オーストラリアの動物と聞くと、思い浮かぶのがカンガルーです。
コアラと並ぶオーストラリアのマスコット的な野生動物ですが、カンガルーでも木の上で暮らす木登りカンガルーについてはご存知でしょうか?
カンガルーという名称が付いている木登りカンガルーは、通常のカンガルーとの相違点が多い特殊な生物として知られています。
今回は、そんな木登りカンガルーの中でもクイーンズランド州にのみ生息するラムホルツ木登りカンガルーに関するエコ活動を解説していきます。
ラムホルツ木登りカンガルーの基本情報、生態系における重要性、抱えている問題点、実施されている対策を深堀するので、オーストラリアの熱帯雨林で起きている環境問題を見ていきましょう。
ラムホルツ木登りカンガルー(Lumholtz’s Tree Kangaroo)とは?
ラムホルツ木登りカンガルー(Lumholtz’s Tree Kangaroo)は、クイーンズランド州の熱帯雨林に生息しているオーストラリアの固有種です。
木登りという名称からも想像できるように、樹上で生活するという特性を持っています。
木登りカンガルー自体は、世界に14種類存在します。
12種類はパプアニューギニアに生息しており、オーストラリアの固有種はラムホルツ木登りカンガルーを含めた2種類のみです。
ラムホルツ木登りカンガルーはケアンズ近郊の熱帯雨林が生息地で、葉を含む植物やフルーツを食べて暮らしています。
熱帯雨林の中でも木々の高い場所を移動するため、種子の花粉を媒介する野生動物としてエコシステムにおける重大な役割を担っています。
木登りカンガルーとカンガルーの違い
カンガルーについて知っていても、木登りカンガルーについては知らない方も多いのではないでしょうか?
木登りカンガルーとカンガルーの最大の違いは、樹上に生息しているという点です。
カンガルーが陸地で生活するのに対して、木登りカンガルーは名前の通り木の上で暮らしています。
また、アカカンガルーやオオカンガルーと違って、木登りカンガルーの生息地は熱帯雨林です。
「カンガルー」という名称が付いているにもかかわらず、木登りカンガルーはカンガルーと異なる部分がかなり多い野生動物です。
実は、木登りカンガルーとカンガルーの共通点は、後ろ足、歯の構造、頭蓋骨の造りの3つのみと言われています。
その他は違う部分が多く、木登りカンガルーが単独行動を好む一方でカンガルーは群れを形成したり、木登りカンガルーはカンガルーには出来ない四肢をバラバラに動かせたりと、異なる生態を持つことで知られています。
ラムホルツ木登りカンガルーが抱える問題点
ラムホルツ木登りカンガルーは、レッドリストにおいて準絶滅危惧に分類されています。
準絶滅危惧種はレッドリストの懸念度が高い順に数えて6番目となっており、深刻度は低い方に含まれます。
残っているラムホルツ木登りカンガルーの個体数は1~3万頭と予測されているため、一見すると多く感じるかもしれません。
しかし、重要なポイントとして、ラムホルツ木登りカンガルーの生息域の狭さが挙げられます。
野生のラムホルツ木登りカンガルーは、世界中でクイーンズランド州の熱帯雨林の中にしか生息していないのです。
生息地が非常に限定的であるという性質上、個体数が減少することで近親交配が進む可能性も高くなります。
遺伝子多様性が失われると生態系のバランスにも悪影響を及ぼす恐れがあるため、ラムホルツ木登りカンガルーの個体数をこれ以上減らさないようにしなければなりません。
そんなラムホルツ木登りカンガルーですが、残念ながら現在も個体数の減少が危ぶまれています。
以下では、どのような問題が起きているのかをチェックしてみましょう。
① 生息地の消失による個体数の減少
土地開発や森林伐採によって、ラムホルツ木登りカンガルーの生息地が減少しています。
ラムホルツ木登りカンガルーは縄張り意識が非常に強く、繁殖期以外は常に単独行動をしている生物です。
他者を寄せ付けないだけでなく、自身のテリトリーから離れたがらない性質も持っています。
1990年代に熱帯雨林で開発が行われた際、東京ドーム2.5個分ほどの範囲内に5頭のオスと6頭のメスが生息していました。
開発によって木々が無くなっても最後まで生息地を離れようとしなかったことから、餌不足と外来動物からの攻撃で全てのラムホルツ木登りカンガルーが死亡するという痛ましい結末を迎えました。
縄張り意識が強いラムホルツ木登りカンガルーにとっては、生息地の消失=死を意味するのです。
② 視力低下や失明
2019年から問題視されているのが、ラムホルツ木登りカンガルーの視力低下や失明です。
野生下で生息する多くのラムホルツ木登りカンガルーに、視力に関する問題が見受けられます。
現時点で原因は解明されていませんが、ツリー・ルー保護センターは熱帯雨林の中の葉に含まれる毒素が原因である可能性を言及しました。
地球温暖化の影響で気温が上昇すると、熱波によって葉の中の水分量が失われていきます。
結果として毒素濃度が濃くなり、体内により多くの毒素を取り込むことで視力低下や失明に繋がっていると考えられているのです。
また、オーストラリアでは頻繁に干ばつが起こっているため、慢性的に葉の毒素濃度が高まりやすい状態が続いています。
③ 外来動物からの攻撃
普段は樹上で生活するラムホルツ木登りカンガルーですが、視力低下に伴って地上に降りてくる頻度が上がっています。
それに伴い、犬、猫、ディンゴなどの外来動物から襲われる確率も高くなり、命を落とす個体も多くなっています。
ラムホルツ木登りカンガルーを保護するための対策
さまざまな脅威に晒されているラムホルツ木登りカンガルーを守るために、具体的にどのような取り組みが行われているのか。
以下で詳しくチェックしていきましょう。
① 生息地の確認と保護
ラムホルツ木登りカンガルーを保護するためにも、正確な生息地の把握が必要不可欠です。
そこで導入されたのが、軽量タイプのトラッキング用の首輪です。
ラムホルツ木登りカンガルーに首輪を付けることで、具体的な生息地や行動範囲などの把握に繋がっています。
重点的に保護すべきエリアを割り出しやすく、効率的な保全活動として注目されています。
② 視力低下に関する研究と分析
視力低下や失明の原因の有力候補が、体内に蓄積される葉の毒素です。
実際、野生下から飼育下に移ったラムホルツ木登りカンガルーが食事内容の変更によって視力が改善したと報告されているため、葉の摂取が原因という見方が強まっています。
より明確な原因と対策を探るために、オーストラリアでは現在も研究と分析を続けているのが実情です。
ただし、例え地球温暖化による毒素の濃度上昇が原因でなかったとしても、気温が上がり続けることでラムホルツ木登りカンガルーの食糧である植物の数が減少する恐れがあります。
ラムホルツ木登りカンガルーを長期的に守っていくために、熱帯雨林を中心にエコツーリズム、植林、土地購入による森林伐採の防止などが促進されています。
③ 天敵対策
ラムホルツ木登りカンガルーが犬、猫、ディンゴに襲われるリスクを減らすため、環境保護団体や大学機関は以下の対策を行っています。
・外来動物の被害が多いエリアの特定
・柵の設置など物理的に外来動物がアクセスできない状態を作る
・飼い犬に関しては飼い主に対する正しい飼育方法を指導する
外来動物の行動をコントロールすることは難しいため、柵の設置などによってラムホルツ木登りカンガルーの簡易的な保護エリアを作ることが最も有効な手段とされています。
まとめ
ラムホルツ木登りカンガルーは、カンガルーと似て非なる独自の生態を持つ野生動物です。
生息地の消失による個体数の減少、視力低下や失明、外来動物からの攻撃といった要因により、生命や健康が脅かされています。
ラムホルツ木登りカンガルーの消失は、熱帯雨林の生態系に大きな影響を及ぼす可能性があります。
そのため、段階的ではあるものの、オーストラリアでは生息地の確認、研究、外来動物への対策などを強化することでラムホルツ木登りカンガルーの保護を続けているのです。
残念ながら、2023年12月時点において日本国内でラムホルツ木登りカンガルーを飼育している施設はありません。
もしオーストラリアを訪れる場合は、ぜひ動物園のラムホルツ木登りカンガルーに会いに行ってみてはいかがでしょう?