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文化的再生産論とは?及ぼす影響や問題点、文化資本についてもわかりやすく解説

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育った家庭環境が子どもの将来に影響することは、多くの人が感じていることでしょう。しかし、「社会における親の地位は、子に継承される」と聞くと、少し大げさに感じるかもしれません。子どもは、親から教わる言葉、与えられるモノ、教育などによって文化資本を身に付けていきます。そしてこの文化資本により、社会における親の地位が子へと継承されるというのが「文化的再生産論」です。

この記事では、文化的再生産論とは何か、「文化資本」「再生産」の概念を提示したブルデューについて、文化資本の事例、文化的再生産論が及ぼす影響、活用方法、SDGsとの関係について解説します。

文化的再生産論とは

文化的再生産論とは、社会における親の地位などが子へと継承される主な要因が、「文化資本」であることを明らかにしようとする理論です。後ほど詳しく説明しますが「文化資本」とは、

  1. 幼少期から学習や経験を通じて身に付けた言語、立ち居振る舞い、論理的思考などの教養
  2. 絵画、書籍、ピアノなどの有形文化財
  3. 社会的に認証された学歴や資格

などを言います。つまり、子どもが教養や文化を獲得する過程では、家庭環境や親の所属する階層の文化的背景が深く関わっていること、そして身に付けた能力は学校制度での教育達成に影響を与え、その結果、階層間に学力差を生じているという考え方です。

例えば、上位階層の子どもは幼少期より本や美術品、芸術、音楽などの正統な文化に触れ、論理的思考や正統な言語能力のほか、さまざまな文化を身に付けます。こうして獲得した文化資本は、正統な文化を教える学校教育になじみやすいため、上位階層の子どもたちは学習を有利に進めることができます。結果的に、上位階層の子どもは高い学歴を得て、親と同じ地位につく「再生産」が行われやすくなるという仕組みです。

文化的再生産論は、文化を通して現代社会を理解する鍵になるほか、学校教育が不平等を継承する場になっているという問題の分析方法に用いられています。

ブルデューについて

文化的再生産論の中で言及される「文化資本」や「再生産」という概念は、フランスの社会学者ブルデュー(1930-2002)とパスロン(1930-)により提示されました。彼らは「文化資本」が子どもに継承されることで、親の地位階層が「再生産」されるメカニズムを説いたのです。この理論は日本でも研究されていますが、これまでは「日本の事情に当てはまらない」という否定的な意見も少なくありませんでした。しかし近年は、子どもの貧困の連鎖や格差社会などが進行していることから、社会を分析する1つの手段として見直される動きもあります。

ブルデューの著書には、文化資本や再生産について書かれたパスロンとの共著『再生産-教育・社会・文化』(1970)や、格差や階級のメカニズムを論じた『ディスタンクシオン』(1979)など多数あります。

次の章では、文化資本についてもう少し踏み込んで見ていきましょう。

文化資本とは

文化資本は、文化的再生産論を知る上で重要な概念です。ブルデューによると「資本」には、⑴経済資本、⑵文化資本、⑶社会関係資本、⑷象徴資本の4つの形態があります。

  • ⑴    経済資本…お金や土地、工場などの物理的に譲渡可能な資本
  • ⑵    文化資本…経済資本以外の教育や教養などの文化的な能力
  • ⑶    社会関係資本…社会の中での人間関係または、信頼や援助を得られる可能性のある社交関係
  • ⑷    象徴資本…職業や学歴など、信頼や名誉、権威を高める資本。なお、⑴~⑶はいずれも象徴資本になりうる

この4つの資本のうち文化資本には3つの形式があり、冒頭で簡単に説明したように、それぞれ次のような意味があります。

  1. 身体化された文化資本…言語や立ち居振る舞い、論理的思考などの身に付く資本
  2. 客体化された文化資本…絵画、書籍、ピアノなど、モノとして存在する客体化した文化財
  3. 制度化された文化資本…学歴や資格など、制度によって認証された資本

例えば、子どもが経済資本と文化資本を獲得したことにより能力を上げて学歴を付けると、就職してから新たな経済資本や社会関係資本、象徴資本を生み出すことがあります。つまり4つの資本は、それぞれ別の形態に変化するという特徴があります。そう考えると、教養が身に付く家庭や、能力・学歴を獲得する学校教育(文化資本)は、現代においてより重要であると言えるでしょう。

文化資本の事例

文化資本が子どもにどのような影響を与えるのか、ブルデューらの調査から具体的な事例を見ていきましょう。次の表は、哲学・社会学・自由専攻の学生に対して言語テストを行った結果です。学生の出自を民衆階級・中間階級・上級階級に分けて、それぞれの成績を12点未満と12点以上で示しています。(『再生産-教育・社会・文化』(1970)から一部を引用)

 哲 学社会学自由専攻全 体
民衆階級%中間階級%上層階級%民衆階級%中間階級%上層階級%民衆階級%中間階級%上層階級%民衆階級%中間階級%上層階級%
12点未満25.534.52033.54653606651465542.5
12点以上74.565.58066.55447403449544557.5
(引用元:『再生産-教育・社会・文化』ピエール・ブルデュー&ジャン=クロード・パスロン・著 宮島喬・訳 藤原書店 1991)

哲学と自由専攻、そして全体の成績が最も良かったのは、上層階級の学生でした。このことから、上層階級の学生は、学校教育と相性の良い文化資本を家庭で伝達されているため、言語能力が高く、テストで良い成績を収めることができると結論付けています。

さらに詳しく見てみると、上層階級の成績は哲学の80%が一番高く、最も低いのは社会学の47%です。この理由として、哲学は文科系の中でも価値が高いとされている一方で、社会学は、学校が苦手な上層階級の学生にとって避難所のような学問になっている事情が挙げられます。また社会学は、権威のある学問でありながら、最少の勉学コストで済むのが特徴です。そのため、社会学専攻の学生の成績は、民衆階級が最も良い成績を収めています。

この調査は1962〜63年のフランスで行われているため、現代社会や日本の現状に当てはまらない部分もあるでしょう。しかし、社会の在り方を考える際の1つの視点として利用できます。言語はコミュニケーションの手段だけではなく、思考力にも関わる大切な能力です。その能力を家庭で育てる文化資本は、個人に大きな影響を与えていると言えるのです。

それでは、文化資本によって社会における親の地位が子に受け継がれる再生産が行われると、どのような影響があるのでしょうか。次に見ていきましょう。

文化的再生産が及ぼす影響

日本において文化的再生産が及ぼす影響の1つに、「格差」があります。「子どもの貧困の連鎖」「格差社会」をキーワードに読み解いてみましょう。

子どもの貧困の連鎖

1つ目は、「子どもの貧困の連鎖」です。日本では、子どもの約7人に1人が、生活はできても教育などにお金をかけることができない家庭で暮らしているといわれています。貧困の原因は、世帯間の所得格差が生じていることや1人親世帯が増加したことなどです。しかしこの状況は、子どもの学力格差や大人になったときの所得格差につながっています。このことから、貧困が連鎖している状態が起きているのです。

教育は、モノのように物理的に子どもに譲渡できない文化資本です。文化資本の乏しい家庭で育った子どもは、文化的再生産により親の地位をそのまま継承すると考えられます。次の図は、社会経済的背景の違いが子どもの学力にどの程度影響しているのかを調査した結果です。

(引用元:平成25年度「全国学力・学習状況調査(きめ細かい調査) の結果を活用した学力に影響を与える要因分析に関する調査研究」国立大学法人お茶の水女子大学 平成26年3月28日)
-凡例の説明-※金額は家庭所得平均、パーセント(%)は父母大卒割合を示しています。
Lowest(最下層)…約340万円・0.00%
Lower middle(中下層)…約490万円・1.07%
Upper middle(中上層)…約640万円・7.20%
Highest(最上層)…約910万円・47.07%

家庭所得平均・父母大卒割合が最も低いLowest(最下層)は、国語A・B、算数A・Bともに正答率が最低でした。貧困にある子どもの学力は、家庭の経済力に左右される傾向があることが分かります。

もう1つのポイントは、家庭所得平均・父母大卒割合が高くなるにつれ、正答率も上がっていることです。親が高学歴の場合、言語や論理的思考などの身体化された文化資本を身に付けやすいため、学力が高いと推測できます。

子どもの学力は、学歴や将来の所得にも関わる問題です。低学歴の父母の子どもが、親と同様の学歴を獲得する文化的再生産が行われれば、貧困の連鎖は止まらないでしょう。

格差社会

もう1つの影響は、「格差社会」です。近年は特に、所得の差により階層間の格差が広がっています。所得格差の主な原因は、技術が進歩して代替可能な労働者の賃金が低下したことや、契約社員、派遣社員、パート労働者などの非正規雇用が増えたことなどです。

賃金に関しては、学歴に比例するというデータがあります。このことから、格差は教育などの文化資本に関係していると想像できます。次の図は、学歴と性別の違いが、賃金にどのくらいの差を生んでいるのかを示しています。

賃金が一番高いのは男女共に学歴が「大学院」であり、その次に「大学」と続き一番低いのは「高校」です。学歴の高さはそのまま賃金に反映しており、学力やそれを身に付けるための教育が大きく影響していることが分かります。学歴は文化資本に関わる問題です。そのため、文化的再生産が行われれば、格差が固定する原因になりえます。結果的として文化的再生産は、格差社会をより強固なものにするでしょう。

文化的再生産論は何に役立つのか?

文化的再生産論は、冒頭で述べたように、文化を通して現代社会を理解する1つの手段になるほか、学校教育の在り方や問題点を分析する方法として役に立ちます。

現代社会の理解を深める

現代社会の理解を深めるという点では、先に述べた「子どもの貧困の連鎖」や「格差社会」など、文化資本に関わる問題を解く鍵として利用できます。日本における子どもと文化資本の関係についての調査や研究は、まだ多くありません。今後、実態を把握した上で、社会の構造を明らかにし、課題があれば取り組んでいく必要があるでしょう。

学校教育の問題点を分析する

子どもは本来、学校制度により平等に教育を受ける権利を保証されています。学校制度においては、自らの才能を発揮し、努力をして学歴や資格を得て、能力に応じた地位を獲得していくことが原則です。しかし、獲得する地位は文化資本に大きく左右され、学校制度だけでは平等な学習の機会を持つことは難しいのが現実です。裏を返せば、学校制度があることで、不平等が生まれているとも言えます。文化的再生産論は、こうした問題を分析する方法として活用することも可能です。

文化的再生産論とSDGs

最後に、文化的再生産論とSDGsの関係について確認していきます。文化的再生産論は、目標4「質の高い教育をみんなに」、目標10「人や国の不平等をなくそう」に関係があります。

目標4「質の高い教育をみんなに」

目標4「質の高い教育をみんなに」は、すべての人に公平で質の高い教育を提供することや、働きがいのある仕事を増やすことを目指しています。

文化的再生産論は、社会における親の地位などが文化資本により子どもに継承される仕組みを説明した理論です。この理論では、学校教育は上層階級の文化資本となじみやすいため、学校で学ぶ子どもの学力はより高くなる傾向にあります。そうすると、他階層の家庭環境で暮らす子どもは、教育を平等に受けられているとは言えません。貧困にある子どもに対してどのように教育機会を与えていくのかが、目標4の達成の鍵になるでしょう。

目標10「人や国の不平等をなくそう」

目標10「人や国の不平等をなくそう」は、年齢や性別、人種、出自、経済的地位やその他の状況にかかわらず、すべての人に社会的・経済的・政治的に参加できる力を与えることを掲げています。

文化的再生産論では、文化資本に恵まれた家庭とそうでない家庭で暮らす子どもとの間に、言語能力や学力などに差があると分析しています。こうした能力差があれば、社会的・経済的・政治的に参加する力にも影響があるでしょう。不平等をなくし、すべての人に参画の機会を与えるためには、文化的再生産論を用いて教育の不平等をなくすための分析をすることも目標10を実現する手段の1つになります。

>>各目標について詳しくまとめた記事はこちらから

まとめ

文化的再生産論は、社会における親の地位などが子へと継承される主な要因は「文化資本」であるという理論です。この「文化資本」や「再生」という概念は、フランスの社会学者ブルデューとパスロンにより提示されました。「文化資本」とは、①幼少期から学習や経験を通じて身に付けた言語、論理的思考などの教養、②絵画、書籍、ピアノなどの有形文化財、③社会的に認証された学歴や資格などを言います。

日本において文化的再生産が及ぼす主な影響は、「子どもの貧困の連鎖」や「格差社会」などです。これらの現代社会の事象や学校問題を理解するために、またSDGsの目標4「質の高い教育をみんなに」、目標10「人や国の不平等をなくそう」を実現するために、文化的再生産論は役に立つでしょう。

<参考>
ピエール・ブルデュー&ジャン=クロード・パスロン、1991、『再生産-教育・社会・文化』(宮島喬訳)藤原書店
宮島喬、1994、『ブルデュー理論からの展開』藤原書店
山本準・岡島典子、2020、「日本の教育問題における分析手法としてのP.ブルデュー理論の有用可能性について」、『鳴門教育大学研究紀要』第35巻