株式会社Luna 後藤さん インタビュー
後藤 慶士
◆会社概要
株式会社Lunaは、「安心して自分らしさを追求できる社会の創造」をミッションに掲げ、それに向けて事業を展開しています。当社の提供するSMマッチングアプリ「Luna」は、LGBTQ+のKinkyを対象にしたサービスで、国内外で7万人の登録者に利用されています。Lunaのコミュニティではイベント開催や利用者同士の交流を図り、安心して社会と接点を持てる場を提供しています。性に関する理解と受容を広げることで、多様な価値観と個性を尊重し、利用者が自分らしい道を見つけられるよう支えています。
introduction
Kinkyは伝統的な性的行為や欲望から逸脱、または一般的には非伝統的と見なされる性的嗜好を示します。LGBTQ+の一部に当てはまる性的マイノリティですが、社会的な認知や理解は進んでいない状況です。
今回は、「安心して自分らしさを追求できる社会の創造」をミッションに掲げ、7万人のユーザーを持つ「Luna」を運営する株式会社Lunaの後藤さんに、サービスの概要や今後の展望についてお話を伺いました。
マイノリティであるKinkyの人々が安心して自分らしさを追求できる社会を創る
–まずは会社の紹介をお願いします。
後藤さん:
弊社は、ミッションとして「安心して自分らしさを追求できる社会の創造」を掲げて活動しています。
特に注力しているのがSMに特化したマッチング機能とコミュニティ機能を持つ「Luna」の提供です。本サービスはLGBTQ+をはじめ、多様な性的嗜好を持つ人々が安心して出会い、交流できる「居場所」の提供を目的としています。
Lunaは、2024年7月時点で、世界46カ国・約7万人のユーザーに利用されている大規模なサービスになりました。広告を一切出稿しておらず、検索や口コミだけで広める形を取ってきたので、当初はここまで多くご利用いただけると思っていませんでした。しかし、それだけ多くの方が自分の性的嗜好について悩んでおり、適切な出会いの場を求めていることを強く感じました。現在も、毎日100人ほどユーザーが増え続けている状況です。
私たちはLunaユーザーをはじめとして、すべての人が自分らしく生きられる社会を実現できるよう日々活動を続けています。
Kinkyの人たちにとって居場所となるサービスが必要な理由
–サービス内容について伺う前に、Kinkyという性的嗜好について詳しく教えてください。
後藤さん:
KinkyはLGBTQ+のプラスに属しており、伝統的な性的行為や欲望から逸脱した、一般的には非伝統的と見なされる性的嗜好や行為を指します。単純にS(サディスト)かM(マゾヒスト)かというわけではありません。例えばD(ドミナント・支配)やS(サブミッシブ・従属)もありますし、ラバーフェチやくすぐりフェチ、あるいは赤ちゃんプレイなどの特殊性癖やフェティッシュといったものも含まれます。
さらには、それぞれに濃淡もあるため、性的嗜好は何万通りもあるともいわれており、お互いを理解することすらも難しい領域です。
また、これらの嗜好を持つ人々は、しばしば誤解され、社会からも理解されにくい存在であり、カミングアウトがしにくいのが現状です。
しかしKinkyの人々にとって、これらの嗜好はアイデンティティの一部です。Lunaはこのような人々が自分の嗜好に真正面から向き合い、安心して生きていける場を提供しています。
–Kinkyであることをカミングアウトしにくい要因には何が挙げられますか。
まず第一に、社会的な偏見と誤解が大きな壁となっています。そのため、Kinkyであることを公にすることで、「気持ち悪い」といった否定的な反応を受ける可能性が高く、精神的な負担となります。
また、自分の嗜好が他人に知られることで、例えば職場での評価が下がったり、友人や家族からの理解を得られず孤立したりする可能性もあります。
さらに、カミングアウトに伴う自己認識の課題もあります。Kinkyの方の中には、自分自身がその嗜好をどう受け入れるかという葛藤を抱える人も少なくありません。自分の嗜好を受け入れることができなければ、他人に対してもそれをオープンにするのは難しいでしょう。
Lunaのメインサービスは「マッチング」と「コミュニティ」
–では、サービスについて詳しく伺います。まずはマッチングについて教えてください。
後藤さん:
Lunaでは、多様な嗜好に対応したマッチングを提供するために、非常に複雑なマッチングシステムを導入し、ユーザーが自分に最適な相手と出会えるようにしています。
また、従来のマッチングサービスと異なり、Lunaは性的嗜好という非常に個人的かつデリケートな情報を扱うため、ユーザーのプライバシーを徹底的に保護しています。
さらに、利用者同士が安心して交流できるよう、常にサービスの改善を行い、ユーザーのフィードバックをもとに最適なマッチングを提供しています。これにより、Lunaは他のどのサービスとも異なる、唯一無二の存在となっているのです。
–次にLunaのコミュニティについて教えてください。
後藤さん:
Lunaのコミュニティは、利用者同士が安心して交流できる場を提供しています。このコミュニティでは、オンラインとオフラインの両方でイベントを開催しており、利用者同士が友達を見つけたり、自分や相手の嗜好について話したりすることも可能です。
例えば、毎月2~3回、オフラインの公式イベントを開催し、利用者同士が直接会って交流する機会を提供しています。また、オンラインイベントも積極的に開催しており、メタバース空間上でのイベントなども行っています。中にはユーザー同士で集まる非公式イベントも開催されており、今後も100〜200回は開催予定がある状況です。
さらに、Lunaのコミュニティでは、知識の共有も重要な要素です。SMやKinkyの領域についての知識を深めることで、利用者同士の理解を深め、より豊かな交流を実現しています。このように、Lunaのコミュニティは、多様な価値観と個性を尊重し、利用者が自分らしい生き方を見つけられるよう支援しています。
–デリケートな情報を扱うため、信頼性やセキュリティが大事だと思いますが、Lunaのプライバシー保護の取り組みについて詳しく教えてください。
後藤さん:
Lunaにとって利用者のプライバシー保護は最優先事項です。まず、利用者登録時に身分証の確認を行い、安全性を確保しています。また身分証情報は確認後即座に削除し、保管しないようにしています。これにより、信頼性の高いユーザーのみが利用できるだけでなく、利用者の個人情報が漏洩するリスクを極力排除しています。
さらに、利用者が安心してサービスを利用できるよう、24時間365日対応するお問い合わせフォームを設置しており、問題が発生した際には迅速に対応しています。そのほか、利用者同士が不適切な行動を報告できる通報システムも導入しており、コミュニティ全体で安全性を維持しています。
コミュニティとの関わりは自分自身と向き合うきっかけになる
–Lunaを運営していて、特にユーザーからの満足度の高いサービスやフィードバックはございますでしょうか。
後藤さん:
ユーザーからは非常に高い満足度でフィードバックをいただいており、特に自分の性癖を理解してもらえる相手に出会えることが大きな喜びとなっています。Lunaを通じて結婚された方や、長年のパートナーを見つけた方も多くいらっしゃいます。
また、Lunaのコミュニティを通じて自分自身を受け入れ、トラウマと向き合うきっかけになったという声も多い印象です。例えば、男性恐怖症の方がLunaを利用することで、少しずつ男性と話せるようになり、最終的にはトラウマを克服することができたというエピソードがあります。
その他にも、「Lunaを通じて初めて自分のことを理解してくれる人に出会えた」「自分の性癖についてオープンに話せる場ができて嬉しい」といった声をいただいており、Lunaは単に出会いの場を提供するだけでなく、利用者の人生を変える力を持っていることを実感します。
このようなユーザーの温かい声は、サービス改善や新たな機能開発の原動力です。今後もユーザーの声に耳を傾け、彼らのニーズに応えることで、より良いサービスを提供していきたいと考えています。
–多くのユーザーに寄り添うサービスを展開する御社ですが、サービスを立ち上げたきっかけを教えてください。
後藤さん:
実は私自身がKinkyの当事者であり、社会との関わりにくさや生きづらさを感じておりました。周囲にも同じように困っている人たちが多く、その多くが自分の性的嗜好について悩み、社会に居場所を見つけられずにいたのです。
実際にLGBTQと聞くと多くの方は「性自認」の受け取りをされますが、KinkyはSMのように性癖やフェティッシュと向き合っている方が多いのが現実です。しかし、社会的な理解は進んでおらず、外から見ると「気持ち悪い」「頭がおかしい」といった見られ方をしてしまいます。
こうした状況を目の当たりにし、彼らが安心して自分らしくいられる居場所を提供したいと強く感じたことが、サービス立ち上げのきっかけです。
最初は1対1で出会いを求めるユーザーに向けたマッチングサービスとしてスタートし、同じ性的嗜好を持つ人々が出会える場を作りました。次第に、利用者のニーズに応える形でコミュニティ機能も追加し、現在ではオンラインとオフラインのイベントを通じて多くの利用者どうしが交流できる場を提供しています。このように、Lunaは困っている人たちの声に応える形で成長してきたサービスです。
グローバル展開で海外のKinkyも救いたい
–Lunaのサービスを運営するうえでの課題について教えてください。
後藤さん:
最大の課題は、社会からの理解が不足していることです。Lunaのようなサービスは、一般的なサービスとは異なるため、しばしば誤解されがちです。例えば、銀行からの融資を受けられなかったり、オフィスを借りる際に事業内容を理由に断られたりすることがあります。これにより、資金調達や継続的な事業運営の難易度が高い状態です。
また、PR活動においても、SMやKinkyといったデリケートなテーマを扱うため、メディアからの取り上げが難しい場合があります。しかし、社会的な認知度を高めるためには、広報活動が不可欠です。
少しでも改善できるよう私たちは積極的にメディアにアプローチし、多くの人にLunaやKinkyの存在を知ってもらう努力を続けています。幸いなことに少しずつですが社会との接点も生まれており、状況が変わりつつあります。最終的には社会的な偏見を取り除き、多様な性嗜好を持つ人々が安心して利用できる環境を作ることが、私たちの最大の課題であり目標です。
–今後サービスを拡大していくうえで考えている計画などはありますか。
後藤さん:
今後の展望として、まずはグローバル展開を目指しています。具体的には、アメリカや欧州、韓国などの市場にアプローチしていく予定です。これらの地域は、性的嗜好に関する理解が比較的進んでおり、潜在的なニーズが高いと考えています。
そして4年後には、全世界で30万人のユーザーを目指しています。目標達成のためには、現地の文化や嗜好に合わせたサービスのローカライズを進めるとともに、各地域のユーザーに対して適切なサポートを提供していく予定です。また、国内においてもさらなるユーザーの拡大を目指し、2024年末までに10万人のユーザーを目標としています。
–LGBTQ+の他の領域への展開について考えていますか。
後藤さん:
現時点では、まずはKinkyの人たちを救うことに全力を尽くしています。Kinkyの領域は非常に広く、多くの人々がまだ適切なサポートを受けられていない現状があります。まずは、Kinkyのコミュニティをしっかりと支え、彼らが安心して自分らしく生きられる環境を整えることが最優先です。
ただし、将来的には近しい領域への展開も視野に入れています。例えば、他の性的マイノリティや、LGBTQ+の中でも特に支援が必要なグループに対しても、Lunaのノウハウを活かしてサポートを提供することが考えられます。今後の展開については、ユーザーのニーズや社会の変化を見ながら慎重に進めていく予定です。
–Kinkyコミュニティサービスに関して興味深いお話をいただきありがとうございました。
株式会社Luna公式ホームページ:https://luna-company.com/
Luna SMガイド:https://smguide.luna-matching.com/