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スウェーデンで電気自動車が増え続ける理由【需要の高まるEV車は人々の生活を変えられるのか】

日本で電気自動車(EV車)の普及が進まない背景には、価格の問題以外にも、充電設備の整備が進んでいなかったり、土地面積自体が小さいために長距離で運転する人が少なかったりと、さまざまな原因があります。

EUでますます厳しく取り締まられている、二酸化炭素排出量の制限ですが、スウェーデン人は一般的に環境に対する意識が高いため、電気自動車の需要が伸びています。

また、スウェーデン政府は、2030年以降のガソリン車・及びディーゼル車の新車販売を禁止すると発表しました。これにより、比較的耐久年数の長い電気自動車に、更に注目が集まる結果となっています。

つまり、スウェーデンは化石燃料の利用や生産を、完全に止める方向へ向けて歩んでいるということです。

スウェーデンを含む各国で電気代が大幅値上げされ、とくに暖房器具を使用する冬場は、電気代が日々の生活を圧迫します。当然ですが電気自動車の購入は、家庭での電力の消費量を増加させます。

そんな中でも、電気自動車の普及が進む背景には、一体どのような理由があるのでしょうか。スウェーデンの電気自動車に関する現状を見ていきましょう。

スウェーデンで電気自動車はどれくらい普及しているの?

環境への配慮意識が高いといわれるスウェーデン。電気自動車に興味を持つ人や、買い替えの際に電気自動車を選ぶ人も増えています。

世界の国々では主に、ヨーロッパと中国で売れ行きが好調な電気自動車ですが、デンマーク・ノルウェー・スウェーデンなどのスカンディナビアの国々ではどうなっているのでしょうか。

北欧での電気自動車普及率は? 

スウェーデン同様に、デンマークでは今後10年以内に、一般のガソリン車とディーゼル車の新車販売をすべて終了すると発表しています。ノルウェーでは2025年までに、すべての車を排気ガスの出ない車両へ変更し、温室ガス効果の削減に取り組んでいます。

スウェーデン国内で見られる電気自動車の種類は、BEV(二次電池式電気自動車)とPHEV(プラグインハイブリッドカー)の2種です。2022年6月の新車販売数のうち、なんと31.6%がBEV車で、スウェーデンではフランスやドイツなど欧州諸国と比べても、EV車の普及率が高くなっています。

急激なEV車の普及によって起こる影響は?

一般的に寒い地域には向かないといわれている電気自動車ですが、スウェーデンのような北国の寒い国で急速に普及していることを考えると、大きな問題は起こらないのでしょうか。

実際には、スウェーデン南部に集中している都市部で乗る限りは、日常使い程度ならとくに大きな問題にはならないとされています。

しかしながら電気自動車は、スウェーデンのような寒冷地で、充電後すぐに車を出さなければいけないようなときは十分な出力とはいえません。長時間バッテリーの充電がされていない場合や、バッテリー自体が冷えてしまっているような場合にも、問題が起こりやすくなります。

数分で終わるガソリン車の給油とは異なり、バッテリー充電はどうしても時間がかかってしまいます。通常の気温ならば30分程度で約8割充電できる電気自動車ですが、スウェーデンのように冬が寒い地方では、やはり急速充電は困難にならざるを得ません

そうなると電気自動車の普及率に従って、都市部を中心に大規模な「バッテリーチャージ渋滞」が起こる可能性が考えられます。このバッテリーチャージ渋滞は、あまりに急激にEV車の普及が進んだノルウェーでは、すでに実際に起こっている問題です。

増加する電気自動車の充電をまかなうためには、急速充電インフラの増加や、再生可能エネルギーで発電能力自体を増やすなどの工夫が必要です。EV車の普及と共に、今後ますます起こりうる、充電場所でのバッテリー渋滞に備えるスマートな方法も考えなければなりません。

現在スウェーデン各地で国をあげて開発の進んでいる、「電気道路」の普及が待たれるところですね。

ディーゼルゲートはスウェーデンのEV車普及を後押ししたのか?

地続きのヨーロッパでは、長距離を走るのに燃費がよいため、これまでディーゼルエンジン搭載車が主流に生産されてきました。EUの二酸化炭素規制に、より規制に対応したディーゼルエンジンの改良や、機能向上のための技術も開発されていたほどです。

しかし、方向性は一転しました。欧州では環境規制によって、二酸化炭素規定がますます厳しくなりました。基準値以下に抑えられないメーカーには、罰金が課せられる可能性が出てきたのです。

そんなとき浮上したのが、2015年に起きたVW社(フォルクス・ワーゲン/ドイツ)のディーゼル不正事件です。フォルクス・ワーゲン社は、自社のディーゼル車の二酸化炭素排出量が欧州の規定に沿うように、不正工作をしました。

このいわゆるディーゼルゲートによって、スウェーデンを含む欧州の各自動車メーカーは、改良に高額費用のかかるディーゼル車から、EV車、つまり電気自動車の生産向上へ舵を切る必要に迫られることになったのです。

スウェーデンで車の免許を取るには環境に配慮した運転技術が必須

実はスウェーデンで運転免許証を取得するのは、日本の免許講習の比にならないくらい困難です。

日本の免許証が国際的にも信頼が厚く、欧州各国においても、容易にその国の免許に切り換えがきくことはよく知られています。多くのスウェーデン在住の日本人も、一般的には日本の免許証を、そのままスウェーデンの免許に書き換えて、現地で運転をしています。

スウェーデンで免許を取得するためにはまず、路上運転に付き添える資格者が身近にいれば同乗して貰い、いきなり路上で練習ができます。しかし他人の運転の癖を身につけてしまうと、多くの場合、実際の試験は突破できません。

免許取得試験には、日本と同じように学科と実技があります。学科試験は全部で70問ですが、52問以上の正解で学科試験にパスできます。学科はたくさん勉強をしておけばそれほど難しくはありませんが、問題は実技です。

初めての実技試験の受験者で、合格できる割合は多くて約半数かそれ以下。スウェーデンの運転免許実技試験のチェックポイントには、運転の技術のほかにもかならず「環境に配慮した運転ができているか」の項目があります。

環境に優しい運転をしているかを調べる項目は、おもに二酸化炭素排出量のチェックです。たとえば急ブレーキをかけずに、なるべく少ないブレーキ回数で車を目的地に静止させるためには、信号機のかなり手前から減速を始める必要があります。

加速する場合もふわっと優しく加速をはじめ、走行中も速度をできるだけ一定に保ち、エコな運転を心がけます。環境を意識した運転をするために、低すぎるギアや高すぎるギア速度での運転は避けなければなりません。

もちろん、なによりも安全第一には違いありませんが、このように運転中にも環境に気を配り、エンジンの回転数が規定値を超えないよう運転にも工夫を凝らします。環境運転の項目をクリアしないと、まずスウェーデンで免許は取得できないのです。

スウェーデンで電気自動車をつかうメリットは?

それではなぜスウェーデン人は、電気自動車を購入しようと思うのでしょうか。新しく車を買い換えるときに、セールスマンに勧められることもありますが、環境のことを考えて電気自動車に買い換える人が増えています。

環境に配慮しているのはもちろんですが、電気自動車を必要と思う理由は人によってさまざまです。

北欧で電気自動車導入は政府の補助が手厚い?

デンマークはEV車の駐車代金が無料だったり、ノルウェーでは購入時の付加価値税(25%)が免除されたりと、購入に当たって何かと政府の恩恵が受けられるEV車。スウェーデンではEV車購入にあたり、政府の補助や特典はどのようになっているのでしょうか。

EV車の販売台数が急速に増加したのは先に記載したとおりですが、ガソリン車の新車の二酸化炭素税が増額されることも決まっています。この決定により、小型のハイブリッド車は大きな打撃を受けることになります。燃費効率がよいため、年間あたりの税金が2倍に膨れ上がる可能性が出てくるからです。

購入にかかる費用が高額なEV車ですが、スウェーデンでは電気自動車用の充電ボックスを設置すると、環境税控除(グリーン技術控除・Grön teknik skatteavdrag)が受けられます。これは、環境に配慮した製品を購入する際の、コスト削減の控除です。

EV車の充電ボックス以外にも、太陽電池パネルの設置や、自家発電機の設置などで、最大約50%の環境税控除が受けられます。

また、スウェーデンではより環境に優しい車両の導入促進のために、車の購入価格が最大700,000SEK(約880万円)の場合に受けられる、気候ボーナス制度(給付金)を設けていました。しかし2022年11月8日以降に発注された車両に関して、気候ボーナスの特典が廃止されています。

スウェーデンでEV車の購入に伴う給付金は、2022年7月から減額されました。2023年には電気自動車購入のための補助は50,000SEK(約63万円)に引き下げられています。PHEV(プラグインハイブリッド)車の補助も45,000SEK(約57万円)から20,000SEK(約25万円)と、大幅に引き下げられました。

新車購入において特典が受けられるのは、二酸化炭素排出量が30g未満と少ない、PHEV車だけです。それでも受けられる給付金は最大10,000SEK(約13万円)ほどです。

そのほかスウェーデンでは、必要な時間だけ車を借りるビルプール(Bil pool)と呼ばれるレンタルや、年間契約のリースの会社も多くあります。このようなサービスを利用すれば、高価な電気自動車への買い替えを不安に思う人や、毎日車に乗らない人は、電気自動車をお試しで使えます。

充電インフラが世界で最も進んでいる

スウェーデンでも都市部近郊では、充電設備の台数が増えています。22kw、50kw、100kwの充電設備のほかに、テスラが提供している高速充電機もあります。都市部近郊において充電インフラは、まるで雨後の筍のように増加しているといってもよいでしょう。

スウェーデンでは約80%の電力供給源が、水力と原子力です。スウェーデンは国内のエネルギー自給率が高く、電力を安定して供給できるため、電気自動車の普及に向いているといえます。

燃費がよい

世界の国々と同様に、スウェーデンでも電気の価格が高騰しています。とくに冬場は暖房器具を使うため、一般家庭でも夏場の倍以上の電気代がかかります。

それでもEV車を購入する理由は、ガソリン代も同様に値上がりしているからです。車はとにかく維持費がかかるものですが、長い目で見た場合に、ガソリン代はやはり頭の痛い問題となります。

スウェーデンの発電所は北部に集まっているので、配電にコストが掛かります。そのため、北部の町Luleå(ルレオ)や中部の町Sundsvall(スンズヴァル)では、1kwhあたりの電気料金が85.56オーレ(約11円)と国内最安値。逆にストックホルムや最南部に位置する Malmö(マルメ)市では、132.59オーレから136.84オーレ(約18円)と、高くなってしまいます。

スウェーデン人の年間走行距離は、およそ2,000km弱です。あくまで平均的な話ですが、EV車に掛かる電気料金・配電料金・税金を合わせた年間料金は約3,600SEK(約45,000円)。日本ですら年間のガソリン代の平均が、10~15万円位かかるので、ガソリン車と比べて安いといえます。

部品の劣化が少ない

スウェーデンは自動車産業が盛んなので、自国車を生産していることは知られています。日本でも有名なスウェーデン車にはボルボ(VOLVO)やサーブ(SAAB)がありますが、実はスウェーデン国内で自国車を選ぶ人の割合はさほど高くありません。

人気がないというのもあるのですが、メンテナンスにお金がかかるのが主な理由です。日本車などEU外産の車も同様ですが、故障や不備があったときに、物価の高いスウェーデンでは自国車はいちいちパーツが高いのです。

電気自動車は年数による劣化や、弱くて破損しやすい部品が少ないという利点があります。つまりメンテナンスにかける金額が安価になるということです。また、車全体で見ても耐久性があり、長持ちします。

騒音公害が減る

クリーンな燃料を動力にしているという点で、電気自動車が従来の車に比べて、環境に優しいという点は誰もが知っています。

電気自動車を初めて運転すると、多くの人がその静かさに驚くでしょう。電気自動車は音がはるかに小さいため、騒音公害が少ないことも利点に挙げられます。ただし車のエンジン音がしないという事実は、歩行者や運転者本人に、車の存在が認識しづらいという問題もあります。

車の発する限度を超えない機械音は、歩行者が自主的に付近に車がいると感知できます。加速するときのエンジン音は、運転者にとっても、自分の出しているスピードを体感的に感じられます。運転は五感を使うため、運転している事実を体感できるのは重要です。

騒音が減る代わりに起こりうる、さまざまな認知不足による事故を防ぐために、電気自動車にわざわざ偽のエンジン音を搭載する試みなど、音を発する機能があります。

まとめ

スウェーデンで車を運転していると、すべての運転者がスウェーデンの教習所で免許を取得していれば、安易な事故などは起こらないだろうと思うことがよくあります。それくらい、スウェーデンの教習所は免許取得者に厳しいのが事実です。

スウェーデンを始めとする北欧の国々の政策を見据えると、今後の温暖化対策や地球規模の環境政策を前に、電気自動車に買い換える必要性が否応なく目前に迫っていると感じます

購入に際して価格が高価な電気自動車ですが、長い目で見た場合やトータルのコストを考えると、得策と思える点も多くあります。

ここ数年のうちに、アプリで簡単に車が借りられる、ビルプールの車台数や置き場所も格段に増えました。ビルプールやリースは、車検やメンテナンス費用も込みなので、個人で車を購入するよりあらゆる面で楽だとも考えられます。

環境のことを考え、環境により優しいタイプの車を持つ選択もあれば、車自体を持つ・持たないという選択もあります。ライフスタイルに合わせて、個々が目的意識をはっきりさせ、生活に適した方法を選んでいきたいですね。

※文中のスウェーデンクローナは2023年1月時点での為替レートで換算しています。

◆参考文献

ノルウェーの水素発電 https://president.jp/articles/-/23053?page=2
Transportstylersen(スウェーデン運輸庁)
https://transportstyrelsen.se/sv/Nyhetsarkiv/2022/sa-manga-forlorade-korkortet-2021/
Zutobi körkort https://zutobi.com/se/korkortsguider/uppkorningen-tips
Klara uppkörningen nu http://www.klarauppkorningen.nu/vanligastefelen.htm
Klimatbonus https://www.regeringen.se/artiklar/2022/11/fragor-och-svar-om-avskaffad-klimatbonus/

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