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BLM運動とは?きっかけや影響、現状をわかりやすく解説!

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2020年5月、SNSを通じて世界に衝撃的な映像が発信されました。1人の黒人男性が、複数の警察官に押さえつけられ、首を圧迫されて死に至るというショッキングな映像です。

黒人男性の名はジョージ・フロイドといい、ミネソタ州ミネアポリスで警察官に首を膝で強く押さえつけられ、「息ができない」と訴えながら、死に至る様子が記録されています。警察官が圧迫していた時間は8分46秒にも及びました。

この動画と動画につけられた「#blacklivesmatter」は、瞬く間に全世界に配信され、人々の強い関心をひきつけました。今回はBLM運動の内容や具体的な事例、運動の現状などについて解説します。

BLM運動とは

BLM運動のBLMとは「Black Lives Matter」の略語で、黒人に対する暴力や人種差別に抗議する運動のことです。*1)

BLMの日本語訳は複数存在していますが、報道機関の訳も複数存在しており、「黒人の命は大切だ」「黒人の命も大切だ」「黒人の命だって大切」などと訳します。日本語訳が定まらないことからわかるように、BLM運動は現在進行形の事柄です。*2)

活動内容

BLM運動の活動内容は、黒人に対する暴力や人種差別に反対することです。主な活動内容は以下のとおりです。

  • SNSで#blacklivesmatterを付けて発信する
  • 各地でデモを行う

BLM運動が起きたきっかけ

BLM運動が始まるきっかけとなったのは、2012年に起きたトレイボン・マーティン射殺事件です。彼はアフリカ系のアメリカ人で、事件当時17歳の少年でした。トレイボン・マーティンを射殺したのは元警官の自警団員ジョージ・ジマーマンです。*4)

この事件はアメリカに大きな衝撃を与え、当時のオバマ大統領も事件にコメントするなど社会問題に発展しました。インターネット上では、地元警察が容疑者の男性を正当防衛であるとして逮捕しないことに、抗議の声が上がりました。*4)

その後、ジマーマンは第2級殺人で起訴されましたが、フロリダ州セミノールの裁判所で無罪の評決が言い渡されます。*5)この判決を受け、アリシア・ガーザ、パトリッセ・カラーズ、オーパル・トメティの3人の黒人女性がBLM運動を開始します。

インターネット上で「#blacklivesmatter」を付けた発信は大きな広がりを見せ、この運動は、徐々にですが確実に影響力を強めていきました。

BLM運動拡大の背景

BLM運動拡大の背景には、アメリカで現在も続く黒人差別や黒人への暴力に対する強い怒りの感情があります。これには、歴史的な背景も関係しているため、簡単に内容を見ていきましょう。

南北戦争中、リンカン大統領は奴隷解放宣言を発して黒人奴隷の解放を宣言しました。しかし、宣言後も黒人に対する、

  • 黒人は労働に適した強靭な人種で、奴隷労働に適している
  • 性的に旺盛な人種だ

といったマイナスイメージは払しょくされませんでした。

こうしたイメージが白人を中心に刷り込まれ、黒人に対する差別を正当化してきたのです。*3)その後、1950年代から60年代にかけての公民権運動により、法的な差別はなくなりましたが、黒人に対するマイナスのイメージが消えることはありませんでした。

また、黒人は麻薬の売人や犯罪者というイメージを与えられ、警察による黒人への暴力がエスカレートする遠因ともされます。こうしたイメージは、警察、特に白人警察官が黒人を取り締まる際の重要な認識となります。

アフリカ系アメリカ人が犠牲となった過剰な取り締まり

警察による取り締まりの全てが不当であったわけではありませんが、明らかに過剰とみなされた事件がいくつかあります。年表形式で事件名と概要を見ていきましょう。

2014年エリック・ガーナー事件ニューヨーク市警が締め技で被疑者のエリック・ガーナーを殺害
マイケル・ブラウン射殺事件ミズーリ州ファーガソンで、白人警官が黒人青年を射殺→ファーガソン暴動の原因となる
タミル・ライス射殺事件オハイオ州クリーブランドで、模造銃を持っていた12歳の少年を白人警察官が射殺
2020年ジョージ・フロイド事件ミネソタ州ミネアポリスで、ジョージ・フロイドが警官に首を圧迫され死亡

BLM運動がアメリカでスタートするきっかけになったのは2012年のトレイボン・マーティン射殺事件ですが、世界的に注目されるきっかけは2020年のジョージ・フロイド事件です。

ジョージ・フロイド事件の際、BLMのメンバーは「#blacklivesmatter」の拡散を行い、アメリカ全土に運動を拡大させました。それが、世界にも波及したのです。

インターネット上に、警察がジョージ・フロイドを押さえつける様子の一部始終が拡散したことで、世界的に注目されました。警察は、彼が抵抗したため地面に組み伏せて手錠をかけたと説明しましたが、動画には彼が「頼む、息ができない」と悲鳴を上げる様子が移されており、警察の説明との食い違いが指摘されました。*6)

ミネアポリス警察は警官4人を免職処分にしたものの抗議デモが発生し、ミネソタ州だけではなく、ケンタッキー州などにも拡大しました。デモでは「息ができない」「正義なくして平和無し」といったプラカードに加え、「Black Lives Matter」のプラカードも掲げられました。

結果

BLM運動は、警察による過剰な黒人取り締まりに対する抗議運動として広がりを見せました。

特に、2020年のジョージ・フロイド事件以後は、取り締まりを行った白人警官に対する有罪判決が出たり、大統領選挙でバイデンが勝利する要因の一つとなったりするなど、アメリカ社会を大きく動かす運動に成長しました。

具体事例を交えてBLM運動による影響を確認

もう少し踏み込んで、BLM運動による影響を確認します。

BLM運動は現代アメリカ社会に大きく2つの影響を与えました。1つ目は黒人容疑者を殺害した白人警官に対する評決の変化、もう1つは政治的な変化です。それぞれの内容を見てみましょう。

警察の過剰な取り締まりに対する有罪判決

BLM運動は、これまで当然とされてきた黒人に対する過剰な取り締まりに世間の目を向けさせた点で非常に画期的です。警察の過剰な取り締まりは裁判になっても、無罪となるケースが少なくありませんでした

実際、2012年のトレイボン・マーティン射殺事件では無罪評決、エリック・ガーナー事件では不起訴、マイケル・ブラウン事件でも無罪評決が出るなど、警察官側が有罪となるケースはあまりありませんでした。

しかし、映像が残され「#blacklivesmatter」のハッシュタグとともに全世界に広がったジョージ・フロイド事件では、白人警察官が有罪とされました。また、エリック・ガーナー事件の被告となった警察官は、事件から5年後に解雇されています。BLM運動は警察の在り方に一石を投じる運動となったのです。*7)

アメリカ大統領選挙への影響

ジョージ・フロイド事件が起きた2020年はアメリカ大統領選挙に大きな影響を与えました。2020年5月末に事件が発生して以来、大統領選挙が本格化した2020年10月に至るまで、BLM運動は継続し、人権保護や黒人への不暴動な差別を批判する動きが広がりを見せました。*8)

2020年11月3日に行われた大統領選挙では、民主党のバイデン候補が共和党の現職トランプ大統領に勝利しました。バイデン勝利の要因は複数ありますが、そのうちの一つがBLM運動です。

BLM運動は黒人中心の運動でありながら、人種や国籍、世代を超えた抗議運動へと成長し、多様性の尊重や白人優越主義の批判も行ったバイデン候補に票を集める結果となったのです。

BLM運動の現状

2013〜2014年に始まり、2020年に大きなうねりとなったBLM運動ですが、現在はどうなったのでしょうか。BLMに関する最新ニュースと、BLM運動に対する批判をとりあげ、現状を分析します。

BLMの水着を着た黒人女子選手が失格寸前

2022年2月6日、アメリカのウィスコンシン州スペリオルで開催された水泳大会で、黒人女性が「Black Lives Matter」の水着を着ていたことから、失格となりかける出来事がありました。

市内の高校で開催された大会で、ライディ・ライオンズさんが「Black Lives Matter」」と印刷された水着を着て参加しようとしたところ、政治的な表現を禁止しているアメリカ水泳連盟の規定に違反するとして参加できないと運営側から告げられました。

しかし、失格と告げたのは大会ボランティアスタッフの独断であったため、ライディ・ライオンズさんは、競技に参加することができました。大会を運営していたYMCAは、人種差別に反対し多様性を支持すると表明しています。*9)

2020年には、BLMを巡って多くのアスリートが支持を表明していました。ジョージ・フロイド事件後、NFL(アメリカナショナル・フットボール・リーグ)の元QBコリン・キャパニックさんは、SNSで「なぜアメリカは俺たちを愛してくれないんだ」と投稿するなど、事件を批判していました。*10)

こうした動きはヨーロッパのサッカーや北米のサッカー、大リーグ、アイスホッケーなど各種のスポーツにも伝わり、膝をついて抗議の意を示す運動が広がりを見せます。

また、大坂なおみさんが全米オープンテニスで、差別による犠牲者の名が書かれたマスクを日替わりで着用することでも話題となりました。スポーツ界でのこうした意識の変化は、BLM運動推進の大きな力となるでしょう。

過去の歴史の見直し

BLM運動は、過去の歴史の見直しにも及んでいます。たとえば、HBOは、ジョージ・フロイド事件の直後にハリウッド映画の名作「風と共に去りぬ」を配信ライブラリーから削除しました。そして、黒人や奴隷制に関する新たな注釈を入れたうえで同作の配信を再開しています。*11)

カリフォルニア州にあるパンケーキ店の「サンボズ」は店名を改めました。サンボとは、黒人に対する差別用語で、事件を機にオーナーが店名変更を発表しました。*12)

また、2021年には、ニューヨーク市公共デザイン委員会は、ニューヨーク市議会議事堂からアメリカ第3代大統領トマス・ジェファーソン像を撤去すると決定しました。撤去の理由は、ジェファーソンが600人を超える奴隷を所有していたからです。*13)

この流れは2022年にも続き、アメリカ自然史博物館に展示されていたセオドア・ローズヴェルト大統領の像も撤去されました。撤去理由は、ローズヴェルト大統領の騎馬像が、両脇に先住民とアフリカ人男性を従えている構図が人種差別的とされたからです。*14)

BLM運動に対する批判

BLM運動はインターネットを中心に爆発的に広がり、人種を超えて多くの人々の支持を得ました。その一方で、BLM運動に対する批判もあります。批判される理由は、BLMのデモが暴動を伴い、地域に大きな損失を与えたという事実があるからです。

実際に暴動による略奪や破壊により、10億ドル以上の損失が出たことで、白人のBLM運動離れを招いているとの指摘があります。*15)

また、BLM運動に対する風当たりが強くなった理由の一つに、警察縮小要求に対する反発があります。BLMは警察に対する強い不信感などから、警察予算の縮小を要求してきました。これに対して、白人を中心に、治安悪化に対する懸念などからBLMの警察予算の縮小要求に反発が見られます。*15)

BLM運動とSDGs

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BLM運動は、アメリカの社会に大きな影響を与えている運動です。その影響は、現在進行形で続いていて、2024年の大統領選挙にも影響を及ぼす可能性があります。ここからは、SDGsとBLM運動のかかわりについて考えてみましょう。

目標10「人や国の不平等をなくそう」との関わり

BLM運動はSDGs目標10「人や国の不平等をなくそう」と深いかかわりを持っています。SDGs目標10のターゲットに以下の内容が含まれています。

  • 2030年までに、年齢、性別、障害、人種、民族、出自、宗教、あるいは経済的地位その他の状況に関わりなく、全ての人々の能力強化及び社会的、経済的及び政治的な包含を促進する。
  • 差別的な法律、政策及び慣行の撤廃、並びに適切な関連法規、政策、行動の促進などを通じて、機会均等を確保し、成果の不平等を是正する。

出典:外務省*16)

SDGsでは、人種による差別や差別的な法律、政策、慣行の撤廃を求めています。BLM運動の背景には、長年続いてきたアメリカの黒人差別の問題があります。奴隷解放宣言やキング牧師らによる公民権運動を経てもなお、アメリカには根強い黒人差別の感情があります。

こうした感情は、警察による暴力的な取り締まりの禁止だけでは解決しないでしょう。人種に関わらず、同じ人間として安心して過ごせる社会を実現するための支援が必要となるでしょう。

まとめ

今回は2010年代に始まり、現在もアメリカ社会に影響を及ぼしているBLM運動について解説しました。BLM運動は黒人に対する差別の撤廃と不当な取り締まりの禁止を求める運動です。

1963年、キング牧師は「I have a dream」の演説の中で、「いつの日か、私の4人の幼い子どもたちが、肌の色によってではなく、人格によって評価される国に住むという夢」と表現した差別のない国は、道半ばです。

アメリカは歴史上、数多くの偉業をなしてきた国ですが、同時に、黒人差別をなくしきれない国でもあります。人種に関わらず、差別のない国をつくるには「Black Lives Matter」の考え方も取り入れた国づくりが必要なのではないでしょうか。

参考
*1)知恵蔵「ブラック・ライブズ・マター(読み)ぶらっくらいぶずまたー(英語表記)Black Lives Matter
*2)ハフポスト「「ブラック・ライブズ・マター(BLM)」は日本語で何と訳す? “正解”求めず、翻訳し続けるということ
*3)明治学院大学「Black Lives Matter運動とは?−現代アメリカ社会をめぐる人種・貧困・差別の構造−:前編
*4)日本経済新聞「黒人少年射殺、米で抗議拡大 – 日本経済新聞
*5)AFPBB「フロリダ黒人少年射殺事件、自警団員に無罪評決
*6)CNN「警官のひざで首を押さえつけられた黒人男性が死亡、警官4人免職処分 米ミネソタ州
*7)Business Insider Japan「フロイド殺害事件から1年。反黒人差別「BLM」運動が変えたこと、変えられなかったこと【現地動画あり】 |
*8)BBC「「Black Lives Matter」、政治や選挙への影響は
*9)CNN「BLM運動の水着であわや失格に 12歳の水泳選手
*10)AFPBB「声上げるアスリートの台頭 社会的活動が広がった20年スポーツ界
*11)CNN「米HBO Max、「風と共に去りぬ」を配信作品から削除 「時代背景」の説明付きで復帰へ(1/2)
*12)CNN「米カリフォルニア州のレストラン、「黒人の蔑称」含む店名を変更
*13)CNN「ジェファーソン像を議事堂から撤去へ、奴隷主だった過去受け 米NY市
*14)CNN「セオドア・ルーズベルト元大統領像、NY市の博物館から撤去 人種差別批判で(1/2)
*15)ニューズウィーク日本版「支持低下のBLMは何を間違えたか──公民権運動との決定的な違い
*16)外務省「JAPAN SDGs Action Platform