙などの輸出のほか、自動車メーカーのSAAB(サーブ)やVOLVO(ボルボ)は世界でもよく知られています。
しかしお隣の国デンマークが農業国というイメージがあるのに対し、スウェーデンに農業のイメージはありません。九州ほどの面積のデンマークでは約6割が農地であるのに比べ、日本の1.2倍ほどの面積を持つスウェーデンの農地は3割ほどです。
それではスウェーデンでは、生活必需品のうちどのようなものが自給自足できているのでしょうか。持続可能な社会を目指すスウェーデンで注目を集めている、あらたな農業や産業の形についてみてみましょう。
食料自給率の低いスウェーデンで推進する持続可能な自給自足の方法とは?
輸出入にかかるコストの削減や温室効果ガス軽減の観点から、スウェーデンでは「地元で取れるものを新たに見直す」取り組みが広く一般的になっています。
今スウェーデンで注目されている持続可能な農業には、新しい栽培方法が取り入れられていました。自給自足を目指すスウェーデンでは、農業でも目まぐるしい技術の発展がみられます。
スウェーデンの農産物と農業
スウェーデンのスーパーマーケットでは、日本のように季節問わず野菜や果物が並ぶわけではありません。ジャガイモやリンゴなど長期保存のできる作物は1年中ありますが、カボチャやダイコン、イチゴなどは季節もので、シーズンにならないとほぼ手に入れられない貴重な食べものです。
果物の輸入先はスペインやオランダ、アフリカ、南米など多岐に渡っています。それでもスウェーデン人は「スウェーデン産」が大好き。初夏から市場に並び始める「スウェーデン産のイチゴ」には高値がつきます。甘さと酸味のバランスのいいスウェーデン産のイチゴに誰もが飛びつくほどなのです。
1900年代には国民の半分が農場で働く農民だったスウェーデン。その後、世界にやや遅れて産業革命が起こり、工業に力を入れるようになっていきました。スウェーデンは土地自体が広いので農地は多くありますが、農業従事者は全国民の1.5%ほどと激減しています。
スウェーデンの食料自給率
実はスウェーデンで日常的に食べられている野菜や果物などは、半分以上が輸入品です。国土の80%が冷帯に属するスウェーデンでは、ジャガイモやニンジン・甜菜などの根菜類や、りんご・洋ナシなどの果物、ブルーベリーやイチゴなどのベリー類など生産量の多い作物は限られています。
日本で言うと北海道などの寒い地方や、長野県など高原栽培で収穫される野菜類などと似た作物が育つ気候といえます。
そんなスウェーデンでも、ダントツで生産量の多い作物があります。小麦や大麦、燕麦など寒冷地で育つ作物です。農耕地自体は少ないスウェーデンですが、生産性が高く、小麦の栽培はなんと自給率120%を誇っています。
▶︎関連記事:「食料自給率とは?世界のランキングと日本が低い理由、現状と課題、企業の取り組み」
農産物の自給自足と販売
輸送で生じる二酸化炭素排出量についてはもちろん念頭に置いているわけですが、一般のスウェーデン人の消費者は食品の安全性の面でも「地元でとれるものがよい」と考えています。
地続きの欧州内とはいえど、産地の遠い国からの輸入では空輸による輸入品が多くなります。アフリカや南米など遠方からの輸入食品の場合、どうしても農薬や保存料の含有量を気にしないわけにはいかなくなります。
それがおそらく、スウェーデンで都市農業がますます人気を博している理由のひとつです。農業を消費者に近づける試みとして、店の入り口で野菜を栽培するスーパーマーケットが話題になっています。
スウェーデン農園協会(Koloniträdgårdsförbundet)は、1921年に設立されたスウェーデンでは最も古い農業組織です。組合員は全国に現在約23,000人ほどいて、農業やガーデニングのアドバイスをはじめ、より環境に優しく持続可能な都市を守る活動などで協会を支えています。
都市部に緑地や農業地を持つことの最大の利点の ひとつは、生物の多様性を知ることです。都市型農業では、さまざまな植物のことなる種が繁栄する様子が間近で見られます。
屋内で農作物を育てるテクノロジー
日本ではイチゴの栽培方法としてよく見かけますが、垂直農業の分野も台頭しています。 グロンスカ(Grönska) はストックホルム郊外に拠点を置く、ハウス栽培のスタートアップ企業です。テクノロジーを駆使し、日光の少ないスウェーデンの屋内でハーブや野菜を栽培する技術を開発しています。
1年を通して野菜の収穫できる日本では信じられないかも知れませんが、スウェーデンは秋から春先にかけて、ほぼ太陽を見ないという日もあるくらい、日照時間の少ない国です。部屋の窓際に置いた観葉植物が枯れてしまうくらいなので、日光の好きなハーブなどの葉野菜を屋内で育てられるのは、ある意味画期的なことです。
もちろん、南極の昭和基地でも水耕栽培によって野菜を育てているので、技術的な面では可能に違いありません。
このように都市栽培の例で見られる新しい栽培方法を使えば、より少ない土地と水を利用して、一年中野菜の生産が可能になります。また、身近で取れた新鮮な食品が手に入るのも、消費者としてはありがたいですね。
スウェーデンの森林は持続可能な資源
先に述べたように、スウェーデンは国土の3分の2が森林という、林業の盛んな国でもあります。木材資源は豊富ですが、今までは建築資材としての木材や製紙工業など紙関連の輸出がメインとなっていました。
林業は植林と伐採のバランスを整えれば、持続可能な資源として高い生産性を保てます。スウェーデンでは計画的な植林によって、森林は持続可能な資源と認識されており、大量伐採にもかかわらず生産量は増加しています。
いま、スウェーデンでは従来型の林業だけでなく、木材を使用した新しい可能性について技術の開発が進んでいます。
木材をテキスタイルに変えるTree to Textileプロジェクトとは?
繊維産業の課題のひとつに、より持続可能で原材料に化石燃料を含まない、地球環境に優しい素材の開発があげられます。
世界人口の増加は加速して、2022年には80億人を突破したのも記憶に新しいことです。私たちの生活からは切り離せない衣類ですが、天然繊維である綿やさまざまな合成繊維の代替品として、セルロースからテキスタイルを作る新技術が開発されています。
ツリー・トゥー・テキスタイル(Tree to Textile)プロジェクトの目標は、セルロースから作られたテキスタイルの新技術を展開し、世界中のテキスタイル サプライヤーやブランドが利用できるようにすることです。
まったく新しい織物繊維の開発
セルロースから繊維を作る技術は、まだ開発途中です。しかしこの全く新しい繊維をマーケットに売り出すことを目標にし、技術の改革や生産を拡大する準備は整っています。
TreeToTextileプロジェクトではその名のとおり、再生可能な森林資源を原材料としています。溶解パルプを使った繊維はセルロース系化学繊維と呼ばれるもので、バイオケミカル素材のひとつです。
原料の木材中の不純物を除去しセルロースの純度を高めたものは、工業向けセルロース素材として、加水分解されたものは医薬品や食品添加物、再生セルロースとしてレーヨンやセロファンなどに加工されています。
溶解パルプを紡績し、セルロースを織物繊維に再生する技術は、使用する化学物質が少ないのが特徴です。従来の技術に比べるとより持続可能性が高く、費用対効果も高くなる利点があります。また、加工中に使用される水や化学薬品はリサイクルが可能で、再利用されます。
木材を原材料とした持続可能で新しい織物繊維は、新しい革新的な化学技術によって、実現可能な商品です。木は繊維となって衣服に生まれ変わり、古くなった衣類は紙に生まれ変わります。新しい技術の進歩によって、また新しい持続可能なサイクルが生まれているのです。
このように新技術によって生まれる新たなサイクルも、スウェーデンの森と人々との、新しい自給自足や共存の形と言えるのでしょう。
まとめ
森林王国スウェーデンは、豊富な森林資源を基にさまざまな技術改革によって、自給自足できる社会として生まれ変わりつつあります。
大都市では食糧の自給自足率はわずか数パーセントしかないと言われるスウェーデンですが、進歩する科学技術や都市型の農業は今後ますます盛んになり、都市の食料自給率は大幅にアップする可能性があると考えられています。
すでに大企業は温室効果ガス対策のために、二酸化炭素を排出する化石燃料による輸送を控えたり、独自のルート開発に余念がありません。気候変動の影響だけでなく、続くウクライナ紛争など世界の不安定な空気は、輸入に頼るばかりではなく、国内で自給自足できる社会へと生まれ変わりたいという人々の精神面も強く後押ししています。
スウェーデンは再生可能エネルギー率が非常に高く、すでにエネルギー面では国内でほぼ自給自足が可能です。農業国ではなく、気候にも恵まれているとはいいがたいスウェーデンですが、技術改革により食料や衣類などの生活必需品に関しても、自給持続への新しい可能性がうまれています。
自然の中で人間らしい生活を送るのは、スウェーデンの人々の憧れです。自給自足という考え方はすでに、オールドファッションでもアナログな方法でもありません。気候変動や食の安全を考え、最新技術と共に発展していく、もっとも近未来的な考え方と言えるのではないでしょうか。
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