生態系の維持に貢献する動物たちは、環境保全において欠かせない存在です。
そのため、野生動物を含むさまざまな動物の福祉を配慮することは、自然環境を守ることにも直結します。
しかし、「動物福祉と聞いてもピンと来ない」「自分に具体的に何ができるのか分からない」という方もいるのではないでしょうか?
今回は、オーストラリアの動物保護団体・RSPCAが行う取り組みについてご紹介していくので、エコ意識が高い国がどのような活動を行っているのか理解を深めていきましょう。
RSPCAってどんな団体?
RSPCAはRoyal Society for the Prevention of Cruelty to Animalsの略称で、日本語では「英国王立動物虐待防止協会」と呼ばれる動物保護団体です。
「英国」という名称からも分かる通り、元は1824年にイギリスで創設された団体です。
オーストラリアのRSPCAはイギリスの運営スタイルをモデルにしており、実際にイギリスのRSPCAで視察や研修を行った後にRSPCA Australiaとして1981年に独自の団体を設立しました。
施設内では犬猫の保護や里親制度などを行っているため、日本の保健所のような雰囲気を感じられる面も多くなっています。
しかし、日本の保健所が人間の衛生面向上を目的としているのとは逆に、RSPCAは動物の福祉に重きを置いています。
RSPCAが保護対象とする動物は、野生動物、ペット、家畜と非常に多彩です。
幅広い動物の福祉を守ること=人類と自然(動物)が調和するサスティナブルな世界を作ることに繋がるとRSPCAは考えており、自然保護の一環として動物がより良い環境で暮らせる社会を目指しています。
RSPCAが行うエコ活動の事例
ここでは、RSPCAが取り組む活動を見ていきましょう。
教育プログラム
子どもたちが動物福祉を楽しく学べるように、RSPCAでは教育プログラムの一環として専用のバンを保有しています。
バンにはEducational Mobile Unit’sという名前が付けられており、頭文字を取ったEMU(エミュー)が愛称です。
学校やイベントでの教育プログラムで活用されるEMUですが、車内では以下のような設備を通した学習が行われています。
- モニターでの野生動物クイズ
- 野生動物の交通標識を基にした注意喚起
- 模型を使ったエコシステムの学習
- ぬいぐるみとの模擬獣医師体験
ゲーム感覚で学べるゲームなども充実しており、子どもたちが自然や動物たちと適切な距離を保ちながら暮らすための指導に役立てられています。
食用鶏の飼育に関する承認
RSPCAでは、食用鶏の福祉にも力を入れています。
日本と同じように、オーストラリアでも鶏肉は高い需要を誇る食品です。
そのため、鶏肉の供給量を増やすためにケージ下の劣悪な環境で鶏を飼育する施設が後を絶たず、食用鶏の福祉が長年にわたって懸念されていました。
オーストラリアでは、食用動物に対して苦しまない殺処分のやり方を重視しています。
しかし、飼育段階で動物福祉が配慮されていなければ意味がないため、RSPCAは食用鶏の福祉を守るべく適切な飼育環境に関する基準を設けました。
食用鶏の身体的・行動的ニーズを基に、照明、止まり木、床材、スペースなどに関する細かい条件が設定されており、2023年時点で実にオーストラリア国内の食用鶏の78%がRSPCAの基準を満たした環境で飼育されています。
基準を満たした施設の鶏肉にはRSPCAの承認ステッカーが貼られており、買い物客も動物福祉を配慮した生産者の鶏肉を選べるようになっています。
ボランティアの募集
RSPCAでは、動物や自然保護に携わりたい一般市民のためにボランティア制度を設けています。
誰でも気軽に参加できる仕組みになっており、RSPCAのボランティアは順番待ちのリストが存在するほどに人気です。
ボランティアにはさまざまなジャンルがあり、主に以下の中から自由に選べます。
- 犬猫の世話
- RSPCAオフィスの事務員
- 動物のレスキュー隊
- 動物の移送ドライバー
- 教育スタッフ
- コールセンターのオペレーター
- チャリティーショップの店員
- 草木の手入れ
動物と触れ合える分野はもちろん、事務員、オペレーター、ショップ店員といった間接的に動物福祉を支援するジャンルのボランティアもあり、自身の興味がある活動に参加できる点が特徴です。
尚、RSPCAのボランティアの開始時にはトレーニングがあるため、ボランティアを通して一般市民が動物福祉に関する正しい知識を持つことにも繋がっています。
野生動物の治療とレスキュー
RSPCAの敷地内には、野生動物専用の病院が設置されています。
病気やケガをしている野生動物はRSPCAによってレスキューされ、野生動物専門病院で治療を受けます。
また、RSPCAでは野生動物レスキュー用の救急車を保有しており、病院に搬送するまでの間に車内で適切な処理を行えるように万全の準備が整えられているのです。
治療した野生動物は、後遺症などがある場合を除いて野生に戻されます。
野生動物を救うことは生態系の維持に繋がるため、長期的にオーストラリアの自然を保護することにも貢献しています。
OP(オプ)ショップの運営
RSPCAの敷地内や郊外の街中には、OPショップと呼ばれるRSPCA運営のチャリティーショップがあります。
OPショップはopportunity shopの略で、ペット関連のグッズのほか、衣類、靴、アクセサリー、カバンといった動物に関係のないアイテムも販売されています。
OPショップの売上の100%が動物に関わる活動の資金として使われるため、動物保護の一環としてOPショップで買い物をする利用客も多いのが特徴です。
また、OPショップの中には、リサイクル品のみを取り扱っている店舗もあります。
ファストファッションに対して環境への悪影響を懸念しているRSPCAでは、人々が不要になったアイテムを引き取って販売することで廃棄物の削減やリサイクル率の向上にも貢献しています。
通報システム
動物福祉を徹底するために重要な役割を果たしているのが、検査官と呼ばれる動物専門の警察官です。
RSPCAは通報用のコールセンターを設けており、不適切な環境で飼育される動物や虐待を受けている動物を一般市民が通報できるシステムになっています。
通報を受けたら、RSPCAの検査官が通報先に赴いて捜査を行います。
動物の福祉が脅かされていると検査官が判断した場合、検査官の権限で飼育主から動物を引き離すことが可能です。
動物の保護
不適切な環境下や違法に飼育されている動物が発見された場合、動物はRSPCAの検査官によって保護されます。
RSPCAは保護した動物の健康チェックなどを行い、各動物が適切な環境で暮らせるように移送の計画と準備を始めます。
動物の保護で最も多いのが、虐待によって保護された犬猫です。
精神的なダメージが大きい場合はセラピーやトレーニングなども実施し、動物の状態が万全になってから里親募集を行います。
尚、違法飼育に関しては、時に民家からエミューやカンガルーなどの野生動物が保護されてくることもあります。
野生動物の種類や飼育下での管理年数によっても異なるものの、自然に戻したり新しい引き取り先を探したりというように個体ごとにとって最適な環境を模索するのが一般的です。
ただし、野生動物の状態によっては、他の場所に移すことが困難なケースもあります。
その場合はRSPCAが飼育を行い、野生動物の様子を見ながら教育目的などに利用することが多くなっています。
節水
雨水貯留施設を作り、雨水の有効利用と水の節約を行っています。
また、RSPCAの敷地内に植えられている植物は干ばつに強い品種が選ばれており、水の利用を最小限に抑えているのも特徴です。
温室効果ガスの排出量削減
スタッフに車ではなく自転車の利用を推奨し、不必要な温室効果ガスの排出削減に努めています。
また、比較的バス停や駅から近い場所に施設を設置することで、スタッフが車以外の方法で通勤できるようにしています。
まとめ
オーストラリアのRSPCAは、野生動物はもちろん、ペットや家畜への動物福祉にも力を入れています。
動物福祉と聞くと難しいイメージを抱いてしまうかもしれませんが、環境保全や自然との調和した未来を作るためにも、まずは自分の身近にいる動物たちへの配慮や気遣いから始めてみてはいかがでしょう?