オーストラリアのクイーンズランド州にあるマウントクーサは、数多くの野生動物が生息する山です。
しかし、市街地からのアクセスが良いという理由で、山を切り崩して観光施設を作ろうとする取り組みも提案されてきました。
そんなマウントクーサの自然環境を守るためにエコ活動を行っているのが、コミュニティ団体のTHECAです。
この記事では、コミュニティ団体が取り組む自然保護について解説していきます。
マウントクーサの基本情報
クイーンズランド州・ブリスベンに位置するマウントクーサは、市街地から7kgほど西にある山です。
東京ドーム約320個分の広大な敷地内には、池、ボタニカルガーデン、プラネタリウム、レストラン、カフェ、市街地を見渡せる観測エリアなどがあります。
観光名所としても知られており、コアラ、ハリモグラ、フクロモモンガ、ポッサム、コウモリ、フクロウやカワセミを含む鳥類、爬虫類といった370種類もの野生動物が生息しています。
マウントクーサが直面する問題とは?
独自のエコシステムを形成するマウントクーサですが、市街地から近いという理由から、観光アクティビティを増やそうとする取り組みがこれまでに行われてきました。
最も代表的なものが、2019年に立ちあがったジップラインプロジェクトです。
山の一部を切り拓いて、オーストラリア最長のジップラインを設置するという計画が進められていました。
地域住民や環境保全団体からの反発を受けてジップラインの工事計画は中止となったものの、利便性の良さと美しい自然景観を一望できるマウントクーサは、観光業を推進したい組織や企業から常に注目されています。
マウントクーサの自然環境を守るコミュニティ『THECA』
THECAの正式名称は、The Hut Environmental & Community Association Incです。
マウントクーサの自然環境を守るために運営されているコミュニティで、マウントクーサの敷地内に事務所の小屋を構えています。
事務所として使われている小屋は、元々は第二次世界大戦中に使用されていたものです。
戦後、放置されている小屋に対して地域住民から安全性に関する懸念の声が挙がり、小屋を地域環境センターとして修復する計画が立ち上がりました。
環境教育連盟の支援や助成金を受けて1993年に小屋は修復され、地域コミュニティ団体・THECAとしての活動をスタートさせました。
2023年現在に至るまでマウントクーサや周辺地域の環境保護に力を入れているTHECAでは、以下を活動の目的に掲げています。
- 環境問題に対する地域社会の意識を高める
- 必要に応じて在来動植物の世話と保護を行う
- 地域環境の保全や問題解決への提案・活動に努める
- 地域社会やコミュニティに対して環境に関する情報と教育を提供する
- 環境・教育団体や地域社会と協力しながら全ての人に対して環境活動への参加機会を作る
マウントクーサの動植物保護はもちろん、地域社会や学校などへの啓発・教育も行っています。
また、北京で開催された無脊椎動物に関する会議でもTHECAは言及されており、オーストラリア国内だけでなく国際的な認知度も高めつつあるコミュニティ団体です。
THECAが行うエコ活動の事例
ここでは、実際にTHECAが行うエコ活動をチェックしていきましょう。
野鳥観察とエコツアー
月に1度開催されているのが、バードウォークと呼ばれる2時間のエコツアーです。
誰でも気軽に参加できる仕組みになっており、THECAのメンバーがエコツアー中に見つけた鳥の生態をその場で解説してくれます。
都市部に近い場所でも多種多様な野鳥が生息していることから、エコツアーを通して野生動物への興味関心を高める一般市民も多くなっています。
エコツアー参加の条件や年齢制限はなく、THECAと関連のない一般市民でも2ドルの料金で参加可能です。
夜のエコツアー・ナイトウォーク
オーストラリアは、多くの夜行性の在来種が生息する国です。
そのため、THECAはマウントクーサやその他のエリアで家族向けのナイトウォークを実施しています。
ポッサム、フクロモモンガ、コウモリ、鳥、昆虫、クモといったバリエーション豊富な野生動物を見られるほか、それぞれの生態や天敵に関しても解説を受けられます。
また、アプリを使ったコウモリの識別方法なども紹介しており、夜ならではのアクティビティを子どもから大人まで楽しみながら学べるエコツアーです。
絶滅危惧種であるリッチモンドトリバネアゲの低地食用植物の植林
THECAでは、絶滅が危惧されるリッチモンドトリバネチョウ保護ネットワークプロジェクトを実施しています。
リッチモンドトリバネチョウとは、クイーンズランド州からサウスウェールズ州にかけて生息する蝶々のことです。
生息地の減少や断片化などによる個体数の減少と近親交配が進んでおり、オーストラリア政府も繁殖プログラムに取り組んでいる在来種です。
THECAのリッチモンドトリバネチョウ保護ネットワークプロジェクトでは、リッチモンドトリバネチョウの毛虫が食べるPararistolochia praevenosaの植林を行っています。
Pararistolochia praevenosaはリッチモンドトリバネチョウの毛虫が食用にする唯一の低地食用植物とされており、植林することでリッチモンドトリバネチョウの繁殖や成長にも貢献します。
THECAは地域の学校とも連携し、植林と同時に子どもたちへの啓発活動にも力を入れているのです。
環境ニュースレターの配信
THECAでは、年に4回ほどニュースレターを発行しています。
活動の報告のほか、環境汚染に関する調査結果、コアラを含む野生動物の目撃情報なども掲載されており、THECAが季節ごとのどのような活動を行っているか確認できます。
ニュースレターは公式ホームページで公開されているため、メンバー以外の一般市民も閲覧可能です。
ボランティアの受け入れ
THECAは、全員ボランティアで構成されているコミュニティ団体です。
野生動物や植物に関する知識・経験を持つメンバーも多い一方で、自然環境とは無関係の経歴を持つ人々も活動しているのが特徴です。
THECAは、一般市民への門戸が広いコミュニティ団体を目指しています。
確かにエコツアーなどは専門的な知識が必要ですが、THECAには植林活動、ニュースレターの作成、事務といったさまざまな役割があります。
「環境保全に参加したいけど知識が浅い」「動植物に詳しくないけどできることってあるのかな?」という一般市民も自分に合う活動を選べるため、年齢、国籍、性別などを問わずに活動できるコミュニティ団体です。
コウモリに関する環境プロジェクト・FOOD FOR WILDLIFE
「FOOD FOR WILDLIFE 」は、ブリスベン、ローガンシティ、イプスウィッチの3つの自治体が共同で行った環境プロジェクトです。
オーストラリアのエコシステム保護に必要不可欠なキーストーン種・コウモリを守るべく、3つの自治体に位置する学校への教育活動を行いました。
また、コウモリの繁殖を支援するために、コウモリの餌となる植物の植林も実施しました。
一般市民も参加可能なミーティングの開催
THECAの事務所では、月例会議を開催しています。
2月から11月の第4水曜日の午後7時が開始時間となっており、THECAのメンバーはもちろん、一般市民も参加可能です。
ミーティングの内容には、マウントクーサの状況やTHECAの活動に関するプレゼンテーション、質疑応答が含まれています。
軽食を食べながら気軽に参加できるミーティングを目的としており、一般市民が自然環境についてより深く考えるきっかけづくりとして役立っています。
また、THECAのメンバーとのネットワークづくりやディスカッションを行う一般市民も多く、地域全体のエコ意識向上に繋がっているミーティングです。
まとめ
ボランティアによって運営されているTHECAは、マウントクーサの自然環境とエコシステムを守るためにさまざまな取り組みを行っています。
特に一般市民が参加しやすい体制を整えており、地域の子どもたちに対する教育にも力を入れています。
地球の環境を守るためには、より多くの人々のエコ意識を向上させることが大切です。
THECAのように地域社会全体を取り込むコミュニティ団体を増やすことこそが、効果的かつ着実にサスティナブルな世界を作る近道なのかもしれません。