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循環型林業とは?仕組みやメリット・デメリット、実践例も

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資源の循環利用の大切さが広く認識されるようになり、

など、さまざまな場所で、さまざまな資源の「循環」が目標になっています。従来の大量生産・大量消費・大量廃棄や都市への人口集中から引き起こされた深刻な問題から、私たちの人間社会は次なるステップに進もうとしているのです。

循環型林業もそれらの一環です。林業は森林からの恵みと私たちの生活をつなぐ重要な仕事です。循環型林業の仕組みやメリット、デメリット・課題、実践例などを、わかりやすく解説します。

循環型林業とは

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循環型林業とは、伐る・使う・植える・育てるを繰り返し、森林資源を持続的に活用していく林業のことです。循環型林業は森林資源の循環利用を確立するとともに、森林の持つ多面的な機能を維持します。

森林の持つ多面的な機能

【森林の多面的機能】

政府広報オンライン『木材を使用して、元気な森林を取り戻そう!』(2021年10月)
出典:政府広報オンライン『木材を使用して、元気な森林を取り戻そう!』(2021年10月)

人間はもちろんのこと、地球の生き物が生きていくために森林は欠かせない存在です。森林には、

  • 多様な生物を守る
  • 地球温暖化を防ぐ
  • 快適な環境を作る
  • 山崩れや台風などの災害から守る
  • 水を蓄える
  • 豊かな資源を生み出す
  • 安らぎを与えてくれる
  • 文化の伝承・教育の場

など、私たちの生活に欠かせない多面的な機能があります。循環型林業がうまく機能すると、資源の循環利用だけでなく、このような森林の多面的な機能の維持も同時に実現します。

世界の森林の現状

【世界の森林面積の国別純変化(2010〜2015年、年平均)】

世界の森林面積は2015年のデータでは約39.9ha(ヘクタール※)で、世界の陸地面積の30.6%を占めています。しかし、この世界の森林面積は毎年およそ330万ha減少していると言われています。

特に、上の図でピンク色・オレンジ色・濃い赤色で示された地域(南アメリカ・アフリカ・南アジア)の熱帯を中心に森林面積の減少が大きくなっています。一方で、上の図で薄緑色・緑色・濃い緑色で示された地域(アジア・ヨーロッパ・北アメリカ)では、森林面積が増加しています。

森林面積はこのように増加と減少に地域的な偏りがありますが、世界が「2050年カーボンニュートラル」を目指すためには、森林減少を食い止め、森林の持つ機能を回復させることはとても重要な課題です。

ヘクタール

1haは10,000m2で、100m×100mの正方形の面積。1haは農業のみで平均的な1世帯を支える場合に必要な標準的面積。

【世界の森林面積の地域別純増減】

このグラフからもわかるように、世界では森林面積が増加している地域はあるものの、全体で見ると減少の傾向にあります。

循環型林業が注目されている理由

【日本の林業の現状】

資源の循環利用は「将来も持続可能な地球」のための重要な目標の1つですが、林業が注目されている背景には世界的な「脱プラスチック」の動きもあります。化石資源を原料とするプラスチックの利用を減らし、環境に負担をかけない素材のものに替える取り組みが世界で推進されています。

そこで注目されているのが、従来プラスチックが使われていたものに替わる紙や木を材料にした製品です。特に日本では、手入れが行き届いていない人工林も多く、また、人工林の維持のために出る間伐材などは多くが未利用の資源となっているため、プラスチックに替えてこのような未利用の木材を活用することは効率的と言えます。

【紙が環境に悪い素材という誤解を解く6つの真実】

また、紙は原料となる木が成長過程でCO2を吸収する上に、種類によってはリサイクルが可能な素材です。その上、化石原料由来のプラスチックとは違い、自然界で分解される地球環境にやさしい素材です。

世界では、可能であれば少しくらい不便でもプラスチックから紙に替える取り組みが進んでいます。飲み物のストローをはじめ、食品トレイやショッピングバックなどは、普段の生活の中でもプラスチックから紙に替わったことに気がついた経験がある人も多いでしょう。

紙の製造技術を応用した「セルロースナノファイバー」※などの新素材の開発も進んでおり、森林資源は今後ますます私たちの生活にとって重要な存在となることが予想されます。

植物由来の素材で鋼鉄の5分の1の軽さで5倍の強度等の特性を有する素材。CNFともよばれる。セルロース繊維は古くから紙・綿として利用されている。主に木材を原料とし、竹・稲わら・麦わら・もみ殻・農業残渣(野菜くず、茶殻、みかん皮 など)・草本類(ススキ など)・海藻といった原料からも生成することができる。

次の章では資源となる木を育てる「人工林」について理解を深めていきましょう。*1)

人工林の特徴について

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人工林とは、人の手により植栽された森林のことです。日本では主にスギ・ヒノキ・カラマツなどの針葉樹林が育てられています。

現在、日本の人工林では、

  1. 植林後、手入れされない
  2. 間伐が行われず、密集したままなので樹木は細く、根も発達しない
  3. 下草が生えない
  4. 土壌が劣化し土砂崩れが起こりやすくなる
  5. CO2の吸収量が低下
  6. 森林に関わる働き手の減少
  7. 農山村地域の活力低下

という負のスパイラルが多くの地域で起こっています。循環型林業を推進するためにはまず、この現状を改善し、

  1. 植林後、継続的な手入れと成長した木の伐採
  2. 間伐され活き活きとした森林
  3. 森林の多面的機能が発揮

といった「人工林をバランスの取れた状態にすること」が、解決の急がれる課題となっています。

【人工林がバランスの取れた状態】

人工林がバランスの取れた状態になると、

  • 木の幹が太くなり、根も発達
  • 下草が生え、土壌を保持し、土砂崩れを防止
  • CO2の吸収能力の向上
  • 間伐材のニーズが広がり働き手が増加
  • 農山村地域が活性化

という良いサイクルが生まれます。

【林業の仕事】人工林の手入れの仕方

【森林整備のサイクル(育成単層林の場合)の例】

人工林の手入れの周期は50〜60年ととても長いものです。まずは林業の仕事の流れを確認しましょう。

林業は野菜や穀物を作る農業よりも収穫までに長い年月がかかりますが、

  1. 土壌を整えて種をまく・苗を植える
  2. 世話をしながら育てる
  3. 収穫する

という点では共通しています。長い年月がかかるので、より長期的な計画が必要とも言えます。

それでは次の章で循環型林業の仕組みを確認しましょう。*2)

循環型林業の仕組み

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日本は国土の3分の2を森林が占める世界でも有数の森林国家です。その日本の森林面積の約4割は人工林です。

人工林が森林の多面的な機能(水源の養成、国土 の保全、木材を始めとする林産物の供給など)を持続的に発揮するためには、人の手による適切な管理が必要です。

そもそも伝統的な里地里山※では、循環型の林業が行われていました。つまり、「かつてあったものが失われた」と考えてもいいでしょう。

日本の林業の循環が滞るようになったのは、

  • 木材需要の低迷
  • 輸入木材との競合
  • 木材価格の下落

などが原因で、林業を営む人が減少したためです。また、林業では他の産業に比べてけがなどの労働災害の発生率が高いことも問題です。

里地里山

自然と人間の働きかけが調和し共生する、原生的な自然と年との中間に位置する集落・人工林・農地・ため池・水路・草原などで構成される地域。特有の生物の生息・生育環境として、また、食料や木材など自然資源の供給、良好な景観、文化の伝承の観点からも重要。

【林業経営体数の推移】

【林業と全産業の千人あたりの死傷発生率の比較】

そもそも、林業の担い手が少ないので、手入れのされない人工林が日本には多くあります。手入れのされない人工林は木々も十分に生長しない上に、根も発達しないために、大雨などで地滑りの起こりやすい地盤になってしまいます。

循環型林業は単に林業従事者が増えれば良いというわけではなく、「伐って、使って、植える」といった社会全体での森林資源の循環利用があってこそ成り立ちます。近年では、森林の適切な管理や木材の使用は「2050年カーボンニュートラル」に貢献すると言われ注目されているので、同時に循環型林業の大切さも広まりつつあります。

【循環型林業とその効果】

循環型林業を支えるための林業従事者は、人材の育成や収入・作業中の安全の確保のほか、収入を支える木材などの需要がなくては増加しません。つまり、日本の循環型林業のために必要なのは、

  • 林業従事者の育成・確保
  • 林業の労働安全確保・危険で辛い作業の軽減
  • 生産性の向上・林業による収入の引き上げ
  • 森林資源由来の製品の需要拡大

と言えます。また、循環型林業がうまく機能することにより、農山村地域の活性化が期待できます。

【森林資源を活用した地域経済の活性化】

現在の日本では、人工林の多くが木材として利用可能な年齢になっている一方、

  • 外国産木材の輸入増加
  • 林業従事者の減少
  • 林業の採算性の低下

などの原因により、国産木材の供給量は日本全体の木材需要量の約3割ほどです。日本の循環型林業がうまく機能するための「使う=需要拡大」の部分には、私たち消費者が国産の木材をもっと利用することで貢献できます。

次の章ではこれまで見てきたことの復習をしながら、循環型林業のメリットを確認しましょう。*3)

循環型林業のメリット

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人工林が健全に生長し、森林の多面的な機能を発揮するためには人の手による適切な管理が必要です。林業従事者の数・木材需要などのバランスが取れ、循環型林業が機能するとどのようなメリットがあるのかもう一度確認してみましょう。

CO2の排出を削減・地球温暖化を抑制

森林の適切な管理はCO2の吸収量を増加させるだけでなく、木材や木質バイオマスの利用によってCO2の排出量削減に貢献します。木材はその成長過程でCO2を吸収しているため、燃やしてエネルギーとして利用しても、そのライフサイクル※で見たらCO2を排出しないカーボンニュートラルなエネルギーとして扱われます。

循環型林業の推進はCO2の排出量を削減し、また森林のCO2吸収量を向上させることによって、地球温暖化の抑制に貢献します。

ライフサイクル

元々は人の誕生から死までの過程のこと。そのことから転じて、もののライフサイクルとは、商品が原料調達から製造・利用・廃棄されるまでの過程を表す。

【関連記事】カーボンニュートラルに欠かせないLCAとは?メリット・デメリット、問題点も

廃棄物の削減

木材は種類や用途によってはリサイクルが可能な資源です。また、木材は自然界で分解が可能です。

このことから、木材や紙の使用は廃棄物の削減につながります。身の回りの小さなものはもちろん、家具や建築資材、燃料などに木材を選ぶことによって、私たち個人も循環型林業を支え、廃棄物の削減に貢献できます。

【地域の木材を利用した割り箸】

木材のエネルギー資源としての利用

高度経済成長やエネルギー革命によって、石炭・石油が大量消費されるようになる以前は、薪や炭などがエネルギーとして利用されていました。現在では石炭・石油の大量消費による温室効果ガスの増加により、急激な地球温暖化が世界中で深刻な問題となっています。

そこで、「木質バイオマス」として、再び木材のエネルギーとしての利用が推進されています。太陽光・風力・水素など、将来の日本のエネルギー供給源は多様化していきますが、木質バイオマスも多様なエネルギー源の1つとして期待されています。

森林の適切な整備

森林の持つ多様な機能を発揮するためには、人工林においては人の手による適切な管理が不可欠です。循環型林業を推進し、適切な森林整備などが行われることにより、大量に発生する間伐材などが木質バイオマスとして価値を持つことができると考えられます。

間伐材の利用が進めば林業経営の収入増加も見込めます。収入増加がさらなる森林整備の推進につながり、良い循環が生まれることが期待できます。

【環境保全】環境保全とは?農業や企業の取り組み事例と私たちにできること

山村地域の活性化

循環型林業が推進されれば、

  • 木材の収集・運搬
  • 間伐材の選別
  • バイオマスエネルギー(熱・電気など)の供給施設

など、新しい産業雇用が創出されます。高度経済成長期に都市へ集中した人口を再び山村地域にも呼び戻し地域の活性化に貢献します。

また、政府は木質バイオマスの新たな利用につながる技術開発や実証実験を進めています。将来的には森林資源の豊かな山村地域で新たな環境ビジネス※の創造を目指しています。

環境ビジネス

環境にやさしい商品・サービスを提供するビジネス。SDGsビジネスとほとんど同じ意味で使われる

【地域循環共生圏の概念図】

高度経済成長期には、

  1. 短期的に大きな利益を得るための大量生産・大量消費・大量廃棄が進む
  2. それにともない手間や時間のかかる産業や生活から多くの人々が離れる
  3. 都市に移り住む人が増加する
  4. 都市の人口過密化・地方の過疎化が進む

という現象が起きました。しかし、環境面でも、生活面でも、この状況が限界を迎えたことに、あなたも気付いていませんか?

世界中で森林・サンゴ礁など生物の多様性が失われ、大気・水・土壌が汚れ、社会でも貧富の差が広がり多くの人々が希望の持てない生活を余儀なくされているのが現状です。循環型林業は世界が目指す循環型経済の一部であり、循環型農業とともに循環型経済の土台を担う存在です。

私たちの持続可能な将来のための土台となる重要な循環型林業ですが、次の章ではデメリットや課題について考えてみましょう。*4)

循環型林業のデメリット・課題

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循環型林業の推進は今後の日本にとって重要なものですが、その推進を妨げるデメリットや課題も存在します。

循環型林業のデメリット①危険な作業が多い

従来に比べて作業を楽にする機械などが開発されていますが、山の斜面での作業や高い位置の枝の剪定など、林業は他の産業に比べて危険で体力の必要な作業が多いという特徴があります。先ほど「循環型林業の仕組み」でも触れたように、林業は他の産業よりも10倍以上も負傷のリスクが高い仕事です。

循環型林業のデメリット②現状利益を出すのが難しい

木材価格の下落などの影響により、現在の林業は利益を出すのが難しい状態です。木材価格はピークだった1980年の5分の2〜3分の1ほどまで下がっています。

【木材価格と林業産出額の推移】

また、収穫まで長い年月がかかるため、長期的な計画と作業の継続が必要です。現状は補助金があっても赤字経営になることもあり、事業継続や新規参入を困難にしています。

【林業の収入の現状と将来目指す姿】

循環型林業のデメリット③インフラが整っていない

間伐材や主伐材の運び出しに必要な道路が整備されていなかったり、間伐材を木質バイオマスとしてチップなどに加工する施設が少なかったりと、循環型林業をうまく機能させるためのインフラがまだ整っていない地域がほとんどです。このようなインフラ整備は国や地方公共団体の役目ですが、社会全体がもっと林業の重要性を理解することで、より早く取り組みが進められるでしょう。

このように、循環型林業が全国の農山村で機能するには、まだ多くの解決しなければならない課題が存在します。次の章では、このようなデメリットや課題を乗り越えて循環型林業を実践する事例を紹介します。*5)

循環型林業の実践例

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日本の林業はまだまだ苦しい状況と言えますが、その中でも循環型林業に取り組み、成功している事例があります。鳥取県日南町と、岐阜県高山市の循環型林業への取り組み事例を見ていきましょう。

【J-クレジットの活用】日南町

【日南町のJ-クレジット売買契約調印式の様子】

町の9割を森林が占める鳥取県日南町は、循環型林業を推進すると同時に、環境省が運営するJ-クレジット制度(J-VER)の認証を受け、森林の適切な管理によって増加したCO2吸収量を、J-クレジット※として販売しています。J-クレジット購入企業は、自社のCO2排出量をカーボン・オフセット※できます。

日南町はこのJ-クレジット販売による収益を再び循環型林業を推進する財源として投入することで、町内で新植のための苗の生産を始めるなど、地域で取り組む循環型林業のモデルケースとして評価されています。近年、企業の間でも環境への意識が高まる中、J-クレジットの販売は順調です。

J-クレジット制度とは、省エネ設備の導入・再エネ(再生可能エネルギー)の導入・適切な森林管理・植林・森林再生(再造林)などによる、温室効果ガス排出量削減やCO2吸収量を、「クレジット」として国が認証する制度。

CO2をはじめとする温室効果ガスの削減の努力をした上でも、やむを得ず排出してしまう温室効果ガスを埋め合わせるため、他の場所で排出削減や吸収の取り組みをしたり、そのような事業に出資したりすること。

【関連記事】【SDGs未来都市】鳥取県日南町役場 農林課|森林資源を軸に持続可能なまちづくりを

【高山市】木質バイオマス発電

周囲を険しい山々に囲まれた岐阜県高山市では、地熱や小規模水力とともに、木質バイオマスによる発電事業を行なっています。高山市は山里ならではの自然エネルギー資源の活用によって「人と自然の共生」を目指しています。

【しぶきの湯 遊湯館のバイオマス発電】

木質バイオマス発電が行われている「宇津江四十八滝温泉しぶきの湯」では、発電した電力はFIT制度※によって中部電力が買い取り、発電時に得られる熱エネルギーを温泉のボイラーに利用しています。

燃料の木質バイオマスは、高山市内の業者が近隣から集めた地元材を活用して製造しています。また、自然エネルギーの種別ごとに協議会を設立し、勉強会地元説明会などの機会を設けています。

再生可能エネルギー源(太陽光、風力、水力、地熱、バイオマス)を用いて発電された電気を、国が定める価格で一定期間、電気事業者が買い取ることを義務付けるもの。

【奥飛騨・高山自然エネルギーの里構想】

循環型林業が成功しているどの事例も、地元の人々が主役となって積極的に森林資源の活用を推進しています。もはや里山は「何もない場所」ではなく「多くの資源にあふれた場所」という認識を持つべきです。

次の章では、循環型林業を推進するために、私たち個人でもできることを考えてみましょう!*6)

循環型林業のために私たちにできること

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ここまで見て来たように、日本の林業は現状は経営が厳しい状態です。しかし、社会全体の環境への意識の高まり都市の生活のストレスなどから、林業に従事したいと思う人はゆっくりと増加傾向にあります。

日本の循環型林業への取り組みは、多くの課題を抱えながらも前進を始めています。この循環型林業の推進のために、私たち個人にもできることがあります!

【日本の木材需要量と供給産地】

上の円グラフからもわかるように、日本は世界有数の森林国家であるにもかかわらず、国内で使用する木材の約7割を輸入しています。その一方で、安い木材を供給する海外の産地では、違法な伐採による森林面積の減少が深刻な問題になっていることも少なくありません。

私たちは経済を動かす消費者として、責任を持って買うもの・使うものを選ぶことで、世界の森林を守り、日本の循環型林業の推進に貢献することができます。普段の生活の中でも少しずつ意識して、国産の木材・地域の木材・間伐材などが使われた製品を選びましょう。

木づかい運動

【木づかいサイクルマーク】

木づかい運動とは、木材を利用することの意義を広め、木材の利用を推進・拡大するための運動です。2021年10月に施行された「脱炭素社会の実現に資する等のための建築物等における木材の利用の促進に関する法律」により、10月「木材利用促進月間」として法定化され、木材利用の普及や啓発活動などが行われています。

【間伐材を活用した紙製飲料容器】

間伐材を活用した紙製飲料容器

【間伐材を活用したコピー用紙】

私たちの生活の中でも「木づかい運動」に無理なく参加することができます。国産の人工林で産出された木材や間伐材を活用した製品を選ぶことで、それらの産地の森林整備につながります。

木育

【木育パンフレット表紙】

木育とは、年齢を問わず木材や木製品とふれあい木への親しみや木を利用する文化への理解を深める教育活動です。「木づかい運動」の一環として、木材の良さや利用の意義を学ぶ取り組みが広がっています。

小中学生向けに開発された「木育プログラム」では、木材に関する授業と森林での間伐体験や木工体験を組み合わせて、子供達に

  • 森林の大切さ
  • 木材の良さ
  • 木材を積極的に利用する意義

などを学ぶ機会を提供します。

「品質が良いもの」「環境にやさしいもの」「社会問題解決につながるもの」「SDGsに貢献するもの」を意識して買う「エシカル消費」をしたいと思う日本人の割合は年々増加しています。あなたも循環型林業の「使う」の部分を担い、エシカルな消費のために「木づかい運動」や「木育」に参加してみましょう。

【エシカル消費への興味度】

上のグラフは消費者庁によるアンケート調査で、「あなたは、エシカル消費について、どの程度興味がありますか。」という問いに対する回答の割合を表しています。2020年の調べでは全体の59.1%が「非常に興味がある」「ある程度興味がある」と回答しています。

日本の社会にずいぶん「エシカル」が浸透していることがわかりますね!これは循環型林業にとって良い傾向です。

次の章では循環型農業とSDGsの関係に迫ります。*7)

循環型林業とSDGs

循環型林業はSDGs目標15「陸の豊かさも守ろう」に深い関わりがある他、直接的・間接的にさまざまなSDGs目標の達成に貢献します。下の図は日本における森林の循環利用とSDGsとの関係ですが、海外ではアグロフォレストリー※による地域の安定的な収入の確保など、SDGs目標1「貧困をなくそう」に貢献している例もあります。

森林農法とも呼ばれ、同じ土地で複数の種類の樹木や野菜などを栽培し、農業と林業を複合経営すること。

【森林の循環利用とSDGsとの関係】

SDGsでは1つの目標達成への進歩が他の目標達成のための力になることもあります。SDGs17の目標は、それぞれが孤立したものではなく、それぞれが深くつながり合っているのです。

循環型林業は、直接的・間接的に多くのSDGs目標に貢献します。しかし、裏を返すと循環型林業がうまく機能するためには、直接的な森林の管理だけでなく、社会全体がまざまな面で循環型林業を支える基盤を作る必要があるということです。

まとめ:あなたも循環型林業を支える一員に!

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地球温暖化の大きな原因の1つは、過去に地球上に存在した生き物の死骸が科学変化を起こしてできた化石燃料を燃やすことによる、大気中の温室効果ガスの急激な増加です。つまり人間は、はるか昔に生きた植物に吸収されたまま地中に眠っていたCO2を、現代になって掘り起こして大気中に解き放っていることになります。

それなのに現在、世界の森林面積は減少傾向です。森林面積が減少している原因も人間が利益を求めるためです。

  • 森林面積の減少を防ぐ
  • 日本をはじめ世界にも多く存在する人工林を適切に管理する
  • 森林の多面的な機能を回復・維持する
  • 森林面積を増やす

などは、地球温暖化を抑制し持続可能な資源の利用を実現するために優先度の高い目標です。循環型林業についてここまで学んだ知識を活かし、あなたがこの目標に貢献できる行動を生活の中で見つけ出してください。

自分が「地球の壮大な生命の循環の中に生きている」という認識を持つことは「心の豊かさ」につながります。ぜひ、あなたも持続可能な資源の循環に貢献する一員になりましょう!

〈参考・引用文献〉

*1)循環型林業とは
政府広報オンライン『木材を使用して、元気な森林を取り戻そう!』(2021年10月)
環境省『国際的な森林保全対策 世界の森林を守るために』
岐阜の木ネット協議会『森林の意味と役割』
日本製紙連合会『紙は環境に悪い?誤解を解く6つの真実』
環境省『セルロースナノファイバー(CNF:Cellulose Nano Fiber)』

環境省『第1章 セルロースナノファイバー(CNF)の概要』

*2)人工林の特徴について
政府広報オンライン『木材を使用して、元気な森林を取り戻そう!』(2021年10月)
農林水産省『森林の多面的機能と我が国の森林整備』p.19
大田市森林組合『地拵えと苗木について』
九州林産産『社有林管理と木材の流れ』
森林・林業学習館『林業という仕事』

*3)循環型林業の仕組み
環境省『自然環境局 里地里山の保全・活用』
林野庁『森林・林業・木材産業の現状と課題 林業について』p.15
林野庁『森林・林業・木材産業の現状と課題 林業について』p.16
林野庁『森林・林業・木材産業の現状と課題 森林について』p.11
農林水産省『循環型社会形成に関する取組について』
林野庁『新たな山村価値の創造』p.6

*4)循環型林業のメリット
カーボンニュートラルに欠かせないLCAとは?メリット・デメリット、問題点も
政府広報オンライン『木材を使用して、元気な森林を取り戻そう!』(2021年10月)
木質バイオマスとは?メリット・デメリット、活用事例と課題・問題点を徹底紹介!
環境保全とは?農業や企業の取り組み事例と私たちにできること
環境省『環境ビジネスの先進事例集』
循環型農業とは?メリット・デメリット、実践事例やSDGsとの関係も
林野庁『なぜ木質バイオマスを使うのか』

*5)循環型林業のデメリット・課題
林野庁『林業生産の動向』p.14
林野庁『林業生産の動向』p.21

*6)循環型林業の実践例
日南町『日南町有林J-クレジットについて』(2021年)
J-クレジットとは?目的や仕組み、メリット・デメリットをわかりやすく!
読売新聞『循環型林業 じわり拡大』(2023年2月)
カーボンオフセットとは?仕組みや目的、問題点、個人にできることまで
経済産業省『持続可能な木質バイオマス発電について』p.19(2020年7月)
飛騨高山グリーンヒート合同会社『「宇津江四十八滝温泉しぶきの湯」にて
バイオマス発電・熱利用の実証事業を実施』
日本経済新聞『岐阜県高山市 飛騨高山しぶきの湯バイオマス発電所』
環境省『「奥飛騨・高山自然エネルギーの里構想」始動!』
日経BP『高山のバイオマス発電、トラブルを乗り越え安定稼働に』(2020年4月)
資源エネルギー庁『なっとく!再生可能エネルギー よくある質問』
FIT制度(固定価格買取制度)とは?仕組みや期間、問題点、今後について

*7)循環型林業のために私たちにできること
環境省『世界の森林を守るために』
政府広報オンライン『木材を使用して、元気な森林を取り戻そう!』(2021年10月)
木育jp『木育(パンフレット)』
消費者庁『「倫理的消費(エシカル消費)」に関する消費者意識調査報告書』p.21(2020年2月

*8)循環型林業とSDGs
アグロフォレストリーとは?メリットと日本の取り組み、問題点・SDGsとの関係
内閣府『林業の現状と課題』p.15