本田 尋美
1987年、千葉県生まれ。2007年の2月、大学の活動にて人生初の海外でカンボジアを訪れる。カンボジア滞在中にゴミ山で生計を立てている人たちに出会い、リユース・リサイクルビジネスへの関心を持つ。
2010年に株式会社エコランド(https://www.eco-land.co.jp/company)の前身となる会社に入社し、2tトラックを運転できるようになる。
現在、同社が販売を委託する株式会社リサイクルリンクに在籍。国内・海外でのリユースを学び、2018年2月に小売店舗をカンボジアの首都プノンペンにオープン。1年間の半分はカンボジアの店舗に勤務し現地スタッフとともにお店を運営しており、後の半分は日本や他の国で業務にあたっている。カンボジアの店舗も3店舗に増え、現地でニーズの高いおもちゃや食器のリユースプロジェクトを開始。(https://www.eco-land.co.jp/sdgs/reuse)
東村山市や港区・都内の教育機関と協業し、日本の家庭に眠っているものを捨てずにリユースするプロジェクトを推進中。
introduction
株式会社エコランドは、ただリユースするだけの会社ではありません。誰かの「いらない」ものを「ほしい」誰かにつなげるプロセスも大切にします。物品には追跡のバーコードがつけられ、売り手が望めば、誰から誰につながったのかさえ判るのです。自治体、学校などと協働する「おもちゃリユースプロジェクト」も、子どもたちにとって身近なSDGsの学びの場となっています。
今回は、同社に販売業務を委託されている株式会社リサイクルリンクの本田尋美さんに、カンボジアと日本を行き来しながら拡げてきたリユースの世界を語っていただきました。
不用品を最適な場所につなげる「エコ回収」
–まずは、エコランドがどのような会社かを教えてください。
本田さん:
弊社は「リユース代行サービス業」です。もともとは、運送会社ウインローダー(東京都東村山市)の社内ベンチャーでした。
日本には年間260万トンの粗大ゴミが発生し、その約70%が再利用可能と言われています。そんな背景をふまえ、誰かの”いらなくなったモノ”を回収し、誰かの”ほしい”に変える新たな循環型物流とエコなビジネスを目指して、プロジェクトを立ち上げたのです。
2018年に、同プロジェクトが、株式会社エコランドとして分社化されました。弊社の大きな特徴のひとつは、一般的なリサイクル業と異なり、運送業出身の強みで「大型」の家具や家電なども扱えることです。
業務は2通りあり、1つ目は買い取りです。お客様の不用品を弊社が査定して買い取り、取引は終了します。2つ目が回収です。エコ回収料金をお客様にお支払いいただき、そこから先はリユースを代行します。代行の選択肢は、①オークションで販売 ②海外業者へ販売 ③国内専門業者への販売、の3つです。
どの選択肢であっても、販売が成立した場合には、①販売額の10%をお客様にキャッシュバック ②環境・社会貢献団体、被災地支援活動団体などへ寄付、の2択となります。販売できなかった場合は、お客様が望めば返品、あるいは別の会社が1円で買い取って資源にリサイクルします。弊社は、これらのシステムを「エコ回収」と称しています。
バーコードで追跡する「環境にやさしいモノの流れ」
–たんなる回収ではないのですね。「エコランド」という社名からも、エコに重きを置くことがわかる御社ですが、理念をご紹介ください。
本田さん:
「モノ」のその先を創ることで、世界の消費行動を変える文化を創る。世の中の価値観を変えていく。環境にやさしいモノの流れを創る。これが、エコランドの理念です。
環境に負荷のかからない(eco)、生活と地球が持続可能な世界(land)を目指して設立されましたから、起業理由、社名、業務内容のすべてがSDGsともいえます。ミッションは「いらない世界を変える」です。
当社は「リユース代行」として、お客様から委託されたものを1点ずつ管理し、バーコードをつけて追跡しています。その上で、必要としている人を見つけに行くのです。ここが、当社が価値を見出している点でもあります。
–委託品の追跡システムは驚きです。「エコ回収」の流れを詳しくご紹介ください。
本田さん:
まずはお客様のご自宅に伺い、査定から始めます。買い取りかエコ回収かの選択は弊社がいたします。大型の不用品も扱えることから、不動産売却で家財まるごと、というケースや、引越しに伴う大量の不用品を扱う場合が多いですね。弊社は、運送会社時代からの様々な知識や物流ルート、他社とのネットワークを持っています。そこを生かして、不用品に応じた様々なリユース先を探していきます。
たとえば大型家具などは、オークションでは送料も多額になり、輸送自体も扱いにくく売れづらいため、市場がある東南アジアの国々で販路を見つけます。
国内での販路では古物商の市場に持っていくものや、オークションにかけるものもあります。販売が成立したあとは、冒頭で説明させて頂いた流れになります。
お預かりした不用品はすべてバーコードを付けて追跡していますので、お客様は登録サイトのマイページから、委託したものが、国内でも海外でもどこでリユースされたのかを把握できます。売り手が望めば、誰のモノが誰の手に渡ったか、までお知らせできます。思い入れのある品物を手放した場合などは、とくに喜ばれるサービスです。
東南アジアでの適材適所なリサイクル
–海外でも売るとのことですが、輸送費は高額なはずですし、扱うものも中古です。なぜビジネスが成立するのでしょうか?
本田さん:
不思議に思われますよね。実は、弊社が扱う不用品の半分以上が、海外に販路をもっています。現在カンボジアに3店舗出店していて、私はその担当者として1年の半分はカンボジアで働いています。最初は私も(こんなに輸送コストをかけて、いったいどうやって売上をつくればいいんだ?)と思ったものです。
なぜ高い輸送コストをかけてもビジネスが成立するか。答えは、「日本より高く売れるものがあり、そこにフォーカスして販売するから」です。最初の頃に衝撃的な体験をしました。当時の日本のリサイクル市場では2000円ほどで取引されるキャスター付きオフィスチェアが、カンボジアで40ドル(当時の為替相場で4,400円)で売れたのです。
最初からうまくいったわけではありません。このような実地体験を重ねて、この国、この土地にはどんな商品のニーズがあり、どんなものが高く売れるのか、という実態がわかってくると、利益が出て事業が成立するようなモデルができ、それに合わせてコンテナの内容を組めるようになりました。現在、40フィートコンテナに、家具、クローゼット、マットレス、ベビーカーなどをいっぱいに詰めて、月に10本くらいは輸送しています。現在、販路はカンボジア、タイ、マレーシア、フィリピンで、他国からの問い合わせも増えています。
–東南アジアでより高く売れるとは予想外でした。どんな不用品が好まれるのですか?
本田さん:
婚礼家具は売れ筋です。健康器具、とくにマッサージチェアなどは、現地での新品があまりに高額なため、中古品でも高く売れます。マットレスは、日本では心情的に中古販売しづらい品ですが、東南アジアでは現地の新品価格より日本の中古品のほうが高く売れます。なぜかといえば、現地の新品の粗悪品より、日本製の中古品のほうが品質が優れているからです。
さらに、中古業界には、「メイド・イン・ジャパン」どころか「ユーズド・イン・ジャパン」という用語さえあります。同じ「メイド・イン・チャイナ」を冠する製品でも、途上国が輸入するものと、日本が輸入するものでは、日本向けの「メイド・イン・チャイナ」製品のほうが品質がいい場合が多いのです。ですから、日本でユーズドになったものなら、どの国の製品であっても質が高いと見なされるのです。
子どもの身近なSDGs体験「おもちゃリユースプロジェクト」
–海外輸出のほかに、SDGsの取り組みで力を入れている分野はありますか?
本田さん:
同じく海外が対象の話ですが、弊社の拠点がある東村山市と「おもちゃリユースプロジェクト」を協働しています。現在では港区や渋谷区との協働も始め、ほかの自治体とも展開を協議中です。
この取り組みでは、協働する市や区の決まった場所におもちゃ回収ボックスを設置します。提供されたおもちゃのその後は、弊社の追跡情報として市区の広報誌などで伝えてもらいます。
おもちゃは、子どもが使う時間が短いものの、思い出も刻まれ、捨てられずにいることが多々あります。カンボジアでおもちゃの売れ行きがいいことで気づいたのですが、東南アジアは子どもが多いんです。少子化の日本とは人工ピラミッドが逆なので、おもちゃは大人気です。したがって、不用なおもちゃをカンボジアでリユースしたいと思いました。
これこそ、「いらない」と「ほしい」のつなげどころです。いま、多くの自治体にゴミの排出量を減らすための課があります。担当者とやりとりすると、たいていよい反応が返ってきます。市はゴミを減らせて、市民も捨てる罪悪感を減らすことができ、ほしい人が得る、というリユース感があります。
弊社の追跡システムにより、子どもたちに「今日、○○国にコンテナが到着、現在荷下ろし中、店頭に並べた、このお客様が購入した」というところまでのリユースを体感していただくことも、大きな目的です。
最近は小学校や保育園で、運動会やバザーなどの限定日にボックスを設置させてもらうことがあります。東村山市では、市内の学校長とSDGsをシェアする取り組みがあり、企業として「おもちゃプロジェクト」を提案しにいくと、非常に興味をもってくださいます。SDGs教育をしたいものの、いいアイデアがない学校が多いのです。自分が思っていた以上に、「やりましょう、やりましょう」と言われて企画が進んでしまうほどです。
–ほかに、他の組織と協働するSDGsの取り組みはありますか?
本田さん:
ある大手文具メーカーさんとの協働で、カンボジアの孤児院にノートやボールペンなどを寄付しています。その文具メーカーさんは、国内で二次流通させたくない「新品」の在庫を費用をかけて捨てていました。前年のカレンダーつきノートやモデルチェンジの前の文具などですが、カンボジアの孤児たちが喜んで使っています。
カンボジアの障がい者施設には、冷蔵庫やマットレスを寄付しました。日本では、様々な大学や組織の慈善運動に、資金援助のかたちで協力させていただいています。そのような資金は、エコ回収の委託者の寄付金をキープしている弊社の「エコランドファンド」から出ています。
–将来の展望をお聞かせください。
本田さん:
エコランドを通して、さらにたくさんの人にリユースを体験していただきたいです。未来のビジョンとしては、バーコード管理を生かして、「日本で委託した思い出の品が異国の買い手のもとにある写真」などをお客さまに届けるといった「つながり」を実感できるサービスも提供したいですね。リユース体験に伴う喜びや驚きを味わっていただけることが願いです。
リユースもSDGsも、「やるべき、やらねば」ではなくて、「面白い、嬉しい」というポジティブなかたちで拡がってほしいと思っています。
–楽しいSDGs体験の提供会社とも言えますね。貴重なお話をありがとうございました。
株式会社エコランドHP:https://www.eco-land.jp/